第581話 作戦は終わる
「感動の再会のところ悪いのだが、儂らの無事は祝ってもらえないのかな?」
ここまで黙って俺たちとマクターナさんのやり取りを眺めていたサメッグ組長が、一段落したとみたのか、ここで踏み込んできた。
比較をしていたつもりはないけれど、付き合いの深さはやっぱりあるし、サメッグ組長は好感度マウント合戦でアレだったのがなあ。まあ、マクターナさんも参戦していたけど。
とはいえ『サメッグ組』が無事だったことも喜ばしい。もちろんこれまで接点が無かった『雷鳴組』や『第一』だって。
「『サメッグ組』が無事で良かった、です!」
「そうか、そうか」
クラスを代表してロリっ娘な奉谷さんが喜びを露わにすれば、サメッグ組長はデレデレだ。
いくらウチの最終兵器が投入されたからとはいえ、チョロすぎないだろうか。おじいちゃんと孫みたいな年齢差なのは認めるけれど。
「俺たちも到着してから間もないんだ。『一年一組』は僅差だったということだな」
「無理を言ってすみませんでした」
「それはもういい。実行を許可したのは俺だ」
俺たちがお互いの無事をひとしきり祝ったところで、グラハス副組合長との会話だ。とりあえず謝る俺に副組合長は手をヒラヒラさせながら、責任の所在までも含めて終わったことだと言い切ってくれた。
タッチの差だったというのは、近くで『白組』が戦っていたことでも想像できる。
これだけの数の冒険者が集まっているのだ。要救助者を確保したなら、安全のために周囲の掃討は当然だろう。
「さて、個人的には魔獣を狩り尽くしたいところだが、これは明確な事故だ」
副組合長の言うように、マクターナさんたちを救出することが最優先となった時点で『シュウカク作戦』はすでに失敗している。
となれば、ここから冒険者が取るべき行動はひとつしかない。
「目指すべきは作戦目標の達成ではなく、損耗を抑えた撤退。いいな?」
周囲に聞かせるような副組合長の発言だが、その目は俺に向けられたままだ。
ここにいるのは俺たちを除けばベテランばかり。さっきのマクターナさんといい、どうして俺は矢面に立たされているのだろう。
だが、ここは迷宮だ。ましてや話題が今後の行動である以上、迷宮委員として俺か綿原さんが対応するのが筋か。
「そこでヤヅに相談だ。お前の指定した要所に『槍列組』と『ときめき組』を置いてきてある」
「はい」
ついには名指しされたので、俺はもう副組合長とタイマンを張るしかない。
『槍列組』は突入部隊に選ばれた十三の組のひとつで、『ときめき組』と同じく兵士上がりの集まりだ。
戦うところを見たことはないが、戦列を使った防衛戦には向いているんだろう。『ときめき組』については今更言うまでもない。
「二つの組と合流しながら撤収する。こちらは装備を喪失している者もいるので、魔獣との戦闘は最小限に抑えたい。経路選定を頼めるか?」
「やらせてください」
大きな口を叩いて遅参した俺に、それでもグラハス副組合長はルート選択を依頼してくる。これに応えないでどうするか。
俺は食い気味に了承した。
「ヤヅの引いた線は適切だった。あれがあったからこそ、俺たちは遭難者を救い出してここにいる。もちろん『一年一組』も」
「……ありがとうございます」
ワイルドな風貌をしているのに、なんでグラハス副組合長はここまで気を回してくれるんだろう。いやまあ、顔と気配りが一致するとは限らないにしても。
神授職や技能がある世界だからといって、まだ十五歳の子供の能力を買ってくれて、責任は自分で被る。
しかもフォローの言葉まで贈ってくるなんて……。
なんか、周囲の冒険者たちどころか、身内からまで生暖かい視線が飛んできているのは気にしないでおこう。
「さて、儂らは素材をまとめておくとしようかな」
妙な空気の中、ちょっと白々しさを感じる棒読みセリフを放ってから、サメッグ組長が率先して散らばるトウモロコシを束にしていく。
