第555話 組合が動き出す
「くっ、先を越されたか」
「元気出してよ、八津くん。僕たちも頑張ろう」
「そうだな。次回で必ずだ」
そんな会話をしてから俺と子犬系男子の夏樹が肘をぶつけ合う。やっぱり俺たちは親友だな。
周囲の視線が生暖かいが、知ったことではない。
中宮副委員長と元第二王女なベルサリア様による木刀を使ったチャンバラは、ウチの木刀女子が相手をいなす感じで終わった。中宮さん必死の接待である。
ベルサリア様が謎の覚醒を遂げたり、密かに階位を上げていたということもなく、実年齢と逆な大人と子供レベルの戦いだったけど、ラハイド侯爵夫人は実に満足そうだったのが印象的だ。
ティア様といい、ベルサリア様然り、何故か悪役っぽいお姉さんに絡まれるのは中宮さんの宿業なのだろうか。
トウモロコシ騒動の夜に起きた偉い人による襲撃事件であったが、そこでお開き。
現在一年一組は、談話室でアウローニヤからの手紙を、おさげメガネな白石さんが朗読し終えたところだ。毎度の如くラストで泣かせにくるものだから、一部のクラスメイトが目の端を赤くしている。
が、俺と夏樹はそれどころではない。
「へっへ~。置いてかれちゃったねぇ」
「ボクも頑張らないとだねっ」
そこで会話に混じってきたのはチャラ子な疋さんと、ロリっ娘の奉谷さんだ。この中に一人仲間外れがいるぞ。
手紙によれば、送付される前日にアウローニヤの対迷宮特殊戦隊……、正式な肩書は忘れたけど『緑風』がガラリエさんとシャルフォさんたちヘピーニム隊の帰還に合わせて本格稼働したらしい。
決起集会染みたコトまでやったそうで、なんとその場でなされたガラリエさんの演説全文が別途添付されていた。そっちも白石さんが読み上げたのだけど、うん、恥ずかしそうでお顔が真っ赤だったよ。ガラリエさんの勇者上げが凄すぎないだろうか。
そんな『緑風』の動向なんだけど、その日、シシルノさんとベスティさんが十二階位を達成したのだ。お忙しい女王様とアヴェステラさんはレベルアップできなかったらしく、手紙のそこの部分には恨みがましい文言が並んでいた。女王様……。
「女王様の恨み節~ってねぇ。八津と夏樹もやるしかないっしょ」
「十二階位様に言われてもなあ」
疋さんの言葉に俺はそうやって返すが、それで空気が悪くなることもない。
昼間のトウモロコシ畑発言は失敗だったかもしれないが、疋さんとの気安さはこの程度で崩れないって知っている。
「なら手伝ってあげるっしょ」
「わたしを忘れてもらっては困るわ」
にひっと笑う疋さんに続き、ダブルヘッドなサメを引き連れた綿原さんまで参戦だ。さっきからこっちの様子をサメと一緒に窺っていたもんな。
一年一組に残された十一階位は俺と石使いの夏樹、バッファーな奉谷さんに加え、さっきまで手紙を朗読していた白石さん、栗毛の深山さん、そして聖女な上杉さんの六名。
女子メンバーはあまり気にしていないようだが、健全な男子として、俺と夏樹はちょっと悔しいのだ。
とくに俺などは十二階位で念願の【身体操作】を予定しているだけに。
で、そんな燃える二人を遠巻きにしていた連中が、パラパラと構い始めた格好だな。
こういう時に真空かと思えるくらい空気を無いものとできてしまうミアあたりが突撃してくるかと思ったが、ワイルドエセエルフは現在意味なく中宮さんから借りた木刀を振り回している。なに感化されているのだか。
「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るな」
「ふっ、風の騎士の力が必要なんじゃない?」
こうなってしまえば、こういうノリが大好きなオタが群がってくるわけだ。テンプレ過ぎるぞ古韮、野来。
「なんか盛り上がってマス! ワタシも仲間に入りたいデス」
そして勘付いたミアまでも……。
「ああ、頼むよ。みんながいないと俺が十二階位なんて絶対ムリだし。なあ、夏樹」
「僕の石なら、そろそろヒヨドリやジャガイモなら倒せるって思うんだよね」
何故そこで裏切るんだよ、夏樹。
◇◇◇
「わたし自身が唐土を確認しました」
