第604話 先生が背負うもの
「ここだ、ここ。とっとやれや」
「傾いてるじゃねえか!」
「いいんだよ。こっちでクロスさせろ! 相手はデカブツだぞ。隙間なんて気にすんな!」
お互い口の悪い田村と佩丘が怒鳴り合う。
午後も三時を過ぎ、本日の狩りも後半を迎えている。
俺たちが陣取っているのは昨日『スパー組』が探索していなかった軽い魔力部屋の隣だ。メガネ忍者な草間の観測によると、居座っていたのは三角丸太が三体と牛が五体、そしてヒヨドリが八体だった。
移動速度の高い牛、ゆっくりな丸太、動かないヒヨドリ。美味しい組み合わせと言って間違いないだろう。
引き撃ちをするまでもない。待ち受けて牛を倒し、それから丸太、最後にヒヨドリという手順でいける。
で、丸太の足止めができればなお良しという状況で、田村が陣地構築を提案してきたのだ。さすがは『丸太担当』。
「丸太で丸太を抑え込むってか」
「運んできた甲斐があったな」
田村の指示に従い、古韮と馬那が丸太を設置していく。
素人の急仕立てではあるが、相手は田村の言うように図体がデカくて小回りが利かない魔獣だ。足止め効果は高いだろう。
「盾組は丸太を置いたら前線を作ってくれ! 念のために草間は監視だ」
「八津くんからだって見えてるクセに」
「魔力部屋に魔獣が増えるかもしれないんだ。草間頼りだよ」
「ははっ、わかってるよ」
セミプロ斥候の草間は意識が高い。俺が言わずとも、やるべきことはわかっている。
ちょっとした会話のじゃれ合いだな。ウチのメンバーはちょくちょくこういうやり取りをするんだ。
「早く来てくれ! 接近される」
「とうっ!」
牛に槍を命中させた海藤が救援を求め、人間砲弾と化した野来が勇敢にも体当たりによる足止めを計る。
三角丸太に先立ちこの部屋に招き入れた五体の牛に対応しているのは、遠距離攻撃組の海藤やミアに加え、盾はメーラさんと野来。アタッカーは総出で動き回ることでヘイトを攪乱し、術師たちもそれぞれ牛に魔術を叩き込む。
「やった」
こういう時は深山さんの『氷床』が頼もしい。見事に六本足の牛を一体コケさせた。
だが迷宮の牛は一味違う。背中に生えた四本の『足』がうごめき、体勢を立て直していくのだ。キモい。
四層最重量の三角丸太は抑え込むことさえできればそれ程ヤバい敵ではないが、それなりの速度で動き回る牛と馬は厄介なんだよな。
指示を出す側としては、スピードタイプの魔獣が複数ともなると、全員に細かくっていうのは難しい。危機的なシーンを見つけたら個別に声を掛けるくらいだ。要するに個人の判断に委ねることが多くなる。
「イヤァァ!」
「えいっ!」
とはいえ階位も上がり、四層の魔獣との戦いに慣れてきた仲間たちは頼もしい。
立ち上がろうとした牛にミアの矢が突き立ち、風と共に懐に飛び込んだ春さんが数本の足を折ってから離脱する。
「らあぁぁ!」
「うりゃっ!」
ここでついに本職の盾組の乱入だ。丸太の設置を終えた佩丘と古韮が横合いから牛に盾をブチかまし、そのままヘイトを取っていく。
「来たぞ」
「お待たせ」
続けて馬那と藍城委員長も登場し、野来とメーラさんも含めて盾が六枚となった。対する牛は五体なわけで、一対一以上の状況が成立する。
魔力部屋に通じる扉の前に置かれた丸太のお陰で、三角丸太の侵入もキッチリ防げているようだ。
しっかり最終確認をしてからこちらに向かってくる田村は、珍しくもドヤ顔になっている。あとでイジられるぞ、そういうの。
今のところは一体の牛も倒すこともできていないが、これで態勢は整った──。
「ああぁぁいいぃっ!」
俺がここからの展開に思考を巡らせようとしたタイミングで、広間にお馴染みの奇声が響く。
白石さんの勇ましい歌声をBGMにして、滝沢先生が古韮の抑えている牛に肘を叩き込んだ。さっき深山さんが転がし、ミアと春さんがダメージを与えた牛だったりするが、先生はソイツをターゲットにしたらしい。
角が一本、くるくると宙に舞う。打撃で折っちゃうんだよなあ、先生の場合。
「ああぁいっ!」
