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第556話 ご商談しましょう

 557話と558話を一度削除し、大幅改稿を行います。一度お読みになられた方には申し訳ありません。(2025/09/18)



「あの、僕たち『一年一組』の参加については、持ち帰ってからでいいでしょうか」


 俺とオタな野来(のき)、そして白石(しらいし)さんによる茶番を経て、妙に緩い空気になった会議室に藍城(あいしろ)委員長のやたらと申し訳なさそうな声が響いた。

 肩にサメを乗せた綿原(わたはら)さんはネタがわからなかったのか首を傾げ、滝沢(たきざわ)先生は居心地が悪そうに俯いている。【冷徹】使えばいいのに。


 ともあれ、日本に戻ってから綿原さんとやりたいことがひとつ増えたな。アレは見ておくべき映画だ。パニック系と言えなくもないし。


「あのなあ。ここまで口出ししておいて、それはないんじゃないか?」


 グラハス副組合長のお言葉は正論……、いやいや、俺たちからしてみれば、すでに十分な貢献をしている。

 トウモロコシの発見と生態について、どれだけ頑張ったことか。


 だけどこの話、乗るしかないんだよなあ。


 俺たちとしてもトウモロコシには慣れておきたい。組合がお膳立てをしてくれるのだ。安全度なら普段の迷宮より良いくらいだろう。

 ほかの組との連携にしても、『一年一組』の斥候力とマッパーとしての俺がいるから、対応できる自信はある。


 十五とか十六階位クラスの力業には及ばなくても、俺たちにトウモロコシと渡り合える手筋があるからには、ここは参加の一手なんだ。

 だが俺たちが一年一組である以上、ここは持ち帰りしかない。これだけ大規模な作戦への参加の是非だからな。たとえこの場に組長と副長がいたとしてもだ。


 とはいえ、ツッコミを入れてきたグラハスさんから向けられた表情に悪感情はない。むしろ、仕方のない連中だってところか。


「お待たせはしません。午後には正式に参加を表明しに来ると思います」


「はい。みなさんでしっかりと話し合って決めてください」


 副長である委員長が宣言し、俺たちのやり方をよく知るマクターナさんが笑顔で頷いてくれた。



「そうそう、彼ら『一年一組』は作戦に参加するまでもなく、すでに功績を残している。組合として応えねばならないだろうね」


 そこで会話に入ってきたベルハンザ組合長が、すっと人差し指を一本立てた。


「百万ではどうだろう」


「は?」


 一瞬だけ言葉の意味を考え、それが特別貢献点だということには思い至ったけど、結果として声が裏返る。

 クラスメイトたち全員が似たようなものだ。綿原さんなんて肩に乗せたサメがひっくり返っているじゃないか。


 百万……。つまり一千万ペルマ相当の素材を持ち込んだ際に得られる貢献点だ。


『雪山組』と『赤組』の救出でもらった特別貢献がそれぞれ二十万。臨時総会での説明は、イラストを合わせてこちらも二十万。つまりそれらの五倍の働きをしたのだと、組合長はそう言っている。マジかよ。


「新種に遭遇し、それを倒して実物を持ち帰っただけではなく、特徴や行動までも検証してきてくれたのだ。君たちのもたらした情報は多くの冒険者の命を救うことになるだろうし、現に今、こうして迅速な対応にも繋がっている」


 こんな事態であるにも関わらず、ベルハンザ組合長は落ち着いた声で俺たちを諭すように語り掛けてくる。


「それは、そうかもしれませんけど」


「個人的には百万でも足りないかと思っているくらいだよ」


 微妙な感じになっている委員長が言いよどむけど、組合長はバッサリだ。


「ここ十日の貢献点が百八十万を超えましたね。新規の小規模組が残せる数字ではありません。専属担当として喜ばしく思います」


 マクターナさんからの追撃を受け委員長などは汗を浮かべているが、これは確かに誇るべきことなのかもしれない。


 アウローニヤだけでなく、ペルメッダにやって来てからも俺たちは必死にやってきた。

 もちろん山士幌への帰還こそが最終目標で、多くはトラブルに遭遇したからこその貢献点ではあったとしても、それでも実績は本物だ。ただの高校一年生が、君たちは人の命を救ったんだと言われて嬉しくないはずがない。

