第539話 甘きサメよ来たれ
ちょっとネタに走りすぎたかもしれません。
「素材運びまで手伝ってもらって、すみません」
「気にすんなって。駆け出しが先輩の世話になるのは当然だ」
「そんな駆け出しに助けられたヤツが言うかねえ」
「だからちょっとだけでも、恰好付けてるんだよ!」
ペルマ迷宮二層に社交的な藍城委員長の声と、『赤組』のおじさんたちのガヤが響く。
救助をしたとはいえ、索敵やら囮やら、さらには素材運びまで手伝ってくれている『赤組』の皆さんには感謝しかない。
ウチのヴァルキリーズが牛を三体瀕死にしたあとは、別口でジャガイモ五体との戦闘を経由して、俺たちは帰路についている。時間の関係で芋煮会はできなかったけど、ちゃんとした成果もあった。
牛にトドメを刺したところで【岩騎士】の馬那が、ジャガイモでは【熱導師】の笹見さんが十二階位を達成したのだ。『赤組』から授かった短剣の効果に、クラスメイトたちから絶賛の声が上がったのも付け加えておこう。
これで一年一組の十二階位は十三人。残された騎士メンバーとメガネ忍者な草間も、たぶんあと数体ってところまでは来ているはずだし、リザルトとしては上々だ。
終盤で階位を上げたヤンキー佩丘とミリオタ馬那は技能を取らず、アネゴな笹見さんは【鋭刃】を選択した。笹見さんとしては【風術】とで迷ったらしいが、五層を見込めば正解だろう。【風術】ドライヤーはまた今度ってことで。
「三代前が『白組』と折り合い悪くてな。対抗意識であちらさんとは違うことをしたいって言いだしたのが、コトの発端だったらしいんだ」
「で、子供筋を集めて『赤組』を小規模にするって言い出したって話なの。今のわたしたちがこうしているのはその結果」
「少数精鋭部隊ってカッコいいじゃないですか」
「ああ。いいって思う。俺たちもいつかは、だな」
「そうかい?」
「嬉しいコト言ってくれるわねえ」
前方から冒険者のおじさんとお姉さんを挟んで草間と馬那が『赤組』の少数精鋭主義を褒め称えいる。そんな事情だったんだな。十歳以上も年下の後輩にカッコいいと言われて、周囲の組員さんたちもまんざらではなさそうだ。
四十人以上の大所帯でしかも二層ともなれば、もはやピンチは脱したとみて間違いないだろう。もちろんフラグではなく。
そういうこともあって陣形は最低限を保ちつつも、気軽な会話が飛び交っている。抜く時は抜くっていうのは冒険者っぽいかもしれない。俺たちも迷宮で結構バカをやるしな。
「それでね、頭が五個くらいまではいけると思うの」
「そりゃ凄い。五倍強くなるのかな」
「それは……、やってみてからのお楽しみね」
俺はといえば【観察】を使って周囲を監視しつつ、熱弁を振るってくる鮫女子な綿原さんとの会話中だ。
さすがに小さい五層の血ザメでの戦闘はムリだったのもあって、現在綿原さんの近くでは白いサメが頭を二つ揺らしている。
俺の短剣強奪時の会話がツボったらしく、今度は自分の手で五層の血を手に入れると息巻いている綿原さん。彼女は常に血に飢えた存在なのだ。
「たぶんこんな感じになるはずよ」
サラサラとメモ帳にデフォルメされたサメイラストを描いてくれたのだけど、頭が五個なサメの時点で俺には理解の範疇外だよ。もはやコレって迷宮の魔獣と大して変わらないんじゃないだろうか。
どれだけ異形であっても、それを操る子が血を好んでいたとしても、それでも──。
「いいな。強くて大きくて、数も増えるんだろ?」
「そ! 竜巻だって作りたいし、ああ、【蝉術】もまだ取れていないし、やらなきゃならないことがいっぱい」
これこそが惚れた弱みってヤツなのかなあ。
モチャモチャと笑いながらイラストを見せつけてくる綿原さんが、サメまでひっくるめて、俺にはとっても奇麗で可愛く見えてしまうのだ。
「サメは強いって思い知ってるけど、セミってどうなんだ?」
「セミも凄いのよ。首を千切り取るし、爆発だってするの!」
「爆発?」
なんで取得してもいない技能の性能がわかっているのやら。
けれども爆発するっていうのは魅力的だな。どれくらいの威力が見込まれるんだろう。
「セミにはね、砂糖が含まれているから爆発しやすいのよ」
話題がセミにシフトした綿原さんが熱く語っているけれど、なんでセミに砂糖が含まれていて、それが爆発につながるのだろう……。意味がわからない。砂糖って爆発物だったか?
