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ヤツらは仲間を見捨てない ~道立山士幌高校一年一組が異世界にクラス召喚された場合~  作者: えがおをみせて


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第563話 冒険者たちが集まれば



「これ、は」


 俺たちに遅れること十数分。訓練場にハルス副長ほか数名の組員を引き連れ現れたナントカ・ニューサル、もといユイルド・ニューサルは、その光景に唖然とした声を漏らした。


「やあニューサル組長。今のところは三対七で君が負けているよ」


「し、『白組』の」


「新人へのご祝儀もあるのだろうけどね。もちろん『ニューサル組』も是非賭けに参加してもらいたいかな」


 全く動揺を隠せていないニューサルの下に歩み寄ったのはアウローニヤの前近衛騎士総長の息子であり、現在は名を変えて『白組』に所属するサーヴィ・ロゥトさんだ。


 どこから情報を得たのかサーヴィさんはこの場にいち早く現れ、以前俺たちが『雪山組』とステゴロをやった時のように賭けの胴元を買って出た。

 元よりノリのいい冒険者たちが、この状況で盛り上がらないはずがない。


「二百人以上はいるかしら。これは、ちょっと……」


「大騒ぎになっちゃった」


 肩にマスコットサメを乗せた綿原(わたはら)さんが呆れたように周囲を見渡し、文学女子な白石(しらいし)さんがちょっとビビりの入った感じになっている。

 前回の模擬戦の倍以上だもんなあ。窓にも観客が鈴なりだし。【観察】すると、どうやら平民文官だけでなく、結構な数の貴族も混じっているようだ。


「なぜ……、こんなことに」


 ニューサルは表情を歪ませてブツブツと呟いている。

 俺もそう思うよ。


 決闘をすることが決まってからたったの二時間でコレだ。

 事務所にいた冒険者のフットワークと、『サメッグ組』の情報拡散力だな。伊達に大規模組を名乗ってはいない。ここからまだまだ増えるんじゃないだろうか。


 このあと十八時からは『シュウカク作戦』の説明会ということもあり、有力な冒険者たちが地上で待機状態だったのも大きい。

 それに先立ってのサプライズイベントを知った人たちは、我先にと訓練場に突撃してきた。



「ご安心ください。約束通り経緯は伏せてありますので」


「そ、そうか。だが、これは……」


 それでも逃げるわけにはいかないニューサルがフラフラと中央に歩み出たところで、暗黒聖女モードな上杉(うえすぎ)さんが微笑みながら小声で現状を伝える。情け容赦という文字が存在していないオーラを纏う上杉さんに、ニューサルはカクカクと頷くだけだ。こういうのを盤外戦術って言うのだろうか。


 ニューサルは決闘を申し込み、ティアさんがそれを受けた。そして交わされた約定の範囲内で俺たち一年一組は、勝ちに結び付くための行動をしている。

 この人混みもその一環だ。警備依頼にかこつけて『ティアさんが模擬戦をやる』という情報を『サメッグ組』にリークした結果がこれなんだけど、想定を遥かに上回っている。


 ティアさんは無観客試合にするだなんて、一言も言っていないぞ。


 あちこちに知った顔、たとえば『オース組』や『赤組』、『白羽組』、『ジャーク組』なんかの姿も見えるが、こちらの空気を読んだのか、今のところは遠巻きにするだけで話し掛けてはこない。

 さっきまで近くにいたサメッグ組長も、ほかの場所に移動して冒険者同士で語り合っているようだ。親睦だなあ。


 ちなみにサメッグ組長にもコトの真相は伝えていないので、この戦いに賭けられたモノは周知されてはいない。それでもニューサルの悪評は冒険者業界では有名らしいし、ましてや相手がティアさんともなれば、勘付く人も多いだろう。

 だからこそサーヴィさんが仕切っている博打でティアさんに票が集まっているのだ。同情というより、応援って意味で。


「どうだい、ニューサル。こんなのは予想してなかっただろ?」


八津(やづ)くん悪い顔ね。ティアさんのマネ?」


「悪役令嬢っていいモノなんだよ」


「それは散々聞いたわ。先生もそう言ってたし」


 ニヒルな感じを前面に押し出した俺の呟きを綿原さんが拾ったわけだが、どうやら彼女にはウケなかったようだ。

 女子部屋では滝沢(たきざわ)先生までもが悪役令嬢を啓蒙してくれているみたいなのになあ。



「お待ちしていましたわ、ユルイゾ・ニューサル! わたくしとても楽しみにしていましたの。あなたの力、存分に見せ付けてくださいまし!」


「……はい。それと私の名ですが、ユイルドです」


 俺と綿原さんが小声で会話をしているあいだに、ようやくティアさんのところまでたどり着いたニューサルに投げかけられたのは、上機嫌な悪役令嬢からのお言葉だった。さっきまでは遅い遅いと、不機嫌に叫び散らかしていたのが嘘みたいだな。