本来ならば素材なんて完全放棄するのが事故った時の定石だが、これだけのメンバーが揃っているなら帰り道も、まあ問題ないとは思うけど……。副組合長は黙ってスルーか。
「あの、いいんですか?」
「なあに、行動に支障をきたさない程度だ」
規則に厳しい副委員長の中宮さんが訝し気に確認するが、サメッグ組長はどこ吹く風だ。
「いいから『一年一組』は休憩と魔力を回復しておけ。【魔力回復】と【魔力譲渡】がウリなんだろう?」
グラハス副組合長が単独行動を認めさせるために俺の使った言葉を口にすると、広間のあちこちから笑い声が上がる。
こうして茶化せる状況になっていること自体は大歓迎だし、少しくらいのピエロなら受け入れよう。
なるほど、サメッグ組長が素材回収を言い出したのって、稼ぎ以外にも俺たちを休ませるって意味もあったんだ。
この場における最年長にして『七剣』の一人が敢えてっていう辺りがズルい。
「落とすよ? 八津。副組合長さんもだね」
俺が妙な感心をしているところに、温水球を二つ浮かべた【熱導師】の笹見さんがやってきた。
彼女はこちらの返事を待たず、俺とグラハス副組合長の頭上で術を解く。直後、ザバっとお湯が降ってくるが、熱からず冷たからずという温度設定が小憎らしい。
「ああ、ありがとう。みんなにも──」
「アンタ以外は水路さ。魔力を使わないようにってね。特別待遇の八津は頭を回すんだよ?」
考え足らずな俺の言葉を遮って、笹見さんはさっさと水路に向かい、クラスメイトもそれに続く。
マクターナさんたち一部の冒険者も顔を洗っている最中だ。サメッグ組長は革鎧にこそ返り血が付いているが、顔は奇麗なままなんだよな。どんな戦い方をしてきたのやら。
「ははっ、迷宮で頭から湯をかぶったのは初めてだ。『一年一組』は芸達者の集まりだな」
懐から取り出した布で乱暴に顔を拭いつつ、副組合長が笑う。
迷宮は気温が二十度くらいで均一だ。水路の水もそこそこに冷たい程度だから、なにもお湯でなければならない理由が見当たらないんだよな。
ピュラータさんのような【熱術】使いが迷宮に潜ることは珍しくないが、顔を拭くために魔術を行使するという感覚が冒険者にはないのだろう。
迷宮泊で風呂に入る一年一組が、どれだけ異常かってことだ。
「さあヤヅ。必要な材料は?」
「重要なのはどこでどれくらいの魔獣を倒してきたかです。予想じゃなく、実情に合わせた経路を選べますので」
改めて問われた俺は気を取り直しつつ情報を求める。
せっかく優遇してもらったのだ。役目を全うしなければ、みんなに申し訳が立たない。
「なるほどな。ある程度は記憶にある。おい『唯の盾』。来てくれ。擦り合わせるぞ」
「おう」
グラハス副組合長の呼び出しを受け、これまた水路でザバザバと顔を洗っていた『赤組』のニュエット組長がこっちに歩いてくる。
遠足は帰るまでが、っていう表現は定番だけど、今回などはとくにそうだ。
小規模とはいえ四層新区画に出現した魔獣の群れは狩り尽くされてはいない。適切な帰り道を設定しないと素材を放り出しての逃走になる。
そうなればサメッグ組長の気遣いが台無しだ。
さて、華麗な撤退劇のシナリオ作りだな。いっちょうやってやるか。
◇◇◇
「……リンパッティアさんにも困ったものですね」
「いや、まあ、ティアはね、ハルたちを励ますために教えてくれたの!」
ちょっと黒く笑うマクターナさんに、慌てた様子の春さんが言い訳をしている。
三十分にも満たない休憩を挟んでから冒険者たちは移動を開始した。
で、その道中で『第一』を離れて俺たちに同行しているマクターナさんに、春さんがポロっとこぼしてしまったのだ。『手を伸ばす』マクターナさんの悲しい誕生秘話をティアさんから教わったって。
「隠している話でもありませんし、構いません。ですが、『一年一組』が無茶をする理由には……」
「あの話を聞いてなくても、ハルたちは同じことをしてたよ。絶対!」
