第597話 今すぐに得ることのできる力を
「ワタシも風になる時が見えてきまシタ!」
「ハルと一緒だね」
「ついにひとりでトウモロコシ芸ができるようになりマス!」
「そこなの?」
アーチャーのミアとスプリンターな春さんによるなんとも緩い会話を他所に、俺は丸太の解体作業中である。そろそろ生えろよ、【鋭刃】。
『水滴組』が探索していなかった未踏破区画は、確かに魔獣とのエンカウントが多かった。『一年一組』的には好都合だったともいう。
この先にあるはずの魔力部屋にまだ到着していないのに、これまでの一時間で三度の戦闘があり、そしてミアが十三階位を達成した。俺が十二階位を達成したのもあって、前衛陣が遠慮なく白菜やトウモロコシを倒しまくった結果だ。
とはいえ夏樹が取得した【魔力受領】の検証から始まった一連の騒動を受け、ロリっ娘バッファーな奉谷さんや聖女な上杉さんのレベリングも急ぎたいという声もあり、隙があれば芋煮会は再開されることになっている。
「んふふぅ、ワタシもついにトップレベルデス。サーヴィさんにだって負けまセン」
「あの人、熟練の弓使いだよ?」
「たくさん練習して、直ぐに追いつきマス!」
で、さっきからミアは春さんと一緒に、こんなノリではしゃぎまくっているわけだ。
仲間たちは階位が上がれば多かれ少なかれ喜びを露わにするので、その際は暗黙の了解で解体作業が免除されている。春さんがミアの相手をしているが、子守り役みたいなものだ。
まあそれくらい十三階位というのは大きい意味を持つ。何しろ一般人の頂点だからな。ここから先は魔境の住人だ。
先程俺が十二階位になった時はこんなじゃなかったけど、十三階位で【身体操作】を取って大いに喜ぶとしよう。
「しっかしミアが【風術】か。似合ってるかもだけど」
「だな」
隣で丸太の枝を払っている古韮に俺も同意する。【疾弓士】なミアに【風術】というのは確かにしっくりくるのだ。
なんで十三階位になってから出現したのかっていうのは、今更考えても仕方がない。
ミアによる申告では【風術】ともうひとつ、【魔術強化】も生えたそうだが、これは魔術を候補にした人の定番なので驚きはない。
ちなみに【熱導師】の笹見さん、【氷術師】の深山さんも【風術】は候補に出ている。いつか温風と冷風が完備される日がくるかもしれないな。
空気振動で音を鳴らす【騒術師】の白石さんや、推測だが同じく空気を操って電流を作り出す【雷術師】の藤永に生えていないのは謎のままだ。
それはさておき、後衛職でも二人だけなのに、何故か前衛職では三人が【風術】を候補にし、しかも【嵐剣士】の春さんと【風騎士】の野来は取得までしてしまっている。
【風術】は高速移動の手段にもなるので、取っても損はない。
とくにミアみたいな運動センスに優れたキャラなら最適だ。さっき宣言していたように、単独でのトウモロコシ芸を実現してしまうだろう。
「そいで、ミアは【風術】取るの?」
相方となった春さんがミアに確認する声が聞こえてきた。
ミアは前回のレベルアップでコストの軽い【安眠】を取得している。前衛の中では比較的魔力に余裕があるはずの方だから、ここでの【風術】はアリだが、さてどうする気なのか。
「ワタシは【剛力】を取りマス」
「ちょっと待ってくれ、ミア」
「なんデス? 広志」
俺の声を聞きつけたミアが、シュバっと目の前にやって来た。【風術】なんて要らないんじゃないかっていうスピードだな。
「なにさ八津、【剛力】だとダメなの?」
春さんもセットで登場したか。
まあいい、ちょうど俺の作業も終わったところだ。
文句を付けるつもりはないが、ミアが【剛力】を選択した理由を聞いておきたい。何を目論んでいるか想像はできるが、それを実現するにしても何故【剛力】なのかが気になるんだ。
「【剛力】って、ミアは弓使いだろ?」
「あたぼうデス!」
大前提を確認する俺に対し、腕組み仁王立ちのミアは何を今更って風に頷いた。いつも通りのミアだよなあ。