 掠れた声で返事をするニューサルからは、俺たちの拠点に来た時のようなニチャつきは完全消滅している。いい気味だ。


「勇ましい立ち姿ですわね。対戦前だというのに隙を見つけることができませんわ。対峙しただけで、あなたが素晴らしい冒険者であることが伝わってきますわよ」


「ありがとう、ございます」


 両手を広げ、心底から褒め称えているかのようなティアさんのセリフを食らい、ニューサルが小さく頭を下げる。

 煽るよなあ、ティアさん。


 そんなニューサルは一部金属製の革鎧姿で、大盾と片手木剣を装備している。

 なるほど、拳士相手で数少ない急所になりかねない首元の防御を上げつつ、動きを鈍らせないための最低限ってところか。もしかしたらこういう小細工をするのに時間が必要だったのかもしれない。


 フルプレートとかで登場したら大笑いしてやる予定だっただけに、アテが外れた。それくらいのネタも用意できないのかよ。



「それでは始める前に、まずは経緯と勝敗について説明を──」


「お待ちください。これは何の騒ぎですか」


 対戦相手も現れ、客の入りも上々となったのを見たティアさんが、今回の決闘における残虐ルールを述べようとしたその時、訓練場に柔らかくも圧を持つ女性の声が響いた。


 いわずもがな。そんな声の持ち主は組合事務職員の制服を着込んだマクターナさん以外にいるはずもない。背後には呆れた様子のベルハンザ組合長とグラハス副組合長の姿もある。まあ来るよなあ。


 なんか前にもこんな展開があったような……。あ、息を切らせたミーハさんとバスタ顧問も駆け込んできた。



 ◇◇◇



「では、あくまで模擬戦である、と」


「そうですわ。高貴なる血を継ぐ者同士の交流を兼ねての力試し、ですわね」


 マクターナさんの詰問にティアさんは抜け抜けと答える。ここで貴族を匂わせる辺りが悪役令嬢の悪辣さだ。


 この場に集まった観衆たち全員に聞こえるような大声で、ティアさんは『模擬戦』に至る経緯を高らかと説明した。

 引き抜きについては触れず、あくまで交流のためにこんな場を設けたのだという設定を。もちろん大嘘だ。


「まさか、こんな騒ぎになってしまうとは。その点については申し訳なく思いますわ」


 殊勝なセリフを述べるティアさんだけど、口の端はイヤらしく吊り上げられている。


 当然のことだけどマクターナさんだけでなく、組合の人たちだって事情は想像できているはずだ。これまで『一年一組』と接点の無かった『ニューサル組』が、ティアさん加入のタイミングに合わせて交流だなんて、余程の間抜けでもない限り察することはできる。


 (おもね)るか、それとも手を出すか。

 そしてティアさん本人が出張る模擬戦という時点で、まあバレバレだよな。


 上手いこと『一年一組』とティアさんを経由して侯爵家との繋がりを確立しようとしていたバスタ顧問なんかは、顔を真っ赤に染めてお怒りのご様子だ。らしくもないけど、それくらい腹立たしい案件ではあるのだろう。

 この一件が終わったとして『ニューサル組』は元より、ニューサル子爵家は大丈夫なんだろうか。


「そも、冒険者にこの訓練場は解放されているはずですわ。利用申請が必要などという決まりは無かったのでは?」


「それは、その通りです。ですが──」


「私闘紛いに見えてしまうことは心外ですわね。ですがご安心ですわ。わたしとニューサルは、事前に取り交わした決まりに則り『安全に手合わせ』をするだけですの。お仕事がお忙しいようですし、お戻りになられてはいかが?」


「……いえ、わたしは『一年一組』の専属担当ですから」


 当事者の片割れなニューサルを置き去りにして、ティアさんとマクターナさんの言葉が飛び交う。


 まるでこの二人が対戦しているみたいなノリとまでは言わないが、勝負はティアさんの判定勝ちってところか。

 それでもこの模擬戦を組合上層部が見届けないという筋は無い。



「さて、続けて勝敗についてですわね。今回の模擬戦の主眼は、技と力のみならず、胆力と持久力を競い合いたいと考えておりますの。どれもが冒険者にとって必須な要素ですわ!」


