第598話 予想外の待ち伏せ
「ミアの十三階位は良かったけど、そこから誰も上がらなかったなあ」
「まあまあ、明日と明後日で増えるだろうさね」
「明日なんて朝から晩までだもんねっ!」
「素材、結構捨てることになるんだろうなあ」
「メーラ、明日には十三階位におなりなさいな」
「励みます」
迷宮三層にクラスメイトたちの声が響く。
ティアさんの言については放っておこう。精神的な主従関係に口を挟んでもいいことはない。
時刻は夜の九時を過ぎているが、俺たちは意気揚々としたものだ。
顔こそ水で洗ったものの、ほぼ全員が革鎧を魔獣の血で汚している。今更それを不快だとも思わなくなってきているのは、高校生としてどうなんだろうなあ。
「結構お部屋、残しちゃったね」
「予定通りだから仕方ないさ。そこは時間に余裕があったら見てくる程度だったし」
指で地図をチマチマとなぞるロリっ娘な奉谷さんに、俺はなんてことはないという風に首を振って笑った。
マクターナさんから『依頼』された魔力量計測は半ば建前であるし、俺たちの調査範囲は八割を超えている。
聞いたところでは組合による調査だって平均で八割を切るくらいらしい。何しろペルマ迷宮の四層は絶賛魔獣が増加中だ。元々冒険者たちの安全と今後の予測のために行っていることなのに、調査隊が損耗したらお話にもならない。
「むしろマクターナさんなら褒めてくれると思うよ」
「そうだよね。明日と明後日も頑張ればいいんだし」
敢えて軽い調子で励ませば、奉谷さんはふんすと可愛く気合を入れた。
「夜メシはどうすんだ?」
「カニが多かったからな。そっちメインだ。肉は牛だな」
「カニパーティだね」
「トウモロコシが食べられないのがなあ」
俺と奉谷さんがワリと真面目な会話をしているのを他所に、仲間たちは食事の算段だ。
俺としては温かいカニ汁がいいかな。
できれば追加でジャガイモ関連が一品あれば──。
「あれ? 人がいる」
メガネ忍者な草間の声を受け、全員がピタリとその場で停止した。
「九時過ぎだぞ、おい」
「遭難した冒険者?」
「ここで遭難はムリだよ」
「全員が怪我して動けないとかじゃ」
クラスメイトたちが声を潜めて可能性を語り合う。
俺たちが歩いているのは二層と四層を繋ぐ、三層のメインルートだ。
数多くの冒険者が通るため、ついでみたいに魔獣も殲滅しているから危険も少ない。迷宮に吸われてしまうから道案内の目印こそないが、ベテラン冒険者なら広間ごとの特徴まで暗記しているくらいにはメジャーな場所なんだ。
そんな区画付近に遭難者なんているはずもない。
俺たちに向けられた刺客なんていう剣呑な存在以外の可能性があるとしたら……、二層からの転落者か?