ここでアーチャーとは何ぞやなんてのは口にしない。頭空っぽそうに見えるミアだが、弓道についてはセミプロということもあって、俺よりもずっと造詣が深いのだ。
矢というものは弓の張力で射出される。人間のパワーが上昇したところで、矢の威力は変わらないのだ。精々速射性能が上がるかもってくらいか。階位上昇によって強化される能力には視覚や聴覚、反応速度にも及ぶから、命中精度も上がるかもしれない。
それだけでもミアが十三階位になったのは、素直に喜ばしいことだろう。
だが【剛力】は純粋な筋力上昇効果しか持たないため、弓士としては意味が薄い。
繰り返しになるが、ミアだってそれくらいは承知しているはずだ。
「今の弓に苦労してないよな? 剛弓の方でも」
「もちろんデス。そのために試してから調整したんデス」
「だよな」
続けた問いにもミアは当たり前に頷く。
その横では春さんがハチガネの端を揺らしながら同じく首を縦に揺らしているが、こちらは果たして理解しているのかどうか。
俺が運搬係をやっているミアの剛弓は、一部に五層素材が使われた超高級品だ。共有財産である神剣を除けば、ウチのメンバーが固定で使っている装備の中でも一番お高いだろう。
故に購入に際しては、ミアが言ったように念入りに試射をし、カスタマイズを施した。実戦レベルで使えるようにだ。
事実ミアは俺では引くことすら困難な剛弓を見事に扱い、立派なアーチャーっぷりを見せつけている。
二層転落事故の時に緊急避難的だったとはいえ【上半身強化】なんて特異な技能を取っているのに、上乗せで【剛力】を取得したところで……。
「やっぱり接近戦か」
「デス!」
俺の持つ疑惑にミアは即答した。こういうところもまた実にミアらしいが、俺としてはどうも解せないのだ。
ミアは候補技能に【視野拡大】や【聴覚強化】を出している。なんなら【鉄拳】でもいい。もちろん【風術】だってアリだ。
挙げた中で【聴覚強化】だけは近接戦闘には向かないが、クラスの斥候力は確実に上がる。そんなことがわからないミアではないはずなんだが。
「力が必要なんデス」
「ミア?」
ありきたりなセリフにオタな野来や古韮が笑い出しそうになっているが、対峙している俺はそれどころじゃない。
表情こそ笑顔のままだが、ミアの瞳に剣呑な色が宿っているような気がしたからだ。彼女の体全体から噴き出す何かも感じる。これはそう……、圧こそ比べ物にならないくらい小さいものの、マクターナさんと同種のアレだ。
ミアの隣にいた春さんも気付いたのだろう、同調モードを引っ込めて、驚いた顔でミアの方に向き直っている。
「力が欲しいんデス。今すぐに……、デス」
同じことを繰り返したミアは俺から一度視線を外し、こちらの様子を窺う綿原さんとアネゴな笹見さんを見た。
そういうことかよ。
「聖法国、か」
「デス」
俺の言葉に、ついに真顔になったミアが答える。
ここに至り『一年一組』全員が俺とミアの会話に視線を集めた。
「広志と凪と玲子がいなくなって……。あんな思いは、二度とゴメンデス」
ヴァフターによる拉致事件を引き合いにして、ミアの口数が一気に増える。
「速さは春や孝則に任せマス。今すぐ【風術】を取っても、明日明後日で上達するかなんてわかりまセン!」
まくしたてるミアの迫力たるや、誰も口を挟む余地もない。周囲の面々はそれぞれの表情で聞き入るばかりだ。
「音を聞くのは凛や朝顔、それとティアに任せマス。敵を見つけるのは広志や壮太がやってくれますヨネ?」
「あ、ああ」
俺にぶつけられた言葉の重さに腰が引ける。クラスの目を気取ってはいても、こういう悲壮な覚悟を求められるのはキツい。
ミアは本気なのだ。彼女は他者に任せるという選択を心の底から当たり前だと思っている。
「だったらワタシは遠くを射抜いて、近付かれたら暴れマス!」
最後の最後でアバウトなコトを言い出すミアだが、確かにそれこそが目の前でわめきたてる翡翠色の瞳を持つ美少女の戦い方だ。
鼻に皺を作って獰猛な笑みを浮かべた彼女は、それでも奇麗なんだよな。
「それが一番近道だから……、デス」
「うん。ミアらしくって、それでいいんじゃないかな」