「そうですね。やはりみなさんは立派な冒険者です」
「うん! みんなが無事で本当に良かった。実はミアがちっちゃい頃に山で遭難したことがあってね」
「なんでワタシの話が出てくるんデス!」
落ち着いた様子のマクターナさんに、元気に春さんが応対し、そこにミアが巻き込まれる光景は中々新鮮だ。
マクターナさんの過去をえぐるような微妙な会話だけど、春さんとミアの持つ真っ直ぐな明るさが影を吹き飛ばしているのか、雰囲気は悪くない。
「──っらああ!」
「──置き土産だ。ブチかませぇ!」
今も前方からは威勢のいい声が響いてくる。余力のある組が、行く手を阻む魔獣を蹴散らしているのだ。
ローテーションで最前列を入れ替えてはいるものの、真ん中から少し後方を歩く俺たちに出番が回ってくることはない。サイドアタックを食らえば話も変わるが、結構な数の斥候職が揃っているので、その可能性も低いのだ。
まあ、そうなるようにルート設定をして、隊列も整えたのだから当然か。
「経験値が惜しいよなあ」
「わたしたちは色物扱いだから」
俺のボヤきに色物筆頭格たるサメを従えた綿原さんが反応する。
『一年一組』が『シュウカク作戦』の突入部隊に選ばれた理由は、トウモロコシとの実戦経験と魔獣の群れを知っていたからだ。
そんなアドバンテージも今日一日で薄まったと言っていいだろう。それくらいペルマの冒険者たちは、濃密な戦闘を繰り広げた。さっき合流した『ときめき組』なんて、死守すべき部屋より奥に押し込んでいたくらいだ。
そのお陰で安全はほぼ確保されているが、この隊列の最優先事項は早急な撤退。
こんな状況でトドメを回してくださいとは、とても言い出せないよなあ。
「仕方ないわよ。わたしたちの目標は無事に地上に戻ること。あとはコレを落とさないように、かしら」
ため息をこぼした俺を見てモチャっと笑った綿原さんは、自らの腰にぶら下げたトウモロコシを軽く叩く。
最短で安全な帰り道を選択したものの、その多くは主力部隊が押し通った経路と重複している。
当然そこには魔獣の残骸が残されていて、隊列の中央辺りの冒険者は回収できる限りの素材を担いでいるのだ。
お陰で俺たちは背中や腰にトウモロコシを括り付け、謎の民族みたいな恰好になっている。ちなみにマクターナさんも……。
これでも丸太や牛なんかの大物はべつの組が担当してくれているので、動き易さという点ではまだマシな方なんだけどな。
「やっぱりランダムなんだな」
「そうね。しかも一度に全部じゃない」
歩みを止めずに部屋を見渡せば、そこら中に回収する価値もない魔獣の破片が散らばり、床には血だまりができている。
だが綿原さんの視線が向かった先には、そこだけ何もない、それこそ血の一滴も見当たらない不自然な空間があるのだ。
【魔力観察】をしてみれば案の定、薄っすらと消えていく馬らしき影が見える。
「時間経過で全部消えるんだろうけど、予想ができるとは思えないなあ」
「大丈夫?」
お互い敢えて【魔力観察】という単語を出してはいないが、綿原さんの表情が少し曇る。
「サーヴィさんと話しててさ、なんか吹っ切れた」
「そ」
サーヴィさんのカッコいい矢を見たからというのも本当だけど、切っ掛けは赤いサメが見守ってくれていたからだっていうのは、ちょっと気恥ずかしいので口にはしない。
でもまあ、気軽い俺の笑顔を見た綿原さんがモチャっとしてくれたから、真意は伝わったということにしておこう。
◇◇◇
「組合長……」
意外な人物がそこにいたことに、藍城委員長が驚きの声となる。
「ふむ、『一年一組』も無事か」
「は、はい。全員揃っています」
俺たちがこっそり白いザビエルと呼ぶベルハンザ組合長は、公式用の硬い口調で語り掛けてきた。
反射的に委員長が返事をするが、組合長は厳しい表情を崩さない。こんな雰囲気なのは初めてだな。
『遅いですわよっ!』
