第596話 魔力系技能がややこしい
サブタイの通り、ちょっとややこしい検証・推測話です。申し訳ありません。
【魔力譲渡】:魔力を渡す(ロスが発生する)
【魔力受領】:魔力を受け取る(ロスが発生する)
【魔力浸透】:魔力を流し込む効率を高める(ロスを抑える)
【魔力凝縮】:魔力操作の速度を上げる(ロスについては不明)
といった感じです。魔術ではなく、そのエネルギー源となる『内魔力』そのものに関する技能です。
「うん。やっぱり【魔力譲渡】が一緒の方が速いと思う」
「わたしの勝ちだね」
「くっころ、ってか」
新たに【魔力受領】を取得した夏樹の判定結果を受け、文系メガネの白石さんが小さく勝ち誇り、俺は平らく呟く。
本物の魔力タンクには勝てなかったよ。
俺たちは未ださっきまでヤキトリを開催していた部屋に居残っている。【魔力受領】を絶賛検証中だからだ。
こういうのは移動中にやることじゃないし、厳密とまではいかなくても最低限を知っておかないと、怖くて本番では使えない。地上に戻ってからとか、夜のキャンプ中にという話も上がったが、イザという時に役立つかもしれないことなのである程度は調べておきたいという夏樹の主張が通ったのだ。
どうにもウチのクラスは夏樹に甘い気がする。
当たり前だが検証の主導は夏樹だ。ゲーマー故にこういうところで厳密な俺の親友は、ちゃんと理論立てて【魔力受領】の性能を調べている。
夏樹がクラスメイトたちから魔力を一定量引きずり出すという判定方法なんだけど、絶妙にアナログだよなあ。何しろ判定結果が本人の自己申告なんだから。
どれくらいの速さで夏樹が魔力を受け取ったかという基準は、裏を返せば譲渡する側にどれだけロスがあったかの証明だ。
様々な技能を取得して、それぞれが思い思いに熟練度を上げたこともあって、各人の最大MPにはバラツキがある。しかもそれは数値化できていない。だからこういうやり方になってしまうのだ。
ステータスオープンが無いことによる弊害極まれりな話だよな。
【魔力視】が使えるアウローニヤのシシルノさんがいてくれればもう少し細かく観察できるかもしれないが、ないものねだりをしても仕方がない。
「呼んだら来そうなのよね、あの人なら」
「女王様とアヴェステラさんが困るだろうなあ」
俺と同じ成績だった綿原さんが、どこか上機嫌にサメをふよらせつつ笑えない冗談を言う。
それでも【魔力譲渡】と【魔力浸透】をオンオフしながらの実験で、明らかな差があったのは想定していたとはいえ立派な立証だな。ちなみに【魔力譲渡】は使えないけど、対象者への魔力の通りを良くする【魔力浸透】を持っている聖女な上杉さんは、俺より上のスコアを出した。
そういうところまで気を回す夏樹は、中々の検証勢っぷりだ。
そんな検証の序盤で魔力を渡す側が前衛と後衛でも違いは無いことが判明した。前衛職はロスが多くなるんじゃないかっていう予想もあったのだけど、これについては明るい結果と言えるだろう。
だが、わかり切っていたバッドニュースもあった。
「わたくしとメーラが劣ったのが面白くありませんわ!」
「仕方ないじゃない、ティア。わたしたちはほら、魔力の色が似ているから」
憤るティアさんを悪役令嬢担当な中宮さんが宥める。
そう、ティアさんとメーラさんからの【魔力受領】は、夏樹にとって効率的ではなかったのだ。それはもう明らかにっていうレベルで。
ここに至り、俺たちの魔力の色についてまでティアさんとメーラさんに説明をするハメになった。アウローニヤの親しい人たちも知っていたことだし、今更ではあるけどな。
だからといって【魔力観察】でそれが見える俺を睨むのは筋違いだろう、ティアさん。
「じゃあつぎは疋さんだね。【魔力凝縮】だけっていうのも試したいから」
「はいはいっとぉ」
テキパキと指示出しをする夏樹にチャラ子な疋さんが歩み寄る。
ここで【魔力凝縮】まで考慮に入れるとか、普段の夏樹とはえらい違いだ。
だからといって驚きがあるわけでもない。
これまでこの手の調べごとをしてきた俺たちは、得意ジャンルで夏樹が頑張ることをよく知っている。ましてや今回はチャレンジした張本人だから、張り切り具合もひとしおってことなのだ。
◇◇◇
「やっぱり藤永くんが一番だったね」
「やったっすよ」
検証における最終的な勝者は藤永だった。なんで勝負みたいになってるんだか。
夏樹の【魔力受領】、藤永の持つ【魔力譲渡】と【魔力浸透】、そして【魔力凝縮】。全てがかみ合った結果だろう。
『複数人同時っていうのも試したいかな』
個人の勝敗だけで終わらせなさそうな夏樹だったが、さすがにそこで俺が待ったを掛けた。
