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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第614話 こんな襲われ方だってあるんだ



「やあ、久しぶり。みんなが元気そうで嬉しいよ」


「ベスティ、さん?」


 あっけらかんとした軽口で挨拶を投げ掛けてきたベスティさんに、栗毛の深山(みやま)さんが【冷徹】を使うことすら忘れて驚く顔になっている。


 そこにいたのは間違いなくベスティさんとウィル様の二人だけだった。念のために【魔力観察】をしてみたが、この部屋に隠れている人はいないし、見えている二人は普通の人間だ。

 ウィル様は今のところは何も語らず、ベスティさんを見て驚いている俺たちを柔らかい笑みで窺っている。


「へえ、タカシは装備を新しくしたんだね。ユズルの盾も」


「す。短槍を使ってるんす」


「いいでしょ、これ」


 気さくに下の名を呼ぶベスティさんに、海藤(かいとう)が大人向けの語尾となり、古韮(ふるにら)は飄々と個人装備を自慢げに晒した。


「本当に……、ベスティさん、なんですよね?」


「嫌だなあ、ナギ。ほかの誰に見えるのさ」


「いえ、どう見てもベスティさんですけど」


「でしょ? 凄いね、これ。頭が二つになったんだ」


 正体を探るかのようにベスティさんの周囲にサメを泳がせてるけど、綿原(わたはら)さん、やりすぎだよ。

 ベスティさんは興味深げにサメを観察している。


 ベスティさん。アウローニヤのベスティ・エクラー騎士爵。かつて俺たちが贈った名は、副官の意味を込めた『ヴァイス』ベスティ・レイ・エクラー。

 迷宮騎士団『緑山』に所属していたこともあり、現在は迷宮特務戦隊『緑風』の副隊長にして術師統括だ。


 そんな事実を誇るかのように『緑風』のシンボルカラーである濃緑色の革鎧を着るベスティさんは左腕にバックラーを装備していて、腰にはメイスをぶら下げている。あまつさえ迷宮泊では布団にも使えるマントまで……。

 すっかり勇者スタイルなんだな。


 というのはさておき、これはとんでもないサプライズだ。


 迷宮泊の初日の夜はペルメッダ侯爵夫妻とラハイド侯爵夫妻が現れて、二日目は組合のマクターナさんと『第一』。そして三日目にはウィル様と、そして居るはずのないベスティさんときた。

 いや、ぶっちゃけウィル様ならあり得るとは思っていたが、ベスティさんの存在が衝撃的すぎる。そもそもこの二人の組み合わせが想像の遥か外側なんだ。


 どういう状況なんだろう、これは。



「お久しぶりです。十二階位になったんですよね。おめでとうございます」


「ありがとね。マコトは相変わらず生真面目で安心したかな」


「ははっ、誉め言葉だと受け取っておきます」


「そういうとこだよ」


 時間経過で少しだけ驚きが沈静化してきたところで、藍城(あいしろ)委員長が改めて挨拶をする。ベスティさんの口調はいつも通りに『あの』ベスティさんだ。

 そう、紺色の髪をうしろで縛ったいつも通りの、気さくなお姉さん。


「どうしてここに?」


「来ちゃった」


 続けた委員長の問いに、ベスティさんはイタズラっぽく笑ってみせる。男子が聞いてみたいセリフランキング上位なのはさておき、そうか、来ちゃったんだ。


 間違いなく聖法国の一件なんだろうけど──。



「趣味の悪いことをいたしますのね」


「考えたのはどっちかなぁ~」


 ベスティさんがどうしてペルメッダまでやって来たのか、落ち着いて詳しい事情を聞こうという雰囲気の中、ティアさんとチャラ子な(ひき)さんが二人揃って悪く笑う。


「ソウタ!」


「え? あ、人が走ってくる!?」


 ティアさんの鋭い声に反応した草間(くさま)が叫び声を上げた。


 このタイミングで人が来る?

 それなのにウィル様とベスティさんは笑顔のままだ。ウィル様はここまで一言も発していないし、ベスティさんの笑みは……、意地が悪い。まさかっ!?