締めの言葉と同時に、春さんがミアの肩に手を乗せた。
小学生の頃に遭難騒ぎを起こしたミアと、それを聞きつけた春さんの取った行動については俺も聞かされている。
全員がそれなり以上に仲がいいっていう奇跡みたいな一年一組だけど、やっぱり親愛の度合いで距離も変わってくるものだ。俺の目の前でわかり合っている二人は、本当に親友同士ってヤツなんだろう。
「今回は【剛力】だけど、ガンガン階位を上げて【風術】も取りマス。【視野拡大】も【鉄拳】も【聴覚強化】も全部デス!」
「ははっ、その頃には十六とか十七階位だね。世界最強だよ」
ミアの豪語に春さんは明るく返す。まるでやって当然ってくらいのノリだな。
アーチャーとしてほぼ完成の領域にいるミアだけど、近接戦闘もできて、そのうち『白組』のサーヴィさんみたいに風の矢を使うようになってしまうのかもしれない。
いや、ミアならやってのけるんだろうなあ。
「ワタシだけじゃなく、みんなもデス。ティアとメーラさんも一緒にデス!」
「おほほほっ。意気や良し、ですわね!」
ちゃんと二人の名前を加えたミアのセリフにティアさんが上機嫌に笑う。
確かにそうだな。ミアだけが単独で強くなられても困る。俺たちは全員で乗り越えなければいけないのだから。
「まいった。ミアの勝ちだよ。妙な絡み方して悪かった」
「んふふぅ、ワタシはちゃんと考えて行動するタイプなんデス」
俺が完敗の言葉を贈ると、圧を抜いたミアがドヤ顔で返してきた。お調子者め。
情けないな。俺なんかは迷宮ならば安全だと思って先の長い魔力技能の検証で舞い上がっていたのに、ミアは短期間で手に入る強さを選択した。
しかもだ──。
「さっきもミアは貢献してたしな」
「説教セットはキツかったデス」
検証の方でもミアは余りよろしくない形ではあったが、ちゃんと貢献をしてくれた。
二つ前の戦闘で左手の小指に怪我、というか骨折をしたミアは、戦闘終了までそれを黙っていたのだ。
『鳴子、治してくだサイ。【魔力譲渡】でしたカ? それっぽいのを使いながらデス』
抜け抜けと言い放ったミアは見事に【聖術】と【魔力譲渡】のコンボを立証したのだが、もちろん滝沢先生と風紀委員の中宮さんからお小言を貰うことになった。
こちらの目を欺くくらい戦闘に支障をきたしていなかったのはさすがミアだが、俺のプライドはちょっと傷付いたんだぞ。
今後は絶対に見落としてなるものか。
ついでになるが【解毒】の方は簡単だった。
毒持ちの魔獣が出てきたら一体だけを残し、余裕のある状況で誰かが毒をもらい、奉谷さんが【魔力譲渡】を併用して即治療という手順で検証は済んでいる。
結果はこちらも効果あり。これにより魔力操作系技能は『接触』タイプの技能に影響を及ぼすという仮説が、俄然信憑性を持つことになった。
功労者として毒を食らう担当はティアさんやメーラさんを含めたジャンケントーナメントにより、綿原さんがその栄誉を勝ち取ったというのも付け加えておこう。ウチのクラスは、こういうところで男女差別が存在しないのだ。
俺が変わってあげたかったのだが、もしそれを口にすれば各方面から弾が飛んできそうだったので実行には移せなかった。意気地のない男でごめんよ、綿原さん。
トウモロコシから痛覚毒を食らい、目じりに涙を浮かべつつも無理やりモニョっと笑っていた彼女の姿を、俺はしばらく忘れることはないだろう。
「なんか勝手に盛り上がっちゃってゴメンね、ミア」
俺の隣にやってきた夏樹が、申し訳なさそうにしながらミアに謝る。それができる夏樹も偉いと、俺は思うぞ。
「さっきは難しいコトで夏樹が活躍してましたけど、ワタシはそっちがさっぱりデス。だから両方が大事なんだと思いマス」
「ミアのそういうとこ、凄いよね」
あっけらかんとしたミアに呆れ顔になる夏樹だが、全く俺も同感だ。
ウチのクラスの面々は、体作りや武術訓練、政治や世界事情の調査、各種書類作成、迷宮と神授職システムの研究などに全員で取り組んでいる。
