第603話 抗うための優先順位
「罠は一か所。隠し扉だ。左の壁、入口から十二キュビ!」
「イィヤァァ!」
「おうりゃ!」
先頭を切って魔力部屋に飛び込んだ俺が叫ぶあいだに、両脇をすり抜けていったアーチャーのミアとスローランサーな海藤が攻撃を開始する。
狙うは忍者な草間が事前に察知してくれていた通り、【七脚双角馬】三体だ。
胴体の左右から角を突き出し、脚が七本もあって動きを止めるのが厄介な相手だからこそ、早い段階で無力化しておきたい。
八体の白菜と四体のトウモロコシについてはメーラさんも含めた六枚の盾をフルに使い、当面は耐える方向だ。
木刀使いの中宮さんはもちろん、チャラ子な疋さんには能動的な迎撃をお願いするし、術師たちには牽制に励んでもらう。
「どこだい? 八津」
「あそこだ。頼む」
背後から声を掛けてきたのはアネゴな笹見さんだ。俺は振り返らずに壁のトラップを指差す。
「任せときなあ」
笹見さんの【水術】で壁際の水路から水球が二つ浮かび上がり、俺の指定した場所に叩きつけられた。
ほんの少し色が違うだけの壁がパカっと開き、数秒してから元通りに閉じる。一度稼働した迷宮罠は機能しなくなるので、これにて処理は完了だ。
ちなみにだけど、魔獣はトラップに掛からない。
対象外という意味ではなく、ヤツらは罠を避けるのだ。俺の【魔力観察】と同じく、『見えている』のだろうというのがみんなの見解だったりする。俺を魔獣と同じ扱いしないでほしいかな。
「どおらぁぁ!」
盾に蔓を巻きつけられた綿原さんが、飛びついてくる白菜本体をサメで減速させてから、そこにメイスを叩き込む。
鈍器での攻撃のため一撃必殺とまではいかないが、それでも蔓が千切れた白菜の脅威は大きく減じることになる。
彼女をそこに配置したのは俺だけど、すっかり前衛職の仲間入りだな。
バティモードですぐ近くっていう機会が減ってしまったのが……、いかんいかん、そういう個人的感情で戦術を組み立てるのは間違っている。
メイスを持っていない方の手で、俺は軽く頬を叩く。
「八津くん、どうしたの?」
「……蚊がいたんだ」
「絶対ウソだぁ」
ロリっ娘な奉谷さんとのほのぼの会話はさておき、俺の役目は全体を見通すことだ。
戦闘開始一分で馬が一体動きを止めた。短槍が一発と矢が二本か。最近は海藤とミアの活躍が著しい。戦闘を避けて壁際から走り寄った滝沢先生とティアさんがトドメに取り掛かっている。
白菜は二体、トウモロコシは一体が戦線から離脱した。
この時点で毒を貰ったのはオーバーアクションな春さんが一回、藍城委員長が一回だけ。四層での経験も長くなり、みんな毒を食らわない戦い方が上手くなってきている。
その中でも際立つのはメーラさんだ。
十三階位となり【痛覚軽減】を取ったからといって、それを前提とした戦い方をしていない。むしろパワーアップした身体能力を確かめるように盾を扱っているのが見て取れる。元々盾捌きのプロなだけあって、その動作からは微塵の不安も感じさせない。
「毒々モンスターね」
「何のことかわからないけど、四層の魔獣は毒持ちが多いよな」
綿原さんが数歩後退し、俺の斜め前で新たなる獲物を探るあいだに短い会話が交わされる。
今回ならばトウモロコシは葉っぱに痛覚毒で、白菜は蔓の先端に麻痺毒、馬は噛み付きが麻痺で尻尾に睡眠毒。確かに毒だらけだな。
その中でも気を付けなければいけないのはトウモロコシだ。毒を持つ葉っぱが大きくてわしゃわしゃするから当たり判定がデカいんだよ。馬は逆に、毒を持たない角の方が怖い。
魔獣を学び、体感し、復習して次回に備える。体と頭の両方を使ってだ。
生き延びるためだからと必死に実践していることだけど、日本に戻ってからもこの心掛けは忘れないようにしておこう。将来を考えれば学校の成績だって大事なんだから。
異世界に飛ばされて、なあなあだった日本での日常が、どれだけ大切で貴重な時間だったのかを思い知ったんだ。
「っしゃあ!」
二体目の馬の無力化に成功した海藤が吼える。
そろそろ動いてもいいかな。いや、もうちょい……。白菜がいい感じの位置取りじゃないか。
