第594話 グレーゾーン
「『一年一組』には、組合から魔力量調査を依頼したいのです」
「……もちろん道中の魔力は記録しますけど、どういう意味ですか?」
新たな迷宮探索計画書を読み終えたマクターナさんから返ってきたセリフを聞いて、綿原さんがサメと一緒に首を傾げる。
幾人かのクラスメイトが一緒になって同じ動きをしているのがちょっと面白い。
コトが依頼ともなれば藍城委員長が出張ってもいいのだが、計画書からの流れでマクターナさんの話し相手は普通に綿原さんだ。
まあ迷宮委員と関係なく、綿原さんならこういう交渉も大丈夫か。もちろん意見があれば誰かが手を上げるだろうし。
「今日と明日、明後日は……、この三か所をお願いしたいのです」
テーブルの脇に置かれていた迷宮の地図を中央に寄せ、マクターナさんは三つの区画を順番に指差した。
綿原さんの問いに対する答えはまだない。
「全て組合が魔力観測を行う予定の区画となります。さすがに唐土区画は提示できませんが」
「あっ」
続くマクターナさんの説明に、らしくもなく委員長が小さいけれど鋭く声を上げた。
聖女な上杉さんも驚きの表情で片手を口に当て、ヤンキー佩丘はムッツリとした顔で顎に手を乗せている。
そこから滝沢先生、小太りの田村、書記の白石さん、イケメンオタな古韮、そして鮫女子の綿原さんの表情が変わっていく。
そして遅ればせながら俺にも理解が及んだ。マクターナさんはそこまで徹底する気なのか。
「組合からの依頼ですから、それはもう『組合』のようなものです」
「……偽装じゃないですか」
「手続きの遅れによる『掲示間違い』ですね。後追いとなる公式な記録では『一年一組』によるものとされますので、ご安心ください。契約は非公開でよろしいですね?」
一段低くなった綿原さんの声を受けてもマクターナさんはまるで動じない。
組合事務所の一階ロビーにある巨大迷宮地図には、日々狩場の占有を示す木札がぶら下げられる。それを見ればどこの組のどの隊が潜っているのかは一目瞭然だ。
とはいえ、昨今では各組も隊の再編成で名前が適当になりつつあるのがややこしいのだが。
そして組合による迷宮四層の魔力観測は毎日『複数の個所』で行われている。
「高階位の【捜術師】が不足しているものですから編成も大変です。今日もミーハが駆り出されているくらいには」
組合の純戦闘部隊は『第一』『第二』といった感じでナンバリングされているが、魔力観測隊に特定の名は付けられていない。観測隊は戦闘部隊から都度人員を抽出し、そこに【魔力察知】を持つ【捜術師】を組み込んでいるから、いちいち名前なんて付けていられないのだ。
魔力の異常が続いているペルマ迷宮四層への対応は、まだまだ途上ということを象徴するような話だな。
結果として現状、複数個所で行動している『組合魔力観測隊』の木札は同一なのだ。マクターナさんは俺たち『一年一組』に、そんな木札を背負えと言っている。
迷宮における俺たちの居場所を確定させないために、裏技みたいなマネを……。
組合が聖法国の情報を得たのが昨日の夕方だったとして、一日も経たずにここまでお膳立てをしてくるのかよ。
「戦闘の状況に合わせてですが、組合でも試験的に『芋煮会』を導入しています。すでに複数の【聖術師】が階位を上げていますし、ミーハももう少しで十一階位になれそうですよ」
くるっと話題を切り替え、まるでとっておきのプチ情報を教えてくれているみたいにマクターナさんがいい笑顔で語る。
マクターナさんって先生とは別種の鬼だな。ミーハさんは無事なんだろうか。
「ミーハさんって事務職員ですよね」
「あら、わたしもですよ?」
綿原さんの冷めたツッコミにマクターナさんは片手を口にしてワザとらしく驚いてみせる。『ペルマ七剣』が何を言っているのやらだ。
