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第567話 かなり真面目な説明会



「ちょっと……、結構硬いかな」


 藍城(あいしろ)委員長がメガネ越しの眉をひそめる。


「階位パワーで嚙み砕く感覚?」


 俺も委員長に同意するが、噛み切れない程ではない。ただ、硬さよりなあ。


「味気無いわよね」


 サメを肩に乗せた綿原(わたはら)さんが、青いフレームのメガネの向こう側にある目を残念そうに細める。


「普通のスイートコーンを知っていると……、残念ですね」


 そして滝沢(たきざわ)先生は、メガネをクイっとさせて結論付けた。


 これまた全くの同感しかない。地上産のトウモロコシの方が普通に美味しいよな。

 迷宮と地上の産物でダンジョンドロップが負けたなんて、初めての事例じゃないだろうか、これ。


 ところでよく考えたらこの四人、俺以外は全員メガネなんだよな。仲間外れ感が強い。


「これ、食べ切らなきゃダメかしら」


「どうなんだろう」


 サメマスコットをへんにょりさせた綿原さんに、俺は曖昧に頷く。


 現在俺たちが座っているのは組合大会議場の傍聴席の一角で、試食しているのは迷宮四層に現れた【葉脚三眼唐土】、つまりトウモロコシ魔獣を輪切りにカットして焼いただけのブツだ。一本丸々じゃなくてよかった。

 ティアさんとニューサルとの決闘を見届けたのが午後五時過ぎ。説明会は六時からということもあり、俺たちは三十分も前に会議場に入ることになった。その時に事務員さんから渡されたのが、焼いたトウモロコシ。


 繰り返しになるが硬くて実に味気ない。

 まあトルティーヤとかにする調理法もあるみたいだし、ウチの料理番たちなら何とかしてくれるだろう。必ず食事に導入しなければいけない素材ってわけでもないし。


 俺を含む説明会参加の四名は、ひとしきりトウモロコシに文句を付けつつ、事前に渡された資料に目を通して時間を潰しているところだ。

『シュウカク作戦』に至る前提や、トウモロコシの特徴、作戦の詳細、担当する組などなど。よくもまあ数日でここまでまとめ上げたものだと感心してしまうような完成度となっている。

 ついでにバスタ顧問が入れ込んでいた『指南書』の暫定最新バージョンも添付されていた。原型が『迷宮のしおり』なだけに、俺たちからしてみれば間違い探しをしているような気分になるな。ワリと楽しい。


 コピー機はもちろん活版印刷もないこの世界では、この手の資料を配布するのも大変だ。

 流用が利くようなモノ、たとえば迷宮の地図などは各種サイズが版画で量産されているが、前回の臨時総会や今回の『シュウカク作戦』の資料、『指南書』などは版画と追加の手書きの混在で作られている。さぞや大変だったろう。


 この世界の人たちは階位と合わせて【身体強化】や【身体操作】【集中力向上】【視覚強化】【思考強化】なんかも使いまくって、超速度筆記や高速版画作成を無理やり達成している。アヴェステラさんたちアウローニヤの文官系の人たちもそうだったな。

 まさにマンパワー。力によるごり押しだけど。

 ウチのクラスでも書記の白石(しらいし)さんや相方の野来(のき)、副官の奉谷(ほうたに)さんたちを筆頭に、全員の筆記速度が上がっている。とくに【身体操作】が有効なのだ。俺だけ仲間外れ状態なんだよなあ。


