第538話 臨機応変にして縦横無尽
「個人の意思を無視した最善などは組合が組織としてすべきことであって、冒険者に課すものではありません。ビスアード組長はどう思われますか?」
「今日の俺たちはやたらと不幸で、最高に幸運だった。それだけのことだな。冒険者ってのはそういう稼業だ」
信念のごとく語るマクターナさんに、ビスアードさんが答える。
中々粋な語り口をするお二人は、片や『手を伸ばす』マクターナ・テルトさんで、もう一方は『唯の盾』ニュエット・ビスアード組長ってことを考えれば、やたらと豪華な会話に思えてくる。『ペルマ七剣』が二本、ってか。それとも『二振』って表現の方がカッコいいかな。
要は冒険者は自由に行動し、生き死には自己責任。それに対して組合はできるだけのサポートはするぞ、ということだ。
危ない目にあった当人が堂々と言い放ったのだからこそ、そこには説得力がある。そして、マクターナさんがどういう理屈で俺たちの秘密を守ろうとしてくれているのかも。
「つまり、依頼を受けるも断るも、わたしたちの判断であるべき、と」
「そういうことです。強硬な押しなど、撥ね退けましょう。わたしは『一年一組』の専属担当ですから」
「頼もしいですね」
聖女な上杉さんがこちらを代表して、マクターナさんとの答え合わせだ。
そういえば冒険者登録をした時、組合のバスタ顧問を威圧で叩き潰していたなあ。なんとも最強な専属だよ。
「組合長たちは冒険者を知る人です。気付きはしても、憶測を他言するようなことはありません」
そう語るマクターナさんと頷くミーハさんからは、組合上層部への信頼が伺える。
侯国から送り込まれたバスタ顧問辺りからは社会人としての生々しさが伝わってきたが、組合の真の上層部は冒険者上がりだ。加えて冒険者たちの推しがなければ就任することすらままならないのだとか。
ついでの情報だけど、契約が成立しなかった依頼の書類は倉庫の奥にしまわれてしまうので、ほぼ確実に死蔵されるらしい。
『紛失しても誰も気付かないでしょうね』
なんて笑ったマクターナさんは、どこまで本気なのやら。
◇◇◇
「時間を使わせてしまったな。さて、これからどう動いたものか」
【聖導術】にまつわる話も終わり、ビスアードさんがやれやれ感を出しながらここからの行動を確認してくる。迷宮のコトだし、対応するのは俺の役目だろう。
「『赤組』は地上ですよね?」
「まあなあ」
俺の言葉にビスアードさんは赤毛をボリボリと掻いて答える。そういえばメットも紛失しているんだよな。
ここで問題になるのは『赤組』と『一年一組』アンド組合事務さんの目的が違うってことだ。
『赤組』としては一刻も早く地上に戻りたい。報告がしたいとかではなく、安全のために。それくらい現状の『赤組』は装備的な意味でボロボロだ。
治療は終わり食事もできた彼らは、体力も魔力も復活している。けれども半数以上の人がなにがしらの装備を失っているし、ここはまだ四層。三層まで戻れたらゴリ押しもできるくらいの強者たちではあるが、明らかに魔獣が増えているこの層を確実に踏破できるかはちょっとした賭けになる。八割くらいは勝てるだろうけど。
さっきはノリで、こんな状況なのに三本も短剣を受け取ってしまったけれど、一度返却した方がいい気がしてきた。
対する俺たちの目標はなるべく広範囲の魔力量調査だ。加えてミーハさんの魔力量数値化の練度上げ。もうひとつはもちろん全員のレベリングってことになる。
要はなるべく広い範囲をうろつきまわって、魔獣に出会いたいのだ。この際、素材はどうでもいい。
ついでにというワケでもないが、『赤組』が五層でどういう目に遭ってきたのか、口頭レベルで聞いておきたいっていうのもあるんだ。我ながら悪趣味だけど、いつか未来の俺たちのために。
「折衷案はどうですか?」
悩む俺の横からもう一人の迷宮委員な綿原さんが発言する。
肩の上でピチピチしているツインヘッドで赤紫な小さなサメっていう構図がドギツイけれど、言っていることは真っ当だ。
ちなみにそのサメなんだけど、五層の魔獣の血が材料として使われている。『赤組』の皆さんの革鎧や靴底、足跡として床に残っていた血を綿原さんは手ずから集めたのだ。人体に付着した血に対して【血術】は使えないけれど、自分の手に付着させてしまえば掌握できる。彼女はそれら少量の血を丹念に収集して、小さなサメを作り出した。
綿原さんは魔力の通りが過去最高だと喜んでいたけれど、俺の脳内と別方向で悪趣味だよなあ。
「『赤組』には申し訳ないけれど、少しだけ遠回りしてもらって一緒に地上に戻るという感じで、どうです?」
「体力は回復しているし、そちらで戦闘を受け持ってくれるのならば問題ない。なにしろここは君たちの狩場だろう?」
「非常時ですけどね。マクターナさんはどうですか?」