「……つまりわたしたちがこの依頼を受ければ、ミーハさんが楽をできるということですね」
「そう言っていただけると、とても助かります。ミーハもみなさんに感謝をすることでしょう」
それでも逆転の発想で、ポジティブ要素を綿原さんは見出した。というか、マクターナさんの誘導に乗ったってところか。
「今日と明日、ミーハが担当するのはみなさんとは別の区画ですが、明後日は休めそうですね」
ニコリと微笑むマクターナさんの背後に、俺は黒い何かを幻視する。
もう何度繰り返しただろう。俺は冒険者組合の事務にだけはなりたくない。
ああ、先生の瞳が暗く澱んでいる。
◇◇◇
「ミーハについてはこの辺りにしておきましょう。この件について組合の上層部も承知していますし、国軍にも話は通してあります。衛兵にとやかく言われることはありません」
修羅を引っ込めたマクターナさんは、根回しの完了を告げた。ミーハさんの扱いが有耶無耶にされてしまったよ。
迷宮への入り口と一階の階段には二十四時間態勢で衛兵さんが配置されているが、冒険者がどこに向かうかまでは確認していない。マクターナさんが付け加えたセリフは、本当に念のためってことだ。
「ありがとうございます、って言うべきなんでしょうね」
「みなさんは若いのにお行儀が良すぎです。たまには規則破りをして大人を困らせるくらいしても、罰は当たりません」
困ったようにお礼を口にした綿原さんに、マクターナさんは優しく微笑みかけた。
「せっかくの好意だ。受け取らせてもらおうよ。反対する人はいるかな?」
ここで会話に介入した委員長の言葉にみんなは黙って頷く。一部のクラスメイトは怯えた様子で。
これほど見事に準備をされてしまうと断りにくいよなあ。むしろマクターナさんには感謝するべきなんだろうし。
「ただし、わたしを助けに来てくれた時のような無茶は、無しにしてもらえると嬉しいですね」
「それは約束できません」
危ないマネをしてくれるなと言うマクターナさんに、綿原さんはノータイムで拒否を突き付ける。クラスメイトのほとんども、同調するかのように真剣な表情だ。
あの手の無茶は俺たちの十八番。マクターナさんには悪いけど、今更スタイルは変えられないよ。
「全く、みなさんは……」
ため息をひとつ入れたマクターナさんは表情を改めた。
「漏らす相手についてですが、わたしに任せてもらってよろしいですか?」
「はい」
マクターナさんからの確認に委員長がはっきりと頷く。
俺たちが異界から来た勇者で、現在聖法国に狙われている可能性があるという情報を伝える相手は、マクターナさんに一任する。
マクターナさんが信用する冒険者は、俺たちが信頼できる人たちだってことだ。
ペルメッダで最初に出会ったのは『オース組』だった。幾つかの経緯で知り合った『雪山組』『白組』『白羽組』『ジャーク組』『サメッグ組』『蝉の音組』『赤組』。『シュウカク作戦』でお世話になった『ときめき組』や『テッツ組』辺りは個人的に信頼できると思っている。
なんなら新体制になった『ニューサル組』だって……。いや、ハルス組長代理は信じられても、まだまだ組員が怪しいか。
「みなさんが『一年一組』を立ち上げてからまだ二十日と少しだというのに……、候補が多すぎて困ってしまいますね」
ほんの少しのあいだ天井に顔を向けて目をつむっていたマクターナさんは俺たちを見渡し、普段通りの朗らかな笑顔を浮かべてみせた。
◇◇◇
「やっと迷宮だな。いやあ、落ち着く」
ペルマ迷宮一層に降り立ってから一部屋移動したところで、大きく背伸びをした古韮が皮肉気に口元を歪ませる。
乳白色の壁や天井。複雑な段差と水路を伴ったチリひとつない床。白々しく壁際に配置された柱とガワだけの扉。装飾でしかない疑似的な窓から差し込む光。そして何より、地上よりも遥かに透明な空気。