時刻はすでに夕方の五時を過ぎている。
素材を運び屋依頼した『雪山組』に渡すのは明日の朝イチってことになっているから、三層でのキャンプは遅くなっても構わないけど、さすがに限度がなあ。
「三だよ」
「了解!」
メガネ忍者な草間の魔力量判定をロリっ娘な奉谷さんがメモし、書記の白石さんもそれに倣う。
夏樹の検証を打ち切った俺たちは、狩場の奥に向けて移動中だ。
マクターナさんの依頼が建前であったとしても記録の書類は残されるわけだし、冒険者としてやれることはキッチリしておきたい。もちろんレベリングも重要だから、最低限でも三か所見つかっている魔力部屋は網羅しておかないと。
「うーん、絶対に取っておくべきだとは言わないけど、イザって時に誰からでも魔力を貰えるのは強い、かな」
「……おう」
真面目な顔をした夏樹の言葉に田村が答えるが、ちょっとぶっきらぼうになっている。
アレだろ。夏樹が【魔力受領】で冒険して、恩恵が自分に降りかかる立場っていうのが、ひねくれ者の田村には面白くないんだ。
「田村くんが何を考えてるのか、お見通しって?」
「それを察知されてる時点で、俺もまだまだ未熟だよ」
「そ」
イタズラっぽく笑いながら俺の心を読んできた綿原さんには、うん、降参するしかない。
◇◇◇
「十二階位、だ」
「やったね!」
「良かったじゃないか。これでお揃いだねえ」
俺のレベルアップ報告を受け、奉谷さんと笹見さんが喝采を上げてくれる。
声を聞きつけたのか、前方で戦闘中の綿原さんのサメがチラリとこちらを振り向いた。ありがとうな。
一度の戦闘を挟んで辿り着いた二つ目の魔力部屋にはジャガイモが七体と、カニが六体待ち構えていた。芋煮会のチャンスと判断した俺が部屋の隅っこでジャガイモに神剣を突き刺しまくった結果、見事十二階位を達成できたのだ。
途中でトウモロコシのおかわりがあったのには、ちょっと焦ったけどな。
「残りは奉谷さんがやってくれ」
「うん!」
鍋に残った三個のジャガイモの始末は奉谷さんにお任せする。
なにしろ彼女が十三階位で取る予定の技能は、クラス全体に影響を及ぼす可能性を秘めているのだ。少しでも獲物は譲っておきたい。
十二階位の奉谷さんは自ら【身体補強】を掛けることが可能で、神剣も持っている。十階位だった頃に比べれば素のパワーだって上がっているのもあるし、生煮えのジャガイモでも十分倒すことができるだろう。
後衛職の十二階位から十三階位は長い道のりではあるものの、決して届かない距離ではない。
アウローニヤはおろかペルマの冒険者ですら見かけない、十三階位の術師に俺たちはなるのだ。
「それと夏樹。もう戦況は落ち着いたから」
「やっぱり八津くんにはお見通しかあ」
残り二体となったカニと、四体のトウモロコシが同時に無力化されていくのを見つめながらながら、石を飛ばして頑張っている夏樹に声を掛ける。
「我慢しなくていいから治療してもらえ。上杉さん」
「はいはい」
俺の言葉に従った夏樹がやや後退し、そこに上杉さんが歩み寄った。
トウモロコシが追加された辺りで焦ったのか、夏樹の右肩にジャガイモがぶつかっていたのは見えていた。
本人からの申告が無かったのと【痛覚軽減】の効果でちょっと動きが悪くなる程度だからスルーしていたが、戦いはすでに終盤を迎え、状況は完全に安定している。
前衛陣にも怪我人がいるが、そっちは田村がなんとかしてくれるだろう。軽傷者は戦闘が終了してからだな。
なんだかんだで、迷宮戦闘に怪我は付き物だ。
傷付くこと自体には慣れてきたが、だからといって好き好んでということにはならない。時々スイッチが入って獰猛モードになることもあるけれど、それはさておきだ。
「八津くんはやっぱり見送り?」
「ああ。俺はアイツの魔力タンクだからな」
白石さんの問い掛けに、上杉さんから【聖術】を受けようとしている夏樹を見つめながら返事をする。
十二階位にレベルアップする前に必要に駆られたとはいえ急遽【鉄拳】を取ることで『観察バッター』と化した俺は、ここでの技能取得は見送りで確定していた。【身体操作】は十三階位になってからとなる。
ましてや夏樹が【魔力受領】を取得し、相方として俺が選ばれた以上、ここは魔力の温存しか選択肢はない。
そのうち【魔力受領】取得者に田村も追加されるだろうから、俺の役目も増えるってことだ。カウンター系もそうだけど、やっと俺もマルチロールって感じになってきたのかな。
「あっ、ちょっと待って、上杉さん」
「どうしたんです?」
俺がしみじみとしていた眼前で、まさに【聖術】を行使しかけた上杉さんから夏樹が一歩離れた。なんだ?
