第593話 信じて頼ることのできる人たち
「なんか、申し訳ないよね」
「気が引けるよな。せっかく仲間になったのに」
「だけど、アウローニヤからの情報だ。筒抜けはまずい」
談話室にクラスメイトたちの声が響く。
聖法国への対応を話し合ったベルサリア様とウィル様、そしてスメスタさんが立ち去ってから数時間。
普段通りに夕食、運動やら相談、そして夜風呂を終えた俺たちは、手紙の朗読会を開催しようとしているところだ。
『妹をよろしく頼むよ。僕は僕にできることをする』
辞去する時にウィル様が言った言葉だ。できること、か。
ダメ元だと思いつつもティアさんに一時避難を提案して蹴られたウィル様は、むしろ気合を入れ直していた様子だった。
俺たちより余程ティアさんの気性を知っているのだ。それでも確認せずにはいられなかったんだろうなあ。
妹の意志を尊重してあげたいっていう姿勢は、俺も見習わなければならないものだと思う。
「とっとと読んじまえや」
「だったら佩丘が朗読すればいいじゃないか」
ムスっと腕を組む佩丘に海藤がじゃれつく。恒例のパターンではあるのだけど……。
「……俺はそういうのに向かねえんだよ。わかってて言うな」
どうやら佩丘はティアさんとメーラさんが『この場にいない』コトを本気で気にしているようだ。妙なところで人情派なんだよなあ。
大使館から荷物が運ばれてきたということは、アウローニヤからの便りの到着も意味する。
案の定という程でもなく、荷車の底には当たり前みたいに手紙が隠されていた。
ティアさんとメーラさんが冒険者として『一年一組』に加わったことは五日前に送った手紙に書いてある。文面を担当した白石さんと野来が大苦戦していたっけ。
もちろん今回アウローニヤから届いた手紙は女王様がそういう前提を知らない上でのものだから……、うん、次回が怖い。
『事情は理解しましたわ。わたくしとメーラは私室に引き上げましょう』
ついさっき、俺たちはティアさんたちに定期便について説明した。
語りの多くは悪役令嬢担当の中宮さんがして、所々で藍城委員長が言い訳っぽい解説を入れるという形だったけど、ティアさんはあっさりと納得してくれたようだ。
こちらからアウローニヤへの手紙にはペルメッダに都合の悪いだろう情報、正確に言えば俺たちでは判断しかねる内容は書かないように気を使っている。旧ペルメール辺境伯と魔族の関係とか、ニューサルの処遇とかだな。
そういうのはラハイド侯爵夫妻やスメスタ大使を擁したアウローニヤ大使館がやってくれるだろう。
要するに俺たちはあからさまなスパイになりたくないだけなのだ。アウローニヤ、ペルメッダの両方で。
これってズルい考え方なのかな。
代わりに俺たち自身の冒険譚は漏れなく記載しているつもりだ。
その中にはアウローニヤ流民についても登場するのだが、あの女王様はどう思うんだろうな。あれ? ティアさんたちが冒険者になった情報はそろそろあちらに届く頃だろうけど、流民について女王様はとっくに知っているはずだ。
『アウローニヤ流民救済事業』について、ベルサリア様は独断と言っていたし、たぶんそれは本当だろう。
つまりベルサリア様は言葉を交わしていなくても、妹さんが好みそうで、忙しさで手を回せていないコトに対応したってことか。なんか羨ましいな。
「言ってもいい部分だけ伝えたいから、委員長と美野里ちゃんで判断してもらえる?」
「そうだね。仲間外れはやっぱり良くない」
「責任重大ですね」
ロイヤルな姉妹愛はさておき、これからの朗読会ではひと手間を加えることが、ロリっ娘な奉谷さんからの提案で決定された。
読み上げ自体はすっかり白石さんの選任だけど、伝えてもいい内容をティアさんとメーラさんに話す係に奉谷さんが名乗りを上げたのだ。情報の取捨選択は委員長と上杉さん。もちろんほかのメンバーだって気になる部分には口を出す。
で、当人たちにはまだ伝えていないが、朗読会が終わったらティアさんたちを女子部屋に連れ込むのだとか。