ここは地上とは違うのだ。ただただ静浄な場所。
古韮の言うように、何故か心が楽になるんだよな。今回の場合、聖法国の件もあったのでひとしおだ。
クラスではすでにタブーともされている言葉を、俺は胸の奥に押し留める。
「まずは一安心、か」
「お家を出てから組合まで、ドキドキだったね」
「もう迷宮に住みたいくらいだよ」
「引きこもりみたいっしょ、それ」
「むしろ毎日がキャンプデス!」
クラスメイトたちもまた、古韮の言葉に同調したかのような発言を並べていく。
全く持って俺も同感だよ。
現状、俺たちにとって一番安全な場所とは『ペルマ迷宮の内部』にほかならない。
入り口がひとつしかなく、出入りについては組合と国軍によって厳重に管理されている。それこそ一層の一部でしか許されていない『水汲み』を含めて。
だから俺たちは迷宮にいる時間を二泊三日に引き延ばした。
もちろん少しでも多く階位を上げて、危機に備えておきたいというのもある。
魔獣が出るから危ない? 今更だ。世の中に人より怖いものなどいないというチンケなフレーズが正解であることを、俺たちはこの世界で心の底から思い知らされたのだから。
『入り口は信用できる者で固めておくから安心してほしい』
昨日、ウィル様はそう確約してくれた。
聖法国の狙いが俺たちの拉致だったとすれば、迷宮内で事を起こすのは難しい。抹殺なら話は変わるのだけど。
何しろ迷宮で俺たちを捕まえたとしても、国外脱出どころか王城から出ることすら難しいからだ。
かつてヴァフター一党に拉致された経験がある俺たちだが、アレは地上スレスレでの出来事で、しかも王城内に多数の敵方がいたから成立したケースでしかない。
ペルマ迷宮で同じことをやろうとしたら、衛兵と冒険者、組合職員をどれだけ誑かす必要になることか。
『話は聞いている。お嬢を頼む』
迷宮に入る時に衛兵さんから聞かされた言葉に嘘は感じられなかった。
俺たちの素性を知り、現状を認識してなお、お姫様の同行を咎めたりはしない。
居並ぶ衛兵さんたち全員からそんな態度を見せられてしまえば、こちらとしても気合いを入れる材料ともなる。
逃げ腰でここに来たのは半分だけにしておこう。俺たちは迷宮で強さを得て、地上に戻らなければならないのだ。
聖法国が何を企んでいたとしても、全てをアウローニヤ大使館や侯国、何より冒険者たちに任せっぱなしにしていいはずがない。
俺たちがケリをつける必要はどこにもないが、最低でも筋だけは通さなければ──。
「さてコウシ。感慨にふけっている場合ではありませんわよ?」
「ですね。『草樹陣』だ。行こう」
ティアさんの声に背中を押され、俺たちは九度目となるペルマ迷宮に挑む。
◇◇◇
「やっぱり薄いな」
「魔力はそこそこに濃いんだけどね」
俺の呟きをメガネ忍者な草間が混ぜっ返す。濃いのか薄いのか。
「魔力部屋まで行けばもっと出てくるでしょ。三か所だったよね」
「魔獣が増えないうちに小型がいてくれれば最高なんだけど」
石を浮かべた夏樹の声に書記の白石さんが頷く。
迷宮四層で『魔力観測隊』が捜索する区画は、俺たちにとっては微妙な場所といえる。もしくは痛し痒しかな。
観測隊には後衛職で柔らかい【捜術師】が組み込まれることもあり、魔力量の計測を実施する区画は基本、前日に冒険者が狩りを行った場所から選ばれている。
通常の魔獣の発生ごときで迷宮の魔力は目に見えて減ることはない。つまり魔力量の調査は魔獣を狩り終えた焼野原こそ、対象として望ましいってことになる。
つまりちょっと物足りないんだ。今のところは、だけど。
指定された区画に入って三十分程にもなるが、戦闘はまだ一度だけ。しかも牛が二体だったので前衛陣が瞬殺してくれた。
