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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第600話 確定に至る経緯



「出元は今朝方パス・アラウドから届いた続報だ」


 自分の手柄ではないと、妹さんたるリーサリット女王を暗に持ち上げたベルサリア様は自慢げに語る。


「ペルメッダに潜伏していると思われる『ソド・ラ……』、言いにくいな。『六本の尾』は教会直属の、いわば特殊部隊らしい。名の通り、部隊は六つ。今回確認されたのはその五番だそうだ」


「特殊部隊……」


 立て続けに出てきたときめく単語を聞いて、思わずといった風にイケメンオタな古韮(ふるにら)が声をこぼす。


 微妙にアガった声色だったものだから、厳しい視線が周囲から送り込まれるのは当然だ。ヤンキー佩丘(はきおか)と風紀委員な中宮(なかみや)さんがとくにヤバい。

 綿原(わたはら)さんも威嚇するようにサメを泳がせているし。


 明日は我が身だな。俺も気を付けなければ。


「戦闘能力は言うまでもなく精強の部類だが、むしろ特筆すべきは『扇動』とのことだ」


 そんなクラス内部の葛藤を他所に、ベルサリア様は説明を続ける。


 ここまでの話を総合すれば、十から二十人の特殊な聖法国人たちがペルマ=タに潜伏していて、どうやら俺たちの身柄を狙っているということだ。

 現地で工作員を増やそうとしているというのも、ベルサリア様の言う扇動という用語とマッチしているのだろうか。そこはちょっとよくわからない。



「われは聖法国に疎くてな。存在自体、今日になって初めて知ったわ。リーサリットもよくぞ調べてあったものよ」


「我も初めて耳にした。名前などはどうでもよいが、アウローニヤに情報料を支払わんとな」


 片やキーが高目のロリボイスで、もう片方はドスの利いた低い声だが、口調は似通っているという我々コンビが仲良くほぼ同時に鼻を鳴らす。それが妙にユーモラスで──。


「ぷふっ」


 小さく吹き出す声が広間に響いた。


「ああ、ごめんって。えっと~。で、ベルサリア様、アウローニヤの女王様はどうやってその情報を手に入れたのかなぁ」


 失態を犯したのはチャラ子な(ひき)さん。

 らしくもなく表情を引きつらせた彼女は、さっき古韮が食らった以上の冷たい視線を浴びせかけられ、慌てて話題を逸らしにいく。


 これは危ない。笑っちゃいけないシリーズみたいになってきた。実際俺も今、ちょっと口の端が歪んだ自覚があるし。

 ベルサリア様は外見と口調のギャップが酷いから、ふとしたセリフがそのまま爆弾と化しているのだ。しかも侯王様とのコンビネーションで効果が上がっている。


 とんでもなくシリアスな話題なのに、何でこんなことになっているんだろう。

 こんなことで【冷徹】を取るなんていうアホな真似だけはしたくないぞ、俺は。


 現状で危険なのは俺と疋さんと古韮、敢えて加えるならば気さくでノリのいい海藤(かいとう)辺りだ。意外なところではミリオタな馬那(まな)が『特殊部隊』って単語で表情を揺らしていたが、無口なアイツは声にはしない。


 オタ仲間の野来(のき)白石(しらいし)さんは取り繕えている。妙なところで精神が強いな。

 普段は明るいロリっ娘な奉谷(ほうたに)さんは真面目顔だし、(はる)さんと夏樹(なつき)は双子らしく揃って首を傾げるだけだ。ミアも含めてあんまりわかっていないんだろうなあ。

 オタを理解してくれる側の滝沢(たきざわ)先生はコトが俺たちの安全に関わっているだけに、【冷徹】を使わずとも真剣な表情のまま。


 そしてティアさんは不敵な笑みで、メーラさんはもちろん無表情。


 ああもう、不謹慎なのはわかっている。わかっているのだけど、アウェイ感が凄い。



「さて、ある程度以上の数の人間を目立たぬように移動させるとして、どのような形態が望ましい?」


 俺が葛藤する中、妹さんの活躍を聞きたいと言われたベルサリア様は、ニタリと笑って語り出す。初手は質問からだった。


「軍か冒険者、隊商とその護衛、でしょうか」


「然りだ。今回は国境越え故、軍は無理筋となるな。冒険者についてはまあ……、アウローニヤの東部ではまだまだ見かけぬ」


 小さく手を上げ答えたのは歴女な上杉(うえすぎ)さんだった。いつもの微笑みを引っ込め、酷く真面目な表情となっている。

 対して正解という判定を下したベルサリア様はいい笑顔のまま。


 聖法国の人間がアウローニヤを通ってペルメッダに入りたいとして、軍に扮するのは問題外だ。普通に侵略行為になる。

 かといって冒険者というのもマズい。侯国や帝国、そして魔王国ですら当たり前に活動している冒険者だが、アウローニヤでは未だレアな存在だ。

 女王様とゲイヘン軍務卿代理によって冒険者の『強制動員』は有名無実な制度と化しているが、身内同士ですら喧嘩をするようなガラの悪い東方軍の下っ端が絡んでくるかもしれない。冒険者にとってアウローニヤが安全になりそうだということが広まったかといえば、それもまだまだ。