「俺もだ。名称は【葉脚三眼唐土】とすることになった」
マクターナさんの発言に続けて、副組合長のグラハスさんがトウモロコシの魔獣名を告げてきた。こちらとしては正直なところ、正式な名前なんてどうでもいい。冒険者たちだってそうだろう。
ラハイド侯爵夫妻の襲撃を受けた翌日の午前九時、俺を含めた一年一組のクラスメイト六名は、冒険者組合と面談をしていた。何故か主要なお偉いさんまで揃っていて、白ザビエルなベルハンザ組合長やバスタ顧問、ミーハさんなども同席している。
場所が定番の第七会議室なのはいいのだけど、なんでこんなに豪華なメンバーなんだろう。それとマクターナさん、昨日は遅かったはずなのに、普通に勤務しているんだな。
こちらからの出席者は『一年一組』組長として滝沢先生、交渉役の藍城委員長、迷宮委員の俺と綿原さん、会計と記録係の白石さん、トウモロコシの使い道係として立候補した野来という陣容だ。
どうして俺たちは冒険者組合のトップ会議に巻き込まれているのやら。
「戦ってみた感想ですが、ヤヅさんから教えていただいた情報に概ね間違いはありませんでした。正直なところ、新しく付け加えるコトが無いくらいです。このあとで擦り合わせましょう」
「お役に立てたのなら良かったです。みんなで検証した甲斐がありました」
ストレートなマクターナさんの誉め言葉に、俺はむず痒さを感じながら答える。クラスメイトを持ち上げることで分散しておこう。
そんな俺の肩に小さな双頭サメがちょんと触って、主人の下へと戻って行く。ワザワザ魔力消費が激しいマネを……。でもまあ、ありがとう。
「討伐数は合計で十八体。昨日帰還した冒険者たちにも確認しましたが、存在を確認できたのは『新区画』のみです。問題なのは──」
「今後も続くか、そして広がるか、だな」
マクターナさんの言葉を引き継ぐようにグラハス副組合長が語る。
昨日の時点でトウモロコシを見たのは、俺たち『一年一組』と組合が送り込んだ最強部隊のみ。冒険者と軍からは、遭遇の報告は上がってこなかったらしい。
なんでも国軍からも調査の打診があったのだけど、連携の不備という建前で組合が先行調査を請け負ったのだとか。情報こそ回すものの、そういうところが冒険者組合の誇りであり、そして権益というやつだ。
現状トウモロコシが確認されたのは、フィスカーさんたち『黒剣隊』が見つけた新区画に限られている。
グラハスさんが言っているのは、これが一度限りの発生で倒し尽くせばそれで打ち止めなのか、もうひとつは四層全域に広がるか、だ。
「二十三年前の記録となるが、二層に鯛が発生した事例がある。今回報告された魔力の減少こそ確認できなかったらしいが、新区画の発見に伴った新種の発見……、そして二層全域への広がりだ」
「アラウド迷宮一層の『鮭』も同じ経緯を辿ったと聞いています」
副組合長と一等書記官さんの掛け合いを、会議室の面々は黙って聞いている。もちろん空気は少し重たい。
「魔力の増加と共に発生している『魔獣溜まり』。この先、起きうるかもしれない『魔獣の群れ』。そして新種。厄介なことだね」
冒頭の挨拶以降静かだった頭頂部を輝かせるベルハンザ組合長がここで口を開いた。声色こそ優し気な風貌に合わせて柔らかいが、発言の内容は深刻だ。
「私としては最悪に備えるべきと考えるが、皆はどうかな?」
組合長の出した結論に、異を唱える人は誰もいない。
そりゃそうだ。四層など関係ないと楽観的に行動する冒険者はいるかもしれないが、組合として温い断定なんてできるはずもないだろう。
昨日マクターナさんが言っていた通りの方向で組合は動くことになる。
「となれば『使い道』も考えねばいけませんな」
「顧問はそう来るか」
「副組合長。私の存在価値は、そこでこそでしょう」
敢えて明るく振る舞うバスタ顧問にグラハスさんが苦笑で返す。
侯国から派遣される形で組合に所属しているバスタ顧問には決定権が無い。できることは意見を出すだけだ。