 会議場の演壇ではそんな力を持つ事務職員さんたちが椅子を置いたり壁に資料を貼り付けたりをしている。ミーハさんも混じって忙しそうだ。がんばれ。

 ティアさんとニューサルの決闘騒ぎで進捗が遅れていたとしたら、大変申し訳ない。吹っ掛けてきたのはニューサルなんだけど。



「そろそろ始まるかな」


 委員長が懐から取り出した腕時計を見ながらメガネを光らせる。どうやら定刻らしい。

 なんかこの席に座って以来、俺以外の三人によるメガネアピールが多いような……。


 演壇付近の準備を終えた事務員さんたちの一部が壁際の席に着席し、残りの人たちは控室に引っ込んでいった。うん、始まるって雰囲気だ。


 会場に集まった冒険者たちは百人に届かないくらいで、席は半数も埋まっていない。これなら俺が壇上に立つハメになった臨時総会の方が賑わっていたくらいだ。

 その代わりというわけではないが、この場に集まったのは『シュウカク作戦』に参加する気概を持つ精鋭ばかり。

『赤組』『白組』『ときめき組』『サメッグ組』『オース組』などなど。新参で小規模組な俺たち『一年一組』がいてもいいのだろうかと思うような面々だ。


 俺たちに遅れて入室してきた冒険者たちの中にはさっきの決闘を見ていた人も多く、いろんな人たちからちょこちょこと話し掛けられた。

 隠すことでもないので『シュウカク作戦』にティアさんとメーラさんも参加するって教えてあげたら、驚いてから笑ってくれる人たちが大半だったのが面白い。



「待たせたね」


 控室の扉が開き、頭頂部を光り輝かせたベルハンザ組合長の登場に合わせ、ざわめいていた冒険者たちが静まり返る。

 組合長のうしろにはグラハス副組合長やマクターナさんたち組合職員が続く。バスタ顧問もいるな。


 扉が開閉した瞬間、控室から大会議場を覗き込むミアとはじめとした『魔獣擬態班』の面々の姿も視界に入ったけれど、せっかくのサプライズだし見なかったことにしておこう。


 ニューサル絡みのゴタゴタもあったけど、定刻通りに『シュウカク作戦』説明会が始まる。



 ◇◇◇



「──臨時総会から六日、幸いにして冒険者に死者は出ていない。引退者は二名。これを少ないと見るかは各自の判断だ」


 公式用のお硬い口調で前口上を述べるベルハンザ組合長が、沈痛な面持ちで左拳を自らの胸に打ち付ける。

 大会議室の冒険者たちや着席していた組合職員も一斉に立ち上がり、組合長に倣った。これで二度目ということもあり、俺たちも遅れることはない。


「……着席してくれたまえ」


 起立してから数秒、組合長の言葉に従い全員が席に着いた。


 前回の臨時総会時には異変が明確になって二日で四名で、さらにそこから六日で二名が冒険者として再起不能か。

 ひとつの隊の人数を増やし斥候を念入りにという方針は有効ではあるものの、絶対ではない。『魔獣擬態班』の一員として控室からこちらの音を拾っているだろう【聖導術】使いの上杉(うえすぎ)さんはどう思っているのか。辛いだろうな……。


「迷宮で異変が起き、さらに新種までもが発見された。被害を出しつつ、それでも冒険者は諦めずに前に進むだろう。組合は、そんな君たちを全力で支援するために存在している」


 組合長は作戦の詳細を語らない。並べる言葉は『シュウカク作戦』の持つ意義についてだ。


「本来であれば組合が主導する形で安易に冒険者を糾合すべきではない。だが、君たちはこうして集まってくれている。ありがとう」


 そしてベルハンザ組合長は冒険者たちに向かい、明確に頭を下げた。

 眩しいとかは言わないぞ。この場はそういうチャラけたムードじゃないし。


 組合は冒険者に対し命令を下さない。あくまで互助と迷宮資源の独占のために冒険者を援助する組織が組合だ。

 俺たち『一年一組』は迷宮調査でマクターナさんやミーハさんと同行したこともあるが、あくまで依頼の形を取った。今回もそうなるのだが、規模がとにかく大きい。


 専属担当職員で手分けしたとはいえ、これだけの組に声を掛けたのだ。作戦責任者のグラハス副組合長はさぞや大変だったんだろうなあ。


「『ペルマ迷宮四層新区画に出現した新種魔獣に対する戦闘方法の早期確立と掃討を目的とした作戦要綱』。長すぎるという指摘を受けて『しゅうかく作戦』と呼称するが、要点は二つ。新種との戦闘経験、そして殲滅だ。重点は前者にあると肝に銘じてもらいたい」


 長い作戦名をカンペも見ずに言ってのけた組合長は、チラっと俺たちの方を見た。しかも明確に俺と目が合ったし、どこか楽し気ですらある。

 提案したのは俺じゃない。誘導はしたけどな。アレはウチの野来が言ったのだから、こっちを見ないでほしいのだけど。



「新種が発見されてから三日。幸いにして新区画以外で唐土(もろこし)は確認されてはいない。有限の時間を最大に活用するためにも、励んで欲しい」


 組合長の言葉を裏返せば、新区画にはトウモロコシが発生し続けている可能性が高いということになる。


 事実手元の資料によると、今日の昼間に組合が送り込んだ部隊が新区画で二十体以上のトウモロコシを確認したと、手書きで追記されているのだ。副組合長とかマクターナさんは説明会の準備で地上だったけど、組合の戦闘部隊も大変だよな。ちなみにさっき試食したトウモロコシがそれだったらしく、要は採れたてにも関わらずあの味だったということになる。