「……個人的にはすぐにでも地上を目指したいところですが、ワタハラさんの提案は組合にとっても益があるのは否定できませんね」
綿原さんが『ペルマ七剣』二人を相手に会話を転がし、なんとなくの落としどころは見えてきた。
迷宮でトラブルが起きたとしたら、本来ならば即帰還が冒険者の基本だ。以前フィスカーさんたち『黒剣隊』が迷宮罠に引っ掛かった時に、まだまだ余力を残しながらもストレートに地上を目指したのが思い出される。
この場にいる『赤組』は、俺たちがペルマ迷宮に入るようになって見てきた冒険者たちの中で最大級のピンチを迎えていた。『一年一組』がエスコートするから即地上へと、ってなるのが当たり前なんだけど……。
「じゃあ八津くん。『適切』な経路をお願いできるかしら」
話を進めるところまで進めてから俺に丸投げしてくるのが綿原さんスタイルだ。俺としてはマッパーとして信頼されていると思っているし、たぶんそれが真実だ。迷宮委員の二人は、お互いの得意分野を理解し合っているのだよ。
「『赤組』の帰還予定時刻は?」
「八刻半だ」
俺の質問にビスアードさんは即座に答えてくれた。
十七時か。冒険者的にはごく自然な帰還時刻だな。俺たちの予定は十九時。トラブル絡みでドタバタしていたので現在は十四時半。戻りの行程を考慮したら、残された活動時間は一時間半ってところだ。
けれども『赤組』の帰還が一時間くらいオーバーしたって──。
「ヤヅさん」
ちょっと不埒なコトを考えながら地図を見る俺に、マクターナさんが声を掛けてきた。
「『赤組』が受けてくださった依頼内容が五層の調査でしたので、今回に限って救助隊の準備を事前に……」
「はい?」
思いもよらないマクターナさんのセリフに、俺は間抜けた返事をしてしまう。
救助要請が入る前から救助隊の準備が終わっているなんて、そんなの初めて聞いたぞ。
「組合の職員といくつかの組に声を掛けてあります。帰還時刻を過ぎれば即座に動くでしょう」
「情けないことに、そうなんだよなあ」
微妙な表情になったマクターナさんに肩を竦めたビスアードさんが続く。
冒険者は冒険者を見捨てないし、迷宮で事故ったならば、お互い様の精神でとことんまで助け合うのが流儀だ。同時に救助される側は不名誉だとも考える。当然と言えば当然の感覚だな。
だからこそ『事前』に救助隊が編成されているっていうのは『赤組』のプライド的に、本当にギリギリのラインってことになるんじゃないか?
よくもまあ、『赤組』も受け入れたものだ。マクターナさんが俺たちをこの区画に案内したのといい、組合はどこまで保険を掛けていたのやら。
まあいい、ならば予定時刻をオーバーなんてできるはずもない。
「じゃあ、こういう経路で行きましょう。いくつかの部屋は覗き込んで魔力を計るって感じで」
俺の提示したルートは当初の予定から丸々一ブロックを省略した形になる。これならまず間違いなく所定の時間までに地上に戻れるだろう。
依頼の達成率という点では、七割って感じか。
俺的には『依頼達成率百パーだと!?』なんてのをやりたかったのだけど、すでにティア様のレベリングで未達成の経験があるだけに、こだわる必要もない。あの時は『雪山組』の遭難だったけど、なんか俺たちトラブル体質がありすぎじゃないだろうか。
「戦闘と素材は最低限。後衛の階位上げは次回以降ってことで、トドメは騎士組と笹見さんを優先する。草間は悪いけど、索敵と魔力量調査に専念だ。いいかな?」
「任せとけ」
「あいよ」
俺の提示した方針にイケメンオタな古韮や、アネゴな笹見さんが乗っかってくる。もちろんほかのクラスメイトからも異論の声は上がらない。
「奉谷さんはミーハさんと『赤組』の【聖術師】さんたちに【身体補強】を切らさないように気を付けて。魔力が危なくなったら白石さんと深山さんを頼ってくれ」
「うんっ!」
続けた指示に、ロリッ娘副官な奉谷さんが元気に返事をしてくれた。手を上げなくてもいいんだぞ?
十階位の後衛職なミーハさんと、同じく十階位である『赤組』の【聖術】使いのお二人は、この中で飛び抜けて遅くて柔らかい。【聖術師】さんたちは陣形の後方で守備を重視すれば問題ないが、ミーハさんだけは動き回らなければ、今回の調査が意味を失ってしまう。
奉谷さんの魔力がキツいかもしれないけれど、そこは魔力タンクに期待できる。こういうのがウチの強みなんだ。
「ビスアード組長」
「おう、なんだ」
「『一年一組』が先行します。『赤組』の斥候さんたちは、左右と後方警戒をお願いできますか」
「ははっ、任せろ。『一年一組』の戦いっぷり、見せてもらうぞ!」
最後に『赤組』にも確認を入れれば、これで準備は完了だ。
「さあ、行こう」
「おう!」
俺のコールにクラスメイトたちだけでなく、『赤組』の人たちまでもが唱和する。毎度のことだけど、どうしてこうなった?