一年一組のこういうところが、俺には眩しいんだ。
◇◇◇
「いけないことではあると思いつつ、いつかまた皆さまと迷宮を共にする日を夢見てしまっています。……おしまい」
手紙を読み終えた白石さんだけど、いつもみたいな涙は無い。
いや、後半に泣かせる箇所もあったから、目の端が赤くなっている連中が何人かはいる。
だけどなあ──。
「……ティアさんへの恨み節だよな」
「そうね。次回の手紙、どうなるのかしら」
俺の呟きに肩のサメをへにょらせた綿原さんが答えてくれた。相変わらずの感情表現器だなあ、そのサメ。
手紙にはティアさんに伝えることができないだろうアウローニヤの情勢なんかがいくつかあったが、そこは委員長や上杉さんが判断すればいい。
だけど、リーサリット女王がティアさんを羨ましく思っているのがあからさまなのを教えるのは……、どうなんだろう。
「全く伝えないというのもなんだし、マイルドに。どうかな?」
「わたしには何とも」
困り顔な委員長の提案に、上杉さんは小首を傾げて曖昧に頷く。半分逃げの態勢だな。
ちなみに手紙には聖法国の暗躍についての記載は無かった。
これについては荷車と一緒に送られてきた定期便と、急報とのタイムラグなんだろう。とはいえ、あの女王様ならもしかしたら楽しくない内容だからと書かないかもしれない。旧宰相派を追い詰めるような腹黒い手口は嬉々として教えてくれるのだけど。
ちょうど今、ペルメッダにラハイド侯爵夫妻がいたのは、女王様にとって渡りに船だったんだろうなあ。
「ガラリエさんとシャルフォさんが十三階位か。接待だったんだろうけど、体裁は大切だよな」
煩悶する委員長の方を見向きもせずに、古韮が陽気な声を上げる。
怪物女王の思惑はさておき、白石さんが読み上げた手紙の中でクラスメイトが一番沸いたのがソコだったのだ。
二週間くらい前にアウローニヤの王都に帰還した十一階位の二人は、怒涛の勢いで迷宮に入っていたらしい。この手紙が届くのに四日くらいは必要だったはずなので、十日でレベルを二つも上げたってことになる。
現状のアラウド迷宮は四層の群れを掃討する方向で動いているのは知っていたが、獲物に事欠かなければこうもなるか。
ガラリエさんは【翔騎士】で、シャルフォさんは【強剣士】という前衛職。接待としてラストアタックに集中すればレベルアップはそう難しくない。
ガラリエさんは正式名称はうろ覚えな迷宮なんちゃら戦隊『緑風』の戦隊長で、シャルフォさんは前衛の統括だ。犯罪者上がりで十三階位のヴァフターは二人の下につく形になるので、古韮の言うように体裁上十三階位が望ましい。
手紙によれば今のヴァフターは大人しくしているようだし、ガラリエさんともちゃんと意思の疎通ができているのだとか。
これにて爵位と階位という点で、ガラリエさんは名実ともに『緑風』の戦隊長に相応しい存在となったのだ。
だがしかし、『緑風』には──。
「アヴェステラさんが十一階位で──」
「女王様が十二階位、なのね」
俺の言葉に綿原さんが付き合ってくれる。彼女が呆れた様子なのは、俺に向けてのものではない。
どうやら女王様とアヴェステラさんは『緑風』の迷宮泊に、護衛のミルーマさんを引き連れて同行したらしいのだ。
五百年前は知らないが、第三王朝となるレムト王家では史上初となる王族の迷宮キャンプである。妙な方向で歴史に名を遺したなあ。だって手紙にはアウローニヤの国書に記載するって書いてあったし。
もちろん同行者としてミルーマさんの名前も並ぶだろうから、これまた『紅忠犬』としては大満足のはずだ。
で、十一階位になったアヴェステラさんは【遠視】を取ったらしい。この辺りはティアさんに教えてはダメな情報だ。階位は公表されるからいいんだけど。
さておき、これでアヴェステラさんは、俗に勇者セットと呼ばれる【平静】【痛覚軽減】【睡眠】に加え、【思考強化】【集中力向上】【反応向上】【視覚強化】【聴覚強化】そして【遠視】を持つこととなった。