牛の急所は胴体の『前後中央』に配置された頭のすぐ下。つまりは『脇腹』だ。
本当にふざけたパッチワークだが、片方の角を折り飛ばすことで小さな安全地帯を作り出した先生は、右の貫き手を急所に突き入れた。
「相変わらず凄いですよね、先生って」
「得意分野ですから」
一連の流れを至近距離で見ていた古韮が呆れ交じりの声で賞賛すれば、先生は牛の腹に肘まで突き刺さった腕を引き抜きながら小さく微笑む。
素手で牛を倒してしまうのが得意な英語教師って、ジャンル的にはどの辺りなんだろうなあ。
「八津君。わたしはここからサポートに回ります」
「はいっ!」
チラリと俺に視線を送った先生は、隣の牛に立ち向かっているティアさんの下に走り出す。
戦闘が継続中だから明言こそしなかったものの、先生もついに十三階位か。自然と俺の返事も大きな声になる。
日本人として四人目、『一年一組』では五人目となる十三階位の誕生だ。
「狙ってる技能、あるんですか?」
「それは落ち着いてからにしましょう」
先生を追いかけるようにしてティアさんのフォローに回る古韮の軽口に対し、俺たちの旗頭は明言を避けた。
十三階位になったことで新しい技能が生えていない限り、可能性としてあり得るのは【聴覚強化】か【握力強化】、あとは【一点集中】辺りが候補になるか。もちろん大本命は魔力の温存だ。
先生が一瞬だけ瞳を揺らしていたけど、何か思惑があるのかな?
「あぁぁいっ!」
「捕まえた、ぜ。メーラさん、ティアさん!」
メーラさんがヘイトを稼いでいた牛を目掛け、横合いから飛び込んだ先生がローキックで足を折り、古韮が片方の角を引っ掴む。
それを見たメーラさんがもう片方の角を握りしめることで牛の急所が悪役令嬢の目の前に晒された。
「頂戴いたします、わぁ!」
ティアさんは先生のように貫き手で一撃なんていうマネはできない。それでも短剣の扱いならば、メーラさんに続く『一年一組』ナンバーツーだ。
平和な日本で生きていた学生と、迷宮のあるペルメッダのお姫様。人生経験が違いすぎる。
ズブりと音を立てつつ短剣が牛の腹に呑み込まれていく。
噴き出した魔獣の血がティアさんだけでなく、古韮やメーラさんまでも汚していくが、そんなことでビビるようなヤツはこの場にいない。
「……『ちぇっくめいと』ですわ」
「ティアさん、それ違うから」
動きを停止した牛から短剣を引き抜いたティアさんがカッコいいセリフを放ち、古韮が当然のツッコミを入れる。
誰だよ、教えたのは。こっち見るな、古韮。俺じゃないから。
聖法国から狙われている俺たち勇者だけでなく、こうしてティアさんの階位上げを急いでいるのには理由がある。メーラさんは十三階位を達成したけど、ティアさんはまだちょっと掛るだろう状況であってもなお。
今更ではあるがメーラさんは元守護騎士で、ティアさんは侯爵令嬢だ。もしもがあれば侯爵家は黙っているだろうか。
ティアさんがウィル様を説得するために使った方便、聖法国の狙いが実は侯爵家なのだというのはネタとしても、勇者を捕まえるついでに魔族と結ぶペルメッダの姫を害するっていうラインは全然あり得る。
それをわかった上で、俺たちは『一年一組』がペルメッダで活動する限り、ティアさんとメーラさんと行動を共にするとみんなで決めたのだ。それが二人の望みでもあるし。
ティアさんに何かがあったとして、侯王様やウィル様が俺たちに恨みをぶつけてくるとは思えない。怒りの矛先は確実に聖法国に向けられるだろう。
だけど直接戦争なんてことにはならないはずだ。ペルメッダ侯国と聖法国アゥサのあいだにはアウローニヤ王国が横たわっているのだから。
『あり得るとしたら、魔王国への経済支援か』
昨夜、俺の懸念をミリオタな馬那にこっそり相談した時の返事がこれだ。
魔王国は南西部で聖法国と戦争中だと聞いている。
馬那はペルメッダが戦力ではなく、資金や武器になる素材を送ることで間接的に戦争の片方に加担する可能性を持ち出した。
さすがにどんよりするよなあ。