「分散させて密入国という手もあるが、確実性に欠けると付け加えておこう」


 ここで侯王様が解説サポートに入った。


「アウローニヤは以前より政情に不安があったが故に、国境の警備は厚い。仮に捕らえたとして『六本の尾』とやらは口を割らぬだろうが、違和感は隠せぬものだ。ペルメッダは流民に慣れているのでな」


 そんなアウローニヤからの流民をちゃっかり受け入れているくせに、侯王様はそこには触れない。当たり前だな。


 とはいえなるほど、山越えでアウローニヤからペルメッダに入るのは悪手になるのか。

 だったら商人に化けて正面から堂々とっていうのが一番だ。



「リーサリットの判断ではあるが、聖法国が最短で動いたとしての仮定で、戴冠式から十五日を目途とした」


 説明を続けるベルサリア様の言葉に、医者志望な田村(たむら)を筆頭にした計算が得意なクラスメイトたちが理解の色を示す。


 シシルノ教授やアヴェステラ先生から教わった地理講座では確か……、アウローニヤの王都パス・アラウドから聖法国の聖都とやらまでは陸路で六日から七日だったかな。帝国がやって来るまではパース大河が使えていたからもっと早かったとか。


 戴冠式に参加していた聖法国の大使は間違いなく驚愕していた。勇者が出奔する、というよりアウローニヤが手放すなんて想像の埒外だったのだろう。最強の後ろ盾だからな。

 大至急本国に通報したとして、往復だけで十二から十四日。途中で意思決定や準備の時間も必要だから、プラスして十五日ってことか。これでも随分短く見積もったように感じるのは、それだけ女王様が真剣だということだ。


「時間を遡り、それ以降の期間にペルメッダとの取引を行った、もっと言えば隊商を送り出した商会に対し強制捜査を行ったらしい。聖法国が来訪したその夜にだ」


「大丈夫なんですか? それに女王陛下のお立場だって……」


 妹さんの凶行を目を輝かせて楽しそうに語るベルサリア様に委員長がツッコミを入れる。


 委員長が言っているのは、法律的にっていうのと女王様の評判がどうなるかってことだ。

 いくらアウローニヤが強権を発動できる『王国』だからといって、強引すぎるのはクーデターで玉座を奪った女王様の体面によろしくないんじゃ。


「それだけ本気だということであろうな。書面には書かれておらなかったがリーサリットのことだ、白であればそれなりの褒美を与えるくらいはやってのける」


 対して女王様への信頼が厚いベルサリア様はポジティブだ。確かにまあ、あの女王様なら落としどころは作るか。

 それにしても女王様、その日のうちに動いたのか。


「なんでも国軍を使わず、近衛騎士と『緑風』を送り込んだらしい」


「うわあ」


「凄ぇ」


 続けて知らされた強制捜査の参加部隊に、クラスメイトたちからざわめきが起きた。迷宮戦隊までつぎ込んだのかよ。


 基本的に近衛騎士は王城の警護が仕事だから、城下町で見かけることは少ない。ヒルロッドさんなんかは通いだけど、退勤する時は平民と同じ格好だ。

 ましてや迷宮特務戦隊の『緑風』なんて、強制捜査に使うような戦力じゃない。商人たちはさぞや驚いたことだろう。


「リーサリットとミルーマは王城に残り聖法国使節団との晩餐会に臨んだが、イトルとフェンタ、ラルドールが活躍したようだな。そうそう、ミームスの名もあったか」


「うおお」


「燃えるな」


 ニヤつきながら参加メンバーを伝えてくるベルサリア様に乗せられて、今度こそ仲間たちから歓声が上がる。


 ああ、想像ができてしまう。

 近衛騎士総長代理なのにキャルシヤさんは先陣を切りそうだし、ガラリエさんも燃えていたんじゃないかな。文官なアヴェステラさんは女王様の名代なんて肩書で商人たちに迫ったはずだ。