元から取っていた【疲労回復】と【体力向上】も忘れてはいけない。アヴェステラさんは長時間行動も得意分野なのだ、
「普通に迷宮に泊まることができる指揮官兼斥候かあ。しかも伯爵で内務卿……。アヴェステラさんはどこを目指してるのかな」
「帰還へのヒントでしょ。そこは感謝しないと」
「ごもっともだ。だけど女王様は……」
「どうして国の頂点が【痛覚軽減】なのかしらね」
俺と綿原さんは肩を竦め合う。
そう、十二階位を達成した女王様は【痛覚軽減】を取得したのだ。というか候補に出てたんだな。
綿原さんと言葉を交える必要もなく、理由は明白である。リーサリット女王は勇者セットをご所望なんだ。あの人はすでに【睡眠】を持っているので、十三階位で【平静】を取るんだろう。
あの女王様に【平静】が必要とはとても思えないんだけど。
アヴェステラさんとは別の意味で凄い方向性だよ、まったくもって。
「じゃあ、ティアさんたちに声掛けてくるねっ!」
「おやすみ、男子!」
メモをまとめ終わったらしい奉谷さんが春さんを伴い部屋を飛び出していく。
こちらからの気遣いをティアさんは喜んでくれるかな。それとも内容を聞いて女王様へのライバル心に燃え上がるかもしれない。
すでに俺たち自身の個人的な情報がティアさんにバレるのは諦めている。というか、そういう部分ではむしろ明け透けだ。
俺たちが突発的に使う日本語も都度誰かが解説しているし、なんなら山士幌での生活や将来の夢だって語ることもある。
誰かの言葉一つでこの世界に知識チートを撒き散らす可能性はあるが、それを言い出したらアウローニヤ時代のシシルノ教授との会話こそが正にソレとなる。今更なんだよな。
「俺たちも引っ込もうぜ。衛兵さんには申し訳ないけどな」
「止めろ。寝るのが気まずくなる」
伸びるようにして立ち上がった田村の減らず口に、馬那が眉をひそめる。
実は今日から俺たちの拠点がある高級住宅街は侯国軍による警邏が厚くなるのだ。とくに夜間の巡回が。
言うまでもなくウィル様による聖法国への対応なのだが、拠点の正門には敢えて衛兵を置くことはしていない。
何しろ相手が何をしてくるか、わかったものではないのだ。
たとえば近場の住宅に火を付けそっちに人員が割かれた隙に、なんてこともありえる。
よってウィル様はエリアごとの守備を選んだ。『一年一組』が迷宮の時は、引き続き冒険者に拠点の警備をお願いすることも決まっている。
要はこれまで通りを装うってことだ。
『リンとメーラがいなくても、こうしていたよ』
なんてイケメン王子はイケメンなコトを言っていたけど、本当のことなんだろうなあ。
「【睡眠】があって、ほんと良かったっすよ」
弱気でチャラ男な藤永が本気でそう思っているのは理解できる。
同意だよ。俺が【安眠】持ちで申し訳ないくらいだ。
◇◇◇
「お邪魔しマス!」
「やあ、おはようさん。注文されたのは、全部仕上がってるよ」
元気に扉を開けたミアを、パーフおばちゃんが出迎えてくれる。
ああ、おばちゃんが笑顔で良かった。
ベルサリア様とウィル様からいい話と悪い話を聞かされた翌朝、俺たちは装備を受け取るために外市街にある『スルバーの工房』を訪れている。
「今日は随分と大人数だねえ」
パーフのおばちゃんは扉を潜る俺たちを見て呆れた様子だが、それも仕方ないだろう。
今日ここに来たメンバーは『装備班』の海藤とミアに加え、滝沢先生、委員長、佩丘、野来、疋さん、春さん、田村、そして俺を合わせた十名。俺と田村以外は前衛職ばかりだ。
ウィル様から魔族の話を聞き、帝国の手先を殲滅したのもあって、最近の俺たちは三班行動を採用していた。
組合事務所に赴く班、拠点の警備依頼や装備関連を担当する外市街班。食べ物を筆頭にした掘り出し物を探すのは両方の班がやっている。そして拠点に居残る留守番組。表現を変えれば拠点防衛班ってところか。