 付け上がらない程度で喜べばいいんじゃないかな。ほら、すぐ傍でサメが空を舞っているのだから。


「俺たちなんかやっちゃいましたか?」


 自分にだけ聞こえるような小声で、俺は呟くのだ。



 ◇◇◇



「あのそのっ、新種の魔獣だから確定とは言えませんけど、僕たちからも提案があります。バスタ顧問が喜びそうなのが」


「ほう!?」


「もっと特別貢献が欲しいとかじゃなくって」


 唐突な野来の発言にバスタ顧問が身を乗り出した。

 これ以上特別貢献を押し付けられてはたまらないという、ある意味騎士道的に真っ直ぐな野来は、前置きをしてから語り出す。


「新種の魔獣がこれからも出続けるとして、使い道についてです。昨日の夜、マクターナさんたちがたくさん採ってきたんですよね。それを使って試してみてもいいかなって」


 俺としてはここでそれをぶつけるのは悪くはないタイミングだと思うぞ。存分に言ってやれ、野来。


 ついでに言えば、俺はマクターナさんと同じく『シュウカク作戦』が成功したとしても、トウモロコシは消えてなくなるとは思っていない。

 すでに設計図は存在していて、四層全域に広まるかは置いておいたとしても、今後も発生し続けると予想しているからだ。


 だからこそここからの野来の発言は、経済という点で大きな意味を持つ。



「実際にやってみないとわかりませんけど、油が一番向いていると思います。砂糖を作るための圧搾機とか、ありますよね?」


「ああ。引退した冒険者の行先としては、定番のひとつだな」


 口調が早めになっている野来に、グラハス副組合長が頷いた。


 この国では迷宮で採れたサトウキビから砂糖を作っているんだ。圧搾機が無いはずがない。水力も考えられるが、手っ取り早いのは文字通りのマンパワー。

 まさに引退冒険者が求められる職場ってことになるのか。


「植物油って絶対需要あると思うんです。それと搾りかすなんですけど……」


 現状のペルメッダでは、サトウキビの搾りかすを畑に肥料に回している。なんなら魔獣の骨粉なども。魔力という謎ルールなのか、栄養素がかみ合っているのかは不明だけど、そういう農業をしているらしい。


 けれども、俺たちからの提案は別方向だ。農業ではなく──。



「アウローニヤ王国の東端、フェンタ子爵領は畜産業に力を入れてるんです」


「畜産業、ですか」


 野来の言葉に組合事務職員のマクターナさんは首を傾げた。

 畜産業を単語として知っていても、理解が及ばないのも当然だろう。理由は明確。文化の違いってやつだ。


 迷宮からたくさんの肉が採れてしまうペルメッダでは、乳製品が皆無に近い。少なくとも首都のペルマ=タを散策した範囲では間違いないはず。

 そして面積が小さいこの国では、余程持ちが悪いモノでもない限り、迷宮産の食料が全国に行きわたってしまうのだ。交易もひっくるめて、そのための街道整備にも力を入れているようだし。

 アウローニヤでも王都近郊で『嗜好品』として養鶏がなされていたが、質実剛健を旨とするペルメッダでは、その様子もない。


 炭水化物を得るために地上では小麦や大麦こそ大々的に栽培されているが、タンパク質の供給は迷宮で足りているのだ。国土の小ささが有効に働き、酪農という概念が抜け落ちているのがこの国の実情となる。

 この辺りの文化は上杉(うえすぎ)さんをはじめとする非オタ冷静系なメンバーがすでに調べてくれた。


 卵や牛乳が無くても人は生きていくことができる。それこそ俺がキャビアとフォアグラと……、もうひとつってなんだっけ。ま、まあ、それらを一生食べることができなくても平気なように。

