第595話 魔法使いの思考と気概
「その、八津くん……」
「なんだ夏樹、俺は気にしてないぞ?」
「そうなの?」
「戦う前からわかってたからな。全部もらっても足りてないさ」
親友の夏樹が俺を気に掛けてくれているが、気にしていないのは本当だ。いや、ちょっとだけくらいはアレだけど。
なんて俺の心の内は置いておいて、夏樹は二体のヒヨドリを倒した時点で十二階位を達成した。俺は残りの五体にトドメを刺したが、予想通りにレベルアップはできていない。
よって『一年一組』の十一階位は俺のみとなった。十三階位の木刀女子、中宮さんと並ぶユニークユニットだな。オンリーワンって素晴らしい。
「八津くん、現実逃避の顔よね、それ」
「見切らないでくれるかな」
ヒヨドリの血を原料とする赤紫のサメを浮かばせた綿原さんが、俺の精神世界に適切なツッコミを入れてくる。
「ここからは独り占めじゃない」
「だよね。僕も頑張って手伝うよ」
ポジティブなノリを前面に押し出して綿原さんと夏樹が俺に迫る。同時にサメと石までも。近いって。
「わ、わかった。よろしく頼むよ」
「おう、そろそろ焼けるぞ」
俺がタジタジになったタイミングで、副料理長な佩丘の声がこちらに届いた。
聖法国絡みのアレコレがあったせいで、俺たちが迷宮に入ったのが午後の二時過ぎ。すでに四時も近い。
スタート時点で今日は夕食を遅らせることを決めていたので、今から遅めの間食だ。
メニューはヤキトリと牛串焼き。ちゃんとタレと塩をリクエストできてしまうのが素晴らしい。ほとんどのメンバーが全パターンを網羅する四本を所望した。
今回は二泊三日の迷宮泊ともあって、バーベキューセットもしっかり持ってきている。
焼き手は佩丘のほかに料理長の上杉さん、焼き物になると活躍する海藤、アウトドアの化身たるミアだ。
ちゃんと俺も串に肉を刺すのを手伝ったので、念のためってな。
◇◇◇
「で、夏樹。どうするんだ?」
「うーん、【鋭刃】とか【反応向上】が出てたら悩まなかったんだけどね。あ、【鉄拳】とかも」
ヤキトリをもしゃもしゃしながら俺と夏樹は言葉を交わす。敢えて【身体強化】という単語を避けているのはお互い暗黙の了解である。
欲しい技能が候補に無いことを悔しがっている夏樹だが、この世界の後衛術師からしたら何をほざいているのかっていうレベルの非常識だ。技能候補が仲間に伝播しやすい一年一組が異常なだけで、術師に前衛系技能が生えるケースはレアなのだから。
つまり【導術師】なのに【身体強化】を持っているアウローニヤの女王様は、かなりヤバいお方なのである。正に王の器ってヤツかもしれない。
「【集中力向上】が無難なのかなあ」
「それでいいじゃない」
「春姉はお気楽だけど、僕はほら、ちゃんと考えてるんだよ」
「ナツのくせに生意気だぁ!」
煮え切らない夏樹に、姉の春さんがわちゃわちゃと絡んできた。
男女差こそあれ容姿や素直な気性も似ている酒季姉弟だが、コトが神授職システムともなるとゲーマーな夏樹はちゃんと思考するのだ。
いや、春さんが考え無しとまでは言わないぞ?【鉄拳】を取った時とか、ちゃんと自分の弱点を把握したからこその結論だったのだし。
ミアが十二階位でお気楽に【安眠】を取っていたが、あれはヤツがアーチャーとして必要な技能を一通り網羅し終えていたから誰も文句を付けなかった。
そもそも【安眠】はコストが軽いし【睡眠】の完全上位互換だ。テレビショッピングのマクラじゃないが、睡眠の質がいいとでもいうか、三時間も寝たらスッキリなんだよな。検証したのは他ならぬ俺だ。自信を持って言い切ることができるぞ。
ともあれ夏樹の悩みは理解できる。夏樹は十階位で【身体操作】、十一階位で【魔力付与】を立て続けに取得しているが、それでもロールの関係で後衛職の中では内魔力に余裕がある方だ。それがアイツを悩ませている。
「魔力系の技能は冒険になっちゃうし……」