 さておき、魔力部屋が消滅するほどの魔力消費で迷宮が一気に大量のトウモロコシを生み出していたとしたら、部屋の位置関係からして俺たちは取り囲まれていたはずだ。現実としてそんなことにはらならず、それでもトウモロコシは徘徊を続けている。

 まず間違いなく、今もトウモロコシは生まれ続けているのだろう。


「繰り返しになるが、本作戦における最大目標は素材の回収などではない。冒険者らしくないのが残念ではあるがね」


 そこだけ口調を柔らかくして苦笑するベルハンザ組合長の物言いに、冒険者たちから笑い声が上がる。空元気などではない。明確な覇気をまとった人たちの力強い声だ。


「経験だ。諸君が新種を知ることこそを重視してもらいたい──」


 そこから数分、組合長の語りが続いた。



 ◇◇◇



「ではここからは作戦責任者に譲るとしよう」


 開会の挨拶にしては熱めに語ったベルハンザ組合長に代わって登壇することになるのは、『シュウカク作戦』責任者にして副組合長のグラハスさんだ。

 こういう風に壇上の人が入れ替わる度に頭を下げそうになるのは日本人気質なのかなあ。委員長なんて無意識なのか、本当に頭が小さく動いているし。


「よくぞ集まってくれた。まずは感謝を」


 なんてお辞儀のことを考えたタイミングでグラハス副組合長が深く頭を下げてきた。

 冒険者たちはそれに応えるでもなくそれぞれの態度だけど、俺たち四人は思わずお辞儀をしてしまう。やっぱり日本人だ。


「声を掛けた二十四組が揃ってこの場に来てくれたことを喜ばしく思う」


「そりゃあ、明日の作戦が終わってから言うコトだろ」


「もちろんだ。二度でも三度でも言ってやる」


 真面目顔をした副組合長のセリフに客席からヤジが飛ぶが、これが冒険者のノリなんだよな。答えるグラハスさんも当たり前といった感じだ。


 資料にも記載されてはいるが、今回の『シュウカク作戦』に参加するのは二十四の組から二十四隊、プラス組合から四隊の合計二十八隊。大手ならひとつの組から有力な隊を複数参加させることも可能だが、そこは報酬とか貢献のバランスを取るために絞られている。

 何よりも主眼となるのがトウモロコシとの戦闘経験だから、可能な限り多くの組に経験を積んでもらい、そこから先は組内で広めていけばいいという寸法だ。



「前置きは組合長が終わらせてくれたので、早速始めよう。まずは時刻予定だが──」


 グラハス組合長が手元の資料に視線を落としつつ説明を始めた。


 明日の『シュウカク作戦』は、正式な開始時刻は朝の九時となっている。ただし本命の出番は十時からだ。一層はさておき、二層と三層、そして四層の新区画までの露払いと仮の拠点確保を九時組の隊が担当する。本命となる隊の体力と魔力温存のための措置だ。

 当日は四層での通常の狩りはなされない。二層と三層は平常営業で、そちらは九時前に迷宮に入ることになる。


 グラハス副組合長が言った二十四組の内、実際に新区画の掃討に参加するのは十三組と組合からの二隊を合わせて十五隊。組合の二隊はトウモロコシとの戦闘を経験済みのメンバーである。