こんなことはティアさんやメーラさんだって思い至っているだろう。だからこそ彼女たちは綿原さんや春さんが一歩引いても、十三階位レースから降りなかった。
前に出たがるティアさんの我が儘な気性もちょっとはあるかもしれないが、みんなで共に戦うと決めた以上、悪役令嬢は俺たち同様最善を尽くそうとしているんだ。
「さあさあ、わたくしの獲物は残っていますわね!」
お互いこういう悲しいコトを口にしていないが、ティアさんは行動で示す。ならば俺は応えるのみだ。
「残り三体はティアさん、海藤、委員長で分担だ。後衛は丸太を動かす準備に掛るぞ!」
「おう! 頼むぜ、佩丘、野来!」
俺の叫びに海藤が短槍を構える。
「おうらぁ!」
「『風盾衝撃』!」
海藤の意図を汲んだ佩丘が渾身の力で牛を突き飛ばし、さらには野来が衝突することで距離を作り出す。
事前に練られていたコンビネーションだが、野来がすっかり砲弾係なんだよな。
「らぁあ!」
そんな感想を抱く俺を他所に、左腕を大きく振りかぶった海藤が投げた槍は、見事に牛の腹部に突き立った。
◇◇◇
「美味しいね。けど……」
「気長にやるしかないっしょ」
「だねえ」
蒸しヒヨドリ串を食べつつも複雑そうな奉谷さんに、チャラ子な疋さんとアネゴな笹見さんが声を掛ける。
『あなたの手にする光って──』
広間には白石さんの【鎮静歌唱】が流れているけど、ちゃんと食べる時間も作ってほしい。ピリ辛のヒヨドリは美味いぞ。
牛を倒し切ってから広間へ呼び込んだ三体の丸太の始末を委員長に任せ、それから魔力部屋にいたヒヨドリを討伐した俺たちは、即席の蒸しヒヨドリを食べつつ休憩中だ。
魔力部屋に居座っていたヒヨドリは、笹見さんと上杉さん、深山さんと奉谷さんが分け合ったが、一連の戦闘で階位が上がったのは先生一人だけだった。
まあ予想の範疇なので、落ち込むほどのことでもない。
そもそも奉谷さんが気にしているのは、いつ海藤がレベルアップしてもおかしくない状況を受けての結果だったからだ。相変わらず他者を思いやる子だよな、奉谷さんって。
綿原さんたち離脱者を除いた現状の十三階位レースを順位付けするとすれば、間違いなくトップは海藤で、二位はティアさん。そこに委員長が猛烈な追い上げって感じになっている。
後衛職の四名は笹見さんが半歩抜き出しているが、どうやら彼女は自分以外の三人に経験値を譲っているっぽいんだよな。直接倒せるヒヨドリはさておき、芋煮会の獲物配分で見て取れる。
一度拉致された経験があり、アネゴのくせに気が強いわけでもない笹見さんは、どういう思いでいるのだろう。
彼女は【身体強化】持ちなので、時間を掛ければ中型魔獣を倒すこともできる。海藤とティアさんが十三階位になれば、獲物の融通もできるだろうから、俺が気に掛けてあげないとだな。
「よろしいですか?」
「昇子姉?」
俺がそんなことを考えている時だった。みんなが車座になっている中、一人立ち上がった先生が口を開く。唖然と見上げる中宮さんが滅多に使わない愛称を漏らした。
中宮さんの言葉遣いは思わずといったところだろうが、それくらい先生は、謂わば『情けない』顔をしていたのだ。眉を大きく下げ、いつもはピンと伸ばしている背筋も今は歪んでいる気がする。そのせいか顔も心持ち俯き加減だ。
いつもは沈着冷静で俺たちの精神的支柱を担ってくれている先生だけど、取り乱したり落ち込んだりすることだってある。
最初は俺たち四人が二層に転落し、みんなで離宮に戻ってからだった。クーデターへの参加をやむなく判断した一幕、近衛騎士総長の手に掛かり馬那が深手を負った時もそう。
記憶に新しいところではスメスタさんのハンカチ疑惑でも別方向で先生は動揺しまくっていた。
では今回、先生はどうしてこんな顔になっているのか。おおよそ聖法国絡みなんだろうとは思うけど。
こんな先生を見たことがないはずのティアさんなどは、悪役令嬢らしくもない顔で心配そうに見守っている。
いやまて。先生は【冷徹】を持っているんだ。何を言い出すとしたところで、こんな表情を晒すのはおかしくないか?