もちろん十三階位になった木刀ガールな中宮さんにトドメは回さない。【鋭刃】を封印した彼女は、生き生きと牛の足を砕いてくれた。
「立ち上がりとしては上出来だろ」
「うん、迷宮モードって感じになってきたよ」
古韮と野来の会話には精神的な意味でおおよそ納得だ。牛を解体している最中だからちょっとホラーだけどな。
聖法国という単語がこびりついていた頭を、魔獣の存在が書き換えてくれる。なんていう表現をしたらみんなが殺戮者みたいに聞こえるかもしれないが、それもまた現実だ。
野来が迷宮モードと言ったように、何かスイッチが入ったような感覚が確かに俺にもある。
「奥の方はわからないんでしょ?」
真面目ぶったロリフェイスで地図を覗き込んだ奉谷さんが、こっちに上目遣いを向けてきた。
「ああ。昨日ここを狩場にした『水滴組』は七割くらいで撤退してる」
「うーん、どこも大変なんだね」
写しの地図を手にした俺が答えると、奉谷さんは気難し気に腕組みをする。仕草がいちいちなあ。
ちなみに記録係の奉谷さんや白石さんが持っているのは『一年一組』の情報を書き入れるための所謂白地図で、俺が手にするのは『水滴組』の戦闘記録が記入されたバージョンとなる。
俺は昨日の情報を元に経路を決めて、結果は副官二人が記載するって形だな。
魔力の異常に伴う魔獣の増加に合わせ、組合は狩場の設定を細かめに切り替えている最中だ。
さすがに毎日とはいかないが、三日に一度は区画が更新されている。これがWeb小説なら断然毎日更新が望ましいのだろう。
さておき、俺は撤退という言葉を使ったが、マクターナさんから許可を得て写させてもらった『水滴組』の戦闘詳報からするに、むしろ切り上げたと言った方が正しい。
迷宮はバトルジャンキーが暴れるための場所ではないわけで、冒険者は素材を地上に持ち帰ってナンボだ。つまり『水滴組』は狩場を踏破する前に目標量の収穫を得てしまったということになる。
帰り道で魔獣に遭遇する可能性も高いのが昨今の四層なので、ある程度の余裕は持たせていたかもしれないが、それでも大漁を祝う展開だよな。
「さすがは『水滴組』だよ」
「そうなの?」
「帰り道で戦った魔獣は四体だけだ。ちょっとした遠回りが上手い」
「凄いんだね」
感心を素直に口にした俺に、奉谷さんは腕を組んだままうんうんと頷いてくれる。
『水滴組』は『シュウカク作戦』でマクターナさんやサメッグ組長たちが遭難した時に、『一年一組』と『テッツ組』が共闘した隣の部屋で戦っていた組だ。
すなわち、栄えある突入部隊に選ばれた十三組のひとつである。俺たち『一年一組』がイレギュラーだとすれば、ペルマのトップ十二の中に入るくらいの評価を得ているってことだ。
こうして戦闘の記録を見るだけでも、なんというか……、そう、引き際が鮮やかなんだろうな。
俺たちはこれから、そのおこぼれを拾いにいく。奥まで行けばそれなりに手ごたえがありそうなのが待っているだろう。
「準備できたぞ八津。やっぱり迷宮の方が、わかりやすくていいな」
「おう。もう少しで魔力部屋だ。昨日は凄かったみたいだぞ」
陽気な古韮のセリフに、俺は半笑いで返すのだ。
◇◇◇
「夏樹、神剣は持ったな?」
「うんっ。頼むよ、『バクヤ』」
俺の声に答えた夏樹が手元の神剣に語り掛ける。いいよな、武器と会話するのって。
こっちも頼んだぞ、一時限定だが俺の『アメノムラクモ』。
到達した魔力部屋にいたのは七体のヒヨドリだった。
昨日ここで『水滴組』は三体の馬と五体のサトウキビ、四体のトウモロコシに遭遇し、殲滅に成功している。そんな部屋にちゃんと魔獣が補充されていて、しかもそれがヒヨドリときた。
「美味しすぎる」
「油断は……、八津くんはそういうタイプじゃなかったわね」
俺の呟きを拾った綿原さんは、対ヒヨドリ用の白いサメを浮かべながらモチャっと笑う。
