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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第610話 新米と若手の交流にスパイスを添えて



「こりゃまた、随分と多いな……。素材も料理も」


 朝の八時、宿泊部屋に響いたのは『ジャーク組』に依頼した荷運び担当の冒険者たちの声だった。


「たくさん食べていってください」


「そりゃまあ、タダってんなら助かるが」


「朝ごはんを抜きにしろって、こういうことだったのね」


 優し気に微笑む上杉(うえすぎ)さんに対し、『髪が短い』冒険者のお兄さんやお姉さんたちはやや困惑気味だ。


 聞いてはいなかったが、朝早くに出張ってくれた『ジャーク組』の運び屋さんには、以前俺たちとイザコザを起こした『ホーシロ隊』のメンバーが含まれていた。男女合わせて全部で十五人。監督っぽいおじさんが二人ほど混じっているが、ほとんどが二十代の前半という若手冒険者たちだ。

 その中で八名、メットから髪がはみ出ていない『ホーシロ隊』の人たちは広間の様子に呆れている。


「あんたらの実力は疑っちゃいないが、凄いな」


『ホーシロ隊』のリーダー、合同運動会では確かダズンと名乗っていたお兄さんは、初対面での罵詈雑言とは全く別の表情で笑う。


 四層素材の山だからなあ。

 これでも食事とかで肉と野菜は量を減らしているのだが、丸太だけはどうしようもない。それと食用に適さないトウモロコシも。


「なんか、ホッとするわね」


「そうだよな」


 サメをフヨらせた綿原(わたはら)さんがささやきかけてきたので、俺も頷く。


 アウローニヤからの流民である『ホーシロ隊』の人たちは俺たちを逆恨みし、大運動会を経ることで和解した。だからこその軽口なのだが、『六本の尾』とやらに狙われている俺たちからしてみれば、こんなやり取りはひと時の安らぎだ。

 聖法国のゴタゴタがあろうとなかろうと俺たちはこれからも迷宮泊を続けるだろうし、そうなれば運び屋依頼を出すことにもなる。

 次回も『ジャーク組』にお願いするかはわからないが、今度会った時は余計な憂いなく和気あいあいと話をしたいものだ。



「もうすぐ焼けるすよ」


 ヤンキー佩丘(はきおか)と並んでバーベキューコンロでハンバーグを焼いていた海藤(かいとう)が、『ジャーク組』の人たちに声を掛ける。


「おう、カイトウ。相変わらず変な口調だな」


「す」


 それに答える声には親しみがこもっていた。

 海藤は陸上女子な(はる)さんと一緒に合同運動会を主催したのもあって、『ジャーク組』にも名前をちゃんと憶えられている。


 ちなみに朝食がハンバーグなのは、昨夜上杉さんと奉谷(ほうたに)さんが【鋭刃】を使いまくって、最終的にはミンチにまでしてしまったからだ。

 夜番を交代した冷徹なる深山(みやま)さんも熱心にやっていたらしい。余念がないよなあ。


「へえ、朝から豪勢だな!」


「たくさんお肉を食べて元気を付けないとだからね!」


 炭火で焼き上げられつつある大きなハンバーグを覗き込んだ若手冒険者が歓声染みた声を上げ、陽気な春さんが元気に返す。


 迷宮資源が豊富な街、とはいっても俺たちが平民事情を知るのはここペルマ=タだけではあるが、そこに住む人たちは肉に困らない。中でも体が資本な冒険者たちは、朝昼晩と普通にガッツリ肉を食べるのだ。

 本日の朝食メニューは牛と馬の合い挽きハンバーグと、ジャガイモを潰したポタージュ風スープ。ハンバーグの味付けは『ジャーク組』を驚かせるためにアウローニヤ風の辛めなソースが掛かっている。


 運び屋の中に『ホーシロ隊』がいてくれたのは、嬉しい誤算だったな。



「こっちも食ってくれ。四層相手じゃ値段が釣り合わないけどな」


「……ありがとうございます。いただきますね」


『ジャーク組』の人が差し出してきた木製の器……、ぶら下げる取っ手もあるからほとんどバケツだな。

 ちょっとだけ表情をヒクつかせた迷宮委員の綿原さんが、クラスを代表して受け取りながらお礼の言葉を述べる。


 中に入っているのは二層素材のトマトやレタスのサラダだ。さらには薄切りにしたパンも入っている。

 ここまでの道中で『ジャーク組』が狩ったのではなく、地上で購入したものらしい。


 野菜も大切だよな。四層に居座ると白菜だけがメインになってしまうから。



 ◇◇◇



「それとな……、伝えておくことがあるんだ。そっちの専属担当から許可ももらってる」


 騒がしい朝食会の終盤で、『ホーシロ隊』のダズンさんが改まった風に口を開いた。マクターナさんの許可が必要な話?