「草間っ、方向と人数! 全部の扉だ!」


 ティアさんと疋さんはこの状況でも気を抜かずに【聴覚強化】で足音を拾った。これはつまり、そういうことだ。


「右が七人で……、左は五人! 速い!」


「『模擬戦』だ! 右、古韮、佩丘(はきおか)、メーラさん。左、委員長、海藤、馬那(まな)! 盾は三キュビだけ前進。残りは中央で応戦準備! 全員っ、ベスティさんとウィル様からも離れろ!」


 大慌てで【気配察知】を使った草間の報告を受け、俺も急いで盾を配置する。後衛職はもちろん、アタッカーと動ける盾の野来(のき)も中央待機だ。

 相手の動きを見てみないことには戦力の配分もままならない。ついでに目の前の二人も敵と判定する。


 丸太や素材の入った袋を床に投げ捨てる音が響き、各人が戦闘態勢に入っていく。さすがにここから丸太作戦は難しいか。


「いい判断だよ」


「コウシは相変わらずね。それとも見違えたかな」


 ここで初めて口を開いたウィル様が盾を構えてベスティさんを守る位置に立つ。ベスティさんの周囲に氷の粒が浮かび上がった。背中側に隠していたのかよ。


奉谷(ほうたに)さん、『戦女神』!」


「うんっ!」


 水や石、サメが動き出す中、俺は副官にしてクラス最高のバッファーに切り札を要請する。

 このために『三人』を中央に残しておいたんだ。さあ、来るなら来てみろ!


 と、その前に。



『先に頭を落とすぞ。野来と(はる)さん、疋さんだ。術師は左右を警戒!』


「『風盾衝撃』!」


「うんっ!」


 敢えて日本語で指示を出したその瞬間、大盾を構えた野来がウィル様に向けて突貫し、春さんがあとを追う。

 ウチの【風術】コンビは動きも判断も速いんだ。春さんは元からだけど、最近の野来って躊躇がなくなってきたよな。


「へえ」


「うひゃあ。思い切りがいいね」


 それでもウィル様とベスティさんが楽し気なままだ。余裕ってか。


 ウィル様は十三階位の【砂騎士】で、ベスティさんは十二階位の【冷術師】。投入した三人ならば、少なくとも『速さ負け』をすることはない。

 床を滑るようにして五メートルくらいの距離を一気に詰めた野来の大盾が、ウィル様の構える盾にガツンと大きな音を立てて直撃する。


「野来、足元っ!」


「え? うわっ!?」


 慌てて声を掛けたが間に合わない。着地した野来が足を滑らせ体勢を崩し、そこにウィル様の長剣が振り下ろされる。


「いい反応だね。ひと当てしたら距離を取るのを徹底しているのかな」


 ほとんど転んだ状態から無理やりな【風術】でなんとか距離を取った野来に、ウィル様からの称賛が贈られた。


 ウィル様のやったことはシンプルだ。野来の着地点を狙って砂を撒いただけ。敷き詰めたって表現の方が正確か。自身のブーツに貼り付けていた砂を、素早く移動させたんだ。

 これがウィル様式の【砂術】か。足元を気にしながら十三階位の騎士と対峙するなんて、かなりキツい。目つぶしとかもしてきそうだし、厄介な相手だ。


「あれ、良いわね」


 綿原さんの呟きが聞こえてくるが、彼女はサメを踏んずけさせるつもりなのかな?



「とうっ!」


 綿原さんの策謀はさておき、野来とウィル様との交錯の横を駆け抜け、ベスティさんを狙いにいった春さんが弾けるように進路を変えた。

 すぐ脇を直径一センチくらいの氷の球が横切り、クルリと向きを変えて使い手の手元に戻る。


「これを避けちゃうかあ」


 ニヤニヤと悪い笑顔なベスティさんの得意技。それこそが今の『氷弾』だ。


【冷術師】の上位とされる【氷術師】の深山(みやま)さんにはできない技術だが、ベスティさんはベテラン術師だからな。もしかしたら個人的な向き不向きもあるかもしれないが、ベスティさんは氷を夏樹(なつき)の石のように使ってくるんだ。


 対応してみせた春さんも大したものだと思う。【風術】を併用した急激な方向転換だったが、足首に【鉄拳】をまとうことで故障にも対応している。

 昨日からは三角跳びも練習しているけれど、そもそも速度を保ったままの急ターンは春さんのメイン戦術だからな。彼女の防御的【鉄拳】は先生に次ぐくらいの熟練度だ。


「もう一丁!」


 二丁持ちにしたメイスを眼前でクロスさせ、さらには両腕のバックラーで前方を防御した春さんが、氷を恐れずベスティさんに再度突撃した。


「うしろだエクラー卿っ。すまない」


「うひひ~」


 直後、ウィル様の声が響き、チャラい笑いがそこに被る。


 数発氷を食らっても、怯まず突き進む春さんにベスティさんが気を取られた隙に、疋さんも動いていた。

 ウィル様をスルーし、ベスティさんの足にムチを巻き付けからの【魔力伝導】。道中ではウィル様が放った牽制の砂を、これまたムチで弾いて散らすという芸当までこなしてこれだ。