だが当然だけど各人には得意不得意があって、ミアなどはかなり尖った部類に当たるだろう。戦闘とサバイバル特化だな。俺自身はバランスタイプかなっていう自覚はあるが、言い方を変えれば器用貧乏とも表現できる。
だからなのかな、ごく当たり前のように突き抜けた感性を持っているミアが眩しく見える時もあるのだ。
「せっかくの二泊三日なんだから、それぞれで強くならないと勿体ないわよね」
夏樹に続き、俺より上位レベルで器用貧乏な綿原さんもここで会話に加わってきた。いや、彼女の場合は文武の両方で貧乏って表現自体が当て嵌らないか。
さっきから俺とミアのやり取りを窺っていたし、いい感じに話がまとまったのを見て、満を持しての登場ってところか。
両肩の付近に二匹のサメを浮かばせる堂々っぷりだ。
「十三階位おめでとう。ミアには先を越されたけれど、わたしもすぐに追い付くつもりよ」
「それでこそ凪デス!」
後衛職にも関わらず、普通に十三階位レースに参加している綿原さんが決然と意思表明してみせれば、ミアは満面の笑みで答えた。嬉しくて仕方がないって感じで。
「それでミア。【剛力】は?」
「今……、取りまシタ」
「そ」
そんな短いやり取りをした直後、綿原さんの赤紫色をした双頭サメが二匹同時に動いた。目指すは、ミアかよ。
「イィヤァ!」
掛け声と共にミアの左腕がブレ、びしゃりと音を立てて床に血が飛び散る。
先生バリのジャブが二発か。こういう戦闘センスがミアの恐ろしいところなんだ。
「どう? 結構本気だったのだけど」
「いい感じデス」
両拳から魔獣の血を滴らせたミアはいい笑顔をしている。どうやら【剛力】の効果はワイルドエセエルフにとって満足できるものらしい。
「よかったわね。わたしにも出ないかしら」
これまたモチャっと笑う綿原さんが、血溜まりからサメを作り出して近くに呼び寄せる。
新規技能のお披露目とはいえ、物騒だよなあ。主に絵面が。
後衛職に【剛力】が出るかどうかは最早ツッコムまい。綿原さんならやりかねないし。
「ワタシがちゃんと寸止めしますから、みんなはトドメをキッチリデス!」
そこがあんまり信用できないんだよ、ミア。ほら、クラスメイトたちのほとんどが半笑いになってるじゃないか。
◇◇◇
「やっぱりトウモロコシが速いな」
「どうするの?」
戦況を判定する俺の呟きを奉谷さんが拾ってくれる。
現在俺たちは未踏破の魔力部屋に巣くっていた魔獣への対処のために、迷宮を駆け抜けている最中だ。
本日の探索も最終盤で、『一年一組』お得意の引き撃ちである。
魔力部屋には四体のトウモロコシ、三体の牛、カニが五体、そしてヒヨドリが七体待ち構えていた。
このうちヒヨドリは部屋から動かないため、戦闘が一段落してから後衛が美味しくいただくとして、トウモロコシを茹でる余裕は無い。
「もう一部屋退く。草間、春さんと先行してくれ。左に枝部屋が二つあるからそっちも確認だ」
「うん」
「了解っ!」
俺の指示を受け、メガネ忍者な草間とスプリンターの春さんがダッシュを掛ける。
引き撃ちの肝は先行偵察。退いた先で魔獣がこんにちはではお話にもならない。
二人に任せておけば魔力量まで測って戻ってきてくれるだろう。
「とうっ!」
段差に気を付けながら走る俺は、ここで一度ジャンプを挟む。
空中で体をひねり【視野拡大】と【目測】の効果を最大限に使い、追ってくる魔獣の速度と位置を【観察】する。
以前はミアに高い高いされてみたり、騎馬戦なんかもやってきたが、最近ではこうした跳躍観察が俺の武器だ。
十二階位となり、ついでにバッファーな奉谷さんから【身体補強】を受けた今ならば、女子の馬に乗るなんていう冒涜的な行動をする必要もない。
「ととっ」
「大丈夫?」
「ああ。助かった」
ただし着地には難ありなんだよな。自身に【身体補強】を掛けてパワーアップしているとはいえ、ちびっ子な奉谷さんに支えられるのはちょっと情けない。これでも練習はしているのだが、俺の運動神経なんてこんなものだ。
「盾組、水路を越えた五キュビで止まってくれ。その辺りにトウモロコシが着地する。一度受けて相手の体勢を崩したらダッシュで合流。毒はもらうなよ?」