「野来、一時ニ十分。三体巻き込める!」
「ええっ!? 『風盾衝撃』!」
唐突な俺の指示に一瞬の逡巡を挟んだが、それでも文系オタな野来は応えてくれた。盾の内側に【風術】を叩き込み、一直線にシールドチャージを仕掛けて白菜を巻き込んでいく。
「ようし。盾列、三キュビ前進! 春さん、中宮さん。野来を連れて帰ってきてくれ」
「八津に掛かれば、野来は飛び道具かよ」
春さんと中宮さんが手早く野来を拾いに行ってくれているというのに、オタ仲間の古韮からはキツいツッコミだ。
こっちの隣には白石さんがいるんだから、センシティブな話題は避けてもらいたいのに。
「俺はバッターなんだよ」
言いながら三歩程前に出た俺は、前衛が前進したせいでできた隊列の空白に着地しようとしたトウモロコシを両手持ちのメイスで殴り飛ばす。
「僕が狙ってたのに」
夏樹の石が捕捉していたことには気付いていたが、悪い。俺もなんかしてるところを見せたかっただけなんだ。
「でもいいよ。ちょうど追撃しやすい位置だし」
「だろ?」
もちろん私情に駆られて戦況を悪化させるなんてことはしない。なるべく高めに打ち上げたトウモロコシに、夏樹の石が連続でブチ当たる。
これぞ連携プレーってやつだ。空中コンボとも言う。
「打てるキャッチャーは貴重なんだ。八津は将来が期待できるっ……、な」
「そっちこそ、ストライクじゃないか」
「ああ、会心の一球だ」
海藤が思い切り投げた短槍は迫りくる馬の喉元に吸い込まれ、見事に貫通した。
倒れ込んだ馬は……、動かない。見事なクリティカルってやつだ。やってくれるなあ。
これで馬は全滅。よし。
「白菜を四体だけ残して、それ以外は先生と委員長、疋さん、ティアさんで食べてくれ!」
「てことは出番かい?」
「ああ。茹で加減は任せた」
「あいよ」
俺の指示の意味を正確に受け取った笹見さんが、迷宮の床に寸胴鍋を設置した。
続けてあらかじめ温度を上げていた水球が投入される。実に手際がいい。笹見さんは戦闘そのものよりも、こういうところで輝くタイプだ。
今日の昼食は白菜スープでメニューが一品確定かな。ジャガイモも大歓迎だ。
◇◇◇
「見送りっしょ。ホントは【安眠】がほしいんだけどさぁ~」
「その言い方だとワタシがワガママみたいデス!」
『一年一組』で四人目の十三階位を達成した疋さんの言葉に、十二階位で【安眠】を取ったミアが噛み付く。
昨日【剛力】を取得した時はいい感じの話だったのに、ミアはやっぱり面白いキャラだよな。
「ほら、アタシは【魔力伝導】と【魔力凝縮】が売りっしょ。内魔力はどれだけあってもいいってねぇ」
チャラくても疋さんは自分の戦闘スタイルと果たすべき役どころをキッチリ理解している。
【裂鞭士】な彼女はムチを使って敵の動きを封じ込めるタイプのアタッカーだ。ムチで打ち据えるのではなく、絡め捕りつつ魔力を流し込んで相手を弱体化させるのを得意とする。
攻撃そのものは【鋭刃】をまとった短剣を器用に扱うので、近距離でのクリティカル率が高いのが売りだ。
「いいんじゃねえか?『イザって時』のために温存は悪くねえ」
白菜スープの入った鉄カップを手に、小太りの田村が疋さんの判断に賛成する。
一本道の途中だった魔力部屋に長居をするのは危険ということもあり、急いで素材を回収した俺たちは、三部屋程移動してから昼食の最中だ。
スープのほかには定番となりつつあるマッシュポテト。そして馬肉の炙り串焼きが本日のメニューとなっている。ごはんを炊くのは夕食に回し、マクターナさんにもご馳走しようなんて案も採択された。
そんな中でなされている疋さんのレベルアップ談義だが、田村の言葉には裏の意味も込められている。
俺たちは非常時に備え、ある程度内魔力に余裕を持たせるように気を使っているが、ぶっちゃけ現状の疋さんには緊急で取るべき技能は少ないのだ。精々が【鉄拳】で怪我を予防するくらいだが、彼女は力任せな戦闘をするタイプではない。【剛力】辺りが生えていたら違ったかもしれないけど。
だから【安眠】もあながち冗談ではないんだよな。
「ヤだねぇ~。アタシは平和が一番って思ってるクチなんだけどなぁ」
