第607話 事務職員さんの超突撃
書けたので一日前倒しで投稿します。
「イヤアァァ!」
おっかない笑顔のマクターナさんの威圧で場が膠着する中、奇声を上げて横合いから乱入してきたのはミアだった。
全速全力でダイナミックな飛び蹴りを放つミアには遠慮が欠片も存在していない。マクターナさんにはそれくらい本気じゃないとダメだってことだろう。ある意味信頼とすら取れるくらいの思い切りの良さだ。
ついでにミアの蹴りに合わせるようにマクターナさんの背後で足音が鳴る。こっちは白石さんの仕業だ。
今回の模擬戦は聖法国の刺客に襲われたケースを想定している。隠し技を含めて出し惜しみは無しだ。
マクターナさんと『第一』から情報が洩れるなんてことはあり得ないだろうし。
「チィッ!」
ミアが盛大に舌打ちをする。
足音を確認するようにチラリと背後に視線を向けたマクターナさんは、半分よそ見しながらミアの蹴りを盾で受け止めてみせたのだ。予測だけで正確に受け止めてみせるのかよ。
反動で宙に浮いたミアに向けてマクターナさんが剣を伸ばす。
ミアの危機に佩丘と馬那が盾を構えてやけくそみたいに突進を仕掛けた。滝沢先生と中宮さんは位置関係で間に合わない。
さらには生き残っている『第一』の二人が先生たちの進路を塞ぎにかかった。そういう堅実さが今は恨めしい。
夏樹の石と綿原さんのサメまでもがマクターナさんに殺到するが──。
「なっ!?」
くるりと身を翻したマクターナさんが馬那の突き出した盾を背中で受け止めた。驚愕する馬那を他所に、マクターナさんは攻撃範囲が限定されてしまった石とサメを素早く叩き落とす。
「イヤァァ!」
「見事ですね」
猫みたいに体を捻ったミアが、マクターナさんに向けて空中から蹴りを放つ。サッカーで言うところのオーバーヘッドキックだ。
ミアらしいアクロバティックな連続技だが、それでも届かない。
盾で受けずに半身で蹴りを躱したマクターナさんは、左手に持った短剣を着地した直後のミアの喉元に突き出す。ミアも両腕をクロスさせて受けに回ってはいたが、結果としては隙間を抜かれた。
「降参、デス」
力なく膝を突くミアが、掠れ声で負けを認める。
大盾ではなく、中型のヒーターシールドだからこそのテクニックか。背中で盾を受け止めて展開を構築したことといい、マクターナさんはパワーだけじゃなく技もあるし、状況判断も上手い。
「まるで……、先生が剣と盾を使ってるみたい」
俺のすぐ前に立つ綿原さんがぽつりと零す。
わかるよ。先生の技は基本的には実直だけど、死角を作り出すのが醍醐味だ。どこからでも木刀が飛んでくる中宮さんとは違うスタイル。
マクターナさんのやっていることは、どこか先生に通ずるものがある。
「先程から面白い音の使い方をしていますね。シライシさん」
「ひうっ!?」
獰猛な笑みを浮かべたマクターナさんに目を付けられた白石さんが、呼吸音とも悲鳴ともつかない声を上げる。
「とても有効な技だと思います。是非とも磨き続けてください」
「は、はひっ」
マクターナさんの声は優しいにも関わらず、白石さんは後ずさってしまう。
それもそうだ。直接視線を当てられていない俺ですら圧を感じる。バスタ顧問や冒険者たちを黙らせた時のような熱さを持つナニカではなく、つぎの瞬間には叩き斬られてしまいそうな……、安い表現をすれば殺気だ。
マンガやアニメじゃあるまいし、睨みひとつで動きを止めるのかよ。こんなに距離が離れているのに。
「この模擬戦は『ならず者』への対応ということで合っていますね?」
「そういう意味ではもう負けています。最初の一人が剣を突き付けられた時点でもう……」
ニコニコ顔にお似合いの朗らかな声でマクターナさんが今更な確認を取り、中宮さんが悔し気に答える。
「拉致が目的だとすれば、もう少し違った展開もあったでしょう。『怪我をさせたくない』なら刃物をちらつかせるのも問題ですし」
笑顔で語るマクターナさんは、どうやらちゃんと侯国側から情報を得ているようだ。