「昨日の夜な。怪しいヤツに声を掛けられたんだ」


「えっ!?」


 てっきり以前の因縁についてかと思っていたところに特大爆弾が放り込まれる。クラスメイトたちも驚愕の表情だ。


「そ、それで、どうなったんです? いえ、すみません……。経緯を教えてもらえますか」


 藍城(あいしろ)委員長が取り乱しつつも、何とか続きを促す。


「俺たちが五体満足でこの場にいるってことはわかるだろ?」


「はい。ですけど……」


 苦笑するダズンさんに委員長が答えるが、表情は厳しい。


 見たところ『ジャーク組』の人たちは全員が怪我のひとつもなく普通にしていることはわかる。

 だけどこの世界には【聖術】があるからなあ。


 ひとつハッキリしているのは、昨夜の事件で彼らが冒険者としてペナルティを受けるような行為はしていないということだ。

 でなければ迷宮に入ることなどできるはずもない。組合事務所でシャットアウトされていただろう。



「昨日の夜、いつもの飲み屋で打ち上げをした帰り道でな──」


 滝沢(たきざわ)先生にダメージが入りそうな前置きで、ダズンさんが事情を説明し始めた。


 ペルマ迷宮の三層は、今のところは魔獣が溢れることもなく通常営業だ。

 この場にいる引率のおじさん二人以外の人たちは昨日も三層で狩りに勤しみ、冒険者らしく夜は飲み会を開いていたらしい。『ホーシロ隊』は元々八人パーティが基本だが、四層の異常という事態に隊を合体させて多人数での連携訓練をしているそうだ。彼らは八階位から十階位の所謂『三層組』だが、いつかは四層という気概に溢れている。


 そんなやる気を引き出したのが俺たちだと言われてしまうと悪い気もしないが、今はそういう感傷に浸っている場合ではない。


「いつの間にかおっさんが一人、路地に立っていたんだよ。酔ってたのもあったが、誰も気付いてなくってなあ」


 ダズンさんの言うおっさんは深くフードを被り、口元をマスクで覆っていて、顔の判別はできなかったようだ。

 ただ、声は男性のもので、おそらく中年。身長はこの国の平均となる百七十ちょいの細身だったらしい。


「顔を隠しているのを除けば、本当に普通のおっさんだったんだ。それでな──」


『『一年一組』に仕返しをしてやりたくないか? あいつらはアウローニヤの金を巻き上げて好き放題しているそうじゃないか。なに、ちょっと懲らしめてやるだけだ』


 それが仮称怪しげなおっさんの主張だった。怒りも焦りもなく、ごく普通の口調で語っていたらしい。


「……どう返事したんですか?」


「組長から事情は聞かされていたからな。断ったよ。興味無いってな」


 委員長の問いにサクっと答えたダズンさんに、クラスメイトたちが安堵の息を吐く。


 昨日の昼には『一年一組』を狙っている者がいるという情報が信用できる組に通達されていたはずだ。その中には『ジャーク組』の名も含まれている。

 今更『ホーシロ隊』が俺たちを害するような提案に乗るとは思えないが、それでも話が通っていたことがありがたい。


 怪しい人物が『ホーシロ隊』の出自、つまりアウローニヤの流民であったことを知っていたかはわからないが、もしも合同運動会の前だったら乗っていたかもしれないな。


「揉め事にはならなかったんですか? 相手が怒り出したとか」


「いや。だけどな、ソイツを捕まえればあんたらの危険が少しは減るだろ? だからとっ捕まえてやろうとしたんだ」


「そんな危ないマネをっ」


 飄々と続けるダズンさんに委員長は頭を抱えるような素振りだ。

 どうして冒険者はそういう方向にいっちゃうかなあ。昨日の『雪山組』といい、一度懇意になってしまうと同朋意識が強すぎるんだよ。



「けどな。気付いた時には目の前からいなくなっていた。普通に歩いて立ち去って行ったんだが、そうだと気付いたのはヤツが姿を消してからだ」


「隠蔽系の技能……、じゃない。意識の間隙を突いた?」


 怪奇現象でも見たかのようなダズンさんの口ぶりに、武術家の中宮(なかみや)さんが見解を加える。


 これがメガネ忍者な草間(くさま)の【気配遮断】なら、そもそも歩くところなんて気付かせたりはしない。むしろ草間はそういう中途半端な器用さを持っていないともいえる。オンかオフだけ。