異世界モノに限らず、ラノベやアニメなら粉塵爆発が定番だ。【雷術師】の藤永は、水の電気分解からの水素爆発を狙っているけれど、成功にまでは及んでいない。すぐに散ってしまう水素を制御できないんだよなあ。
「……ちょっと待って、八津くん」
モチョり顔を引っ込めた綿原さんが急に立ち止まり、マジ声で俺に語り掛けてきた。なんで今の会話で雰囲気が一変するのだろう。
「砂糖……、砂糖……、砂……」
「あ」
顎に手を当て肩にサメを乗せた綿原さんがブツブツ呟き始めたあたりで、俺も気付いた。まさか、だよな。
「美野里っ!」
「はいはい。砂糖ですね」
一瞬にして狂気モードに入った綿原さんが聖女にして料理長の上杉さんに詰め寄る。それでもなお上杉さんは泰然としたものだ。聞いてたんだな、俺と綿原さんの会話。
ここに至り、ついに集団の移動が停止した。
ビスアードさんを筆頭にした『赤組』の人たちは訝し気に、一年一組のメンバーはまたなんか始まったとばかりにこちらの様子を窺っている。マクターナさんとミーハさんはこんな綿原さんを見るのは本日二度目だし、もしかしたら毎日壊れるキャラだとか思われてるかもしれない。今日が特別なだけで、そんなに起きない状態異常なんだけどな。
「綿原さん、逸る気持ちはわかりますけど、時間がありません」
「あ、ごめんなさい。歩きながらで十分だから」
こんな状況でもちゃんと注意する上杉さんは、言い含めてから砂糖の入った小袋を綿原さんに手渡した。
ところで気持ちがわかるのか、上杉さん。食材絡みだからかな。
「盲点だったわ。これは砂。砂なの。間違いなく、砂。『砂糖』なんだから」
行軍が再開され、それでも周囲からの視線が集まる中、手甲を外して白い砂糖を手のひらに乗せた綿原さんは、自分に言い聞かせるかのように呟き続けている。
「白くて甘い、砂。迷宮産だから魔力も通りやすい」
これまで様々な物質、とくに砂関係を念入りに操作できないかとチャレンジしてきた綿原さんからしてみれば、モロに『砂』という文字の入った砂糖を見落としてしまっていたのは痛恨事だろう。
ましてやペルマ=タで手に入る砂糖は、基本的にペルマ迷宮のサトウキビから作られている。迷宮から産出される物質は、総じて魔力が通りやすいのだ。
珪砂を砂判定して以降、綿原さんの検証材料として挙がったものに、砂鉄と砂金があったりする。
結果はどちらかというと残念な内容だった。アウローニヤ時代に試したのだけど、比重が大きい鉄や金ではサメを作り出すことこそ成功したのだが、動かすことに必要な魔力消費が大きすぎてまともな運用ができなかったのだ。
【石術師】の夏樹もそうだけど、素材が重くなればなるほど操作に必要とされる魔力は多くなる。当然速度も出しにくい。魔術とはどこまでいっても、魔力によるエネルギーが引き起こす現象だということだ。
それでも綿原さんはごく小さい鉄サメなんかを模索していたが、攻撃力不足で却下。表面だけを形成するように密度を下げたバージョンも試したが、ミニチュアレベルのハリボテとなった。
こういう辺りは魔力的にパワーアップされているとはいえ、重量物を物理的に投げることのできる【剛擲士】の海藤との棲み分けだな。ピッチャー海藤は複数の石を操る夏樹の下位互換などではない。
砂に話を戻して、鉄よりさらに重たい砂金などは、物質的にも金額的にも検討に値しないので、これまたダメ。金ぴかのサメなんて綿原さんに刺さりそうな気もしたけれど、どうやらそういう趣味はなかったらしい。
今更だけど、あの実験の時に『水鳥の離宮』にアヴェステラさんが持ち込んだ砂金の山って、レムト王家の資産だったんだろうなあ。現在金貨を大量に持っている俺たちだけど、鋳潰して砂にするなんてできるはずもない。