 残る十一の組は露払いからの経路維持、新区画前広間の絶対防衛、可能な範囲で素材の運び出し、トラブル時の予備戦力としての役割を担うことになっている。


『一年一組』は選ばれし十三の組の一つとして突入役だ。


 十三という数字を不吉に感じるか、それとも意味ありげでカッコいいと思うかは、中二の度合いだろう。もちろん俺は楽しくなってしまう側だな。

 親友の夏樹(なつき)が『ペルマ十三術師』を作ろうと目論んでいたが、これは使えるんじゃないだろうか。組合からの二隊は謎の番外として……。


「『十三傑』はストレート過ぎか。『刈滅(かりめつ)の十三組』とかかな」


「『地獄の十三サメ軍団 ~食べるか食われるか~』、かしら」


 作戦の詳細が副組合長によって説明していくところで、並んで座る俺と綿原さんの声が被った。


 完全に別方向だけど、考えていたのは似たようなものだ。一致しているのは十三って数字だけ。

 けれどもそれがお互いに心地いい。口元をモチャらせた綿原さんがチラっと俺の方を見てから、壇上に視線を戻す。



「つぎ、四番手。『オース組』の経路は──」


 いよいよ突入部隊のルートについて説明に入ったグラハス副組合長の声に合わせて、長い指示棒を持ったマクターナさんが壁に貼られた新区画のマップをなぞっていく。


 今回アタックするトウモロコシが登場した新区画は、狩りの区分としては三つに分割されているが、明日は例外だ。

 新区画に対し十五の隊が複数個所、とくに魔力部屋では重複するように、全ての部屋を網羅する経路が指定されている。


「『オース組』も本気だね」


「だな。十五人態勢か」


 経路説明で名前が出てきた『オース組』の編成を見た委員長が、楽し気にメガネを光らせる。合いの手を入れる俺だが、やっぱり忍者な草間(くさま)あたりからメガネを借りてきた方が良かったかもだな。度が入ってるからキツいだろうけど。


 組によって特色はあるが、トウモロコシ以前から四層の異常に対応するために、どこも試行錯誤しながら隊の編成を変えているのがペルマの現状だ。


 たとえば話題に上った『オース組』だけど、デリィガ副長の隊とフィスカーさんたち『黒剣隊』を合体させ、さらに斥候職を二名増員したらしい。術師の育成が間に合っていなくて芋煮会こそ手を付けてはいないものの、ヒヨドリを食わせることで回復役のヒュレタさんは十一階位になったと聞いている。

 資料に記載されている隊の名前は、そのまま『オース隊』。先日の好感度マウント合戦に参加してきた時は『黒剣隊』が増員したものとばかり思っていたが、あれはどうやら調整中だったらしい。


 ちなみにどこも明日の『シュウカク作戦』に向けて隊の編成を変えてきているので、この場では隊名ではなく組の名で説明が行われている。一組一隊だから、そっちの方がわかりやすいしな。



 ◇◇◇



「八番目は『一年一組』だ」


「はい!」


 グラハス副組合長に名を呼ばれ、先生以外の三人が反射的に大きな声で返事をしてしまった。これには会場全体が苦笑いだ。


 ここまで冒険者たちは黙ったままか、緩い返事をする人たちばかりだったものだから、悪目立ちになってしまったなあ。高校一年生なんだから仕方ないじゃないか。

 これって控室に籠っている『魔獣擬態班』に聞かれたよな。拠点に戻ったらイジられるのは確定だ。


 さておき、俺たち『一年一組』はいろいろ特殊な立場でこの作戦に参加することになる。


 もちろん最大の理由はトウモロコシとの戦闘を経験して、無事に地上に戻ったという事実だ。これが無かったら、もしかしたら声すら掛からなかった可能性もあったと思う。


 もう一つは先日の臨時総会で俺が演壇に立ってしまったように、大量の魔獣との戦闘に慣れているということが挙げられる。ただし、アウローニヤでの経験は二層と三層に限られていて、四層はいっちょ嚙みだったという前置きがつくけどな。

 そしてそんな強さを実現しているのは二十二名改め、二十四名と大人数で、かつ多彩な神授職持ちが揃い、連携が確立しているという対応力の高さである。ウチの自慢なんだ。


 ひるがえって不安点もある。年齢とか冒険者としての経験年数もそうだが、何よりも絶対的な階位の低さだ。

 この作戦に参加するメンバーを見渡せば、十六階位こそ数少ないが、十五やら十四階位がごろごろと資料に記載されている。【聖術師】こそ十階位が大多数だが、それ以外はほぼ十三階位が最低ラインだ。