ちなみにだがこの辺りは狩場として予約することはできない。『ここは俺たちの縄張りだ。先に行きたければ倒してからにするんだな』ごっこは組合ルールで封じられている。
「草間、人数は?」
「二十……、いや、十九人、かな」
「転落は、無いか」
草間の返答に、俺は諦めのため息を吐く。
そんな大量の転落者なんてあり得ないし、とっとと地上に戻っていなければ理屈が通らない。
ならば最悪を考えるしかないだろう。
相手はこちらより人数が少ないようだが、高階位が混じっていたらどうなるか……。
「それがさ、居座ってるのって……、泊まる予定の部屋だよ」
「待ち伏せかよ。どっから情報漏れたんだか」
続いた草間の報告を聞き、小太りな田村が吐き捨てた。
本日の宿泊部屋は主街道に隣接していて、ここからならば二部屋程先だ。草間の探知ギリギリだな。よくぞ気付いてくれた。
冒険者たちが完全に引き上げるだろう時間帯はとっくに過ぎている。そんなタイミングでピンポイントとか、真っ黒過ぎるだろ。
つまりは聖法国関連の可能性だ。【剛力】を取得したミアが正しかったってことか。
「ごめんっ」
奉谷さんが持っていたマップを奪い取り、俺は迂回ルートを選定する。
こんなの退避の一択だ。素材を全て捨ててでも、とにかく急いで地上に戻るしかない。
「来た! 一人! え? 速い!?」
草間の叫びは、俺たちの中で足の遅い部類のメンバーが逃げきれない速度だと暗に伝えている。高階位の前衛職が向かってきているのだ。
畜生め。こっちが相手に気付いたんだ。あちらに斥候職がいるならこうもなるか。
「対応っ!」
俺の声に応えた連中が担いでいた丸太を床に転がす音が、妙に乾いているように感じる。
同時にそれをかき消すかのように、重たく、そして小刻みな足音が大きくなってきた。ヤバい。確かにこれは速すぎるぞ。クラス最速の春さんから走り方を習っているウチの前衛レベルだ。
こういう類の緊急事態対応としてあらかじめ決めていた通り、クラス最強の武を誇る滝沢先生と中宮さんが盾の列を作る騎士たちのあいだに滑り込む。
対人戦では凶悪な戦力となる【騒術師】の白石さんも丸いメガネを扉に向けて、いつでも【音術】が使えるように構えを取った。
時間的に万全な配置はムリだけど、ミアが弓に矢をつがえ、海藤も槍を構える。石とサメ、水球が宙に浮かんだ。
たとえ相手がどれだけ高レベルであろうとも、敵が一人ならば十分に迎撃できるはず……。
何故一人なんだ?
「深山さん」
「ウン」
俺の言葉を待つまでもなく、【冷徹】をまとった深山さんは扉の付近に水を撒き終え、すでに凍らせる直前だ。これなら間に合う。
だが、扉を潜り抜けて現れた人影はあっさりと『氷床』を見抜き、巨大な踏み込みの音と共に跳躍した。
「うおっ!?」
古韮たち前衛の驚く声が響くが、ごく一部のメンバーだけは反応する。
先生と中宮さんが着地点に向かって走り出し、メーラさんはティアさんの前に出て盾を構えた。
そしてミアは、躊躇なく弓を引き絞る。
「ミア! 撃つな! 攻撃中止!」
「おおっと、そこまでにしてくれ」
俺の叫びとほぼ同じタイミングで陣形の中央付近に着地したその人は、暗い赤色の豪華な革鎧を身にまとった大柄なおじさんだった。
「侯王陛下……」
「如何にもだ。逃げる前に迎えにきてやったぞ」
震え声の藍城委員長に対し、含みのある笑顔で答えたのはこの国のトップ、すなわち侯王様である。
こんなのどう考えたって待ち伏せだろ。
聖法国の刺客とかではないのは助かるが、何を考えているのやら。
◇◇◇
「全くもってお父様にも困ったもの……、ですわ!」
「うわははは、リン。中々に力強くなったではないか」
前方を行く侯王様の肩に、並んで歩くティアさんがパンチを叩き込む。微笑ましい親子のスキンシップだが、物騒な音がしていたぞ。
侯王様は娘さんがパワーアップしたことがそんなに喜ばしいのだろうか。
ティアさんは元から気性がお淑やかさとは全くの逆方向なのに、そこに武力が上乗せされ続けているというのは……。ここは階位システム前提の世界な上にペルメッダは武を貴ぶともいうし、アリなのかな。