「あ、ごめんね。うん、改めて【聖術】お願いできるかな」
「……はい」
「できれば効果を気に留めてね」
少しのあいだ考え込んだ夏樹が再び上杉さんに近づき、意味深なことを言いながら治療を求める。
「これ、は」
夏樹の肩に手を乗せ【聖術】を使ったのだろう上杉さんが、数秒してから普段の微笑みを消して驚きの表情となった。
「ははっ、こういうのもあるんだ。魔力の消費はどう?」
「それは……、今まで通りだと思います」
「だよね。僕もだよ」
二人の会話が俺には意味不明……、いや、そういうことか。夏樹め、なんて思い付きを。
◇◇◇
「治りが速くなった、だと?」
「消費魔力は変わらないけどね。違うか、【魔力受領】の分だけ増えたってことになるよ」
広間の中央に立ち、みんなに聞こえるような声で田村と夏樹が言葉を交わす。
俺はそんな光景をカニの脚を千切りながら見守っているところだ。
「本当なのか? 上杉」
「はい。間違いないと思います」
訝し気な表情で田村が上杉さんに確認するが、即答されて黙り込む。
新技能の検証に熱心な夏樹は、【聖術】を受けている最中に自身で【魔力受領】を使ったらしい。その結果、ちょっとだけだが体感できるくらいに治りが速くなったのだとか。
怪我の度合いによって治療に必要な時間や魔力量は変わってくるから、この手の判別は難しい。だけど上杉さんは田村と並んでずっと俺たちの怪我を治し続けてきた。その辺りの経験を加味した上での言葉なんだろう。
「だったら……、そうなんだろうな」
そんな上杉さんの断言だ。これには田村も納得するしかない。聖女の神託は絶対なのだから。
「うん。だからさ」
「なに? 夏樹くん」
新しい技能にちょっとしたオマケが付いていたことを見出して嬉しそうな夏樹は、そこでもなお止まらなかった。
夏樹から視線を向けられた奉谷さんが、可愛らしく首を傾げる。
「奉谷さんが【聖術】を使う時って、【魔力浸透】もでしょ?」
「うん。もちろん」
「だったら【魔力譲渡】も一緒に使ったらどうなるかなって」
「あ! やったことないよ、ボク」
クラスで一番背の低い男子と女子の会話で周囲に理解が及んでいく。
絶好調だな。夏樹よ、おい。天才の発想だぞ。
【魔力受領】と【魔力譲渡】は表裏一体の技能だ。【魔力受領】が治療に影響を及ぼすのならば、【魔力譲渡】にだってもしかしたらがある。
「【魔力譲渡】を受けながら治療をしたことはありますけど、思いもしませんでした」
口に手を当て小さく驚く上杉さんだけど、目には輝きが浮かんでいる。
それもそうだ。治療に必要な魔力コストが増えたとしても、誰かの怪我を少しでも素早く治すことができるようになることは精神的にも、そして戦術的にだって重要な意味を持つ。
「試してもいいけど……、患者さん、いないね」
ちょっと残念そうな奉谷さんの呟きに応えるかのように、迷宮に乾いた風が……、吹くわけがないか。
さっきの戦闘が終了してすでに十分以上が経過し、俺を含めたほとんどの仲間たちは解体作業に勤しんでいる。とっくに全員の治療は終わっているのだ。
【魔力受領】による治療への効果はちょっとしたものでしかないというのが上杉さんの判定だ。それが判別できてしまう聖女様の凄さは置いておいて、この場での検証は難しい。
手のひらに傷を付けて実験なんてレベルでは、区別がつかない可能性が高いからなあ。
ましてやここは迷宮内だ。そういう行為は風紀委員の中宮さんや滝沢先生が絶対に良い顔をしないだろう。
よってその辺りの検証は次回以降の戦闘で誰かが怪我をしていたらってことになる。
「良かったな、田村。十三階位になったら怪我の治りが良くなるってよ?」