「降参よ。強くなったわね」


「やったあ!」


 首を二本のメイスで挟まれたベスティさんが負けを認め、春さんが喜びの声を上げる。

 ベスティさんは腰の短剣に手を掛けていたけれど、春さんに花を持たせるために敢えて抜かなかったのか、それとも疋さんのデバフで動けなかったのか、判断はちょっと難しい。


「よいっしょっ!」


 春さんの勝利に貢献した疋さんは、すでにウィル様と野来の対峙に介入中だ。ほんと、戦闘勘が凄い。


「野来、退けっ! ウィル様は春さんと疋さんだけで牽制だ」


 ここまで十秒も掛かっていない攻防だったが、三人掛かりはそろそろタイムアップだ。野来には撤退の指示を出す。


 二十代前半のウィル様は若いとはいえお家柄上、幼い頃から剣を振るってきた。新米騎士の野来には荷が重い相手だ。

 最近の野来のウリはヒットアンドアウェイだが、直線的な『風盾衝撃』はどこかでカウンターを食らってしまう。


 なんならこの場面、ティアさんとメーラさんをぶつけるというのも物語的には熱いが、相性がいいとは言いかねるのがなあ。

 ティアさんご当人がチラチラ俺の方を窺っているが、ごめんなさいだ。


「もうちょっと僕にこだわってくれた方が助かったんだけどね」


 そんなウィル様のセリフに俺は答えない。それどころじゃないからな。


「反則だろ、これ」


 呆れ声をこぼしたのは古韮だ。


 左右の扉から複数の矢が飛んできたらそうもなる。そうだよな。敵が飛び道具を使ってくることだってあり得る。

 それでも矢は木製で(やじり)に布が巻いてあるのか。優しいなあ。



 ◇◇◇



「本気出し過ぎじゃないですか?」


 口元を布で覆い、目しか見えないお姉さんが俺の首に鞘付きの短剣を押し当てている。俺にできることなんて主催者に苦情を申し立てるくらいだ。


「これくらいの方が歯ごたえがあると思ったのだけどね」


 それに対してウィル様は立ったままで苦笑をしている。結局ウィル様も倒せなかったんだよな。

『一年一組』の面々は膝を突いたり呆然と立ち尽くしていたりとそれぞれだ。先生は両拳を握りしめて仁王立ち。中宮さんも似たような感じになっている。


「で、これはどういうことですの? ウィル兄様。いきさつは想像できますけれど」


「昨日のことをテルト女史から聞かされたものだからね。いい訓練になっただろう?」


「だからといって『七号』を使うなんてやりすぎですわ」


「その呼称はいちおう秘匿なんだけどね」


 ティアさんとウィル様による心温まる兄妹(きょうだい)の会話だが、聞いちゃいけない単語が混じっていたな。

 アウローニヤ人のベスティさんは笑顔でそっぽを向いている。


 矢を放ちながら突入してきた人たちは基本的にペルメッダ国軍と同じ恰好なんだけど、十二人全員が布で口元を隠していた。

 手にする武器は短弓と短剣ばかりで、要するにこれが『七号』ってことなんだろう。


 絶対『特殊な訓練』を積んだ人たちだ。

 俺たちに見せちゃっていいんだろうか。



「そろそろ降ろしてもらえます?」


 俺の泣き言を聞き入れてくれたのか、『七号』のお姉さんは無言で距離を取りながら短剣を腰に戻してくれた。

 というか革鎧のそこかしこ……、合計八本も短剣を持っているんですね。神授職を聞いてみたくなるが、ぐっと抑え込む。


「これ、結果としては負けになるのよね」


「そうね。残念だけど……」


 綿原さんのセリフに中宮さんも同意する。


 結果として短剣を首に当てられたのは、俺以外では委員長、上杉(うえすぎ)さん、笹見(ささみ)さん、そして奉谷さん。ピンポイントで『勇者』と指揮官、副官を捉えている辺りが恐ろしい。

 矢が当たったヤツまでカウントすれば、夏樹と佩丘、海藤も撃墜判定だ。


 二十四人中の八人とはいえ、俺たち的には敗北なんだよな。


「くそがっ!」


 胡坐をかいて座り込んだ佩丘が、拳を床に叩きつける。


 ぶっちゃけ今回の模擬戦では左右に配置した騎士職による盾はあまり上手く機能しなかった。敵は矢で牽制を入れつつ、如何にも訓練されてますよっていう動きで盾の列を潜り抜けたんだ。