この部屋に到着したら真っ先に、ティアさんからそう言われるんだろうと思っていたんだけどなあ。
当然ながら、グラハス副組合長はマクターナさんたちが遭難した事実を地上に伝えていた。
それにしたってベルハンザ組合長が迷宮の、しかも群れの直近となるここまで出張るとは。
「尽力してくれたそうだな。組合を代表する者として感謝している」
先に到着していたグラハス副組合長をチラ見してから、組合長は俺たちに頭を下げた。
もちろん俺たちもとっさに腰を折ってそれに応える。
おっかないことに、ベルハンザ組合長の視線が俺をロックオンしているんだよなあ。今日はこんなのばっかりだ。
グラハス副組合長がどの程度の報告をしたのかは知らないが、嘘、紛らわしい、誇大なのは勘弁してほしい。
「『第一』とテルト書記官も無事で何よりだ」
組合長が言葉を掛けた先は俺たちに続いて広間に入ってきた組合所属の『第一』だ。
この部屋に入る直前でマクターナさんはすぐうしろにいた『第一』と合流している。彼女は俺たちの専属担当ではあるが、今日に限っては『第一』所属扱いだから当然だ。
とはいえ、もしかしたらマクターナさん、ベルハンザ組合長がここに現れるっていう展開を読んでいたのか?
「ありがとうございます。そして、申し訳ありません」
組合最強部隊と名高い『第一』の隊長さんが頭を下げるのに合わせて隊員たちもそれに続く。もちろんマクターナさんも。
「気に病むことはない。魔獣の数が想定を遥かに超えていたのだ。失態はむしろ作戦を立案した側に──」
鷹揚に話す組合長は威厳たっぷりに、それでも責任を認めている。
グラハス副組合長といい、組合の大人たちは立派だよなあ。
委員長なんかは腕を組んでうんうんと深く頷いているけど、町長さんの息子として思うところがあるらしい。俺にはちょっとわからない感覚だよ。
「遅いですわよ。それにその恰好はなんですの?」
定番の言葉と共に、メーラさんを引き連れたティアさんが俺たちに合流する。組合長の顔を立てて、ここまで待ってくれていたのだ。
周囲に気を使ってか、意外なことに普段とは違って声は抑えられていた。それでも棘は含まれてはいるが、今更それを気に掛けるヤツはウチのクラスにはいない。
「ただいま、ティア。待たせたわね」
事実、悪役令嬢担当の中宮さんは笑顔で答える。
ボロボロな上に、トウモロコシを束にしてぶら下げている俺たちの格好を見て不愉快そうに目を細くしていたティアさんは、少し口を歪めてからため息を吐いた。
「まったくあなた方は……。それでも全員が無事で何よりですわ。あの微笑み守銭奴も」
「ティア、そろそろそれは止めてほしいのだけど」
チラリとマクターナさんに視線を向けたティアさんのセリフに、中宮さんが呆れたようにため息を吐く。
ティアさんはとりたててマクターナさんを嫌悪しているわけではないことを、俺たちは重々理解している。
片や『一年一組』の専属担当として、もう片方は友人として。単にティアさんはライバル関係を意識しているだけなのだ。厄介なことに、マクターナさんもたぶん……。
ティアさんたちはもう『一年一組』の仲間なのだからそういうのは終わりにしたいと、真っ直ぐ言ってしまうのが中宮さんらしい。
「わかりましたわ。あの姿を見てしまえば……、仕方がありませんわね」
そう言ってティアさんは、普段の邪悪さを引っ込めた薄い笑みを我らが専属担当に向ける。
なにしろ組合長との会話を後続の『サメッグ組』に譲ったマクターナさんがこちらを、というかティアさんとメーラさんに向かって微笑んでいるのだから。
タイミングが良すぎて、お互いわかり合っているんじゃないかって思うんだよなあ。
俺たちと同じくらいにボロボロなマクターナさんの姿を見れば、激闘っぷりは想像に易い。
ウチの悪役令嬢は、なんだかんだで勇気ある冒険者たちには甘いのだ。
「それで、わたくしとメーラを置き去りにしてまで無茶をした以上、先着は果たせたのでしょうね?」