結論として金属系の砂はたぶん使えないだろうってことになった。オリハルコンとかミスリルが見つかったら再度挑戦だな。
「骨粉はダメだったけど、これは砂。絶対に砂」
そう、魔獣の牙や角を砕いた粉だって、綿原さんは試したことがある。『砂』鉄はイケて骨『粉』はダメだった。ならば『砂』糖であれば。
そんな砂探求の中で、砂糖というのが浮上してくるあたりが綿原さんの執念だ。
だからこそ心からの声援を俺は彼女に贈る。
「できた。できたわ!」
そんな俺の心の声が届いたかはさておき、砂糖に集中力の全てを込めていた綿原さんが叫ぶ。
彼女の右手のひらでは、小さな白いサメの頭だけが飛び出していた。もちろん経過を見ていたのだけど、ニョキって感じで頭が生えるシーンは、やっぱり違和感だよな。
けれどもここまで来てしまえば綿原さんは成し遂げるであろうことを、俺は知っている。血サメの時も同じパターンだったよな、たしか。
つまりいずれは『砂糖鮫』が達成されるのだ。綿原さんの手数が増えたぞ。
「珪砂程魔力は通らないわね。やっぱり人の手が入っているからかしら」
「どんな感じ?」
「珪砂より軽いのに、動かしづらいの。このままじゃ、使いどころに迷うわね」
俺の問いに答える綿原さんだけど、視線は手のひらに向けられたままだ。没入してるなあ。
「それに……、爆発もムリみたい」
「手の上でやらない方が、いいんじゃないかな」
とても残念そうに眉を下げた綿原さんが俺の方を向いて告げてきた。
使い道を考えるのはいいけれど、どうして爆発に向かうんだよ。
「あ、そうよ。【蝉術】となら相性がいいかも。こうなったら──」
「ちょっと待ったあ!」
不審なコトを口走った綿原さんに、思わず俺は大声でストップをかける。
危なすぎるぞ、綿原さん。さすがにここで【蝉術】は無い。
「十二階位で【多頭化】を取ったばかりだろ?」
「……そうよね。ごめんなさい」
いくらサメが絡むと暴走しがちな綿原さんでも、ここで新技能はマズいと理解できるくらいの理性は残されていたようだ。普段は俺なんかよりよっぽどクールなのになあ。
「地上に戻ったらさ、【多頭化】の検証だろ? もしかしたら砂鉄くらいならイケるかもしれないし」
「そうね。やるべきことがまだまだあるわ」
「そうそう」
俺の言葉を聞きながら綿原さんは砂糖を袋に戻し、手のひらにくっついていた残りをペロっと舐めてからモチャっと笑った。
「やはり君たちは面白いな。ウチでも術師を育てたくなってきた」
「組長、だったらまずは俺たちだろうが」
「そうよ。守ってもらってばかりじゃねえ」
ここまで黙って綿原さんのチャレンジを見守っていたビスアードさんが、狂気が霧散したのを確認したのか、ここで口を挟んでくる。それを聞いた『赤組』の【聖術師】なお二人が前向きなツッコミを入れる辺りは、組内の仲の良さなんだろう。
「後衛術師は十階位まで、なんていうのは古いのかもしれないな」
ビスアードさんの言葉をどう思う? 綿原さん。
ウチの鮫使いさんは聖女と二人掛かりで、ペルマの冒険者たちの常識を変えてしまったかもしれないぞ。
◇◇◇
「ああ、生きて戻ってこれたなあ」
まさに万感といった風にビスアードさんが大きく息を吐く。『赤組』組員たちも似たような表情で、中には涙ぐんでいる人までいる。
「『赤組』だ。戻ってきたぞ」
「なんだあ、ありゃ」
「ズタボロじゃねえか!」
組合の風呂に入りはしてきたものの、失ったり壊れた装備だらけの面々だ。ちょうど冒険者たちが地上に戻ってきた時間帯ということもあって、ここ、ペルマ迷宮冒険者組合事務所の大フロアは人でいっぱいだった。
もしかしたら『赤組』の戻りを待って五層の様子を聞いておきたい、なんて思惑を持った冒険者もいるかもしれない。