そしてそこに『国への貢献』を忍び込ませるのもまたお仕事。トウモロコシが発生し続けるとなれば、素材としてどう使っていくのかは重大事だろう。基本的に四層素材は高級品扱いだからな。
「とはいえ狩る者がいなければ、素材どころの騒ぎではありません。そちらは冒険者の領分ですな」
お得意の手もみを幻視させる笑みをバスタ顧問は俺たちに向けてきた。
まあ、余程のコトにでもならない限り、俺たちが迷宮から逃げるなんてことはあり得ない。
存分に期待に応えてあげようじゃないか。
この期に及んでもなお、お前ら勇者が来たからじゃないか? などという言葉は無いし、そういう感情を顔に出している人もここにはいない。
それが心に刺さるから、俺たちは最大限の協力をするってみんなで決めてある。
「では具体的な戦闘についてだが、『一年一組』の諸君にも存分に意見を出してもらって──」
素材の行方は置いておくとして、まずは倒せなければ意味が無い。グラハス副組合長が口火を切った。
◇◇◇
「過不足はないと思います。魔獣の特徴や性能が変わったりは、していないんじゃないかと」
「そうか。まあ魔獣が強くなったなんてのは、それこそ特殊個体くらいの話だしな」
そう言って俺とグラハス副組合長は頷き合う。
意見交換は三十分以上にも及んだ。
発言者は『一年一組』からは俺、あちらは調査隊に含まれていたグラハスさんとマクターナさんがメイン。なんと魔力量調査も同時並行ということで、ミーハさんまでもが連れていかれたらしい。ついでに【聖術師】も三名。
で、やっぱりトウモロコシを振り切れなかったのだとか。
とはいえ潜ったのは十六やら十五階位を含めた前衛が二十人程の組合最強パーティだ。ちゃんと後衛職を守り切って、遭遇したトウモロコシはもちろん、その他魔獣も倒せるだけ倒して地上へ帰還したというオチとなる。
「痛覚毒が厄介でしたが、そこ以外は動きに慣れさえすれば対応できるでしょう。アレはあくまで迷宮四層の魔獣です」
マクターナさんの結論も俺たちのものと一緒だと知り、心の中で安堵のため息だ。
麻痺、嘔吐など種類豊富な魔獣の毒だけど、魔獣ごとに『度合い』が異なってくる。傾向としては階層が深まるにつれ、毒ダメージが重たくなるのだ。
たとえばペルマ迷宮ならば三層のレア魔獣であるスダチが痛覚毒持ちだが、マクターナさん曰くトウモロコシの方がキツいらしい。
そう、マクターナさんなら避けられるはずの毒を、『手を伸ばす』人は敢えて食らって確認したのだ。
「慣れるまでが大変だな。かといって、いつ全域に広まるかもわかったもんじゃない」
「むしろ狩りを推奨すべき状況ですね」
ゴツい顎に手を添えた副組合長とマクターナさんの掛け合いを、周囲は黙って聞いている。
二人が強者なのはもちろんだけど、こういう現場レベルの会話にベルハンザ組合長やバスタ顧問は口を出さない。役割がちゃんとしているってことだな。
迷宮で戦う冒険者たちは、良くも悪くも魔獣に慣れている。表現を変えれば、慣れていないことに慣れていないのだ。
たとえるならば教科書と参考書がちゃんと存在していて、授業もしっかり受けている状況に、いきなり教科が追加されたらどうなるか。授業も教科書もなにも無く、ただテスト用紙が配られたら。
震えがくるなあ。
「そこでひとつ手を打っておきたい」
そんなグラハス副組合長の言葉は、明確に俺たちに向けられていた。真面目顔のマクターナさんもこちらに視線を送っている。
「作戦でもあるんですか?」
「作戦と呼べるようなご立派なものでもないがな。ミーハ」
「はい」
手とやらに俺たちが関係している雰囲気を感じ、警戒する素振りで委員長が問えば、グラハスさんからの答えは曖昧なものだった。指示を受けたミーハさんが手元から一枚の紙を取り出し、俺たちの前に置く。
一枚ぺらの紙の一番上に書かれたタイトルは『ペルマ迷宮四層新区画に出現した新種魔獣に対する戦闘方法の早期確立と掃討を目的とした作戦要綱』。
なんだこれ。
「最初にできる悪あがきだな」
ワイルドな風貌に苦笑を浮かべたグラハス副組合長は、食い入るように書類を読む俺たちに語り掛ける。