ちなみに侯王様の革鎧には肘の辺りに目立たないようにして『黒い線』が描かれている。ウィル様の言うところの信用できる侯国サイドの人物である証だ。
誰も侯王様を疑ってなんていないのに、このお方のことだ、たぶんノリノリなんだろうなあ。
「驚くって何なのかしらね」
「さっきので腹いっぱいなんだけどなあ」
綿原さんは若干くたびれた声になっている。近くを泳ぐサメも、心なしか動きが悪い。
答える俺も似たような感じだ。
聖法国の件でピリついている『一年一組』に、あんな襲撃紛いのパフォーマンスをされたんたのだから精神的に疲れもする。
確かに二十人近くの人間が集団で迫ってきたら、こっちも問答無用で魔術攻撃を仕掛けていたかもしれないから、単独での登場は真っ当だ。
だけどさあ、勢いよく部屋に飛び込んでこなくても、手前で一声掛けてくれれば良かったと思うのだけど。
さておき、もしも侯王様が走って来なかったら、俺たちは速攻で迷宮泊を中断して地上にとんぼ返りをしていただろう。ついでに素材も投げ捨てていたはずだから、本日の稼ぎがパアになる。
そういうのをひっくるめて、派手だけど穏便な出迎えと……、言えなくもないか。
『まだまだ驚くことが待っておるぞ』
ついさっき、侯王様はそうのたまった。
その時見せた笑い方が娘さんと似ていたのもあって、俺などはなるほど親子なんだなあっていう感想になるわけだ。
「サプライズの内容は到着したらわかるとして、迷宮にいるのがわたしたちだけって知れただけでも気が楽になるわ」
「そっちはあんまり心配はしてなかったけど、それでもだよな」
綿原さんが小さく肩を竦め、俺はふっと息を吐く。
ついでみたいに教えてくれた侯王様からの情報だけど、さっき国軍からの伝令部隊がやってきて、本日の迷宮は店じまいしたことが確定したのだ。もちろん『信用』できる伝令さんだったらしい。
つまり現在ペルマ迷宮内に居座る人間は、俺たち『一年一組』と侯王様の一団だけということになる。
遭難とか刺客とか、いろんな意味で行方知れずの冒険者がいないという、実に喜ばしい状況だ。
「ウィル様が待ち受けてるんじゃないかな」
「どうだろうね。それじゃあんまり驚かないかも」
「そもそもこんな時間まで侯王様が迷宮にいるっておかしくないか?」
「迷宮が空っぽだって教えてくれるためだけっていうのは、違うよね」
「だから驚くことが待っているんだろ?」
仲間たちがワイワイとサプライズの予測をしているが、侯王様はネタバレをしてくれない。
侯王様を含めて二十五人となった面々が向かっている先は、本日の宿泊部屋である。地上の異変で緊急連絡が入る可能性もあったのでマクターナさんには伝えておいたが、侯王様が知ったのはその筋からなんだろう。
丸太を担ぎ、腰にトウモロコシやら牛の角をぶら下げ、肉やらジャガイモの入った革袋を背負った面々は迷宮を進む。
◇◇◇
「やあ、こんばんわ」
「全く、こんな時間までわれを待たせるとはな」
宿泊部屋で俺たちを待ち受けていたのはタヌキと合法ロリ、つまりはイスライド・キャス・ラハイド侯爵とベルサリア・ハィリ・レムト=ラハイド侯爵夫人であった。
加えてこの国の王妃、ジュニフェア様もいる。申し訳ないけど、フルネームは朧気なんだよなあ。
要は侯爵夫妻が二組ここにおわすわけだ。
何を考えているんだろう。ここが三層とはいえ、事故ったらどうする気だよ。国が二つ程傾きかねない面子なんだが。
護衛をしている人は斥候や【聖術師】を含めて十五人。半分がペルメッダの守護騎士で、もう半分がアウローニヤの国軍の人たちだ。友好国とはいえよくもまあって光景だな。
こういう場面で絶対に登場しそうなウィル様とスメスタさんがいないけど、地上で頑張ってくれているんだろう。
「こんなオチなんだ」
「どうしたヤヅ? われは貴様らがもっと驚く姿を期待していたのだが」
ぼやき交じりの俺の呟きにベルサリア様が目ざとくツッコミを入れてきた。
驚きよりも呆れが先だよ。
まあ奉谷さんとか夏樹とか、一部のクラスメイトは本気で驚いているみたいだから、それで良しとしてもらいたい。