 つまり技能ではなく技術であると、中宮さんはそう言っているのだ。

 イヤな方向で手強い相手であることはほぼ確定か。真っ直ぐな武力もおっかないが、俺たちって隠密タイプの強敵と対峙した経験が無いからなあ。


「で、俺たちは慌てて追いかけたんだ」


「どうして追うんですかっ!」


「それはもうウチの組長に散々怒鳴られたよ。二度目は勘弁してくれ」


 無謀な行動を起こしたダズンさんに中宮さんがブチキレる。ダズンさんたちはイガクリ頭に手を当て降参の姿勢を示した。

 余程酷く組長さんに怒られたんだろうなあ。


「まあ落ち着いて聞いてくれ。で、俺たちは周囲を駆けまわって大声を出したんだ。怪しいヤツがいるってな。手分けとかはしてないぞ?『一年一組』の名も出していない」


 眼光鋭い中宮さんに気圧されつつもダズンさんの語りは続く。


 展開としては無難ではある。怪しい人物を追いかけたのは褒められたことではないが、それでも一団となって周囲に呼びかけるというのはアリな行動だ。


「それだけしても捕まえられなかったんですね」


「ええ。あっという間に【気配察知】の外側ね」


 中宮さんの確認に『ホーシロ隊』の斥候お姉さんが素直に頷いた。


 良かった。不必要な戦闘は避けられたか。『六本の尾』としても俺たちをどうにかする前に、冒険者組合との完全な敵対を避けたのかもしれない。

 とはいえ【気配察知】から逃れる相手か。単純な速度なのか、それとも。


「戻って組長に説明したら、怒鳴られたよ。だけどな……」


 思い出して嫌そうな顔になるダズンさんだが、そりゃあ『ジャーク組』のデスタクス組長なら激怒する案件だろう。

 せっかく言い含めてめてあったのに組員が暴走しかけたとか、苦労人だよな、デスタクス組長って。


 だが、そのお陰もあって──。


「怪しい動きをしている敵らしきヤツは、確かにいた。大した情報は得られなかったが、組合には昨日の夜のうちに組長と一緒に伝えてある。あんたらの専属担当はいなかったけどな」


 ぐっと握りこぶしを作ったダズンさんが話をまとめる。二重の意味で『怪しい動き』をするおっさんか。


『ホーシロ隊』のみなさんは敵の秘密の一端を暴いてまんざらでもなさそうだが、マクターナさんは俺たちとの模擬戦やら会談を終えて地上に戻った時点でこの話を聞いたことになるのか。ご愁傷様です。



「気付いたら消えている敵、か」


「大丈夫よ。ウチには八津(やづ)くんがいるから、そういう技術面での見落としはあり得ないわ」


「僕の【気配……】だって見抜くしね」


 謎の動きをしてみせた敵の話を聞いたクラスメイトが、口々に俺に期待を寄せてくる。責任が重たいよ。

 それと草間、【気配遮断】って言いかけただろ、今。


「先生や中宮ならなんとかできるんじゃないか?」


「見てみないことには、ですね」


 軽い調子で古韮がウチの強者を頼りにするが、先生は控えめだ。中宮さんも難しい顔で頷いている。



「アレは俺たちがどうこうできる相手じゃない。言葉で引っ掛るのは苦手だしなあ」


 自嘲っぽいことを言いながらダズンさんは肩を竦める。なるほど、適当なでっち上げを言って相手を攪乱することも考えたのか。


 ニューサルとは違うが、村人出身な『ホーシロ隊』も逆スパイは難しいタイプの人たちだ。

 特殊部隊の『六本の尾』なら、ちょっとしたことで勇者サイドに繋がっていると見抜かれるだろう。そもそも『ジャーク組』にそんな危ない橋を渡ってもらいたくないしな。


 こうして無事でいてくれることが何よりも嬉しいんだよ、こっちとしては。


「十分です。本当に助かります。だからこれ以上は──」


「ああ。危ない橋は渡らない。約束するよ」


 綿原さんの念押しにダズンさんが同意してくれたことが、本当にありがたい。

 貴重な情報には感謝しているけどな。



 ◇◇◇



「あの……」


「君たちはこれから四層へ向かうのだろう?」


「は、はい。そうですけど」


 最後は不穏な話題になった朝食の後片付けも終わり、出発前ミーティングの開始といった段になっても『ジャーク組』は立ち去る素振りを見せず、むしろ引率役のおじさんは何かを期待するように話し掛けてきた。