 言葉でマクターナさんを押し切ったことに大変満足そうなティアさんが、大問題のルール説明に入る。大丈夫かなあ。


「よって時間は無制限。先に五度【聖術】を要求した者の敗北としますわ。【聖術】の行使中は攻撃を禁じ、気を失った場合は即座に【覚醒】。こんなところですわね」


 何度聞いても酷いルールだ。ティアさんがペラペラと喋った内容を咀嚼できた人たちが、少しずつ静まり返っていく。


「なるほど……」


 そんな中、小さく呟いたマクターナさんがチラっと上杉さんに視線を送れば、ウチの聖女さんは微笑んだまま小さく頷いた。

 ティアさんたちにも暴露はしたが、マクターナさんは上杉さんの【聖導術】を現場で見ている。余程のことでもない限り、命に係わる展開にはなり得ないのは理解できているはずだ。


 だからといってこのルールに納得の色を示しているマクターナさんの肝の太さはなんなんだろう。恐るべきは『ペルマ七剣』か。


「【聖術】使いとして『一年一組』からはこちらのミノリを出しますわ。『ニューサル組』はどういたしますの?」


「それは……」


「ウチのジョウイチを貸し出してもよろしいですわよ? もちろん彼は手を抜かず万全を尽くす男であると、わたくしが保証いたしますわ」


 今回のルールでは、ある意味【聖術】使いは相方みたいなポジションとなる。ウチからは当然の上杉さんで、なんならそこでブスくれている田村(たむら)をレンタルしてもいいとティアさんはのたまった。

 もっと喜べよ田村、せっかくティアさんが口だけでもベタ褒めしてくれているんだからさ。


「い、いや。『ニューサル組』にも優秀な【聖術師】がいます、ので」


 いくらニューサルが間抜けだったとしても、さすがにコレは断るか。


 ニューサルから視線を向けられた優秀とされる【聖術師】さんは、場の空気に飲まれてガクガクしているのだけど。

 ちなみに四十に届くかどうかくらいのおじさんだ。あって十階位だろう。


 今回のルールだと優秀な【聖術】使いの方が抜け道的な意味でも有利なんだけど、はてさて皮肉屋田村と動揺しまくりのおじさん、どちらが頼りになるのか。



「頼もしい仲間がいるのはお互いということですわね。そうそう言い忘れていましたわ。口頭での降参は問題外。絶対に認めませんわよ?」


「ひっ」


 ティアさんがトドメとも取れる言葉でニューサルをぶっ刺す。『安全な手合わせ』とはなんだったのか。


 本人同士の実力差はさておき、士気という点で戦前の情勢は完全にティア側に傾いている。

 それでもこれは必要なことだ。先生の言っていた九割がメーラさんとの練習で十割になったとしても、そこからさらに勝率を上げるために、一分でも一厘でも……。


 ティアさんの身柄が賭けられた勝負で勝率百二十パーを狙わなくてどうする。


「わたくし、高貴なる系譜の誇りに賭けて正々堂々、そして力の限り戦い抜きますわ」


「おおおう!」


 追撃のごとく高らかと宣言することでティアさんは、普段から子爵家出身を押し出しているニューサルに言葉で圧を掛けていく。

 ここでついに、冒険者たちからの雄たけびが上がった。


 凄惨なルールであっても、微塵の恐れも見せないティアさんの堂々とした態度が、冒険者たちに刺さらないはずもない。

 動じず果敢に立ち向かう姿勢を隠しもしないティアさんの姿勢は、裏を知っている俺ですら見習いたくなるくらいだ。


「ウチのティアさんをよろしくお願いいたします。学ばせてあげてください」


「あ、ああ」


 前口上を終えたティアさんの横に歩み寄った先生が、優しい笑みのまま悪役令嬢の肩に手を乗せ、ニューサルに小さく頭を下げる。完全に【冷徹】を使っているな。先生的には余り言いたくない類のセリフだろうけど、これもまたティアさんの援護になるのだから仕方がない。

 対するニューサルは、周囲の全部が敵に回ったかのような境遇に腰が引けたままだ。


 これにて前段階は終了。あとは試合開始なのだけど。



「この取り決めとなると、判定をする者が必要ですね。それも公正で厳密な」


 途中から口を挟まず黙っていたマクターナさんが、イザ試合直前で真っ当なコトを言い出した。

 うん、お互いに健闘を讃え合う結末などがあり得ない残酷なルールなだけに、審判役は確かに必要だ。落としどころを作りたいだろうマクターナさんらしい発言だな。


「ならばその役、俺がやらせてもらおう!」


 マクターナさんの提言に冒険者や組合の人たちが顔を見合わせる中、大声を上げながら観衆たちの輪から進み出てきたのは『赤組』組長にして『ペルマ七剣』が一人、『(ただ)の盾』のビスアードさんだった。