唸る夏樹の悩みに合わせたように、ふよふよと宙を飛ぶ石がある程度離れたところでポトリと落ちた。あそこがアイツの魔術射程圏外だ。
「ほら、ナツ」
「ありがと、春姉」
そんな光景を見てダッシュを掛けた春さんが、石を拾って駆け戻ってくる。
ひょいと春さんが投げた石が、空中で意識を持ったかのように軌道を変えた。魔術師的キャッチボールってヤツだ。
なんだか犬のボール遊びみたいだよな。子犬系の夏樹が受け取る側で、春さんが元気な犬。犬系酒季姉弟ってか。
さておき、夏樹はクラスで唯一となる『純粋な魔術アタッカー』だ。
ヒーラーの上杉さんや田村、バッファーの奉谷さんと白石さん、そして謎な俺を除き、ウチの後衛職はこの世界では攻撃系術師と呼ばれる存在である。
【熱導師】の笹見さんを筆頭格とし、【氷術師】の深山さん、【雷術師】の藤永、そして【鮫術師】の綿原さん。【石術師】の夏樹と同じく、全員が対象に触れることなく何らかの物理現象、すなわち魔術を行使することができるのだ。
白石さんの【音術】も空気の振動という意味では遠隔物理なんだけど、彼女はバッファー寄りの扱いで、支援系術師に分類される。
【嵐剣士】の春さんと【風騎士】の野来も【風術】を使うが、アレはあくまでサブ要素にすぎない。魔術剣士とか魔術騎士とか呼ばれるが、魔術に関しては補助的にしか使えないのが通常だ。
何となくだけど、あの二人はこれから逸脱しそうな気がしているけどな。
では異世界常識ではなく、地球の、しかもゲーム的発想で見直すとどうなるか。
この世界の攻撃系魔術は、ぶっちゃけ弱い。笹見さんの熱は炎の柱を作ることができないし、深山さんの低温は敵を氷り付かせるには程遠いレベルだ。藤永の雷にしても『ライデ──』、『サンダーストーム』で範囲攻撃、なんてことにはならない。最近はビリっとした痛みを感じるところまではきているけどな。
熟練度を上げた歴戦の魔術使い、たとえばアウローニヤのアーケラさんやベスティさんとかならば、熱湯や氷でそこそこの威力の攻撃をすることができるが、所詮はそこまでだ。三層までならまだしも、四層の火力としては弱い。
加えて魔力ルールとして相互干渉があるものだから、敵に対して魔術をダイレクトに叩きつけることができないときた。
夏樹がひたすら練り上げた石よりも、装備を換装したばかりの海藤が投げる槍の方が単純な攻撃力は高いのだ。
ゲームバランスが悪いよなあ。
そこで俺たちは、魔術を敵への阻害に使うことでここまでやってきた。
深山さんが『氷床』でトウモロコシを転ばせ、藤永がミアと協力してトウモロコシをビクンビクンさせ、綿原さんがツインヘッドシャークを操りトウモロコシの葉っぱを傷付け、夏樹が石でトウモロコシにアッパーカットを入れる。特段俺はトウモロコシを目の敵にしているわけではない。あくまで例示だ。
そしてもうひとつ。後衛術師たちはできることを増やす道を選んでいる。
【身体強化】を持ち、魔術を使いながらも中衛で物理的に戦う綿原さんと笹見さん。同じく【身体強化】を使って二列目で魔力タンクをこなす藤永。雪乃さんもまた後衛で魔力タンクを兼任だ。
そんな攻撃系術師の中で唯一夏樹だけが、魔術以外のロールを持っていない。
もちろん夏樹だってバックラーを使った防御の練習に励んでいる。それだけでもこの世界の術師としては珍しいくらいだ。最近では【身体操作】のお陰で上達も著しいし……、実に羨ましい。
俺の心情はさておき、柔らかいけど高レベルな魔法を行使するユニット。夏樹はゲームからイメージされる典型的な『魔法使い』だ。
◇◇◇
「【聴覚強化】とか【思考強化】でもいいんだけど」
「【安眠】もお勧めデス!」
俺があれこれ考えているあいだにも、夏樹は未だ悩んでいる。
ミアの【安眠】推しは毎度のことだからスルーしていいぞ。いや、俺も【安眠】は神だと思ってるし、このシチュエーションならワリとアリなんだけどな。