随分と信用されているみたいだけど、俺ってそんなにやり手な冒険者じゃないと思うんだけどなあ。
ともあれヒヨドリは四層で唯一、【身体強化】を持たない後衛職でも手早く倒せる有難い魔獣である。
ついでにヤキトリとしても美味しい。ダブルでお得なのだ。
ヒヨドリはあまり移動しない魔獣でもある。部屋に入れば当然襲ってくるが、こうして隣の広間で相談事ができるくらいには大人しい。
探知範囲が狭いのか、それとも察知していても動かないのかは不明だが、魔獣の考えなんてわからないし、こちらとしては行動様式を知っているだけで十分だ。
「馬那、頼んだぞ」
「おう」
今回の戦闘では寡黙な【岩騎士】の馬那が俺の専属護衛だ。
「よろしくね、佩丘くん。僕はトドメに集中するから──」
「上は気にすんな。絶対に守ってやる」
「うん!」
で、夏樹の専属は【重騎士】の佩丘。
佩丘め、俺と夏樹で態度が違いすぎるだろ。
「なんか悔しいデス」
「わたくしもですわ」
ミアとティアさんが揃って無念そうだが、地味でも重要な役割があるのだから我慢してほしい。
ヒヨドリを後衛職に食わせるためには基本二手が必要だ。地面に叩き落とすのと、そこからの無力化だな。
一手目を担当するのは先生の拳、中宮さんの木刀、疋さんのムチ、藤永の雷水膜、海藤のボール、そして綿原さんの白いサメとなる。それ以外のメンバーは受けるか避けるかだ。
一部二手目も同時並行できてしまう人も混じっているが、当然お任せする。
ミアの矢は一歩間違えばクリティカルになるかもしれないし、ティアさんの悪役令嬢パンチも加減が難しいので、今回はご遠慮願う。ダブルメイスの春さんやステルスアタックの草間もしかりだな。
夏樹の石も撃墜には向いているのだが、今回はトドメに集中してもらうことになっている。
「ゆっくりしてたら追加の客がくるかもだぞ」
「だな。行くぞ!」
古韮に急かされ、俺はヒヨドリの待つ広間に突入──。
「待ってよ八津くん。【身体補強】がまだでしょ!」
副官奉谷さんが俺を呼び止めた。
ああ、周囲の視線が厳しすぎる。悪かったって。
◇◇◇
「罠は無し!」
先頭で魔力部屋に駆け込んだ俺は、真っ先にトラップの有無を確認する。
それを聞いた仲間たちが、俺を追い抜かすようにして続々と広間に展開していく。
部屋の中央には撃墜部隊プラス二名が等間隔で円陣を組んでヘイト取りを狙い、斥候が可能な草間、春さん、ティアさんは壁際を走り抜けて三か所ある扉の警戒に向かう。
それ以外のメンバーは後方に待機して様子見だ。夏樹と俺もこっち側となる。
「八津、ここでいいか?」
「バッチリだ」
「そうか」
体勢を低くしてヒヨドリが急降下していく光景を見る俺に、至近距離から馬那が声を掛けてきた。
ちょうどいい感じの斜めうしろっていう辺りがわかってる。
夏樹は下を向いてトドメに集中してくれて構わないが、戦況を見守るのも俺の役割だ。【視野拡大】をフルに活用してヒヨドリを倒すのと戦域を観察しなければいけない。
それを承知している馬那は、だからこそ俺の前には出ないのだ。イザとなればニョキっと盾が突き出されるだろう。当たり前みたいにそういう位置取りをしてくる『一年一組』最高レベルの『盾』が実に頼もしくて、心がアガる。
俺もチョロいもんだ。
「深山っち!」
「ウン」
撃墜第一号は藤永による電撃スタンだった。
攻撃班に後衛職として唯一紛れ込んでいた冷徹なる深山さんが、すかさず神剣『ムラマサ』を振るう。
藤永・深山ペアは、対ヒヨドリにおいてクラス最速の無力化を誇る。タッグを組むと一足す一が三とか四になるって、いいよな。
でも俺だって綿原さんと組んだら凄いから、嫉妬なんてする必要はない。場面次第ってことだ。
「あぁぁい!」
「しぇあっ!」
馴染みとなった奇声が広間に響く。