「それがね。ほんのちょっと遅れちゃった」
「なんですって……」
レース結果を確認してくるティアさんに、軽い調子で春さんが答える。
途端、マクターナさんを認めていい感じになっていたティアさんのご機嫌がひっくり返った。
「あれ?」
眉根を寄せて憤怒の表情となったティアさんを見て、春さんがコテンと首を傾げるけれど、手遅れだな。
今日の春さんは、どうやら口が災いの運勢を背負っているようだ。
「なんで負けていますのよ!」
広間の冒険者たち全員がこっちを振り返るような大音声が響き渡った。
組合長がこの場にいる手前、ティアさんとしてはここまで色々抑え込んでいたのだろう。
うん、台無しだよ。
◇◇◇
「此度の作戦における最大の目標は、新種たる唐土との戦闘慣熟だ。『担い手』の、どうだった?」
「少数であれば問題ないが、ほかの種と混在して量で押されると辛いところではあるな。事実、儂らは分断されたのだから」
ベルハンザ組合長から水を向けられた『担い手』のサメッグ組長は、苦笑を浮かべつつもよどみなく答える。
「だが、学びは得た。『サメッグ組』はこれからも四層で戦い抜くだろう」
一転、サメッグ組長は六十にも届くだろうという年齢を感じさせない覇気を放つ。
組合所属の『第一』は置いたとしても、遭難する事態となった『サメッグ組』が四層から手を引くか、もしくは消極的になっても仕方がない。
だが、サメッグ組長は断言してみせた。
「ウチも手を引くつもりはない。負けっぱなしというのは主義じゃないんでな」
同じく遭難側となった『雷鳴組』の組長も瞳をギラつかせて言い切る。
回収班や消耗が激しく地上に戻された組、拠点防衛や経路の確保を担う冒険者たちを除き、作戦に参加した全員がこの場に居並び、広間は人でいっぱいだ。
いつ魔獣が襲い掛かってきてもおかしくないこの場所で、敢えてこうしていること自体が気概ってヤツなんだろう。
そんな中で危難に陥った人たちが気勢を上げているのだから、冒険者たちが燃えないはずもない。声こそ出してはいないものの、ふつふつとした気炎がそこら中で立ち昇っているようにも見える。
もちろん日和った発言をする冒険者など一人もいない。
では俺たち『一年一組』はといえばだけど、帰還が目的である以上、そもそも四層に潜らないという選択は存在していないのだ。
一部ノリのいいメンバーが冒険者たちの気迫に釣られて盛り上がってはいるが、それはそれ。というかティアさんが一番気合に満ちているように見えるんだけど……。
「よろしい。ここに過半の成果を持って『しゅうかく作戦』の終了を宣言しよう」
冒険者たちの気迫を一身に受けとめたベルハンザ組合長が『シュウカク作戦』の終わりを告げる。
結果として、四層新区画に居座る魔獣の掃討は果たされなかった。
だが、ここにいる冒険者たちは新種たるトウモロコシを体験し、複数の魔獣が溢れる群れとの戦闘を経験したのだ。
今後の四層がどうなっていくかは未だ想像できないが、それでも彼らは挑み続けるのだろう。
もちろん、俺たち『一年一組』もだ。
「魔獣を残したことは遺憾であるが、明日に潜る侯王陛下はむしろお喜びになるだろうな」
ここでやっと組合長の口調が砕けたものになる。
うん、そっちの方が白ザビエルっぽくていい。
「では我々は冒険者らしく引き下がろう。地上に戻れば酒と肉だ。宴の準備が無駄にならなくて良かったよ」
そんなセリフでこの場に居並ぶ冒険者たちが片手を上げて雄叫びを上げる。
念のために俺たちもそれに倣うが、宴会に参加する予定はない。先生の目が死ぬところは見たくないし、すでに今夜の予定はずっと前から埋まっている。
「では撤収だ。グラハス副組合長の指示に従い──」
こうして前代未聞の大作戦はトラブルを挟みつつ、それでも多数の冒険者に経験という巨大な財産を与えて終了した。
次回の投稿は明後日(2025/11/13)を予定しています。