ちなみにだけど前衛後衛を問わず【思考強化】が候補に生えている連中は多い。元が学生だったからなのか、こちらに来てから分担して書類仕事をしたのが効いたのかは不明だ。
医大を狙う田村が初期候補に出ていないとグチっていたのは遥か以前に解消されている。
「後衛術師はワケわかんねえ技能候補だらけだからなあ。ほれ、最後の串だとさ。食っとけ」
「うん。ありがとう」
「サンキュ」
ヤキトリを二本手にした田村がこちらにやってきて、夏樹と春さんに手渡す。
俺と綿原さんやミアはスルーかよ。
近くではバーベキューセットの撤収やら洗い物が始まっているのが視界に入るが、手は足りているようだ。
今はこのまま夏樹の悩みに付き合ってやろう。
「ワタシのがありまセン……」
「仕方ねえだろ。最後なんだからよ」
「えこひいきデス!」
「うるせえなあ」
早速キャンキャンし始めたミアは放っておくとして、田村が言ったように後衛術師にはやたらと候補が多い。
たとえば夏樹の場合は【土術】があるが、これは今更だな。
魔力発動点を遠くに置くことができる【遠隔化】は自在に動かしてナンボの【石術】とは相性が悪い。砂利道での対人戦とかそういうシーンなら効果的なのだろうけど、いくらなんでも戦場が限定的すぎる。
『クラスチート』のお陰か夏樹には【魔力譲渡】や【魔力浸透】も出ているのだが、今更魔力タンクというのもアレだ。そもそもこのタイミングで二つも技能を取るのは、いくら魔力に余裕があるとはいえちょっとなあ。【魔力譲渡】だけ先行して取ったとしても不完全な魔力タンクが追加されるだけで、それなら石を全力で操ってもらっている方がマシだ。
メイスとバックラーという典型的な後衛装備だけに【魔力伝導】も効果が薄い。遠隔攻撃に【魔力凝縮】は意味が無いし、なんか死にスキルが多くないだろうか。
ちなみにこの手の技能は俺には生えていない。【観察者】って何なんだろうな。
ネタ枠として他者と魔術を合体できるという【魔術融合】もあるが、取るとすれば共に【水術】使いの藤永と深山さんペアだろうということで、クラス内では意見が一致している。畜生め。
操る対象の形状をいじることができるらしい【魔術変化】は、石を使う夏樹には向かない。
いや、石を変形できるレベルの技能なら凄いと思うけどな。それこそ『ストーンニードル』が実現できる可能性もあるのだし。
ちなみに【水術】使いたちは普通に水球の形を変えられるので【魔術変化】は補助的な効果か、極端な形状変化に対応している技能だというのが俺たちの読みだ。
『触手を生やすというのもアリね』
なんてことを言っていた綿原さんは【魔術変化】を狙っている節もあるのだが、今は【多頭化】で満足してほしい。
サメと触手って……、どうなんだろう。
冒険的ではあるが面白そうな技能としては【魔力強化】というのも夏樹は候補に出している。字面だけなら最強っぽい技能だが、実は自爆技だ。魔術の威力を底上げするのは【魔術強化】であって【魔力強化】ではない。
では何なのかといえばこの技能、『外魔力を内魔力に変換する』効果を持つらしいのだ。アウローニヤの信用できそうな資料に記載があったので、これについては間違いないと思う。
言うなれば内魔力で外魔力を増やす【身体強化】の逆バージョンってことだ。もうわかりやすく【内魔力強化】でいいんじゃないかな。
さておきフィジカルが落ちる代わりにMPが増えるって……、最後衛の白石さんや奉谷さんならアリかもしれないが、下がり目とはいえ中衛をやっている夏樹には危険な技能だ。
「普通にスルーでいいんじゃねえか?」
「それもそうなんだけどね」
ミアを振り払った田村の真っ当な意見を聞いても、夏樹は可愛らしい顔を難しくしたままだ。
要するに夏樹は、ここでスルーという選択肢を選びたくないのだろう。
焦りというよりは、少しでもみんなのために強くなりたいってところか。ほかの連中は前衛ならばガリガリ魔獣とやりあっているし、後衛はマルチロールを頑張っている。