先生は飛来したヒヨドリを普通に引っ掴み、当たり前みたいに羽をもいで角を折る。後半ができる前衛職は多いだろうけど、手で捕まえるのは至難の業だ。
対する中宮さんは一瞬で木刀を二度揺する。一撃目で獲物にダメージを入れつつ動きを止めて、追撃で角が飛ぶ。
素晴らしいのは、二人とも単独で無力化しちゃうところだな。
「練習の成果ね。どっらぁぁ!」
綿原さんも神業を使うメンバーに負けてはいない。
二匹のサメで敵の翼を削りつつ盾で受け止めてから、流れるようにメイスが叩きつけられる。身内で『綿原スタイル』と呼ばれる戦闘法だ。
熱湯を操る笹見さんも練習してはいるのだが、綿原さんの領域には達していない。
メガネクール美少女は、どこまで強くなる気なんだろうなあ。
「ミアっ!」
「ガッテンデス」
そんな綿原さんが叩き潰したヒヨドリの処理をするのはミアの役目だ。
さっきは不満そうだったのに、今は嬉々として綿原さんに従っている。あの二人も仲良しだよな。
「えいっ!」
「ありがと、孝則くん」
ヘイトが逸れてこちらに飛んできたヒヨドリを盾で受け止め【風術】で押し返した野来の姿に、白石さんがメガネ越しの熱い視線を送る。ごちそうさま。
『一年一組』でヒヨドリ相手に護衛が必要なメンバーは、実は少ない。
聖女な上杉さん、ロリっ娘の奉谷さん、歌い手の白石さん、そして栗毛の深山さんくらいのものだ。深山さんは前に出てるのだけど、藤永の対ヒヨドリ性能が高いのでそこは問題ない。
それぞれ護衛は上杉さんには聖女信徒の古韮、白石さんは非公式婚約者の野来、そして奉谷さんの前にはメーラさんが立っている。
そう、周辺警戒に走ったティアさんと、奉谷さんを守護するメーラさんは完全な別行動をとっているのだ。
余裕のある戦況とはいえ、クラス全体を守ろうとしてくれるメーラさんと、それを推奨するティアさんの存在がありがたい。二人とも、いい意味で馴染んできたよなあ。
付け加えるなら柔らかグループという意味では俺と夏樹も護衛対象で、実際に守られている最中だが、この措置はトドメに専念するためでしかない。
ヒヨドリ単体が相手なら俺は【観察】で、夏樹は【石術】で単独でも対応可能だったりする。
「いやぁ、凪には感謝しかないっしょ」
ムチでヒヨドリを捕まえた疋さんが綿原さんを讃えつつ、『エクスカリバー』を使って羽を切り飛ばす。【魔力伝導】で相手が弱っているとはいえ、器用なものだ。
こちらも単独で無力化まで持っていける強力なユニットだったりする。頼りになるよ、本当に。
「サメヒヨドリ様々、だなっ!」
海藤の白球がヒヨドリに直撃したが、地面に落とすまでには至っていない。速度を落としたコントロール重視ってところか。
よくもまあ、あの速さで飛ぶヒヨドリに当てることができるものだ。
クラスメイトたちがここまで華麗に対応できているのは、疋さんと海藤が絶賛したように綿原さんのヒヨドリ芸のお陰でもある。
昼夜を問わず、暇さえあれば繰り返してきた練習だ。一対一ならウチの連中がヒヨドリに後れを取ることはない。
「はい、夏樹クン」
「そっちいったわよ」
「アタシからのプレゼントってねぇ~」
「凪とワタシの合同作業デス」
「落ち着いて捌いてください」
深山さん、中宮さん、疋さん、ミア、そして先生から投げつけられ、もしくは蹴り飛ばされたヒヨドリが夏樹の前に集まっていく。
「うわあ。いっぺんに寄越さないでよ」
ほれほれ夏樹、女性陣からの心のこもったプレゼントだぞ。
ぐずぐずせずにトドメを刺すんだ。
設定の勘違い(【遠隔化】について)が発覚し、次話の文章を全面的に書き直すことになりました。申し訳ありませんが次回の投稿は三日から四日後を予定しています。
詳しくは活動報告もしくは近況ノートをご覧ください。