「新区画に大量の冒険者を一度に送り込んで、新旧関係なく魔獣を狩り尽くす、ですか」
「そうだ。できれば二百名以上を投入したい」
「二百……」
確認するように概要を口にした委員長に、グラハスさんはとんでもない数字を持ち出してきた。
いや、確かに資料を見ればそう書いてあるけどさあ。委員長が呆れたような声になるも理解できるぞ。
『オース組』の『黒剣隊』が発見した新区画は、組合により完全なマッピングが完了している。各部屋の魔力量も調査されていて、明確な魔力部屋も網羅されている状況だ。昨日、一個減っていたのだけどな。
それにしたって──。
「狩場としては三区画ですよね? 新区画」
「そうだな」
俺のセリフに、グラハス副組合長は即答する。お互いわかりきってるコトだけど、俺は思わず口にしてしまった。
新しく発見された区画はそれほど広大ではない。狩場の設定としては現状三区画。魔獣が増えればさらに細分化されるかもしれないが、たったの三つなんだ。俺たちが昨日トウモロコシに遭遇したのはそのうちのひとつだな。
『魔獣溜まり』に対応するため、ペルマの冒険者たちはひとつの隊の人数を増やしている。俺たちは二十二人だが、普通であれば一隊は十五人くらい。
つまり通常営業なら新区画で三つの隊が同時に行動するとして、合計しても五十人に届かない。そこに二百を叩き込むというのが、この作戦の肝だ。
四倍以上の人員を投入。組合は虱潰しをするってことか。
「理屈は二つだ。大人数で余裕がある状況で慣熟をやっておきたい」
「そしてあわよくば、新種そのものに消えてもらいたいのです。四層全域に広がる前に。こちらは期待薄ですが」
グラハスさんとマクターナさんの言いたいことは理解できる。
これが通常状態のペルマ迷宮ならば、バスタ顧問のように素材が増えたことを喜ぶことすらあっただろう。
だけどさっきベルハンザ組合長が言った通り、現状は魔力の増加に伴う魔獣の増加という異常事態の最中だ。新種発見の恩恵よりも、冒険者の危険の方が重視された結果ってことか。最悪トウモロコシという魔獣が無かったことになっても仕方がないという判断だ。
「あの、それでもいいんですか? 新しい魔獣が消えちゃっても」
トウモロコシの活用方法を説明する係だった野来が組合の人たちを見渡しながら確認するが、黙って頷かれるだけだった。
バスタ顧問なんかは渋い顔になっているかと思えば、そうでもない。さっきの会話は空気を軽くするための顧問なりの話術ってやつだったのかな。
そもそもグラハス副組合長とマクターナさんの言い方だと、大人数で慣れておくのがメインで、消滅は期待していないようだし。
やたらと長い作戦名に掃討ってフレーズが入っているのは、あわよくばのオマケってところか。
だから野来、残念そうな顔をするなよ。
俺は消えないと思うぞ? そもそも完全に掃討したって、つぎの日には生えてる可能性の方が高いだろうし。
「これを僕たちに見せたということは」
「はい。組合から『一年一組』に依頼として参加を要請します。現状で新種との戦闘経験があり、明確な対応策を持つ唯一の組に」
委員長の言葉に答えるマクターナさんはお得意の朗らかな笑顔で、むしろ誇らしげですらある。俺たちの専属担当にそんな顔をされちゃなあ。
「マクターナさんだってやっつけたじゃないですか」
「ごり押しをしただけですよ」
照れくさそうに野来がツッコムけれど、笑顔のマクターナさんは涼しいものだ。
「各組との調整も必要だが、なるべく早期に実行したい。予定は二日後の四刻だ」
ごほんとひとつ咳払いをしてからグラハス副組合長が日程を告げる。これもまあ書類に書かれているんだけどな。朝の八時から迷宮なんて、俺たちとしては随分と早い時間だ。
「組合からも人員を供出します。第一と、もちろんわたしも」
一瞬だけあの圧を強めたマクターナさんの笑顔は、やや獰猛なものになっている。
組合の持つ迷宮戦闘部隊は単純なナンバリングで呼称されていて、第一というのは昨夜もトウモロコシに挑んだ最強クラスだ。それだけ組合も本気だということだろう。