ここまで戻ってくるまでに、迷宮一層の階段前に常駐する兵士や【聖術師】に驚かれ、地上の衛兵さんにも心配され、素材受け取りでもちょっとした騒ぎになった。
それでもなんとか帰還予定時刻に『出宮確認』にサインはできたので、救助隊の出動が避けられたのは何より。
「うわあ、人でいっぱいだね」
「冒険者ってこんなにたくさんいるんだあ」
ロリッ娘な奉谷さんと弟系の夏樹は、眼前の光景に驚きの声を隠せていない。
ウチのクラスは普段、敢えて迷宮の時間帯をズラしているから、確かにこういう喧騒は初めてだ。
昨日の臨時総会や『雪山組』の『ヤーン隊』とのステゴロでも三桁に届くかという冒険者たちを見てきた俺たちだけど、迷宮から戻ってきたばかりだろう彼らからは独特の空気を感じる。熱っぽいというか、暑苦しいというか。
カッコよく表現すれば、戦いの熱気が抜け切れていないってところかな。
組合事務のマクターナさんとミーハさんは風呂上りの時点でお別れしていて、冒険者の正規ルートで戻ってきた『一年一組』は、なるべく目立たないようにと『赤組』の背中を盾に、さりげなく壁際を移動中だ。
どうせこれから大騒ぎになるだろうし、とっとと拠点に戻るに限る。こんなところにいられるか。俺たちはホームに帰らせてもらうぞ。
「見ての通りだ。俺たちはしくじった!」
脱出を図る俺たちの背後で大声が響き渡った。もちろん『赤組』組長のビスアードさんなんだけど、どうやら騒がしい冒険者たちに対し、この場で経緯を説明するようだ。
あとで又聞きするのも面倒だし、これは聞き遂げておく必要があるだろう。誰とでもなく自然と俺たちの足も止まる。
「まずこれだけはハッキリ言っておこう。今の五層は危険だ。確かに『赤組』は敗走した。這う這うの体で逃げ出し、見ての通りだな。だがそれは現状の四層と同等か、それ以上の数の魔獣がうろついていたのが原因だ。詳細な報告は明日にでも組合に提出するが、間違っても狩り時などとは思わないでほしい!」
只々事実を、ビスアードさんは恥じる様子もなく大声で語っていく。
ペルマ最強とも目される『赤組』が敗北したという報告だ。それに対する異論反論など出てくるはずもない。無言で並ぶ『赤組』面々の表情と、失われた多くの装備、ボロボロになった革鎧が五層の異常さを雄弁に語っているかのようだ。
「そして付け加えておきたい」
一瞬だけど、ビスアードさんがこっちを見たよな、今。ヤバい。俺たちは『赤組』に【聖導術】こそ口止めをお願いしたけど──。
「この通り装備を失い、負傷し、素材を全て放り出して四層まで逃げ延びた俺たちを、救ってくれた者たちがいる」
前に大きく突き出した、そこだけ鎧が欠損しているビスアードさんの太い右腕は、明確に俺たち『一年一組』に向けられていた。
「組合事務のマクターナ・テルト女史、並びにミーハ・カミュロ女史。そして彼ら、『一年一組』だ!」
マクターナさんの名が出たところで納得の表情を浮かべかけた冒険者たちが、一斉に俺たちを見る。勘弁してくれ。悪目立ちは好みじゃないんだ。
「魔力の尽きたウチの【聖術師】に代わり俺たち全員の怪我を治療し、飯まで食わせて励ましてもらった。迷宮で食えるようなモノじゃない。実に美味かったぞ」
笑みを伴いながら賞賛の言葉を並べるビスアードさんに合わせるように、『赤組』の組員さんたちも明るい表情で大きく頷く。
「ああ。確かにアレは美味かった。俺たちも保証するぜ」
合いの手を入れたのは以前迷宮で食事を一緒したことがある『白羽組』の人たちだ。この場にいるのには気付いていたけど、そういうのは、ちょっと……。
「迷宮で優雅にお食事ってか」
「俺、連中が飯を作ってるの、見かけたことあるわ。鍋やらなんやら並べてたぞ」