 それでもカニは食べるぞ。あれは必需品だから。


「ほら、マクターナさんだって食べたことがあるじゃないですか。ピザ」


「『ぴざ』……、そういえばそうでしたね。アレに使われていたのでしたか」


 野来の語りは絶好調だ。持って行き方が上手い。


 そういえばマクターナさん、『一年一組』の拠点引っ越し祝いのパーティでピザを食べていたっけ。

 あの時はティア様もメーラさんも一緒で、あの守護騎士さんは席に座らず、食べ物を口にしなかったのを思い出す。すっかり打ち解けたものだよなあ。



「油の搾りかすで構わないからフェンタ領に回せば、良質な乳製品に変わるんです。それを輸入する」


「なるほど! 銅と同じく、輸出品として価値を持つということですな。搾りかすというのがまた素晴らしい」


 ピンと来ていない冒険者組合の職員さんたちを見て野来が説明を加えたところで、そっち方面で理解が早いバスタ顧問が食いつく。


 税関の悪徳男爵のお陰で、ペルメッダとアウローニヤの輸出入は活発ではあるものの円滑とはいえなかった。とくに『第三王女派』のフェンタ子爵家は税関で意地悪をされていたのだ。

 現実としてペルマ=タには未だ、フェンタ領からの乳製品はほとんど見かけない。そろそろ増えてくるとは思うけど。


「銅に比べ軽く、積載量も増やせる。何よりフェントラーまでは一日。輸送費はかなりお安くなりますな!」


「そうですっ。帰りは卵や牛乳なんかを積んで来れば」


「これは商人が食いつきますぞ!」


「迷宮の牛とは一味違う、フェンタ牛なんて売り出し方も──」


 うんうん。いい感じに話が転がっているようで何より。野来も語るなあ。


 フェンタ領の中核都市フェントラーは、アウローニヤとペルメッダの国境としての役目を持っている。俺たちが今いるペルメッダの首都ペルマ=タからは徒歩でたったの一日。ある程度の階位があれば、荷車を引きながらでもだ。

 そんなところとの交易で、しかも積み荷はトウモロコシの搾りかす。持って帰って来るのはペルマ=タでは流通していない乳製品とくれば、これはもう新たな事業ともいえるだろう。


 フェントラーは小さな盆地にあるため平地が少なく、畑で作られている作物は自給自足のための小麦や大麦がメインだった。

 そこで先代フェンタ子爵は山間での畜産業を始めたのだが、耕作面積の関係から家畜用の穀物にまで手を出す余力が無い。そこにペルメッダから搾りかすとはいえトウモロコシがもたらされれば……。


 牧場に居候している俺としては、夢が広がるばかりだ。同じく牧場が実家の海藤(かいとう)に言われるまで気付かなかったのがお恥ずかしい。まあ、アイツとは年季と情熱が違うのだけど。