「うるせえよ。そもそも怪我なんざしないことがだな──」
「へいへい」
検証が中途半端になったことで微妙な空気が流れる中、ランサーな海藤が田村をイジりにいった。
煩そうに答える田村と海藤のやり取りで、いつもの俺たちらしいノリが帰ってくる。やってくれるなあ。
魔獣との戦闘はまだまだ続く。ヒール関連の検証をする機会はいくらでもあるさ。
「おほほほほっ、あなた方と共にいると、飽きることがありませんわね!」
一連の騒動を黙って見守っていたティアさんが、トウモロコシを腰に結わえながら高笑いだ。場の空気が一気に切り替わる。
黄金のドリルヘアーと黄色く輝くトウモロコシの組み合わせか。これもギャップ萌えに当たるのかな。
ところで夏樹の件でスルーされているけど、俺、さっきの戦闘で十二階位になったんだ。誰かそれに触れてくれないかな。
自分からアピールするのはちょっとアレなんだ。
こっちに向かってモチャっと笑ってくれている彼女が視界に映っているし、さっきから俺の周囲でサメが泳いでいる。
今はそれで良しとするか。
◇◇◇
「わたしが【魔力譲渡】を取ることを、八津くんはどう考えますか? もちろん効果が確定してからです」
「……それは」
迷宮を移動する中、投げ掛けられた上杉さんのそんな問いに、俺は返答に詰まる。
仮に奉谷さんが検証して効果が明確になったとしても、アリかナシかで言えば、明確に否だ。
そもそも【魔力譲渡】を持っているヒーラーが異常であって、魔力を使って治療する人間がリソースを渡してどうする。
奉谷さんをディスっているわけではない。彼女に【聖術】が生えたのは魔力タンクとして【魔力譲渡】を取得してからだったから、前後関係が逆なのだ。
副官という役職はさておき、奉谷さんの本業はあくまでバッファーであって、ヒーラーと魔力タンクはサブでしかない。
今後の展開次第で俺や夏樹あたりが魔力タンクになるのはまだ良しとしても、上杉さんと田村だけは最後の最後だ。むしろ二人には【魔力受領】が推奨されているくらいだし。
上杉さんがこんなことを言ってきた前提としてだが、ヤキトリ会場から移動する際に奉谷さんが【魔力譲渡】を使いながら【身体補強】を仲間に掛けたところ、継続時間までひっくるめて効果が微妙に上昇したのだ。魔力的な採算は赤いだろうけど、これまた新発見であった。
ちなみに【魔力浸透】を併用した【身体補強】はもちろん有効で、こちらは遥か以前から奉谷さんが実施している。
ともあれ確定とまではいかないが、【魔力譲渡】が【聖術】の性能アップに繋がる可能性は高まった。
そういったワケで【魔力譲渡】を話題にした上杉さんの気概は、確かに嬉しいものがある。
戦闘中の一瞬を争うような治療の時に限り、魔力の消費が少々重くても【聖術】に【魔力譲渡】を被せるという運用は、誰だってすぐに思い付く。
ううむ、どう返答したものか。
「なあ上杉、八津」
【思考強化】を使ってすら上杉さんへの答えに困っていたところで、前方を歩くイケメンオタな古韮からの声が届く。
「【魔力凝縮】だったらどうだ? 上杉って候補に出てたよな、確か」
古韮の提案は思わぬ視点からのものだった。
「……あるな。むしろ【魔力譲渡】より効果がありそうかも」
「なるほど」
そしてあり得そうなところが小憎らしい。
ゲーマーな夏樹と同じくオタな古韮は神授職システムの検証に積極的だ。だからこそ出てきたんだろう。
俺が先に思い付けなかったのが悔しいくらいだが、そこはどうでもいい。
ここからはそっちで勝手に考えろとばかりに、古韮はもう前を向いている。古韮お前、上杉さんにクールな自分をアピールってヤツか?