 二層と三層の経路確保人員は例外だが、そこすら十三階位がちらほらいるくらいの戦力が投じられている。


 対して『一年一組』は十八名が十二階位で、六名が十一階位。十一階位組は術師ばかりという、本来ならば足手まといの集団だ。

 ヤバいことに、侯爵家出身で昨日冒険者登録をしたばかりのティアさんまでもが参加することになっているというのもあるな。


 要するに実績と経験は買うけれど、危なっかしい集団という扱いなのだ。それは妥当な評価でもある。

 アウローニヤの近衛騎士総長のようなバケモノによる戦いを見たことがあるだけに、イザという時に階位でゴリ押す戦法の有効性を俺たちは実感しているのだ。


 そういうバックグラウンドを持つ『一年一組』だからこそ組合は──。


「あたしたちが先を行くから、背中は任せたよ。新種との戦いになったら手伝ってもらえると嬉しいかな」


「後追いは俺たちだ。できるだけ魔獣を減らしておいてもらえると助かるよ」


「近くで戦うのは初めてね。楽しみにしているわ」


 俺の左右から声が飛んできた。


 それぞれ『ときめき組』のスチェアリィ組長と、『白組』のサーヴィさんと奥さんのピュラータさん。さっきの決闘ぶりですね。

 ちなみにサーヴィさんは『白組』の組長ではなく、横に座る無口なゴツいおじいさんがそうだったりする。この人、ピュラータさんの父親なんだよな。


「若輩ですが、よろしくお願いします」


 相手が相手だけに、左右に向けて先生が挨拶しているが、これこそが組合の配慮なんだと思う。

 俺たちの突入順位は八番なのだけど、ペルマ最強の一角たる『ときめき組』が七番で、伝統と実績を持つ一等級クランの『白組』が九番なのだ。しかもこの三組が割り当てられた探索経路は、イザという時の連携が取りやすい。


 スチェアリィさんが言うように、トウモロコシとの戦いを俺たちが『ときめき組』と『白組』に伝えるという組合側の思惑も透けて見えるが、重きを置かれたのは『一年一組』の安全だろう。接待とまでは思わないが、優遇なのは間違いない。

 果たしてティアさんとメーラさんの加入が影響しているのかは不明だ。


 とはいえ、頼もしいことには変わりない。こういう優待券ならありがたく受け取っておこう。



 ◇◇◇



「無論、全ての組が予定通りの経路をたどり、定刻で上がりになるとは思っていない。臨機応変に対応してくれ」


 突入部隊の経路説明を終えたグラハス副組合長が周囲を見渡す。


「各組が歩調をある程度合わせれば、最大でも二部屋以内に味方がいる状況を作ることができるはずだ。今回ばかりは存分に頼ればいい。仲良くやれよ?」


「都合のいい言葉だよなあ」


「好きにやらせて自己責任ってかあ。組合はいつもそれだ」


「なんだ? 冒険者たちはもっと縛って欲しいのか?」


 ヤジを投げつける冒険者たちにも、涼しい顔で副組合長は言葉を返す。そろそろ俺たちもこういうノリには慣れてきた。


「さて、続けるぞ。新区画へ通じる広間を暫定で作戦拠点とする。扉は三つだ。詰めるのは俺と『第三』、『ジャーク組』『野薔薇組』──」


 そこからグラハス副組合長は突入部隊だけなく、それ以外の面々の役割りにも言及していく。


 新区画に唯一繋がる広間を仮拠点とし、指揮官の副組合長はそこで待機しつつ三層に登る階段までの経路を安定確保。ついでに予備戦力と、あわよくばの素材回収も試みるらしい。マクターナさんは『第一』と同行する形で突撃部隊だ。


 二層や三層の経路確保では『蝉の音組』や『雪山組』の名前も登場した。

 うしろがしっかりしてくれているからこそ、俺たちは憂いなく突撃できるんだ。頼みましたよ。



 ◇◇◇



「明日の集合場所だが、先行班は一階事務所で突入班はここだ。時間に遅れるなよ?」


 さらに小一時間を使い、報酬などについても含めてグラハス副組合長の説明は終わった。いやあ、長かったな。


「腕が鳴るねえ」


「早上がりできるといいんだが」


「お前ら、欲はかくなよ?」


「今夜は控えめにしておこうか」


 途端、冒険者たちはザワつき出す。完全に終了ムードだな。


「持ち帰った資料は各自で熟読しておいてくれ。ところで最後にひとつ、オマケを付けよう」


 一部の冒険者が席から腰を浮かべかけたタイミングで、副組合長がイカつい顔をイタズラっぽくして笑う。


「とある連中が『動く実物』を見せてくれるそうだ。体験してみるといい」


 そんなグラハス副組合長のセリフに冒険者たちは首を傾げる。

 当の副組合長は資料を乗せたままの演壇を軽く持ち上げ、脇に運び始めた。こういうさりげないところで階位パワーが炸裂するんだよな。


 さて、『動かなくなったトウモロコシ』自体は組合事務所に展示してあるので、形状やサイズはこの場の皆が知るところだ。

 ならば『動く』とは。


 さあ出番だぞ、ウチが誇る『魔獣擬態班』の面々よ。



 次回の投稿は明後日(2025/10/11)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
次回は擬態班大暴れですな! 副組長いいっすねえ、オッサンのいいところ詰め感。
擬態組、ミアちゃんとかやりすぎたりしない?
思ったよりもしっかりとした空気だし、この空気の中で魔獣擬態班か……w 頑張ってほしいですね(
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