「あの、乾燥させて粉にすると、食べることもできるんです」


 野来のサポートとばかりに、ここで白石さんも参戦だ。メガネを輝かせつつ、一枚の紙を差し出す。


「使い道や料理の仕方を書いてありますので、試してみてください」


 白石さんが取り出したのはウチご自慢の料理番、上杉さんと佩丘(はきおか)が書きつけたものだ。

 コーンスターチの作り方とかトルティーヤなんていう、俺としては食べたことがあるのかどうか記憶が曖昧な料理も紹介されている。


「素晴らしい! 組合長っ、彼らに更なる貢献点を──」


「いえっ、これは冒険者としての仕事じゃありませんので」


 興奮気味のバスタ顧問が口走ったところで委員長が釘を刺す。せっかく野来が前置きしたというのにこの展開だ。


「落ち着いてください。これから唐土(もろこし)が定期的に採れるのか不透明ですし、四層素材だから金額調整だってあるでしょう?」


「それは……、そうだね。うん、アイシロ殿の言う通りだ」


 たしなめる委員長の言葉に、バスタ顧問はストンと素に戻った。


「ただその、僕たちはフェンタ子爵家に恩があるんです。できれば手心を加えてもらえれば」


「承ったよ。実物を見てからになるが、陛下への進言は任せておいてくれたまえ!」


 一言委員長が付け加えたのを聞いたバスタ顧問は、再びテンション爆アゲである。忙しい人だよな。

 勇者の言葉を侯王様に伝える役目はバスタ顧問に取って滅茶苦茶美味しいし、こうもなるか。


 でもまあ交易であれ、新しい食産業にしても、冒険者の領域ではないことに間違いはない。

 もし新しく何かを思い付けば、ティア様経由で国の上層部へのダイレクトなパイプを使えばいいし、ここはバスタ顧問の顔を立てておこうという寸法だ。


 そういえば『黒剣隊』のフィスカーさんの家族が食堂をやっていたっけ。迷宮トウモロコシと乳製品が流通するなら、そちらにもレシピを回してもいいかもしれないな。


「ガラリエさんたちが喜んでくれるといいわね」


「だな。この街にチーズやバターが並んだら楽しいし」


 綿原さんがモチャっと笑い語り掛けてくる。うん、ペルマ=タだけでなくペルメッダ中に乳製品が広まるなんて最高だよな。


 アウローニヤの王城で『緑風』の戦隊長として頑張っているガラリエさんへの応援ってことにもなるし、実家のフェンタ領が栄えるのは俺たちとしても大歓迎だ。

 もちろん俺たちが買い付けている牛乳や卵の質が上がるのも。



「さあさあ、将来の話はそれくらいにして、『一年一組』は参加の是非を決めてきてくれ」


「はい。では僕たちは一旦ここで」


 グラハス副組合長から『シュウカク作戦』の資料を受け取った委員長が立ち上がるのに従い、俺たちは第七会議室をあとにした。



 ◇◇◇



「結構遅くなっちゃったね」


「バスタ顧問がさあ」


「野来もだろ」


「早く多数決して戻らないと」


 道すがら、クラスメイトたちと語り合いながらの拠点への歩みはやっぱり楽しいものだ。

 時刻はすでに昼過ぎ。予定をかなりオーバーしているけれど、商人モードになった野来とバスタ顧問の対話が長くてなあ。


 俺たちのぶんの昼食は残されているだろうけど、トウモロコシ掃討作戦の参加を決定して、なるべく急いで組合に知らせたい。何しろ組合の人たちは、今も会議室で打ち合わせとかをやっているのだろうから。

 昨日の夜、急遽迷宮に突撃したマクターナさんやミーハさん、グラハス副組合長などは、普通に朝から事務所にいた。


 ホント、組合の人たちって激務だよな。

 マクターナさんたちの戻りが夜の十時を過ぎていたって聞いた時の先生なんて、メーラさんバリに目が死んでたぞ。まあ、先生の場合、二十四時間休日無しで一年一組の引率をしているみたいなものだけど。


 先生のコト、もっと労わるべきだろうか。


「ほら、また妙なコト考えてる顔よ?」


 俺好みのクールな声と共に、こちらの視線をサメが遮るように横切った。

 すでに拠点の玄関は目の前で、あとは扉を開けるだけというタイミングだ。


「いや、あれだよ、先生って凄いなって」


「──遅いですわっ! まだ戻りませんの!」


 言い訳染みたコトを言おうとした俺のセリフを、扉の向こう側から響き渡る金切り声が遮った。


 ドアノブに手を掛けた白石さんがビクってなったぞ。

 あの悪役令嬢様、もう来ていたんだ。響き方からして談話室辺りかな……、なんてどうでもいいか。



「すっかり帰宅の挨拶になったわね、これ」


「扉のこっち側までなんて、今日はまた気合が入ってるよな」


 普通に笑顔な綿原さんがシャレた表現をし、俺も軽いノリで答えてみせる。


 相手の正体がわかってしまえば構える必要もない。どうやらティア様は俺たち事務所組をお待ちだったようだ。

 だけど本当に今日は声が大きいし、口調も強いなあ。婚約破棄の一件を語りたいのか、それともまさかとは思うけど『シュウカク作戦』の件を耳にしたか。後者だったとしたら、よろしくない。


「お待たせしても悪いし、行こうか」


 苦笑いをしながら委員長が白石さんの代わりに扉を開けて、俺たちもぞろぞろと続く。

 できれば大したことのない展開を祈りたいのだけど。



 ◇◇◇



「それで、どうしたの? 皆が揃ってから話があるって」


「よくぞ聞いてくれましたわ、リン!」


 談話室に入った俺たちは事務所での報告をする暇も与えられず、悪役令嬢担当の中宮(なかみや)さんがティア様を促した。一刻も早く騒がしいティア様を鎮めたいって感じだな。