だからといって慰めにもならないけどな。
「この辺りで終わりにしてもいいのですが、せっかくの機会です。最後にもう一手といきましょう」
思わせぶりなことを言ったマクターナさんがゆらりと一歩を踏み込んだ。
◇◇◇
「ぐぅっ!」
「きゃっ!」
無造作に振られた鞘付きの剣が馬那の大盾に当たり、背後にいた中宮さんを巻き込み二人もろとも弾き飛ばされた。
片手剣でそこまでできるのか。しかも馬那を吹き飛ばす方向までコントロールして。
「全力を出します」
そんなセリフを聞き反射的に【魔力観察】をしてしまった俺は、マクターナさんの体だけでなく、剣と盾にまで及んだ魔力が見えてしまった。
「ヤバい!」
背筋を冷たいものが走り抜ける。
マクターナさんは本気だ。さすがに【鋭刃】は封印しているだろうけど、魔力消費を無視した全力戦闘かよ。
「あああぁぁいぃ!」
「ぐっ!」
先生の奇声が響き、パンチを盾で受け止めた『第一』の副隊長さんが苦悶の声を上げる。十四階位を相手に、先生の攻撃はちゃんと通じているんだ。
だけど、これじゃあ……。
馬那と中宮さんが崩された空間をマクターナさんは遠慮なく突いてきた。
先生の動きを阻害するように佩丘との位置取りを調整し、あとのことを副隊長に任せて部屋の奥、つまりは俺たち後衛陣方に向かって走り出したのだ。もう一人の『第一』も、駆け寄ろうとした中宮さんの抑えに回る。
「ちくしょうがあ!」
佩丘が吼えるも戦闘に利用されることから逃れられていない。
こういう時こそ疋さんのムチが光るのだが、残念ながら彼女はすでに撃墜判定を受けている。
彼女は戦闘の最序盤、敵の【聖術師】にムチを巻き付け短剣を突き付けるという戦果を挙げた直後、マクターナさんにやられてしまったんだ。
これは想像だが、マクターナさんはトリッキーな疋さんを優先的に脱落させたかったんじゃないかと思う。
やっぱりこっちの戦力を知られているのがキツいな。
先生や中宮さんならここからマクターナさんの足を止めるくらいはできるかもしれない。
だが展開は残酷だ。彼女たちと対峙する『第一』の二人は最小限の攻撃で動きを封じることに徹している。あの人たちだって精鋭なんだ。
「彼らは二人とも十四階位だよ。私が言うのもなんだが、緩くはないさ」
横に立つ『第一』の隊長さんが解説を入れてくるが、俺に返事をする余裕なんてない。
ウチのツートップを置き去りにしたマクターナさんが、この瞬間もこっちに迫ってきているんだ。
「通しませんわよ!」
圧倒される俺を他所に、盾を構えたメーラさんとティアさんがマクターナさんの進路に割り込む。
よくぞ動けたものだ。その根性に胸が熱くなる。
剣を横に構えながら迫りくるマクターナさんに合わせるようにメーラさんが盾を前方に突き出し、刺突の準備に入った。
ティアさんも腰に拳を据えてカウンターを狙いにいく。
「なんですの!?」
「くはっ!」
拳を突き出すモーションに入ったティアさんが叫び、メーラさんが苦痛が混じった息を吐いた。
マクターナさんはメーラさんの眼前で急角度で左側、俺から見れば右に切れ込んだ。
置き土産とばかりに振り切られた剣を受けた反動でメーラさんが体勢を崩し、ぶつかってしまったティアさんもよろめく。
「リンパッティアさんとメーラハラさんは近すぎますね」
挑発としか思えないことを言ってのけたマクターナさんが向かう先には、何とか戦闘に関与しようと右側戦線から走ってきた藍城委員長がいた。
そのうしろには田村もだ。田村などは決して戦闘向きではないにも関わらず、それでも盾を手に駆け寄ろうとして。
「うあっ!」
「ちぃっ!」
盾を蹴りつけられて吹き飛ばされた委員長が田村を巻き込み壁際まで転がる。
ウチの騎士職メンバーは動ける野来を除けば受けることに特化している。盾を構え、ひたすら耐えることしかできないんだ。
マクターナさんは容赦なくそこを叩いた。
盾を蹴った反動を使い、マクターナさんは再度後衛陣に向かって走り出す。俗に言う三角跳びだ。