 盾メンバーの中でまともに対応できたのはメーラさんくらいで、委員長なんて通り過ぎざまに首を斬られてたもんなあ。



「君たちは悔しそうだけど、僕も驚いているんだよ」


 ウィル様の言葉の意味はわかる。だからこそ苦笑していたんだろうし。


「『戦女神』だったかい? まさかこっちが六人もやられるとはね」


 そう、ウィル様の言うように左右から襲い掛かってきた敵の半数を『一年一組』は撃退した。


 それを成し遂げたのは『戦女神』の三人。すなわち先生と中宮さん、そしてミアだ。それ以外のメンバーは全員が自己防衛しながらフォローに回るしかなかった。かろうじて攻撃的に対抗できていたのは疋さんとメーラさんくらいか。

 草間は動き回る敵に追いすがることができず、ステルスアタックを仕掛けることもできなかった。


 さておき、普段は後衛柔らかグループの補助に使う奉谷さんのバフを最強の三人に全力掛けするというシンプルな『一年一組』の切り札、その名こそが『戦女神』だ。

 元々一階位上の性能を持つとされていたクラス最高戦力の三人がその上を行くとすれば、それはもう十五階位の領域となる。


 何故三人だけなのかといえば、体の制御が追い付かないというのが大きい。加えて奉谷さんの魔力量と【身体補強】を掛けるのに必要な時間も限られるし。


 この戦法、いちおう『一年一組』全員で試してみたのだが、実戦レベルで攻撃動作ができたのが先生と中宮さん、ミア、疋さん、そして綿原さんくらいだったのだ。戦闘の素人ではないティアさんとメーラさんも対応できるかもと思っていたが、彼女たちは急激に階位を上げてきたのもあって、現状は体を慣らすので手一杯。

 投擲限定なら海藤も追加できるのだが、アイツを『戦女神』って呼ぶのはなあ。


 で、疋さんは感覚が狂うってことで辞退し、綿原さんは自分に使うくらいなら盾グループに回して防御力アップに繋げるべきだと主張した。


 ちなみに命名したのは白石さんだったりする。俺や野来好みのいい感じのネーミングだな。口にするときはティアさんたちがいるからフィルド語だけど、心の中での読み方は各人の好きにすればいい。



「凄かったよね」


「正直呆れたよ」


 白石さんと笹見さんが言うように『戦女神』は強かった。


『戦女神』の三人ともが軍隊規模ではなくこういう部隊単位の対人戦、しかも暗殺系に特化されていると推測できる『七号』とやらと互角どころか、完全に上回るレベルで渡り合っていたのは圧巻だったとしか表現できない。

 同時に手一杯でもあったけど……。


 いくら三人が鬼神のような戦いっぷりを見せても相手は魔獣とは違う。ヤバい戦力をスルーして後方を狙うという手段を選択できるのだ。

 人間同士の抗争では戦力にカウントできる数っていうのが大きいと思い知らされたよ。ついでに単騎駆けで『一年一組』をブチ抜いたマクターナさんの凄さも。



「僕としてはこういう戦い方もあるということを知っておいて欲しかったんだ」


 ウィル様の優しい語り口に俯き加減のクラスメイトたちが顔を上げた。


「『六本の尾』だったね。想像になるけれど、さっきみたいな戦い方をしてくるんじゃないかな」


 それはその通りだと思う。今朝『ホーシロ隊』から聞かされた怪しいヤツと、『七号』さんたちの戦い方って通じるものがあるんじゃないだろうか。先生たち『戦女神』の武力は十分以上に通用していたが、敵の狡猾さがなあ。