そういえばさっき十三階位を達成した時も、どこか含みがあったような……。
「その、言い出しにくいのですが……」
全員の注目を浴び、言葉通りに気まずそうな態度を隠しもしない先生は、一瞬だけチャラ子な疋さんを見た。
「え?」
「なんデス?」
続けて先生は俺とミアにも視線を送る。
ほんのちょっとの瞳の動きだったが俺は【観察】で、ミアは野生の感性でそれを捉えた。
同時に声を上げてしまった俺たちにクラスメイトたちが首を傾げている。
「【安眠】を取得しても……、いいでしょうか」
そんなことを口にした先生の声は、消え入るようであった。
「大賛成デス!」
「そういうことねぇ~。なんも遠慮しなくていいっしょ」
どこか告白染みた先生の言葉にミアは諸手を挙げて大喜びし、疋さんは軽いノリで賛成する。
「ですが、疋さんが【安眠】を取らずに魔力を温存すると言っているのに……」
「アタシはノリっしょ。先生は……、深刻なんだよね?」
申し訳なさそうに俯く先生に対し、疋さんは言葉の最後でチャラさを引っ込め、珍しくもマジ顔だ。
ここで気が付いた。皆に真摯であるために、敢えて先生は【冷徹】を使わず会話に挑んだんだろう。その心中を思うと、言葉も出てこない。
「聖法国めっ」
だか中宮さんは違った。というか完全にキレている。
座ったまま迷宮の床に勢いよく拳を振り下ろした彼女は、ギュッと歯を食いしばって天井を見上げた。その先にある地上に潜伏する敵を見通すかのように。
それに合わせてクラスメイトたちからも剣呑なオーラが立ち昇り始める。
強気なメンバーはもちろん、普段は弱気な白石さんや藤永までもがだ。
そう、先生の抱える悩みの元凶は明らかだ。聖法国の脅威が具体化したことで、先生は苦しんでいる。
昨夜侯王様やラハイド侯爵夫妻から聞かされた話を受けて先生なりに……、自らではなく俺たちを心配して。先生はそういう人だから。
よくぞ今日、ここまでの道中で普段通りの戦いができていたものだ。全然気づかなかった。
いや、そういえば戦闘中に【冷徹】を使っているように感じるシーンが多かったような。てっきり白石さんと同じく熟練上げだとばかり思っていたけど。
直接口にはしていないものの、【睡眠】では足りないって判断したんだろう。もしかしたら縋っているのかもしれない。
それくらいの重圧を、俺たちの先生は背負っている。
「わたしのために怒ってくれて……、ありがとうございます。今更意地を張っても始まりませんし、何よりわたしはみなさんの前で取り繕うつもりはありません」
歪んだ苦笑を浮かべる先生に、誰も声を掛けることができない。
「タキザワ先生。わたくしとメーラは重荷ですの?」
だが、ティアさんは切り込んだ。悔し気で、悲そうな声色で。
「いえ、守るべき存在が一でも二十三でも同じことです。それにわたしは──」
「『守るべき』とおっしゃいますのね」
「……失言でした」
普段のティアさんなら激発していてもおかしくないやり取りだが、この状況ではさすがにな。
むしろ悪役令嬢モードをすっかり引っ込めて、痛ましいものを見る目を先生に向けている。
「わたしは……、わたしが、みなさんを守りたいと思っているのは本当のことです」
らしくないコトを言ってしまってバツが悪そうにしていた先生は、表情を改め語り始めた。
一年一組の全員が重々身に染みていて、そしてティアさんやメーラさんだって知っているはずのことをまず最初に。
だけど先生は一方的なだけの人ではない。
「同時に、わたしはみなさんを頼りにしています。取りまとめを藍城君や凛ちゃんに、書類であれば白石さんや野来君を──」