階位でパワーアップができる世界だからミアとか春さんが喜んでやっていたが、マクターナさんのそれは勢いと迫力が違う。
マクターナさんが行動を開始してから馬那と中宮さん、メーラさんとティアさん、委員長と田村がワンセットずつで倒されているが、撃墜までには及んでいない。だけどそんなのは問題にもならないだろう。
剣を振るって悠々とまかり通るのではなく、最小限の手間だけで迫りくる嵐。
これがマクターナさんの突撃か。
「おあああ!」
咆哮を発した綿原さんの巨大双頭サメや、夏樹の石、笹見さんの熱水球、藤永の雷水がマクターナさんに叩き込まれ、深山さんが『氷床』を作り出す。
さらには白石さんの音が『ペルマ七剣』の周囲で鳴り響いた。
俺が指示を出すまでもなく、『一年一組』の後衛術師たちはできる限りのことをしている。
「全部知っています」
そんな術師たちの総攻撃に対しマクターナさんが打った手段は単純に『無視』だった。
視界を守るために盾で顔だけはガードしているが、それ以外はされるがままのマクターナさんは軽い跳躍で『氷床』を飛び越え、姿勢を崩すことなく走り抜ける。
自分自身の速さのせいで相対的に強烈なカウンターになっているのに、それでもマクターナさんは止まらない。
一連の流れでここぞとばかりに俺たちの明確な弱点が露見していく。
前衛の、とくに騎士職の対応力の低さ。作戦もクソもない魔獣相手になら通じていたが、技術を持つ人が相手となると、どうしたって素人の温さが顕在化する。
さらには初見殺しの技を多数持ってはいるが、あくまで一手目でしか通用しないということも思い知らされた。
恐ろしい笑顔を保ったままのマクターナさんが眼前に迫る。
「どっらあぁぁ!」
「本当に術師なのか、疑わしくなりますね」
サメを突破されたというのに、綿原さんはめげずにメイスを振り回す。
その瞬間だけ苦笑となったマクターナさんは悠々と盾で受け止め、右手の剣を俺に向けた。
動け、俺。ここで突っ立っていてどうする!
「『観察カウ』──」
「ごめんなさい。ヤヅさんのそれは分かりやすいんです」
ほんの少しだけ残っていた勇気を振り絞り、体を沈めながら足元を狙った『観察カウンター』は、マクターナさんの足の裏で止められた。
非力な俺にできる精一杯は、相手の動きに合わせてメイスを『置く』ことだけだ。
こっちの動きを無視する魔獣ならまだしも、対人戦なら初見か余程不注意な相手にしか通用しない技。悔しいなあ。
俺のメイスを踏みつけたマクターナさんは大きく跳躍する。まだ突き進むのかよ。
追いかけるように後方に向き直る直前、ついに先生と中宮さんが『第一』の二人を打倒したのが見えたが、もう間に合わない。
◇◇◇
「狙いはわたしでしたか」
「それはもう」
普段の微笑みを消し去り口元を引き締めた上杉さんが、バックラーを構えて毅然とした態度でおっかない事務員さんに立ち向かう。
対するマクターナさんは威圧の混じった笑みのまま、ゆっくりと短剣を上杉さんに伸ばしていく。
近くにいる奉谷さんや白石さん、笹見さん、深山さんは動けない。藤永に至っては尻もちだ。
だけど俺は、藤永を笑うことなんてできないよ。
「え?」
草間が間抜けた声を上げたのは、マクターナさんが凄まじい速さで振り返ったからだ。
ステルスアタックまで対応されるのかよ。
「クサマさんだけが見当たらないのは、さすがに露骨過ぎますよ。それとですが、躊躇が混じりましたね」
解説をしつつ草間の首に短剣を当てたマクターナさんは、滑るような動きで上杉さんの背後に回る。
「聖女を確保しました。みなさん、降伏してもらえますか?」
落ち着いた声でマクターナさんが模擬戦の終了を宣言した。そうか、俺たちは負けたんだ。
広間のあちこちで、メイスが床に落ちる音が響いた。
単騎突貫。マクターナさんは単身で俺たちの全てを貫いたのだ。
◇◇◇
「美味しいですね。相変わらず見事な手腕です」