 教導騎士団だから出る理由はないはずのヒルロッドさんまでもが……。


 危機にさらされている俺たちだけど、女王様の取った行動はいちいちこちらに勇気を分け与えてくれているかのようだ。

 凄いよな。たった一度の報告で、これだけ励まされるなんて。



「結果、西方に所以のある商会から聖法国絡みの機密書類が発見された。『緑風』の副隊長が目敏く隠し場所を見抜いたらしい」


「いやはや、アウローニヤは人材豊富で羨ましいことだ」


 さらっとベスティさんの特技をバラしたベルサリア様だけど、侯王様はそれに合わせて豪放に笑う。敢えて口を挟むことで理解を示したって感じかな。

 戴冠式で堂々と公表されたことから『緑風』の基本的な組織図はペルメッダの上層部でも知れ渡っているし、ちょっとしたネタの提供でしかない。


『緑風』の副隊長にして術師統括のベスティさんは、軍出身で女王様の隠密もやっていた。もしかしたら今でも兼任かもしれないけれど、書類を見つけていい笑顔のお姉さんが目に浮かぶようだ。


「やったな、ベスティさん」


 ちょくちょくイジられていた海藤なんかは小さくガッツポーズを取っている。良かったな。


「行動予定や手段などまでは不明だが、それでもそこに存在していたという足跡は見つかった。『六本の尾』の迂闊というよりは、商人の不手際と未練であろう。保険のつもりであったかもしれぬ」


 結果としてアウローニヤの王都に『六本の尾』とやらがいたことは確定した。

 だったらそこからは難しくない。


「かの隊商は、パス・アラウドを出立してから、何故かザルカットで人数を増やしつつアウローニヤを出国した。こちらはフェンタ領の記録で確認できている」


 うん、密入国でなく正門を使うなら、ベルサリア様の話す通りになる。

 個人としては偽造した証明書でも使ったのだろうけど、大本となる商会の名が知れてしまえば隠すことはできない。かといって存在していない商会を『今の』フェンタ領が通すわけがないのだ。

 強制捜査で機密書類が見つかったなんていう前提がなければ、別の商会を騙る必要もないのだし。


 王都で頑張ってくれたガラリエさんと、領地でちゃんと仕事をしてくれているフェンタ子爵。親娘のタッグで信用できる情報をもたらしてくれたのが、なんだか妙に嬉しい。

 これからもフェンタ領は贔屓にしないとだな。



「さて、ここからは我だな。(くだん)の隊商が入国した記録はウィルが確認した」


 国境を越えたところでベルサリア様から話を引き継いだ侯王様が息子さんの手柄を持ち出した。

 片や妹、もう一方は息子さんか。見た目はかけ離れているのに、共通点の多いお二人だ。


「アウローニヤ出国とペルメッダ入国では人数が一致しているが、ペルマ=タの内市街に入った時点で人が五名、荷車が一台減っていた。これは珍しいことではない」


 侯王様は淡々と事実を並べていく。


 ペルメッダの首都、ペルマ=タは街門が外市街と内市街を隔てているが、外市街はノーチェックだ。

 そして外市街でも商売は大々的に行われている。アウローニヤから来た隊商が二手にわかれ、外と内で商売をすることに不自然さはない。


 だけどその商人が黒だという前提があるとしたら──。


「疑ってかかれば……、貴様らならば意味はわかるな?」


「連絡役か……、運び屋」


「であろうな。ペルマ=タの街壁には、残念ながら抜け道が複数存在している。埋めては掘られるの繰り返しだ」


 侯王様の問いに言葉短く答えたのは馬那だった。相手が健全な商人でないと仮定すれば、そういう答えにたどり着いてしまう。


 俺たちは正規ルートとなる大きな街門から内市街に出入りしているが、どうやら抜け穴らしきものが複数存在しているらしい。

 つまり一年一組の全員、もしくは誰かを捕らえることができたなら、逃げ切ることは絶対に不可能ではないということだ。城からの脱出は困難だとしても、内市街の片隅とかであれば。


「さて、日時についてだが、奴らがペルマ=タに入ったのは十一日前。そして聖法国使節団がアウローニヤの『水の城』に登ったのがそこから五日後ということになる。アウローニヤからの出国直前に伝令でも走らせたのであろう。時間という状況証拠は固まっている」


 時間的整合性を侯王様が語る。なるほど、腹立たしいことに辻褄の合う話ではあるのか。


「奴らめは、先触れの翌日に登城したと聞いておる。無礼千万だな。アウローニヤも舐められたものだ」


 そしてベルサリア様はお怒りのご様子だ。


 国としての常識には疎いが、滅茶苦茶忙しいであろうアウローニヤの女王様との謁見申し込みが前日だったというのは、確かになあ。勇者を『放逐』したことへの抗議という建前を使ったと想像してしまうと、どうにも女王様に申し訳なさを感じてしまう。