恋愛脳な古韮のムーブはさておき、今度は【魔力凝縮】だ。
【魔力凝縮】は魔力系技能へのブーストという効果を持つ。使用者によると、込める魔力の圧を高めるイメージらしい。
ウチのクラスで所持しているのは【魔力伝導】に乗せているチャラ子な疋さんと、【魔力譲渡】と併用しているチャラ男な藤永。魔力タンクの性能を高めることができるから、将来的には白石さんと深山さんが取得を視野に入れている技能だ。
さっきまで夏樹の【魔力受領】で【魔力凝縮】とのシナジーを検証していたのに、どうして思い付かなかったかなあ。
【魔力凝縮】は『魔力』系技能に効果を持つとされていたから、『魔術』には影響しないと俺たちは考えていた。
事実藤永は【雷術】と【水術】に【魔力凝縮】を被せても目立って何かが変わることはなかったと言っている。
だが【魔力譲渡】と【魔力受領】は、それぞれ【身体補強】と【聖術】に効果を及ぼした。
通常の魔術との違いは……、接触か。
これはいろいろと検証し直しだな。
「ごめんなさい、八津くん。困らせてしまいましたね」
「いや、むしろ気付きになったよ」
考え込んでしまった俺に上杉さんが謝罪してきたが、もちろんそんな必要はない。
魔力系技能の謎に迫る展開。面白いじゃないか。
「あーあ、古韮くんに持ってかれちゃったなあ」
「サメを素早く出せるようになるかしら」
あっけらかんとした夏樹に、綿原さんが物騒なセリフを被せる。
だがしかし、夏樹の石や綿原さんのサメは、一度触れることで【魔力付与】が通るのだ。これまたもしかしたらがあるぞ。
「これって、シシルノさんへの手紙が厚くなるね」
「孝則くん、言い方」
野来の表現で白石さんが頬を赤く染めているが、そっちは勝手にラブコメしててくれ。ただし手紙は二人が書くように。
「ねえ八津くん。ボクが【魔力凝縮】を取るのが一番だよね?」
「それは……、そうだけど」
こちらもまた明るい声だが、打って変わって奉谷さんの提案は微妙に重たい。技能の謎で盛り上がった気合がしぼんだ気がするくらいには。
確かにここで奉谷さんが【魔力凝縮】を取ることが、検証という意味では最上だろう。むしろ唯一まである。
何しろ彼女は【魔力譲渡】を持つ魔力タンクだけに、たとえ【魔力凝縮】が【聖術】に適用されなくてもムダ技能にはならないからだ。
もしかしたら【身体補強】にまで【魔力凝縮】が効果を及ぼす可能性だってある。
だけど奉谷さんには十三階位で取る予定の技能が──。
「ぐだぐだ考え込むのはそこまでにしとけ。そろそろヤベえ区画なんだろ?」
先頭を歩くヤンキーな佩丘が広間に響くくらいの大きな声を出し、俺の思考を断ち切った。
言う通りだな。この辺りからは違う。
「そうだな。ごめん」
よって俺は素直に謝るしかない。
俺たちが巡っている区画は昨日『水滴組』が狩場にしていた。そして踏破率は約七割。
魔力量調査という建前でここまでやってきた『一年一組』だが、もう少しで未探索の領域だ。
「俺が言うのもなんだけど、みんな、警戒して進んでくれ」
「全くだねぇ~。どの口がってヤツっしょ」
警戒態勢を指示する俺のセリフにチャラく疋さんがツッコミ、皆が笑う。
まあ、これくらいが俺たちらしいか。
◇◇◇
「十三階位デス!」
一時間後、倒れた三角丸太の上に仁王立ちした妖精顔の美少女が高らかに宣言した。
革鎧どころかヘルメットからはみ出した金髪ポニーや白い肌を魔獣の血で濡らしているが、凄惨なその姿はそれでも美しい。
野生のエセエルフっていうあだ名は伊達ではないってことだ。
「そしてなんだか【風術】が出まシタ!」
だけどさ、どうしてそうなるんだよ、ミア。
次回の投稿は明後日(2025/12/16)を予定しています。