「もちろんびっくりしてます。階位上げ、ですか」
「ほう。伊達に【観察者】はしておらんということか」
白々しく驚いた顔を作ってから真相に迫れば、ベルサリア様は得たりと悪い笑顔になった。ロリフェイスだけどな。
ラハイド侯爵夫妻はお揃いの紺色をした革鎧装備だ。ブーツのくるぶしには『緑の二本線』。
味方証明はさておき、お二人は現在迷宮にいるのだから鎧を着込んでいるのは理解できる。問題なのは魔獣の血で汚れているってとこだ。
そう、これだけの護衛を引き連れた二人が返り血を浴びているなんて、理由はひとつしかない。
この人たちはペルマ迷宮の三層でレベリングをしていたんだ。
羊やら青リンゴやらヘビやら、部屋の隅には三層の魔獣の素材が山積みなのも推測の材料だな。とてもじゃないが、こんなの推理などとは言えない。見たまんまだ。
さて、ベルサリア様は五階位の【誘術師】で、ラハイド侯爵は確か七階位の剣士職だったはずだが、結果は如何に。
ここで俺から口を開くのはたぶん間違いだ。だってベルサリア様が小柄な体を軽く揺らして自慢げに溜めているのだから。奉谷さんと並んでみてほしいという妄想で気を紛らわせて、お言葉を待つとしよう。
「われの階位を聞きたかろう?」
「はい。もちろんです」
溜めること数秒、ベルサリア様がニタっと笑いながら俺に声を掛けてくる。もちろんこちらの返事なんてひとつだけだ。
この人はなんで俺をロックオンしているのだろうか。ベルサリア様とのタイマンって圧があって俺には荷が重いんだ。
クラスメイトたちは目を逸らしたり、ニヤニヤとこっちの様子を窺っている。こういう風に安全が確保されている時は先生も助けてくれないんだよなあ。近くをサメが回遊しているが、本体は微妙にそっぽを向いているし。
ベルサリア様のお気に入りは海藤だったはずなのに、どうしてこうなった。
「七階位だ」
「……やりましたね。六階位だと思っていました」
「であろう?」
これにはさすがに驚いた。ベルサリア様のしたり顔がアレだけど、本気でびっくりだよ。
適正階層が二層である五階位のベルサリア様が三層で魔獣を倒せば、そりゃあレベリングも捗るだろう。
だがベルサリア様は後衛職の【誘術師】でトドメ力に劣る。羊はちょっと難しいはずだ。
「俺たちの目的地を知っていたってことは、潜ったのは夕方手前くらいからですよね。ヘビとリンゴを全部って感じですか」
「『勇者式』だったか? 流れ作業であったわ」
「なるほどですけど、その名前、止めませんか?」
「いやいや、我が妹、リーサリットを鍛えた手法だ。勇者の存在が箔にもなる」
あんまりなネーミングに俺は思わず素になってしまった。
確かにアウローニヤの女王様がまだ第三王女だった頃、ギリギリまで無力化したウサギにトドメを刺し続けてもらったことはあったけどさあ。生贄の儀式みたいに。
クーデター当日だったから急いでたんだよ。味方を増やすっていう目的もあったし。
「ご立派な振る舞いでしたよ」
「いやはや、十三階位の侯爵夫人にそう言っていただけると、増長してしまいそうだ」
王妃様に手際を褒められたベルサリア様は謙遜っぽいことを言いつつもまんざらでもなさそうだ。
魔獣の処理が上手な侯爵夫人やら女王様か。
この世界の人たちは迷宮があって当たり前の生活を送っている。アウローニヤの貴族たちは迷宮で魔獣を倒すことを汚らわしいと考える風潮があったが、ペルメッダの気風はそうではない。
王妃様が本気で感心しているように見える辺りが怖いよ。王妃様は十三階位の騎士職だからガチ系だし。
「僕も八階位だよ。女王陛下のお言葉には従うのは責務だからね」
「それは、おめでとうございます」
ラハイド侯爵が話し相手に選んだのは委員長だった。
「侯の剣も中々見事なものだったぞ」
「ははは。侯国最強に言われましても、お恥ずかしい限りですな」
あっちには侯王様もセットでついてくるわけか。委員長には同情するよ。
こっちはこっちでベルサリア様と王妃様の相手なんだけどな。
戴冠式のあの日、リーサリット女王は王国貴族たちにレベリングを求めた。