 俺たちは腕を組んでベルサリア様に同意している侯王様に到着早々どころか、初日に待ち伏せされていたのだけど、その件はこの際置いておこう。



「あの、それくらいの大きさの隊商が十日以上もペルマ=タに留まるっていうのは、どうなんですか?」


 風呂上り以来サメを白に切り替えた綿原さんが別の視点からの疑問を投げ掛けた。


「商いはやっていたようだ。持ち込みは葡萄酒が主体だな。樽ではなく、わざわざ瓶で小口に売りさばき、細かく銅を仕入れているようだ」


「そこまで調べがついているんですね」


「この手のことをやらせると、ウィルは有能であるからな。だが商売も三日前を最後に途絶えた。ペルマ=タから出た形跡もない」


「真っ黒ですね……」


 すらすらと返ってきた答えに綿原さんが感心してから、表情を暗くする。

 敵がアウローニヤから急報が飛んでくることまで想定しているってことだからなあ。


「領地の特産が隠れ蓑に使われたのは、面白くはないがな」


「まあまあ」


 ラハイド領の特産品であるワインがダミーに使われたことが、ベルサリア様には面白くないらしい。隣のラハイド侯爵がすかさず宥めにかかる。


 俺たちがアラウド迷宮で『珪砂部屋』を発見してからこちら、アウローニヤの王都ではガラス製品の製造に力を入れるようになった。珪砂はアウローニヤ南部のバスラ迷宮の特産で、宰相であったバルトロア侯爵の資金源のひとつということもあり、女王様はそれを崩しに掛かっているのだ。


 そういう経緯もあって、ラハイドのワインを王都で瓶詰めにして輸出品にするっていう流れは、ペルメッダで銅と交換するのと合わせて自然ってことになる。

 全く持って、用意周到なことだ。


 まあ、バレてしまった今なら、お仕事お疲れ様でしたと皮肉も言えるか。


 同時に俺たちが行動を変えたことで、向こうにもこちらの警戒が伝わる可能性が高いが、それについては話し合った結果だ。

『一年一組』は三日を使って更なる力を手に入れる方向で、全員が意思を統一している。



「ですが、ここまでのお話では、『六本の尾』の目的が拉致とは確定しないんじゃ」


 これまた別角度な委員長の質問に、本日初めて侯王様が明確に表情を暗くした。

 王妃様とラハイド侯爵は神妙そうにしているけれど、ベルサリア様はさっきまでの怒りを引っ込め、能面みたいな無となった。どういうことだ?


「われとは無関係であるからの」


 ただ一人だけ雰囲気の違うベルサリア様は俺たちの視線を感じ取り、嘲るように言い切った。


「聖法国の手の者がペルマ=タで協力者を募るとして、どのような人間に声を掛けると思う?」


 対してため息をひとつ吐いた侯王様が、俺たちに問いを投げてくる。


「ある程度の荒事ができるか、職や立場があって……、金に困っている人、でしょうか」


「その通りだな。その若さでとは、最早言うまい」


 それにすぐさま回答してみせた委員長は、侯王様から合格点をいただいたらしい。大したものだよ、本当に。


「もうひとつ加えよう。拉致すべき対象者に『思うところ』がある人間だ。むしろこちらの方が『信用』できるくらいかもしれん」


 苦い表情で意味深な物言いをする侯王様だけど、それって俺たちがどこかで恨みを買っているってことか?


 いやいや、俺たちは極力善良な冒険者をしているし、諍いだって和解に至っている。

 あ、もしかしたらウチの羽振りの良さを妬まれた、とかもありえるのか。



「まさかとは思いますが……、ユイルド・ニューサルさん、ですか?」


「えっ!?」


「おいおい」


「冗談だろ?」


 委員長の口から出た人名に、クラスメイトたちが騒然となった。

 ティアさんに至っては剣呑な顔つきで目を細めている。もしここにニューサル当人がいたら、即ブチのめしそうな雰囲気だ。


「……そうだ。この件にユイルド・ニューサルが関与してしまっている。日中、子爵から報告を受けた」


「子爵って、ニューサル子爵がですか?」


「ああ。残念なことであるな」


 委員長の問いに明確な情報の出所を述べた侯王様は、深く息を吐いて迷宮の天井を見上げた。


 人名がややこしいが、ニューサル子爵はティアさんとの決闘騒ぎを起こしたユイルド・ニューサルの父親だ。俺たちは面識を持たないが、『ニューサル組』のハルス組長代理や、侯王様、そしてウィル様曰く、信用できる人物らしい。