「大荷物抱えて迷宮に入ってるって、事務所番が言ってたな、そういや」
賛否というより、真偽不明って感じの声が冒険者たちから上がる。俺たちのやっていることが冒険者の常識と違っているのは自覚しているから、ことさら取り上げてほしくないのだけど。
「まあまあ。飯についてはそこまでだ。お前ら、間違っても迷宮で集ろうとするなよ!?」
言い出した張本人たるビスアードさんが大声で場を鎮める。
ご当人としては小粋なジョーク程度のつもりだったかもしれないけれど、俺の心臓はバクバクだぞ。
「何だよ。アンタらだけじゃズルいじゃないか」
「だよなあ。そんなに凄えなら、俺だって」
案の定ヤジが飛ぶけれど、そこには笑いが含まれている。これならまあ、ネタっていう感じで済ませてもらえるだろう。だったらいいな。
俺たちが珍妙なコトをやっているのは事実だし、冒険者たちは噂好きだ。
遅かれ早かれ迷宮泊をやっているなんていうのも、敢えて組合がアナウンスしなくたって広まるだろう。野次馬が出てこないことを祈るばかりか。
「それよりもだ。『赤組』と彼ら『一年一組』が共に戻ってきた意味を考えてほしい」
食事の話題を打ち切ったビスアードさんは表情を真面目モードにして、冒険者たちに語り掛ける。
「俺たち『赤組』は『一年一組』に守られながら地上まで戻り、今ここで、発言している」
寄り道しましたとまでは言わなくても、ビスアードさんは堂々と事実を暴露した。
「おいおい、吹かしが過ぎるんじゃねえか?」
「『赤組』が新入りに守ってもらったってか」
これには多くの冒険者たちが胡散臭いとザワつくのも仕方がないだろう。
最強の『赤組』が新入りの若造共にサポートされるなんていうのは、ちょっと想像できない出来事だ。たとえ『赤組』がボロボロの姿になり果てていたとしても、感情的に受け入れがたい。
「いいか、断言するぞ。昨日の臨時総会で、彼らの代表の言葉を聞いた者も多いだろう。アレは明確に事実だった。五層に敗れ、四層で『一年一組』の戦いを見届けた俺が保証しよう!」
ガヤを無視したビスアードさんがこれまでで一番の大声を出す。
轟く声と巨体でマジ顔、加えて『赤組』の面々までもが大きく頷くのだ。今の話は嘘ではないという謎の説得力に場が包まれていく。
「なるほど」
「どうした? 委員長」
そんな中、メガネを光らせ小さく呟く委員長の声に、隣にいた古韮が聞き返す。
「ビスアード組長の言っている通りさ。昨日八津が説明したことは間違いないんだって、最強の冒険者が断言してくれたんだ。体験談っていうのが大きい」
「そういうことか」
委員長と古韮の会話で、クラスメイトたちにも理解が広がる。
いくら組合の後ろ盾があったとしても、俺みたいなナヨっちいのが口頭で説明しただけでは半信半疑な冒険者だって多かっただろう。イラストだって子供の描いた絵だと思われてしまえばそこまでだ。
けれどもペルマ最強の『赤組』が有益であったと宣言したらどうだろう。ある程度は検討の余地が増えるかもしれない。
それだけ冒険者たちの警戒心が高まり、安全の度合いがちょっとでも上向きになるってことだな。
「この場にいる冒険者全員に敢えてあんな姿を晒して注意喚起をすることで、明日以降の全体を守ることになるんだ。まさに『唯の盾』だね」
「上手いコト言ったな、委員長」
「いつも古韮や八津に取られてるから、たまにはね」
メガネを光らせたままニヤリと口元を歪める委員長につられるように、俺たちまでもが小さく笑ってしまった。
『ペルマ七剣』が一人、『唯の盾』ニュエット・ビスアードさんは、転んでも起き上がる時に周囲に気を配ることができる冒険者だってことだ。実にカッコいいじゃないか。
次回の投稿は明後日(2025/08/11)を予定しています。