「言ってろぉ!」
ジャンプで得た情報を基にして矢継ぎ早に放った指示に、ヤンキーで【重騎士】な佩丘が怒鳴り声で返してきた。翻訳するまでもなく了解の意味だ。
「ほら、頼んだぞ」
「任せとけ」
佩丘が放り投げるようにパスした丸太を、海藤が軽々と受け止める。
さっきのジャンプ然り、こういうシーンで俺たちがどういう力を身に着けたのかを思い知るんだよなあ。
「騎士以外はこのまま走るぞ!」
俺が確認するまでもなく、『一年一組』の面々は疾走を止めたりはしていない。
引き撃ちの移動速度は後衛『柔らかグループ』に合わせてあるので、騎士連中が追い付くのは簡単だ。
順繰りに魔獣を倒す時間を想定し、ミアの鉄矢や海藤の短槍をロストしないように、戦場とする部屋を選択する。
こういう時は【思考強化】がありがたい。この部屋でトウモロコシを一時停止させれば、ちょうどいい塩梅が作れるはずだ。
◇◇◇
「分岐はクリアしたけど、あっちの部屋からジャガイモが来てる。たぶん五体」
「上等だ」
隣の部屋に飛び込んだのとほぼ同時に再合流を果たした草間の報告を聞き、自分の口の端が吊り上がったのを自覚する。
獲物が増えたからっていうのもあるが、それよりもだ。
草間と春さんは俺が言わずとも、枝だけでなく進行方向の状況まで自発的に確認してきてくれた。そういうところがとても頼もしいからだ。
「八津よお、同時に両方の相手するのかよ」
「手数は足りてる。対応できるさ。飛び越えて来るかもしれないジャガイモを警戒しながら牛とカニの連戦は避けたい」
「ちっ、……そうだな」
丸太班をしている田村の提案だけど、悪いがここは却下させてもらう。
もうちょっと練習して、一定時間は確実に足止めできるようになったらアリなんだけどな。
「ぶつけてきたぞ。一度だけで良かったんだな?」
「それでいい。助かる」
古韮をはじめとする騎士たちも、トウモロコシにひと当てしてから広間に飛び込んできた。
いいタイミングだぞ。
「ジャガイモは先生、草間、春さん、ティアさん、メーラさんで即処分。後衛は広間の中央に陣取れ。前衛、海藤とミアの射角を作って盾を構えろ!」
挟み撃ちされる形にはなったが、ジャガイモの処理は指名した五人に任せればまず問題はない。もとい、草間がちょっと不安だけど、そこは先生がカバーしてくれるだろう。
残念ながら連続して牛とカニがやってくるので、芋煮会は開催不可だ。
「一対一ですわね。燃えますわ!」
「十三階位パワーの見せ所デス!」
「いや、ミアはトドメ刺しちゃダメっすよ」
各人が配置のために広間の各所に駆けていく。騒がしいのはいつものことだ。
「流れを言うぞ。ジャガイモとトウモロコシを同時に倒す。そこから牛を始末してカニを待つ。仕上げは魔力部屋に戻ってヒヨドリだ」
「おう!」
大雑把な戦闘フローを箇条書きみたいにまくしたてた俺に、みんなからのコールが返ってくる。
いざ戦いが始まれば細かな指示を出すこともあるだろうけど、初期配置には文句の付け所はない。
扉を潜ってからジャンプしてくるであろうトウモロコシの着地点に構える騎士たちがいる。敢えて中央を空けているのはミアと海藤の射撃用だ。
サメを引き連れた綿原さんや雷を落とす藤永、石を叩き込む気で満々な夏樹は壁際から魔獣の登場を待ち受けている。
反対側の扉に駆けつけたティアさんたちは、少しだけ距離を作って正々堂々カウンターの構えだ。
もうひとつある扉については春さんと草間が敵影無しと確認してきてくれたから問題なし。
「ははっ、万全だな」
「ダメだよ八津くん。フラグになるから」
広間のど真ん中で両方に視界を通しつつ笑った俺に、文系オタな白石さんがツッコミを入れてくる。
思わずなんだよ。ごめんって。
「来るよっ!」
「こっちもだねぇ~」
ジャガイモを待ち受ける草間とトウモロコシにムチをぶつける予定の疋さんの声が被ったのと同時に、広間に魔獣が乱入してきた。
次回の投稿は明後日(2025/12/18)を予定しています。