「ワタシもデス」
「ミアはそのままでいいってねぇ」
「なんかバカにされてる気がしマス!」
わちゃわちゃとした会話をしている二人だけど、疋さんは『対人戦』に備えるために魔力の温存を選んだ。しかも多人数に襲われるケースを想定して。
聖法国から送り込まれた『六本の尾』に狙われている俺たちは、どうしたって人を相手にした闘争を考えなければいけない状況におかれている。
疋さんのムチは触れただけで相手を弱体化できるし、拘束だって不可能ではない。何より中距離攻撃なのがデカいのだ。
一年一組はこれまで『灰羽』のハシュテル元副長、『黄石』のヴァフター元騎士団長、そしてアウローニヤの近衛騎士団長などと集団戦をしたことがある。
そんな必要のない経験を積むことで得られたのは、人を傷つけることへの忌避感情はそうそう消えるものではないという現実だ。
酒季姉弟みたいにワリと吹っ切れている仲間もいるが、大多数は完全に『キレ』でもしない限り、全力を出すことは難しい。中宮さんや先生ですら、だ。
ブチ切れた先生がどれだけ強いかというのは、ヴァフターとのタイマンで思い知らされているけどな。
『一年一組』という括りならティアさんとメーラさんは遠慮しなさそうだが、それは彼女たちがそういう世界で生まれ育ってきたからにすぎない。
そんな中、離れた位置から相手を傷付けずに弱めることが可能な疋さんのムチは、安定して計算できるという意味で本当に頼もしい戦力と言える。
だから疋さんは魔力の温存を図ったのだ。
「ねえねえ、八津くん」
「ん?」
「本当にボクたちでいいのかなあ」
疋さんへの期待を脳内で巡らせていた俺に、馬串を持った奉谷さんが難しい顔で話し掛けてきた。
「絶対に間に合わないと思うんだよね」
「それでもだよ。俺は間違ってないと思うし、みんなだって納得してる」
奉谷さんが気にしているのは朝のミーティングで話題となった、レベリングの優先順位についてだ。
聖法国が勇者の身柄を欲したとして、全員を一度にというのは難しいだろう。
ならば数名を連れ去るか、もしくはそれをネタに脅しをかけて一網打尽を狙うかだ。
そういう前提の上で真っ先に狙われる可能性が高いのは、勇者の象徴となる【聖騎士】の委員長、【聖導師】の上杉さん、そして【熱導師】の笹見さんだ。もしかしたら伝説レベルのレアジョブである【雷術師】の藤永もあるかもしれない。
もうひとつの視点として、拐い易いと目されるメンバーが狙われる可能性だってある。となれば後衛職で小柄な奉谷さんや白石さんが標的としての筆頭になるだろう。男子ならば夏樹もあり得るか。
この世界は階位というシステムのせいで見た目とパワーが一致しないが、冒険者である俺たちは過少ではあるが神授職を申告している。当然刺客はそれを前提として作戦を立てるはずだ。
『階位上げの優先順位を変えた方がいいと思うの』
今朝、『雪山組』の人たちがやってくる前に綿原さんは、そう提案した。
要点は前衛のレベリングを絞り込み、その余力で弱点を減らすこと。
具体的にはレベルアップが視野に入っているアタッカーを確実に十三階位とし、狙われる可能性が高い笹見さんにも経験値を配る。騎士職は委員長を集中的に。
そして後衛『柔らかグループ』のレベリングだ。
たとえ間に合わなかったとしても、敵の動きが読み切れない以上、今からできることを始めておくべきというのが綿原さんの主張だった。先の見えないあがきとも言える。
そういう理屈で綿原さんと春さんは十三階位レースから降りた。自発的にだ。
綿原さんは前衛職程の絶対的なパワーを望めないし、春さんは足が売りな反面、攻撃面が雑だからひとつくらいレベルアップしたところで、と自嘲しながら。
加えて草間も……。ついでみたいでなんかごめん。草間の斥候能力はすでにほぼ完成されていて、むしろ【気配遮断】で助けを求めるのが役目だから。
当然だが三人が十三階位を諦めたわけではない。あくまで一時的な優先順位の変更なだけだ。
レースに再度参加したら、草間はともかく春さんと綿原さんはあっさり十三階位を達成するだろう。
『僕はいいよ。石があるからね』