だが今日からは状況が見えてくるまで二班で行動すると、『一年一組』は決めた。情報収集と買い出し関連を担当する外出班と、拠点班のふたつだ。
外出班は人数を増やし、対応力や戦闘力の高いメンバーが選ばれる。今回はヒーラーとして委員長と田村、斥候は俺、春さん、疋さん。
本当はメガネ忍者の草間にも来てほしかったのだが、アイツは拠点を担当してくれている。本当に俺とは別行動になっちゃうんだよなあ。
「……事情はお聞きに?」
「さっき知らされたよ。アンタらも大変だねえ」
「こちらこそ、申し訳ありません」
カウンター越しに先生とパーフおばちゃんが小声でやり取りをする。
コトがコトだけに、組長にして年長者の先生が率先して謝罪をすることになっていたのだ。本気で申し訳なさそうにしている先生だけど、おばちゃんは手をヒラヒラさせておおらかに流してくれた。
俺たちを拉致する手段のひとつとしてウィル様が挙げたのは、人質だ。
ではこのペルメッダにおいて俺たちに対する人質となり得る人はどれくらいいるだろう。答えはたくさん。
ただしその大半は冒険者であって普通に自衛ができてしまう上に、もしも手出しをすれば組合が敵に回る。聖法国が余程の間抜けか世間知らずでもない限り、冒険者を人質にしようとは考えないはずだ。
およそ出国することすら難しくなるだろう。
組合の事務職員さんたちはほとんどが王城の宿舎に住んでいて、通いは少数。スメスタさんにはアウローニヤ大使館の専属護衛が付いている。
侯王様をはじめとする侯爵家の皆さんなんて、言うまでもない。
といった感じで人物リストに横線を引いていった結果、唯一残されたのが、ここ『スルバーの工房』だった。
職人を固定するっていう冒険者の流儀が裏目に出た形だな。ましてやここは『外市街』なので、賊の侵入には弱い立地だ。
ちなみに食料品や衣類などは常に新規開拓に励んでいるので、幸か不幸か完全に馴染みといえるような相手はいない。
「よう、偶然だな」
「あ、こんにちは、フィスカーさん。その剣、新しくしたんですね」
店内に目を向けた俺に話し掛けてきたのは『オース組』のフィスカーさんだった。
入店した時点でもちろん気付いてはいたのだけどな。
先客だったフィスカーさんたち旧『黒剣隊』の六名は、それぞれ棚を見たり壁際で雑談をしている。
「組合持ちだからな。遠慮なく仕上げてもらったさ」
「やっぱりフィスカーさんは大剣ですよね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今日は慣らしで、明日には迷宮再開だ」
先日の『シュウカク作戦』で失われたフィスカーさんの大剣は、ピカピカの新品となっている。
さすがは『スルバーの工房』だ。仕事が早い。
ところでなんだけど──。
「芝居がヘタだねえ。あんたら」
「全くだ。堂々と構えていればいいものを」
俺とフィスカーさんの会話に、パーフのおばちゃんと槍を二本抱えて登場した工房長のオスドンさんの声が被る。
そっかあ、俺の演技は現地の人から見てもダメダメなのか。ついでにフィスカーさんも。
棚を見ていたシェリエンさんやピドットさんも笑ってるし、仲間なはずの疋さんや春さんもだ。畜生め。
「夜は『サメッグ組』に交代だ。ゆっくりやらせてもらうさ」
俺に向かってニヒルに笑うフィスカーさんの口調は、今度は素のままだった。
フィスカーさんたち六名は、『スルバーの工房』の警備役としてここにいる。
昨夜の内にスメスタさんがアウローニヤ大使館名義で組合に指名依頼を出して、今朝から『オース組』がここを守ることになったのだ。旧『黒剣隊』であることまでは知らなかったが、彼らのブーツの踵部分に小さく目立たないように『緑の線が二本』ある。
「お手数をお掛けします」
「なあに、俺たちは冒険者仲間だろう? 手弁当でもなし立派な依頼である以上、それは仕事だ」
頭を下げた委員長にフィスカーさんたちは豪快に笑って返す。