 二メートル近い身長と赤毛が特徴の、熊を思わせるおじさんが楽しそうに俺たちの方にやってくる。


「組同士の抗争ってわけじゃないのだろう?」


「もちろんですわ!」


 巨大な赤い熊さんの言葉にティアさんは堂々と答えてみせる。さすがは悪役令嬢、度胸は満点だ。


「テルトは『一年一組』の専属なのだから公平性に欠ける。俺が適任だろうさ。こういう時は『ペルマ七剣』の肩書も悪くない」


「専属担当を持ち出されると……、仕方ありませんね」


 そしてビスアード組長の審判宣言だ。前回のマウント合戦でマクターナさんに蹴散らされたのを根に持っているんじゃないかって物言いだな。

 対するマクターナさんは無念そうに一歩退く。うーん、今回はビスアードさんの勝利か。なんの争いかは不明だけど。


 あれ? なんか嫌な予感が──。



「待ってもらいたい。同じく『七剣』として儂も名乗りを上げさせてもらおう。どうにもビスアード組長は『一年一組』に傾倒しすぎだと思うのだよ」


 同じく観客を掻き分けつつ登場したのは白髪で長い髭のおじいちゃん。こちらもまた『ペルマ七剣』、『担い手』のサメッグ組長だった。


「ひっ!?」


 アウローニヤからの流民を受け入れている『サメッグ組』のトップを張る御仁なだけに尊大貴族が気に食わないのだろう、ニューサルをひと睨みしてから穏やかスマイルでサメッグ組長がこちらに向かってくる。ニューサルが情けない声を上げているが、そっちはどうでもいい。

 そもそもここに人を集めるために頼ったのだから、サメッグ組長だってモノ申す権利くらいはあるだろう。なんならさっきまですぐ近くにいたのだし。


 だけどこれは危険な状況だ。


「それはアンタも同じじゃないか? 『担い手』のじいさん」


「そこは年の功というものだよ。公と私を混同しないくらいの器量は、な」


「まさか俺がそうだとでも?」


「さて、どうだろうな」


 なんでバチバチやりあっているのかなあ!?

 これじゃあ、つい五日前と同じじゃないか。違っているのはマクターナさんが初戦敗退したことくらいだ。


 まさかとは思うけど、『オース組』のフィスカーさんとか『雪山組』のウルドウさんまで出てこないだろうな?



「はははっ、面白いね。とても面白い。ならあたしも出張らせてもらおうかな」


「む、『覇声』か」


 妙にキーの高い笑い声とともに現れたのは、細身でやたらと長身なおばさ……、お姉さんだった。たぶん三十歳くらいで、濃いグレーの髪を長く伸ばしてうしろで縛っている。ここまで黒に近い髪色はこっちの世界では初めてかもだな。

 どこかで見たことはある顔なのだけど。


 キーになるのはビスアード組長が口にした『覇声』という単語だ。


「まさか。いや、背格好。聞いていたのと一緒か」


 冒険者通の古韮(ふるにら)が唸るように声を絞り出し、同じく冒険者オタの野来(のき)などは、キラキラとした目になっている。

 ちなみに野来は、とっくに風は吹かせていない。ニューサル登場までは頑張っていたんだけどな。


「こっちは臨時総会とかで君たちを知っているけど、話すのは初めましてだね。あたしはスチェアリィ・バーハ。スチェアリィで構わないよ」


 たれ目気味の赤褐色の瞳に優し気な光を宿しながら、百九十くらいという女性としては長身のお姉さんはスチェアリィ・バーハと名乗ってきた。

 横に並ぶ巨漢なビスアード組長との対比が面白い……、とか考えている場合じゃないぞ。


「『ときめき組』は『一年一組』を?」


「初めましてと言ったでしょ? 繋がりはないよ。だからこそ名乗り出たんだから」


 ちょっとご機嫌を損ねたサメッグ組長が掛けた言葉に、スチェアリィさんが肩を竦めながら答える。会話に出てきたファンシーな組の名を聞けば、嫌でも確信するしかないか。


「『ときめき組』の組長。『ペルマ七剣』、『覇声』のスチェアリィ・バーハさん、ですよね?」


「知っていてくれたのかい。その通りだよ」


「もちろんです! よろしくお願いします」


 野来から嬉しそうにアガった声をぶつけられたスチェアリィさんがふっと微笑む。野来の横ではこれまたオタな白石さんが丸いメガネを輝かせて、こちらもまたお喜びのご様子だ。