そして柔らかグループ内でも後回しを望んだ者が出た。最初は石で自衛が可能な夏樹。
俺も名乗り出たひとりだ。こういう時くらい男子だからと恰好をつけさせてもらいたい。そもそも十三階位レースの最下位を走っているので、出遅れなど今更だ。
【騒術師】の白石さんもレベリングを辞退した。
怯えるように小さく体を震わせながらだったけど、何気に彼女は対人戦において強力な武器を持っているのだ。
白石さんお得意の【音術】は人間相手でこそ強烈な効果を発揮する。鼓膜破りとまではいかなくても、すぐ近くで異音が響けば無視することは難しい。
一瞬の時間稼ぎができれば、相方の野来が【風術】ですっ飛んでくる。
【氷術師】の深山さんも当初は遠慮をしたのだが、当人以外の満場一致でレベリング対象者となった。だってなあ。
『『氷床』で転ばせてから、サクって刺す?』
【冷徹】を使った彼女が栗毛の髪を揺らしながら首を傾げてそんなことを言ったのだから、そりゃあ誰だって止める。
綿原さんもスプラッタ路線を堅持しているが、深山さんはホラーかよ。藤永は自分の彼女の発言にビビっていないで、キチンと制御する責任があるはずだ。
深山さんが『アイスウォール』を作ることができるとかならまだアリだったが、現時点では低温空気の『コールドフィールド』が手一杯だ。体感としてはマイナス十度くらいだったので、マイナス三十度が当たり前に観測される山士幌育ちな連中からしてみればまだまだ温いって感じだろう。札幌が長かった俺はワリとキツかったけど。
ちなみに笹見さんも『ホットフィールド』を作ることができるが、威力は微妙だ。体験させてもらった上での個人的な感想としては、小学生の頃に家族旅行で泊まった旅館のサウナみたいだった。
二人の『ホットフィールド』と『コールドフィールド』を並べて、連続して敵を通過させたら、もしかしたら心臓マヒを起こせるかもっていう危険な発言が医者志望の田村から飛び出したが、魔力を使って確率の低い賭けをする意味がない。
一定確率での即死攻撃とか、RPGじゃないんだから。
上杉さんと奉谷さんは自分たちは【聖術】が使えるから大丈夫って意見を出してきたが、それは認められなかった。
確かに奉谷さんは【身体補強】で自己バフできるから、見た目に反してパワーは見込める。上杉さんには【聖導術】という奇跡もあるが、だからといって怪我を前提とした考え方を俺たちは許容しない。
そもそも負傷もいただけないが、拉致されないことが第一義なのだし。
というわけで、後衛柔らかグループのレベリングは一位が上杉さん、二位が奉谷さんで、三番手が深山さんということになった。
今回の迷宮泊での十三階位は望み薄ではあるが、それでも下準備だけはしっかりやっておこうということだ。
◇◇◇
「丸太は全部委員長だ。時間を掛けて構わないから、慎重にな」
「やれやれだよ」
俺の指示に委員長はくたびれた声で返事をしてくるが、だからといって足踏みをするようなことはしない。
特別に使用許可の下りた長めの神剣『ムラマサ』を手に、仲間たちが横倒しにした三角丸太に駆け登る。
「『ムラマサ』使ってんだから文句言うな」
「よっ、勇者様!」
「カッコいいねぇ~」
そんな委員長にクラスメイトからヤジ……、声援が飛ぶ。まったく、ウチのクラスの連中は。
中宮さんとメーラさんが十三階位となった以上、レベリング優先者の中でデカブツを相手にすべきは委員長だ。先生と海藤、ティアさんには中型を預けて、煮込みが効く魔獣は笹見さん、奉谷さん、上杉さん、深山さんに担当してもらう。
基本ラインはこんな感じだが、そろそろ先生がレベルアップしそうだという報告が記録係の白石さんから届いている。そうなれば、委員長を中型に回すのもアリだな。
なんにせよ、縛りはあっても状況は悪くない。
獲物に事欠かないというのも大きいしな。
昨日この区画を狩り場にしたのは『スパー組』というところだが、なんと三割程度の探索で撤退している。『シュウカク作戦』では四層の階段付近の経路維持を担当していたはずだけど、戦闘詳報を読むに、現状の迷宮に対応し切れていないようだ。