 これには綿原さんも訝し気な表情になる。


「今の四層に挑む者たちのやり方を、ウチの連中に見せてやってもらえないだろうか」


「ええ?」


 丁寧に腰を折ってお願いしてくるおじさんに、綿原さんはサメと一緒になってのけぞった。


「いやいや。なにも四層に連れていってくれというわけじゃない。出発前のやり取りは組それぞれだ。それを見学させてくれないか?」


「俺たちからも頼む。若いあんたらは俺たちの目標なんだよ。取り入れられるモノもあるかもしれないしな」


 引率おじさんだけでなく、ダズンさんたちまでもが一緒になって頭を下げてくるものだから実にやりにくい。

 初対面での罵詈雑言はどこへいったのやらだ。



「ええとじゃあ……、みんな今日も一日頑張りましょう。はい、八津くん」


「短くないか?」


 綿原さんの訓示は言葉数だけでなく、微妙に早口だったのもあって一瞬だった。で、即俺の出番ときたか。

 普段ならタイムテーブルとかは綿原さんの担当だったはずなんだけどなあ。


 元々綿原さんは人前で物怖じするタイプではない。ワリと演説チックなことだってやってのけるのだが、こういう突発的に注目を集めるとなると持ち前の調子が出てこないようだ。


「八津くんは得意でしょ? サプライズ説明役」


「何だよそれ」


 確かに無茶ぶりされることが多い自覚はあるけど……、まあいいか。綿原さんの助けになると思えば気も楽になる。


「それじゃあみんな……」


 おもむろに一拍溜めてから……。


「ときめいてるかっ!」


 俺のコールに応えてくれるヤツは誰一人として現れなかった。いや、佩丘がヘルメットを投げつけてきたが、そっちは軽くキャッチしたけどな。


「だって古韮(ふるにら)が何かやれって目で──」


「へえ、ついに八津は【読心】を取得したんだ」


 半笑いで被せてくるなよ、古韮め。野来(のき)と一緒になってアイコンタクトしてきてただろうが。


「うっわ、八津ってば人の心読むんだぁ~。怖い怖いってねぇ」


広志(こうし)はニブチンだから、そんなの無理デス!」


「ほらほら、時間がもったいないでしょう。八津くんも真面目にやりなさい」


 チャラ子な(ひき)さんや、俺を過小評価しすぎなミアが茶化してくるが、中宮さんに睨まれたところで仕切り直しだ。



「よし、まずは予定経路からだ。全員地図を出してくれ」


 努めて真面目顔を作った俺は佩丘にメットを投げ返し、食事中にルートを書き込んだマップを取り出す。


 すかさず両脇から覗き込んできた副官役の奉谷さんと白石(しらいし)さんが書き写し、それを隣に見せていく。

 こうすれば一人が二人、二人が四人といった感じで予定経路が伝播される寸法だ。


「全員かよ。俺たちは隊長と副隊長くらいだな」


「魔獣の群れで分断されたとしたら、こうしておいた方が合流しやすいですから。気休めなのもありますけどね」


「そうか。四層はそうなんだよな」


 さっそく『ホーシロ隊』の人からツッコミが入るが、俺の答えにどこか納得した様子になる。

 実際のところはなんでも情報共有してしまう俺たちの習慣って要素も大きいんだけどな。


「昨日探索した『野薔薇組』の踏破率はおおよそ半分だ。序盤はそこを回る。魔力部屋は二つで、構造で魔獣が溜まりそうなのは──」


 地図のリレーをしていくクラスメイトたちを見ながら、俺は予定ルートの詳細を語っていく。

『ジャーク組』の人たちもマップを覗き込み、それぞれ頷いている。色分けハザードマップ化してあるので見やすいはずだが、このやり方は『指南書』にも書かれているし、初見ってことではないはずだ。


 俺たちのやり方は、『ジャーク組』の人たちとどれくらい違っているのやら。



 ◇◇◇



「いやあ、軽い感じで見学を申し出たが、予想以上だったよ」


 丸太を担いだおじさんが、呆れ交じりに賞賛してくる。


 持ち物の最終チェックや装備の損耗状況、消費した木炭や米、その他調味料の残量なんかを出席番号順に声出ししながらみんなで共有していく『一年一組』のやり方は、むしろ引率役のおじさんたちに好評だった。