そして繰り返しになるが、夏樹は術師の中では魔力にちょっとした余裕がある方だ。
夏樹が取得している技能の数は十五。笹見さんが十六個で藤永は十五個、深山さんも十五個で綿原さんも同じく十五個となっている。
ちなみに俺は十六個だけど、コストの軽い【安眠】が乗っただけだから、事実上は十五個だな。
技能の取得コストに差があるとはいえ、こうしてみると夏樹はそれ程魔力的に優位とは思えないが、運用の問題だ。
魔力タンクとして他者に【魔力譲渡】をする深山さんや白石さんは、それだけ余剰を維持しなくてはいけない。綿原さんと笹見さんはフルに魔術を使いながら【身体強化】をまとって動き回るから、魔力消費が激しい立場だ。
前衛で【身体強化】を使いながら魔力タンクをやっている藤永はかなりキツい状況といえる。
藤永と同じく前衛で【身体強化】をしながらヒーラーをやっている田村も大変だし、バッファー、ヒーラー、魔力タンク兼任の奉谷さんだって余裕があるわけがないのだ。
聖女な上杉さんは技能は十五個と後衛としては平均的だが、激重コストな【聖導術】を取得したので内魔力に難がある。
しかも彼女には本当にイザって時に【聖導術】を使うだけの余裕が必要だ。
そういう理屈で、魔術一筋な夏樹はワリと内魔力に不安が無い方なのだ。
同じく観察一辺倒な俺も夏樹の側なのは、この際置いておこう。
「ナツは今でも十分強いから、焦らなくっても、ね?」
「春姉……」
俺でもある程度は読めるくらいだ。姉の春さんからすれば夏樹の心中などお見通しなんだろう。
そう、春さんの言うように夏樹は現状でも強い。
散々魔術は弱いと心の中でこき下ろしてきたが、それはこの世界へのグチであって仲間たちをくさしていたわけではない。みんなの魔術は、特徴と威力を把握した上で使うのならば、立派に戦力としてカウントできる。
そんな中、夏樹の【石術】は物理的な衝撃力では間違いなくクラスのトップだ。しかもダントツで。
扱うことのできるサイズや形状、速度制限にこそ難はあるが、緻密なコントロールと、なにより四つもの石を同時に操作できるのが大きい。
俺だけでなく、皆が同意してくれるだろう。たぶん同じ系統のサメ使い、綿原さんこそが夏樹を一番認めているんじゃないかと思っているくらいだ。
「今のままでも夏樹の石は強い。魔術だけの打撃力ならクラスの中で最強だ。【観察者】の俺が保証する」
「そうね。悔しいけれど、わたしもそう思ってる」
続けた俺の励ましの言葉に、やっぱり綿原さんは同調してくれた。
大丈夫だよ。綿原さんのサメは何というか、そう、いろんな意味で別枠だから。
「八津くん、綿原さん……」
「あたしもそう思うねえ。夏樹の石は大したもんさ」
「そうっすよ」
感極まった風になった夏樹に向けて、洗い物をしている笹見さんと藤永からも声が飛んできた。一緒に作業中の深山さんもコクコクと頷いている。
周囲のクラスメイトもそれぞれの温度で夏樹に視線を送っているが、どこにもネガティブな雰囲気はない。
可愛がられてるよなあ、夏樹って。
「みんな。ありがとう」
夏樹は【石術】をベースに、正当に魔術をパワーアップさせる【魔術強化】【魔術拡大】【多術化】を持つ。【視覚強化】【視野拡大】【遠視】で目の良さも十分。【魔力付与】で石に魔力を乗せられるし、【魔力回復】だってある。
いつでも石を浮かべているから、関連する技能の熟練度だって急上昇中だ。夏樹はまだまだ強くなるぞ。
「ナツキはわたくしが見てきた中でも指折りですわね。軍の熟練者にも劣らないと思いますわ」
「ははっ、ティアさんまで。持ち上げすぎだよ、もう」
ついにはティアさんのお墨付きまで与えられて夏樹は照れっぱなしになっているけど、そういうのが妙に似合うんだよなあ。
体をくねらせるようにしている夏樹だが、その正体はこの世界のルールに則った攻撃術師の真っ当な完成形とも表現できる存在だ。
それが【石術師】の酒季夏樹である。ででん!