四層で戦う全ての冒険者が対策できているわけではないっていう証拠みたいなものか。トップパーティが少人数なところは増員が難しいからなあ。『雪山組』も模索中だって言っていたし。
二泊三日の迷宮泊は使える時間という意味で、二日目こそが稼ぎ時だ。
これは俺の想像だけど、マクターナさんはこの状況を予測してこの区画を『一年一組』に推薦してきたんじゃないかな。
「よおし交代だ。雪乃、三体やりな」
「ウン」
すぐ近くで笹見さんと深山さんの声がする。
丸太に短剣を突き立てている委員長たちを他所に、後衛では二つの寸胴鍋を使ってトウモロコシとジャガイモの煮込みが行われている最中だ。
すっかり笹見さんが仕切ってくれているので、最早俺が口出しすることはない。
寸胴を囲む四人を比較するとパワーでは笹見さんがダントツトップで、自身に【身体補強】が使える奉谷さんが続く。深山さんと上杉さんはほぼ同格。もちろん奉谷さんは全員に【魔力譲渡】込みの【身体補強】を使っている。
対して手際という点なら料理人の上杉さんと冷徹なる深山さんが上だ。というか、深山さんが一番かも。
温泉旅館の娘である笹見さんだが、こっちに飛ばされてからはともかく、山士幌では調理場に立っていなかったらしい。
恋愛脳な古韮からの情報によると若手の板前お兄さんと……。それはまあいいか。
ともあれそんな笹見さんは、各人の技量を把握して煮込みの段階ごとにトドメ担当を指名していく。トウモロコシとジャガイモの硬さの違いも含めて、堂々たる鍋奉行っぷりだ。
四人の女子が鍋を囲み神剣を受け渡しながら突き刺す光景は、一種の儀式のようにも見える。怖いなあ。
『飛び立て~、戦士よ~、蒼い空が君たちを待っている~』
丸太と鍋と関係ない歌詞だけど、白石さんはメモ帳を手に【奮戦歌唱】を歌っている。【音術】を使ったドラム音を響かせながら。
最近の迷宮では魔力タンクと記録係がメイン業務だった彼女だが、レベリングを遠慮した代わりに技能の熟練上げに注力することにしたらしい。
今回の迷宮泊で前衛に十三階位が増え、トウモロコシを筆頭とした毒を持つ魔獣への対応に慣れてきたこともあり、後衛魔力タンクには余裕ができるようになってきた。前衛魔力タンクの藤永はそうでもないけどな。
ならば技能をぶん回すのが俺たちだ。
白石さんだけでなく、怪我人の治療は上杉さんがほぼ専属で行い、奉谷さんは【身体補強】を積極的に使う。
深山さんは【冷術】だけでなく、【冷徹】と【鋭刃】をフル稼働だ。実際に『刺す』という行為を伴わなければ熟練はあんまり稼げないのだが、それでも深山さんには余念がない。
彼女はどこへ向かっているのだろう。
◇◇◇
「ふう。終わったよ」
「ちょうどこっちも終いだねえ」
三体の丸太にトドメを刺し終えた委員長と、芋煮会の完遂を告げる笹見さんの声が被る。
丸太を相手取っていた委員長は頬っぺたに擦り傷を作り、動きからして左の肘を痛めているな……。で、すぐに治った。自己【聖術】は【魔力浸透】を持たない委員長でも効きがいい。
アニメとかでも自己修復機能を持つキャラの描写をよく見かけるが、慣れたとはいえ怖い光景だ。
「結局誰も上がらずか」
「後衛組と委員長はまだまだかな。先生と海藤くんはそろそろだと思うけど」
肩を竦める古韮に、革鎧を殴りつけるようなドスンドスンって音を立てながら白石さんが答える。一部のクラスメイトは苦笑いだな。
白石さんとしてはレベリング対象外に志願した以上、熟練を稼いでるっていうアピールか。普段の彼女はここまでしない。
「いい感じの音だよね。リアリティがさ」
「『りありてぃ』とは『りある』の類語ですわね」
「あ、はい」
自然体で白石さんを褒める野来のセリフ内容にティアさんが食いついた。戦闘でも日本語でも、悪役令嬢は貪欲である。
「ほれ、とっとと素材を回収するぞ。時間に余裕があるってサボってる場合じゃねえ」
ガラの悪い声で佩丘が作業を急がせるが、言っていることはアイツらしく真っ当だ。
俺たちは少しでも強くなって、地上に戻らなければいけないのだから。
次回の投稿は明後日(2025/12/31)を予定しています。