 よくぞ、とか言ってるけど、ティア様から強引に迫ったのが目に浮かぶようだ。


「お疲れ様です。はい、どうぞ」


「お。ありがとう」


 スマイル無料な上杉さんが手渡してくれたのはホットドックもどきだった。今日の昼はこれか。


 ところでこれからこの国のお姫様が重大告知をするムードなんだけど、こんなの食べながら聞いたら失礼に当たるんじゃ……、そんなの今更か。

 事務所組六名が手にしたホットドックをチラ見したティア様だけど、気にした素振りも見せていないし。



「座ってくださって構いませんわ。それと食事も続けてくださいまし」


 邪悪に笑うティア様は、いつにも増して迫力がある。ここから先の展開がちょっと怖くなってくるくらいに。


 こういう時はメーラさんの瞳が参考になる。普段よりも澱んでいたとしたら……、明るい、だとっ!?

 いや、それでも一般人よりは暗い感じなんだけど、アレはお気に入りの奉谷(ほうたに)さんと語っている時くらいの輝きだ。

 すなわち悪い方向ではない。あくまでメーラさんにとってはだけど、それでもティア様的にも朗報ってことだろう。この主従はそういうノリだから。


「わたくしは昨日、アウローニヤの元第一王子との婚約を、正式に破棄いたしましたわ!」


「うん。昨日ベルサリア様から聞いたよ。ティア様、良かったね」


 一大発表とばかりに宣言したティア様に、屈託のない夏樹(なつき)の言葉が刺さる。お前なあ。


「あの傲慢女狐! なんなんですのよっ! わたくしの口から伝えるのが筋でしょうに!」


「ひえっ!?」


 まさに地団駄といった風情でティア様が床を踏みつけ憤慨しているが、傲慢というならいい勝負な気もする。

 夏樹も今更ビビってる場合か。自業自得を絵に描いたようなことをしたクセに。



「ま、まあいいですわ。本題はここからですわよっ!」


 ひとしきり怒り終え、気を取り直してからふんぞり返って腕を組んだティア様が、おもむろに語り出す。


 婚約破棄の件が本命じゃないとすると、これは本気で迷宮絡みだろうか。トウモロコシ発見の当事者でもあるし、思うところはどの辺りだろう。


「あなた方も知っての通り、新たな魔獣の出現を含め、昨今の迷宮は異常ですわ」


 ドドンという擬音をまとったティア様は、大前提を口にした。いつも通りに大仰だなあ。


「お父様は国を差配し、ウィル兄様は軍を指揮することで、迷宮に対応をすることになりますわ。もちろん冒険者たちと手を結びつつ」


 これもまた共有された前提だ。今日は随分ともったいぶるなあ。

 なんか合いの手を入れるって雰囲気でもないし、完全にティア様の演説状態だ。


「本来わたくしはアウローニヤに嫁ぐことで、外交としての役目を背負っていましたわ。ですが事情は変わってしまいましたわね」


 言っている内容とは違い、そのセリフを言い放った時のティア様は実に爽快といったご様子だった。


 俺なら役割りを失ったとかになったら、かなり絶望してしまいそうなんだけど、ティア様は違う。それくらいアウローニヤ行きが不本意だったのは知っているし、事実いい笑顔な悪役令嬢様は現在アゲアゲ中だ。


「この国の頂点に立つ者として、わたくしにはまた別の、背負うべき役目が必要ですわ!」


 ナチュラルに頂点とか言っちゃう辺りがティア様だけど、侯爵家の一員として、責務を求める姿勢は立派だと思う。


 問題なのは、その役目とやらがどういう方向なのかだ。


「わたくしは冒険者となりたいのですわっ! そして『一年一組』に入ることを切望しているのですが、どう思われます?」


 いや、どうって言われても。


 俺の膝の上に、食べ掛けのホットドックがポトリと落ちた。



 557話並びに558話の削除・改稿を行うため、次回の投稿は未定です。申し訳ありません。

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