ペルメッダ風カニスープの入ったマグカップを手にしたマクターナさんが、ふるまい料理を褒めてくる。
『一年一組』二十四人と、マクターナさんを含めた『第一』の十三人は車座となって夕食の最中だ。
本日のメニューは牛とジャガイモの炒め物と、カニと白菜のスープ、そしておにぎり。希望者には追加で馬ステーキとカニの脚の炙り焼きも提供される。
あちらからしてみれば突発的に持ち掛けられた模擬戦は、体感時間こそ物凄かったものの、実際には三分にも届かなかった。むしろ設置した丸太を元の場所に戻したり、料理の温め直しの方に時間を使ったくらいだ。
そしてマクターナさんの治療にも……。
今回の模擬戦でリアルに怪我をした人は少なかった。身内からは『氷床』でコケた春さんと、マクターナさんの攻撃を無理な体勢で避けようとして足を捻った疋さんだけ。吹っ飛ばされていた中宮さんや馬那、委員長や田村だけど、十二やら十三階位ともなればあの程度では負傷などしない。
敵方ではティアさんのパンチを食らった人と、焦った中宮さんが手加減をし損ねた一人が軽傷。
一番の重傷者はぶっちゃけマクターナさんだった。
彼女は前衛職からの攻撃こそ完封してみせたが、魔術を正面から食らったからなあ。お湯で血鮫を洗い流したら顔に火傷があって、額から真っ赤な血が流れてきたのにはビビった。笹見さんの熱水と夏樹の石は、ちゃんとマクターナさんにダメージを入れていたんだ。
自己申告によると数か所の打撲と、さらには委員長の盾を蹴飛ばした時に足首まで軽く痛めていたらしい。【痛覚軽減】を持たずにそんな足で速度を落とさなかったとか、どれだけの根性だろう。
力と技術と、何よりも強靭な精神。それが『手を伸ばす』マクターナさんの戦いだった。
「美味しいね」
「うん」
白石さんと野来が定型文のやり取りをしているが、普段の元気さは見当たらない。
こういうシチュエーションなら普段は大盛り上がりをしているはずの『一年一組』だけど、今日に限ってはちょっとテンションが低いんだ。ティアさんなんて、不機嫌さを隠しもせずにガツガツと料理をかっこんでいる。
引っ掛かるのは先生がワリと普通にしているところなんだよな。【冷徹】を使っている雰囲気はないのに。
さておき、こちらから挑んだ模擬防衛戦は、ほぼ倍の戦力を揃えていたのに敗れてしまったという事実は重い。マクターナさんの威容にビビってしまったというのもあるだろう。
だがそれ以上に、最後衛にいた聖女の上杉さんに敵の刃が届いてしまったという現実が、俺たちを落ち込ませているんだ。
マクターナさんが敢えてああいう手に出た意味は理解できる。もしも聖法国の秘密部隊『六本の尾』にマクターナさんクラスの強者がいたら、模擬戦の結果が現実になり得ると、俺たちの専属担当は示してみせたのだ。
明るい笑顔がトレードマークなマクターナさんは、意外にもスパルタな面を持っていた。
「食事中に無粋ではありますが、少し話をさせてください」
もそもそと食事をしている俺たちの様子を見て眉を下げたマクターナさんが、宥めるような声で語り始める。
「『一年一組』最大の敗因は、みなさんがわたしたちを『味方』だと思いすぎたことです」
回りくどい表現をするマクターナさんだけど、言わんとすることは何となく伝わってきた。
「わたしが突撃を仕掛けてからは必死さがありましたが、そうなる前に手段を選ばずもう一人だけでも潰せていれば、違った結果もあったでしょう」
続く言葉にクラスメイトたちがそれぞれ頷く。
「本当の賊が相手だとしたら、もっと力を発揮できたのではありませんか?」
問い掛けるような言葉に誰も答えることができない。
確かにあれは模擬戦だった。『一年一組』は気合こそ入れていたものの、どこか軽く、そして試してみようという部分があったんだ。
マクターナさんと『第一』の人たちが味方だと知っていたから。
アウローニヤで近衛騎士総長と戦った時、俺たちはもっと必死で、できることを全部絞り出そうとしていなかったか?