おもねる形で観衆の大多数がそれに賛同することになったのだが、誘導するためのサクラの中にはラハイド侯爵もいたのだっけ。
外交使節団なんていう大変な仕事の最中に階位上げとか、きっちり女王様ポイントを稼ぐじゃないか。
なんてことまで気が回るようになってしまった俺だけど、これもまた成長だと思うとしておこう。
「ペルメッダ侯家ご夫妻の力添え、しっかりと我が女王陛下にお伝えさせてもらいますぞ」
「なに、ペルメッダとアウローニヤの友好を深めるためと思えば、苦労の内には入らん」
ああ、こうしてペルメッダはアウローニヤに恩を売るのか。黒いなあ。
アウローニヤ流民の救済事業といい、この人たちはこんなことばっかりやっているのだろう。外交っていうのは大変だ。
「とりあえずは……、玲子」
「あいよ。碧、手伝ってくれるかい?」
「うん。いいよ」
俺と委員長が偉い人たちに絡まれているのを他所に、綿原さんは迷宮委員として動き出した。
綿原さんに声を掛けられたアネゴな笹見さんが荷物を降ろし、丸いメガネの白石さんを誘って奥に向かう。
俺が選んだ宿泊部屋は三層のメインルートに程近く、ある程度の広さがあって、そして風呂とトイレが完備されているという条件を整えている。
血で汚れたダブル侯爵家夫妻を見た綿原さんは、笹見さんに風呂の準備をお願いしたというわけだ。俺たちも血塗れだしな。
白石さんは魔力タンク役。ウチのクラスの【熱術】使いは笹見さんだけだから、急いで風呂を沸かすためにはこういう運用になってしまうのだ。
「お風呂と並行して食事の準備ね。美野里、佩丘くん、ミア、頼めるかしら」
「はい、喜んで」
「おう」
「承知しまシタ!」
綿原さんの指示は止まらない。続けて料理班と火起こしを指名していく。
「雪乃と藤永くんは食器洗いね。みんな、料理班と洗い物班を手伝ってあげて」
「ウン」
「っす」
さらには洗い物班が追加される。
俺もどっちかに参加したいと綿原さんに視線を送るも、彼女は無言で首を横に振った。
仲間内で一番偉いはずの滝沢名誉男爵はどうやら料理班に参加するみたいだ。ズルくないか?
「そこの素材も使って構わんぞ。よろしいかな、ラハイド侯」
「ええ。もちろんですとも」
動き出した『一年一組』の様子を見た侯王様が、ラハイド侯爵に同意を求めつつ食材を融通してくれる。
羊肉ゲットだな。ついでにヘビタンとデザートのリンゴも。
冒険者であればトドメを刺した者に全ての権利が委ねられるのだが、国軍はそうではない。
彼らの成果はレベルアップであって、素材はオマケ扱いなのだ。狩った部隊の共有財産扱いで分配するか、国が買い上げて換金することになっているらしい。
さて、食材の半分が持ち込みだからとはいえ、俺たちが風呂と料理でもてなす理由はこの人たちが偉いからってだけではない。
レベリングという名目があったとしても、こんな時間までっていうのはちょっと異常だ。俺たちに今夜の安心を伝えてくれるためという理由だけでは足りないだろう。
追加があるとしか思えないのだ。それも聖法国絡みである可能性が高いヤツが。
だからこそ綿原さんは侯王様かベルサリア様辺りから何かを言われる前に、風呂でさっぱりして食事としようと持っていった。
さしずめ情報量の前払いって感じかな。
「迷宮で風呂に食事ときたか」
「彼らの迷宮料理は美味なんですよ」
楽し気なベルサリア様に王妃様が『一年一組』をプッシュする。
「ははっ、期待していてください」
俺は乾いた笑いで肯定するだけだ。
頑張れ上杉さんと佩丘。君たちの料理に求められているラインがぎゅんぎゅん上がっているぞ。
俺は俺で偉い人たちの応対をやるからさ。
「ミア、わたくしも火起こしを手伝いますわ!」
「助かりマス!」
メーラさんを引き連れたティアさんは、親子の触れ合いよりもキャンプが楽しいようだ。
というか、ちゃんと冒険者をやっているってところを両親に見せたいのかな。
こうして迷宮泊初日の夜は、思わぬお客を迎えての食事会となった。
次回の投稿は三日後(2025/12/21)を予定しています。遅くなってしまい、申し訳ありません。