 むしろ昨夜のマクターナさんと『第一』みたいな真っ直ぐな攻撃なんてあり得ないじゃないかと思うくらいだ。


 俺たちが対決しなければいけないのは、どちらかといえば『七号』みたいな相手だろう。

 だからウィル様は秘匿部隊を晒してまでこんな場を用意した。


 そんな『七号』のみなさんは、こちらに背を向け宿泊部屋の扉を警戒してくれている。

 数名がちょっと肩を落としているけれど、あれは『戦女神』に撃墜判定をもらった人たちかな。



「呼称も含めて、今夜の件は無かったことにしておいてほしいかな」


「僕たちはもちろんそうしますけど……」


 爽やかな笑顔で肩を竦めるウィル様に対し、委員長が視線を向けた先にはベスティさんがいる。そんな彼女は何も聞こえてませんって笑顔で黙ったままだ。


 どういう経緯でウィル様とベスティさんが同行しているのかは知らないが、これって大丈夫なんだろうか。


「それについては気にしなくていいよ。彼らの存在自体をアウローニヤが知らないわけがないんだ。そのために『大使館』があるんだからね」


 委員長の心配にウィル様は笑って答え合わせをしてくれた。

 なるほどな。大使館がスパイ役っていうのは、こちらの世界で俺も学んだ。帝国の大使館なんてペルメッダと秘密情報を売り買いしていたくらいだし。


「どうなんでしょう。わたしは王城務めですからさっぱりです」


 ここで初めて口を開いたベスティさんがぬけぬけと答える。如何にもベスティさんって感じだな。


「役どころが違うんだよ。同数の正規兵と戦えるような部隊じゃない。アウローニヤにも似たような性質の兵がいるのでは?」


「そちらも答えは、どうなんでしょう、ですね」


 前半を俺たちに、後半はベスティさんに向けられたウィル様のセリフに、女王様の隠密さんは再びとぼける。

 ベスティさんの活躍については一昨日の夜にベルサリア様が侯王様にバラしていたくらいだから、ウィル様だって知っているはずなんだよな。


 というか普通に模擬戦に参加していたんだから、ウィル様とベスティさんが事前に合意していたのは当然か。敢えてベスティさんというサプライズユニットを配置していたのはこちらの油断を誘うってところだろう。

 委員長や綿原さんたちも察したようにため息を吐いているし。



「それよりも今の君たちが気に掛けるべきはこの経験をどう活用するか、だろう?」


 表情を真面目に改めたウィル様の言葉で、俺たちは突き付けられた現実に引き戻される。


 そうだよな。今は『七号』やらベスティさんの情報流出を心配している場合ではない。

 さっきまでの模擬戦を振り返り、どうやって対抗するのか考えないと。ああ、それと地上の情報もか。ベスティさんがここにいる理由だって知りたいし。


 ここからは言葉を交わす時間だ。


「まずは座って落ち着こう。それから話だね」


「……そうですね」


 ウィル様に促されて綿原さんがペタンと座り込む。肩に乗せたサメがしょぼくれているなあ。


「いえ、その前に」


美野里(みのり)?」


 クラスメイトたちが倣おうとしたところで、立ったままの上杉さんが口を挟んだ。そんな上杉さんを綿原さんが不思議そうに見上げている。


「片付けをしましょう。それから身支度と調理も」


「あ」


 微笑みを作った上杉さんの言葉に、仲間たちだけでなくウィル様やベスティさんも周囲の状況に気付いたようだ。


 模擬戦に先立ち周囲に放り出された丸太を含めた各種素材、さらには鍋やバーベキューセットが床に散乱している。ついでに俺たちは魔獣の返り血で革鎧がドロドロ。ウィル様やベスティさん、それと『七号』のみなさんは奇麗なものだから、対比がキツい。

 見えていたのに気が回らなかったな。こういうところが【観察】と判断の違いだ。【思考強化】でどうにかなるようなものでもないし。


「だなあ。面倒くせえ考え事の前に、まずは腹ごしらえだ。いいな? 綿原」


 難しい顔をしたままで、それでも勢いよく立ち上がった佩丘が前向きなことを口にする。


「……そうね。お風呂はあとにするとして、片付け班と調理班。玲子(れいこ)はお湯をお願い」


「あいよ」


 両手を膝に乗せながら立ち上がった綿原さんが迷宮委員全般担当として発言する。それに応え、笹見さんが背嚢からタオルを取り出しながら水路に向かった。


「殿下、ベスティさん、お時間をよろしいですか?」


「構わないよ」


「むしろ期待してたくらい」


 綿原さんはウィル様とベスティさんにも確認するが、二人とも笑顔で快諾だ。


「やるっすか」


「ウン」


「今日のご飯、どんなのかな」


「ワタシも料理を手伝いマス!」


「メーラ、わたくしたちは丸太を並べますわよ」


「はい」


 名指しされるまでもなく、クラスメイトたちが動き出す。


「うんうん、やっぱり君たちはそうじゃないとね」


 したり顔のベスティさんがやたらと嬉しそうにしているのを視界に入れつつ、俺も片付け班として床に落ちている革袋を担ぎ上げた。



 次回の投稿は明後日(2026/01/23)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
海藤君外す理由ぅww とはいえ彼は投擲武器の限界があるが故に、長期戦向きではないですからねえ。 次はごはん回ですね♪
こうきたか。もう一度模擬戦ができて一年一組としては経験が積み上がっていくことになるわけですね まぁこの後の食事をしながらの諸々がまた楽しみでありますが
ゴリゴリの暗殺スタイルを駆使されると、今の一年一組では防ぎきれませんね……この中の一人でも連れてかれたら、みんなは敗北と思う訳ですし。 とはいえそもそも素人上がりで成長中の段階ですし、ここで経験できた…
感想一覧
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