「気落ちすることはありません。必要以上に怯えることもです。反省する姿勢は大切ですが、委縮するのはいけませんね……。こういうことはタキザワ先生が言うべきなのでは」
心掛けに言及したマクターナさんは、最後で先生に気を使った。
さすがはマクターナさん。『一年一組』の内部事情にお詳しい。話し方まで先生っぽかったよな。
「いえ、ありがとうございます。わたしから付け加えることがあるとすれば、『いつも通り』に。それだけです」
マクターナさんからバトンを渡された先生は、穏やかにそれだけを告げた。
そしてクラスメイトたちの表情が変わっていく。
先生の言う『いつも通り』の持つ意味合いは多くて深い。
今回の模擬戦に絡めるとすれば、予習と復習、つまりちゃんと学べたか、その先を見据えているか。深く考え、それをみんなと相談し、より良い結論を導き出せるか。
そもそも落ち込んでいる場合なのか。目の前の料理をちゃんと食べて、体を動かし、明日は今日より強くなれているか。
山士幌への帰還を胸に、学生であることを忘れず、そしてこの世界を生き抜くために『いつも通り』の行動をしなければいけない。
それこそが先生の言葉に込められた信念だ。一年一組の大切なスローガン。
「わたしからも質問をよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
クラスメイトたちの目付きが変わり、料理を口に運ぶスピードが上がっているのを確認した先生は薄く微笑み、マクターナさんに問い掛ける。
「二手に分けて時間差を付けたのは、勝つためですか?」
「そうです」
先生のした質問にあっさり答えるマクターナさんだけど、それって当然のことじゃないか?
実際俺は戦力の初期配置に迷ったし……、いや待て。マクターナさんたちが突入してきたのは、『第一』の隊長が率いた二班がひと通りのトラップに掛かった直後だった。
「私はオトリ役だったんだよ。もちろん罠があっても食い破るつもりだったけれどね」
「シライシさんの音とワタハラさんの飛び跳ねるサメ。見届けていたからこそ、わたしは最後の突撃を掛けることができました。みなさんの力と連携はある程度把握していましたし」
ここで『第一』の隊長さんとマクターナさんによるネタ晴らしだ。
何度か迷宮を一緒したけど、白石さんの『エアメイス』シリーズや綿原さんの『跳血鮫』はマクターナさんにとって初見となる。魔獣用の技じゃないからな。
要はマクターナさん、二つの班を同時に突入させて乱戦に持ち込むのではなく、俺たちの持つ『対人戦用』の技術を確認してから戦闘に参加したのか。どうりで白石さんの音への対応が早いと思ったんだ。
「……わたしたちを狙う敵も、同じことをしてくるかもしれない」
「そうか。そうだね。真っ当な相手なら、そうしてくる可能性は十分あり得る」
中宮さんと委員長が至った気付きを口にすることで、皆に理解が広がっていく。
決して嬉しい内容ではない。敵が狡猾であることを想定しなければいけないからだ。
だけどそれならば相応の準備と覚悟をすればいい。そんな気概がクラスメイトに伝播していく。
「せっかくマクターナさんと『第一』の人たちがここまでしてくれたんだ。シクったら大恥だな」
そう、古韮の言う通りだ。
「あ、言い忘れてた。マクターナさん。怪我させちゃってごめんなさい」
「いえ。ナツキさんの思い切りの良さは、『一年一組』の大きな武器です」
思い出したように謝る夏樹をマクターナさんは笑顔で持ち上げる。
マクターナさんたちは徹底して襲撃者をやってくれたんだ。
たとえ自身が怪我を負うことになったとしても、幾つもの可能性を俺たちに提示するために。
あの白々しい警告文で、よくぞここまで襲撃側の立場になってくれたものだ。
「『第一』に所属する私たちは、これでも組合最強と呼ばれている。それに加えて『ペルマ七剣』だ。ここまでやられるとは思っていなかったよ」
「たとえこちらが少人数だったとしても、わたしが強硬手段を採らざるを得ない状況まで追い詰めたことを、自信に変えてください」
『第一』の隊長さんとマクターナさんが続けざまに励ましの言葉を掛けてくる。
まったくもってこの人たちには頭が上がらない。
「今は美味しい料理で英気を養いましょう。まだお話は残っていますので」
陽気なマクターナさんの声で、場に緩い空気が戻ってくる。
時刻はすでに夜の八時近くになっている。マクターナさんたちの残業時間を減らすためにも、急いで食べた方が良さそうだ。
「無理をして急がなくてもいいですよ」
マクターナさんはそう言うが、俺たちには一分一秒を惜しむ理由ができてしまっている。
反省しながらたらふく食べて、これから始まるであろうマクターナさんの報告を聞かねばならない。
それがいい話題でも悪い話でもあってもだ。
次回の投稿は今度こそ三日後(2026/01/07)となります。