確かに仕事ではあるけれど、エース部隊を地上に縛り付けているのだ。申し訳なさに頭が上がらない。
内市街を巡回する衛兵を増員するのは可能だが、外市街までは手を回しにくいというのがウィル様の言葉だった。
ピンポイントでこの工房だけを守ることは不可能ではないが、それでは如何にも目立ってしまう。もしも聖法国が『スルバーの工房』と俺たちの関係を知らなかったとすれば、逆にヒントを与えることにもなるし。
そこで冒険者たちに頼ることになった。
アウローニヤ大使館もしくはペルメッダの王城から組合を通した正式な依頼として、交代しながら二十四時間、数名の冒険者が目立たないようにして工房に詰めるという寸法だ。
依頼料金はアウローニヤとペルメッダからの持ち出しだから、俺たちの財布は痛まない。それがまた心苦しいんだよなあ。
図らずも冒険者を通じて経済振興に貢献だなんて委員長は冗談を言ってたけど、そういう図太さが羨ましいよ。
「で、アンタらはこれから潜るんでしょ?」
「うんっ。ハルも十三階位が近いんだよね!」
「そりゃ凄い。黒髪仲間として嬉しいね」
染めた黒髪の靡かせるシェリエンさんとタメ口で話す春さんは今日も元気一杯だ。
俺も十二階位を達成しないとだな。
◇◇◇
「昨夕、事情は伺いました」
昼過ぎ、拠点で昼食を終えた俺たち『一年一組』二十四名は、最早定番となった組合事務所の第七会議室でマクターナさんと話し合っていた。
「非公式ではありますが、信頼できる筋からの情報です。組合は本件を冒険者への敵対行動に発展する可能性を持つ事案と判断しました。組合長と副組合長から裁可をいただき、わたしが専従となります」
滑らかに語るマクターナさんだが、いつもの朗らかな笑顔はそこにない。
むしろあの圧が微量だけど漏れ出しているくらいだ。怖いよ。
「アウローニヤ大使館から『オース組』に出された緊急の警備依頼については、非公開とされました」
「それを『オース組』は──」
「快諾してくれましたよ。もちろん『サメッグ組』も」
委員長のセリフを遮ったマクターナさんは、その瞬間だけ誇らしげな笑みを浮かべてから、再び真顔に戻った。
冒険者に出される指名依頼は金銭と貢献点だけではなく、目に見える実績にも繋がる。よって公開されるのがデフォルトで、非公開となることはそうはない。
依頼を出す側からしてみれば、誰がどのような仕事をこなしてきたかを確認できる重要な資料なので、閲覧が可能なのが通常なのだ。
そう、工房の警備が厳重になっているという情報を表に出さないために、『オース組』や『サメッグ組』は、自分たちの実績を伏せることに同意してくれた。
「ぐすっ」
「大丈夫? 碧ちゃん」
「うん……。うん」
メガネを外した白石さんが目元を拭い、野来が励ます。
まったく、マクターナさんは冒険者たちと結託して、俺たちを泣かせにきているのだろうか。
たくさんの人たちが確定もしていない脅威から俺たちを守ろうとしてくれている。
異世界に来てからこちら、信じて頼ることができる人が、こんなにも増えたんだ。
「同行したいところですが、わたしは地上で組合職員と冒険者たちを洗います。リンパッティアさん、メーラハラさん」
「お任せあれですわ!『マクターナ』。あなたの力量をわたくしは信じていますわよ」
真面目顔なマクターナさんに、ティアさんは邪悪であれども、どこか嬉しそうな笑顔で返す。
ライバルっぽいノリを見せていた俺たちの専属担当と新たな仲間となった悪役令嬢は、この危難を受けて和解に向かっているようだ。皮肉なものだよな。
「では計画書の最終確認をさせてください。変えたのではありませんか?」
「バレてましたか。こちらです」
マクターナさんの問いに答えて、肩にサメを乗せた綿原さんが昨晩書き直した計画書を差し出した。
そう、俺たち『一年一組』は、今から『二泊三日』の迷宮泊を敢行するのだ。
次回の投稿は明後日(2025/12/09)を予定しています。