「ありゃあ軍のやり方かな」


「徹底しすぎじゃない?」


「個人に番号振るってのはなあ」


 逆に若手のお兄さんやお姉さんたちは首を傾げている。

 指南書については若い人たちこそ受け入れやすいと思っていたけど、どうやら俺たちのやり方は冒険者としては堅苦しく映ったようだ。



「さあさあ、地上に戻るぞ。時間を使わせてすまなかったね」


「いえ。いつもしていることですから。こちらこそ荷物をお願いします」


 引率のおじさんに綿原さんが小さく頭を下げたところで、いよいよ『ジャーク組』とはお別れとなる。

 俺としては彼らが地上で無茶をしないことを祈るのみだ。


 今日と明日、俺たちは予定を一日延長し、これから二日間を迷宮で過ごす。

 ちゃんと階位を上げて強くならないと、手伝ってくれている人たちに申し訳が立たない。頑張らないとだな。



 ◇◇◇



「大馬鹿の件と一緒だ。こんなんで今更意見をひっくり返すヤツはいねえだろうな?」


『ジャーク組』がいなくなったタイミングで、口の悪い田村(たむら)がみんなに確認の言葉を投げつけた。


「何度も多数決やっても仕方がないだろ。田村の言う通りだ。追加情報はニューサルのと変わらん」


「わかってんじゃねえか」


 肯定する海藤(かいとう)のセリフを聞いて、田村が偉そうにふんぞり返る。


「もうさ、ウィル様たちで捕まえてくれないかなあ」


 敵が自分と同じ斥候タイプじゃないかという推測にビビったのか、草間は弱気なことを言う。

 大丈夫だよ。草間の【気配遮断】はたぶんチートレベルだから。そもそも優劣をつけるようなものじゃないし。



「どうした? 馬那(まな)


「いや……」


「何かあるならとっとと言えや」


 俺が心の中で草間にエールを送っていると、今度は佩丘と馬那が不穏なやり取りを始めた。どうやら馬那に思うところがあるみたいだけど。


「……なんで敵は『ホーシロ隊』に声を掛けたんだ? しかも大物っぽいのが出張ってまで」


「確かにそうね」


「今更、か」


 馬那の疑問に綿原さんと委員長が理解の色を示す。


 なるほど、確かに今更なんだ。

 合同運動会を経て俺たちと和解した『ホーシロ隊』、というかアウローニヤ流民を囲う『ジャーク組』、『蝉の音組』、そして『サメッグ組』は、その事実を公表したわけじゃない。

 だが、三つの組には拠点の警備や荷運びをお願いしたりしているし、好感度マウント合戦で『ペルマ七剣』たるサメッグ組長が名乗りを上げたりと、友好的に接しているのは傍から見れば一目瞭然だ。


 つまり『六本の尾』は、敢えて外れクジを引きにいったという見解か。

 そこにどんな意味があるのか、馬那はそこが引っ掛かっている。


「在りがちなパターンだと陽動、か」


「何に対してだ?」


 知った風な口を利く古韮に、馬那が真っ当にツッコミを入れた。


「ごめん。言ってみただけだ」


「だろうな」


 グダグダだなあ。古韮らしいっちゃらしいけど。



「ちっ、いいからとっとと行こうぜ。難しいことは地上の偉いさんに任せて、俺たちは迷宮だ」


「ああ。集中していこう。考えるのは夜になってからでいい」


 確かにその通りな田村の言葉に、俺も乗っかる。

 考えてもキリがないってことはいくらでもあるからな。


 不穏な空気を上乗せしつつ、迷宮泊の三日目はスタートした。



 次回の投稿は三日後(2026/01/14)を予定しています。遅くなって申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
気づいたらいなくなっていたなら、周囲に気づかれずに迷宮にはいる技術とか持っていないのだろうか? それこそホーシロ隊に気を逸らしたりとか… 本物の諜報技術に対して、八津の目はどこまで対応できるのだろう…
聖法国の尾っぽ勢、流石に無意味なブラフをばら撒くタイプじゃなさそうだけどなあ。 でも狂信者って他人の意見を聞かないとか他人に対する想像力が足りないとか思い込みが激しいとかもよくあるしなあ、難しいねえ…
誤字報告しようとしたら既に「サメッグ組」は修正されてた^^
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