いや、形としても本気の本気を見せなきゃいけないのか。なにしろ──。
「複数の組を同じ区画に入れるという事態は異例だね。冒険者の気風としては、受け入れがたいと考える組もあるだろう」
ここでベルハンザ組合長がおもむろに語り始めた。
冒険者は稼いでナンボ。今回の作戦では分け前の配分どころか、素材の回収すら怪しい。ラストアタックの確認も難しいだろうし、大量の投棄が発生するはずだ。
そもそも普段やったこともない組同士の連携なんて、まともに取れるはずがない。
「むしろ国軍向きのやり方ではある。だが、迷宮は冒険者の狩場だ。軍に場を整えてもらい、それから冒険者がのうのうとなど、できるだろうか?」
普段は柔らかな組合長の口調が、次第に熱を帯び始めた。
建前はわかるけど、調査だけでなく掃討まで組合で独占するつもりか。
この作戦が軍に向いているのはその通りだろう。ちゃんとした指揮系統を持った行動ができるはずだ。それこそあの侯王様が先陣を切る形で。蹂躙されていくトウモロコシが易々と想像できるな。
だけど、それじゃダメだと組合長は言っている。
「軍は国を守るために迷宮を『利用』するが、冒険者は違う。迷宮と共にあるのが冒険者であり、我々組合は最大限の努力で彼らの助けにならなければいけない」
ベルハンザ組合長のセリフひとつひとつで、組合職員たちの背筋が伸びていく。釣られたこっちまでもがだ。
「すでに昨夜、侯王陛下に話は通した。活躍に期待しているとのお言葉をいただいている。陛下はアウローニヤとの交渉でお忙しいそうだよ」
そこでふっと口調を柔らかくした組合長は、輝く頭頂部に片手を乗せた。
「我々がやるのだ。冒険者たちに請い、束ね、そして共に」
そこまで言い切ったベルハンザ組合長は、普段の好々爺な空気を完全に引っ込め、決然とした表情となる。
ついでに手を下ろした頭部が光った。うん、ウチのクラスに連中がやる、要所要所でメガネを光らせる手法だな。
「では正式な作戦資料の作成と参加を要請する組への折衝を並行して頼むとしよう。作戦責任者はグラハス副組合長だ。必要な人選は任せるよ」
「了解ですよ。組合長」
ベルハンザ組合長が短い演説を終え、副組合長は頭をガリガリと掻く。
大変そうなお仕事だなあと思いつつ、ここでひとつやっておきたいことがある。
俺が横に視線を送れば、野来と白石さんが小さく頷いた。
「あの」
アイコンタクトの結果、手を上げたのは野来だった。横ではメガネを光らせた白石さんが、口端を小さく持ち上げている。
俺たち三人の悪ノリを察した先生がどこか呆れ顔になっているけど、気にしてはいけない。
「長くないですか? 作戦名」
「そ、そうか?」
飄々とそんなセリフを放った野来に対し、グラハス副組合長は複雑そうだ。これから忙しくなるというのにそこかよって顔だな。トウモロコシには正式名称を付けたくせに。
だけどうーん、そこは『組合のやることだから』と言って欲しかったのだけど。
「いいじゃないか。彼らに名付けてもらおう。どうやら案もあるようだ」
思わぬ野来の発言にも、組合長は面白そうな表情で先を促してきた。わかってるじゃないか。
「『ヤシオ……』、『シュウカク作戦』ではどうでしょう」
「『しゅうかく』?」
「僕たちの故郷の言葉です。意味は『収穫』」
敢えて収穫の部分だけ日本語にした野来はしてやったりといった風情だ。やり切ったなあ。ベルハンザ組合長は首を傾げているけど。
『オペレーション・ハーベスト』もアリだと思うけど、やっぱりここは日本語でなきゃならない。
「全ての魔獣を刈り取るわけだね。いいじゃないか。『しゅうかく作戦』。それでいこう。出展を聞かれたら、アウラ語だとでも言っておこう」
組合長のお墨付きで大勢は決した。勇者バレにまで気を使ってくれるなんて最高じゃないか。
やったな、野来。即興ってコトに配慮すれば百二十点だ。拠点に戻ったらオタ仲間の古韮に自慢しないとだな。
ところで『一年一組』が参加するかどうか、まだ決まっていないのだけど。
次回の投稿は明後日(2025/09/13)を予定しています。