◇◇◇
「……決めたよ。うん、決めた」
ひとしきりみんなの声援を受け取り、そこから数分考え込んだ末に夏樹が口を開いた。
食事の後片付けもちょうど終わり、いつでも出発できるようなタイミングでの決断ときたか。
さて、夏樹はどういう結論を出したのだろう。クラスメイトの視線がアイツに集中する。
「僕は【魔力受領】を取ろうかなって思う」
「夏樹、お前……」
夏樹の発した単語に食い付いたのは田村だった。
【魔力受領】は他者から魔力をもらい受けることができる、謂わば【魔力譲渡】と対になる技能だ。
魔力を頂戴する相手を選ばないというのが【魔力受領】の強みだが、効果の程はわかっていない。アウローニヤの文献……、物語によれば、いにしえの大魔導師が複数人から魔力を受け取り巨大魔術を使ったなんていう逸話が残されていたが、そんなのはおとぎ話だな。
ウチのクラスで所持しているメンバーは『まだ』いない。というか、現状で一番に取得すべきなのが田村だったりする。
ここで【魔力受領】とか言い出す辺り、夏樹も攻めるよなあ。
召喚当初に滝沢先生が率先して【視野拡大】や【睡眠】を取ったように、一年一組は敢えて悪い表現をすれば生贄じみた技能取得をする場合がある。
直近ではチャラ子な疋さんが、藤永の魔力タンク性能を上げるために【魔力凝縮】を取ったなんてケースなんかが当て嵌まるかな。
もちろん最初に取得する人の神授職に明らかにマッチしないなんて無茶はしない。推測を元に、その技能が役に立つだろうと思える人物が取得し、そして検証をするのだ。
純後衛で魔術職の夏樹と【魔力受領】の相性がどうかと問われれば、悪いはずがないだろうという答えになる。
他人から魔力を受け取りつつ石を飛ばし続ける光景は、想像に易い。
だが同時に、【魔力受領】が無くても夏樹はそれを実現できているのだ。
「俺が十三階位で取ればいいじゃねえか。夏樹は温存でも──」
「それで効果が薄かったら目も当てられないじゃない。そしたら田村くんだけじゃなく、前衛全員が困るよね?」
「むう」
非常に珍しいことに、夏樹は田村の声を遮ってまで正論をまくしたてた。これには田村も後ずさるしかない。
前線近くで【身体強化】を使いながら回復役をしている田村は、魔力の不足が心配になる仲間のひとりだ。
【痛覚毒】を持つトウモロコシの出現により【解毒】の頻度が上がったことで、筆頭格にすら……。
「僕は魔力に余裕があるし、【魔力受領】があんまり使えない技能でも、十三階位になれば取り返せるよ。今の僕はちゃんとした石使いなんだから、ちょっとした寄り道だっていいでしょ?」
だからこそ夏樹は、余裕がある自分が先行して性能を確かめると言っているのだ。
凄いな。普段は子犬系な夏樹だけど、ちゃんと理屈に則った意見を堂々と言い切った。
小型犬がキャンキャン吠えているんじゃない。むしろ、ビシっとお座りをしているかのような……。
犬から離れろ、俺。
なんにせよ、謎に迫力がある夏樹のセリフに、周囲は聞き入るばかりだ。
「ほら、【魔力譲渡】と掛け合わせたらどうなるかとかだって、要検証だったよね?」
ゲーマーだけあって、夏樹は神授職システムへの理解が深い。だから『要検証』なんて単語が飛び出してくる。
「……まあ、都合のいい魔力源が転がってるか」
「でしょ!」
苦し紛れみたいな唸り声を上げる田村と、元気一杯な夏樹の視線が同時に動いて俺に刺さった。だよなあ。
そう、夏樹の提案でもうひとりの生贄になるのが俺だ。
最後衛で【魔力譲渡】を持たず、それでいて魔力に余裕が無いわけでもないメンバー。
この場では戦闘が行われないのだから誰が魔力供給役をやってもいいのだけれど、実戦時には俺がメインになるのが夏樹の提案の肝となる。
最初から夏樹は、俺ありきで話を進めていたってことだ。
「八津くん、付き合ってくれる?」
俺より背が低い夏樹が上目遣いでそんなコトを言ってきた。いや、俺としてはそういうセリフは綿原さんから……。
文系オタな白石さんの丸メガネが輝いているように見えるのは気のせいだろう。だよな?
「もちろんだ。任せとけ」
だがしかし、これは俺が所属する『柔らかグループ』リーダーからのお達しだ。従わないというのは義理に欠く。
こちらのこめかみ辺りにじっと鼻先を向けているサメの存在を感じつつ、俺は親友の要求を快諾した。
断れないだろ、こんなの。
次回の投稿は明後日(2025/12/14)を予定しています。