視線を動かしながらつらつらとクラスメイトの名を挙げていく先生に、各人がそれぞれ頷きで返す。
「上杉さんや佩丘君からは料理を教えてもらっていますし、お風呂の用意は笹見さんや深山さん、藤永君に頼りっぱなしです──」
先生は自分ひとりでみんなを守るだなんていう奢りを持ってなどいない。それは気高い心意気であって、実のところ先生は戦い以外ではワリとポンコツだったりもする。
「迷宮の準備は綿原さんに任せきりですし──」
先生からそんな言葉を投げ掛けられた綿原さんはサメと一緒に頷いて、嬉しそうにモチャっと笑う。
「八津君の指揮があるから、わたしは自在に動けています」
まったく先生は卑怯な人だ。聖法国の件で苦しんでいるはずなのに、いつの間にか俺たちを励ます側になっている。
こんな大人になりたいって思わざるを得ないくらい、立派すぎる存在だ。
「守護騎士としての技術を持つメーラさんは生徒たちのお手本になってくれています。盾の扱いについて、わたしは素人同然ですので」
自分の名を呼ばれ、真っ当に褒められたメーラさんがほんの少し表情を和らげる。
「そしてティアさん。あなたの武は途上です。ですが、ティアさんはわたしたちに心の強靭さを与えてくれました」
「タキザワ先生……」
「ぶれることなく、折れない意思を」
ティアさんの頬に涙がつたい、そして彼女は無邪気に笑う。悪役令嬢っぽくないけど、今はそれでいい。
「みなさんはわたしが守りたいと思う大切な存在であり、信じ、頼らせてもらうことのできる、大事な仲間です」
「はい!」
結びの言葉に皆が一斉に声を上げる。
「八津くん」
「ああ。もっと強くなろう。先生の心配は消せなくても、頼りにしてもらえるくらいに」
「レースに復帰しようかしら」
「それはダメだろ」
「そ」
こっそりと話し掛けてきた綿原さんに、俺は決意と苦笑を返すこととなった。
◇◇◇
「八津君、【安眠】は効果がありますか?」
ひとしきり自分の意志を語った先生は、俺に問いを投げ掛けてくる。
そういえば話題は【安眠】だったっけ。
とはいえ各人の技能についての情報は、全員で共有されている。先生の質問は、あくまで再確認だ。
「あります。内容は憶えていませんが、大抵はいい夢だったと思いますし──」
「寝起きもバッチリデス!」
敢えて効果を断言した俺に、いつものノリに戻ったミアが被せてくる。
ついさっきまで猛獣みたいな空気をまとっていたとはとても思えない態度だ。
「ミアの寝顔を毎日見てるけど、お気楽そうなんだよねえ。どんな夢を見てるのやら」
「玲子! 何でそういうことを言うんデス!」
肩を竦める笹見さんにミアが猛然と抗議をしたところで、広間にみんなの笑い声が響いた。
「ありがとうございます。わたしは【安眠】を取って、少しでも貢献できるようになりましょう。もちろん夜になってからですけど」
こちらに合わせるように、笑顔を取り戻した先生が決意を語る。
「食事の手を止めさせてしまい、申し訳ありませんでした」
「急いで食べましょう」
先生の言うように仲間の一部はヒヨドリ串を食べ切っていない。綿原さんが慌てた様子でパクリと串に噛み付いた。
「八津くん、どうして見ているわけ?」
「あ、いや。ごめん」
そんな彼女をマジマジと見てしまった俺は、ひたすら謝ることしかできないのだ。
今年一年、お読みくださりありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
次回の投稿は明日(2026/01/01)、設定資料(物語の舞台となる地図と周辺国家について)を公開します。
本編は明後日(2026/01/02)を予定しています。