 そんな人が息子の悪だくみを侯王様にチクったってことかよ。


 ニューサルが南部の山岳警備隊に送り込まれるという沙汰をハルス組長代理から聞かされたのが四日前。

 あのバカは何してくれてるんだよ。俺たちに恨みでも……、あるからこうなったのか。



「どうやらユイルドが『やさぐれて』いたところにつけ込まれたらしい──」


 らしくもなく声を掠れ気味にした侯王様が状況を説明し始めた。


 六日前にティアさんと決闘し、そして敗れたニューサルは荒れていたらしい。

 組長としての面子を損ない、冒険者も引退。いつかは五層で戦うような栄達を夢見ていたニューサルは目標を失った。経緯を無視すれば同情の余地は無くもない。


 多くの冒険者が目撃したあの決闘は、面白おかしくペルマ=タに広まった。

 そんなわかりやすい情報が、すでにペルマ=タに潜伏していた聖法国の刺客の耳にも入り、そして奴らは『一年一組』に意趣返しをしないかとニューサルに持ち掛けたのだ。もちろん直接ではなく、すでに取り込んでいたペルメッダの不良兵士を経由して。


 で、ニューサル子爵が不審な行動をする息子を詰問したら、荒事の準備中だとゲロったのだとか。

 子爵は息子を縛り付け、ダッシュで侯王様に報告に走ったのが今日の昼過ぎだったらしい。


 なるほど、たしかにこれは『醜聞』だ。ニューサル子爵は守護騎士の重鎮。そんな人の息子が『二度目』となるやらかしか。アウローニヤ側はさておき、侯王様が護衛の守護騎士を遠ざけるわけだ。

 そして侯王様がこんな時間まで俺たちを待っていたのも頷ける。なんだかんだでこの人は筋を通すからなあ。



「声を掛けられたのが三日前で、翌日には壁越しではあるが本命と対話をしたようだ」


「二重スパイ……、情報を得るためにニューサルさんが演技をしていたというのは、どうでしょう」


「あると思うか?」


「……いえ」


 縋りつくかのような委員長の確認は、侯王様の一声ですげなくかき消された。

 あのニューサルにそんなマネができるとは思えない。彼を知るこの場の誰もが異論を挟むようなコトを言えずに黙り込む。


 だがこれは、受け止めようによってはこちらにとって有益な情報だ。


「子爵からの聞き取りだけではなく、捕縛したユイルド当人をウィルが尋問していたはずだが、さて、どうなっただろうな」


 ため息とも感じられるような声色で、侯王様は再び天井を見る。


 侯王様たちは情報伝達のために迷宮だから、地上ではウィル様が大活躍中ってことか。スメスタ大使も動いてくれているんだろうなあ。


「重要な点はユイルドや子爵家の今後ではない。痴れ者との対話でユイルドが問うたらしいのだ、痛めつけてもいいのか、と」


「それ、は」


 切り替えるように首を横に振った侯王様が核心に迫る。相槌を入れる委員長の声は明確に掠れていた。


「いたずらに勇者を傷付けることはあってはならない、だそうだ。『教会の人間であるかのように』終始穏やかだった相手が、その時だけは声を荒げたらしい」


「……だから聖法国の狙いは殺傷ではなく、拉致だと」


「それこそ演技の可能性もあるが、これから引き入れようとしていたユイルドに仕掛けることではないな」


 侯王様の言葉にほっと息を吐く委員長に同調するように、クラスメイトたちの肩から力が抜けていく。


 面倒事に違いは無いし、信用するには薄い情報源だとしても、刃傷沙汰ではないだけまだマシだ。


「むしろ情報提供者ですね。アウローニヤとは別口で敵対者の存在を暴いてくれたんですから」


 半笑いになった委員長だけど、それは失言かもしれないぞ?


 俺の視界にはリーサリット女王の手柄を誇りたいベルサリア様が、ちょっと面白くなさそうにしているのが映っているんだ。



 次回の投稿は明後日(2025/12/25)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
 親父さんが躍起になるのも分かるわぁ。  既に侯王の娘に粗相した後で、さらに逆恨みで国賓に手を出そうってんだから、ソレが成功しちゃったら爵位取り上げで御家断絶ですわ。  1人の 馬 鹿 に振り回されて…
やっぱりニューサルくんか~~~……反省してればいいものを……。読者的な意味での同情も買えないなあ、もう( それにしてもリーサリット女王、本当に有能で動きが早い。やっぱり女王様は最高だぜ。
やっぱりニューサルがやっちゃったか…しかもまだ任地へ向かう前に
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