 二人が揃って頭を下げるのに合わせてクラスメイトたちも会釈した。


 大規模二等級クランの『ときめき組』は、ペルメッダ国軍の兵士が冒険者になる際の最大の受け皿として名を馳せている。

 国の兵士たちは階位を上げるために迷宮に潜るのもお仕事だが、訓練の過程で魔獣との闘争にハマってしまう人も結構出てくるらしい。結果としてそんな人たちが冒険者を目指してしまうのは理解できる話だ。


 そんな迷宮ジャンキーの行きつく先は様々だが、本人もまた兵士からの叩き上げで、しかも『七剣』のひとりである『覇声』のスチェアリィ組長が率いる『ときめき組』は、バリバリの武闘派集団として人気が高い。

 彼らは歴史と伝統の『白組』や『赤組』と並んでペルマ迷宮で最も有名な組のひとつであり、稼ぎ頭とも言われている。


 この際、組のネーミングに突っ込んだら負けだな。なんでも初代の女性組長が命名したのだとか古韮が言ってたけど。



「初めまして。『一年一組』組長の滝沢です。ご高名は常々」


「こちらこそ。新進気鋭の若者たちを率いる『無手』の名は、あちこちで酒の肴だよ」


「くふぅっ」


 さすがに初対面の組長同士で挨拶を交わさないというのも失礼に当たるだろうと思ったのか、ここで先生も名乗りを上げた。

 結果としてあだ名とアルコールネタでダメージコンボをもらっているのだから、先生も苦労が絶えないなあ。


「うわあ。それが双剣なんだ。カッコいいなあ」


「ん、そうかい?」


「あっ、口の利き方が悪くってごめんなさい!」


「それは構わないよ。冒険者はそれくらいの方がいい」


 先生との挨拶を終えたスチェアリィさんに飛びついたのは、冒険者マニア組ではなく陸上女子の(はる)さんだった。


 春さんの言うように、スチェアリィさんは両方の腰に剣をぶら下げている。固定の仕方がガッチリといった感じではなく、ちょっと緩めなあたりが剣豪っぽい。

 俺たちの知る限りでは『黒剣隊』の斥候、ギャルマさんも二本の短剣を扱うが、こちらは普通に長剣だ。


 兵士上がりの荒くれ組員たちを率いて迷宮に挑み、二本の剣を手にしながら常に最前線で指揮を執る。それがこの人の持つ名の由来だ。たしか、十五階位の【旋剣士】だったかな。

『ペルマ七剣』はそれぞれが字名(あざな)を持つが、個人的にはスチェアリィさんの『覇声』が一番オタっぽくて好きなんだよな、俺。双剣スタイルもカッコいいし。


「うん。えっとね、ハルも二本持ちなんだけど、剣士っていう感じじゃないから」


「戦鎚を二本とは、珍しいね」

 

 スチャっと二本のメイスを手にした春さんを見て、スチェアリィさんが興味深げに顎に手を当てる。なんか凄く良い人そうだ。

 二丁メイスで構えを取る春さんもどこか楽しそうで、ほんわりするなあ。


『ペルマ七剣』はたまにマウント合戦をやりたがるけど、基本的に人格者が揃っている。そういうのも含めた人選なんだろう。


 さてそんな人たち、『手を伸ばす』マクターナさんと『担い手』のサメッグ組長に『唯の盾』ビスアード組長、そしてそこに『覇声』のスチェアリィ組長までもが加わった。『ペルマ七剣』の四本がこの場に揃っているのだ。

 残る三人のうち『豊穣』さんはペルマ=タにはほとんど顔を出さないらしいし、『黙り込む』人と『術師』さんはどこにいるのやら。いきなりひょっこり出てきたりはしないでほしい。


 さて、放置したままのニューサルはどうしたものか。『七剣』の連続登場でティアさんも影が薄くなったせいか、ご機嫌が急降下中なのが視界に入っているのだけど。



「いい加減にしてくださいまし。これはわたくしとニューサルの決闘なのですわよ!」


 本来主役のティアさんがついに叫び出し、強引に周囲からの視線を取り戻した。


 ところで決闘とか言っちゃってるけどいいのかな。



『ときめき組』は当初『轟き組』という名前で書いていました。何故こうなったのかは不明です。

 次回の投稿は明後日(2025/10/02)を予定しています。

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― 新着の感想 ―
にゅーさるくんかわいそう(棒読み) ペルマ七剣、出て来る人出てくる人本当にキャラがいい感じに濃いからね、しょうがないね。
とんでもない名前の組が出てきたな……w ペルマ七剣、最後まで出てこない人がいても不思議じゃないのは面白いところ。こういう実力者のノリが良いと、イベントごとの楽しそうだなって空気がドンドン倍増しますね。…
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