「【聖術】騒動の件、ティアにも伝えておかないといけないわね」
「そうだね。あり得ないとは思うけど、別口から漏れたりしたら絶対騒ぎになる。ウチのクラスの誰かが失言するかもしれないし」
「勘がいいのよね、ティアって。武術家としては素養があるって言えるのだけど──」
困り顔の中宮さんと藍城委員長のヒソヒソ話が聞こえてくる中、四十二名の冒険者たちが迷宮を動き始めた。
◇◇◇
「昨日ヤヅが解説してくれた内容の通りだったよ。俺たちは悪い意味で手本になってしまった」
俺の斜めうしろに位置どったビスアードさんが、周囲に聞こえる程度の声で五層で何が起きたかを話してくれている。
「魔獣が濃い上に、一度だけだが複数種が混じった部屋もあった。猪と海老を同時に相手なんて、できやしない」
イラストでしか見たことはないが、突進型の猪とジャンプ攻撃タイプのエビという組み合わせは、そりゃあキツいだろう。
四層で例えるなら牛と白菜の同時攻撃だ、五層ならばさらに凶悪になっているはずだから、『赤組』でも逃げの一手になるのか。
「で、削りつつ、場合によっては避けながら進んだ先でホウレン草と戦っている最中に、横合いから蜥蜴の塊に飛び込まれた。逃げようにも、引けば猪の集団が待ち受けている位置取りだ。経路選択の遅れと判断違いの両方だな」
悔しそうに語るビスアードさんだけど、やっぱり五層は魔境状態か。
十八人で構成された『赤組』の内訳は、十階位の【聖術師】が二人、十三階位の【探索士】が三人。それ以外は全員が攻撃系の前衛職で、十六階位のビスアードさんを筆頭に、十五階位が五人、十四階位が七人だ。
普段は八人か九人で四層を探索しているということだけど、伊達にペルマ最強クラスとは言われていないだけの戦力だと思う。
アウローニヤで最強だった近衛騎士総長率いるベリィラント隊よりも、戦力としては明らかに上だ。
俺たちだって十二階位を増やしてはきているものの、対峙して勝てるヴィジョンが浮かばない。彼らは冒険者だし、単純な魔獣トレインと迷宮罠くらいでは通用しないだろう。ベリィラント隊と違って、ちゃんとした斥候が三人もいるんだからな。
いやいや、なんで俺は勝ち負けを考えているんだ。今はそうじゃない。
そう、『赤組』には三人も斥候職がいるにも関わらず、最終的に経路選択をミスって追い込まれた。
「情けない話だが、俺が足を引っ張ったんだろうなあ」
「組長……」
「アンタだけのせいじゃないって」
苦笑を浮かべるビスアードさんに組員たちから心配そうな声がかかる。
ペルマの冒険者の常識では、行動についての最終判断は隊長もしくは組長が下す。もちろん斥候の意見だって聞くのだろうけど、それでもだ。最前線で剣を振るいつつ周りの状況を見て、味方に気を配りながら……。
戦闘素人がほとんどだった俺たちは、各人の神授職を鑑みて、当初は消去法的に俺が指揮役を任された。各人にできることを試しながら、陣形をいじりつつ、結果として今がある。
要するに、ここの冒険者たちと俺たちとでは、スタート地点が違いすぎたんだ。
どちらが良いとか悪いではなく、圧倒的武力とカリスマを持つリーダーが指揮官をやるか、物理的に視野の広い人間がやるかの違いでしかない。
少数の魔獣であれば殲滅力で勝負すればいいけれど、大量の敵がそこかしこで現れれば別の判断要素が必要で、そこには向き不向きがあるって話だ。俺たちの模索が、たまたまそんな状況でハマっているだけに過ぎない。
そう考えると、ウチの滝沢先生が召喚初日に教師を辞める宣言をして、クラスのまとめ役を委員長に任せてしまったのが一歩目だったんだろう。受け入れて、それぞれの役割をこなしてしまったウチの連中も大概だけどな。
「『地図見』と『指揮役』か。俺たちも考えないとな。だから良い方の手本に期待してるぞ、ヤヅ」
「できる限りですけどね」
ビスアードさんから投げかけられたかなり重たい期待に、こちらはどれだけ応えられるだろう。斜め前を行く彼女の頭上に浮かんだ赤紫のサメを視界に収めつつ、俺は【観察】を使い続ける。
◇◇◇
「草間ぁ! ここは俺たちに任せて先に行け!」
「ちょっと隣の部屋を覗いてくるだけなんだけどね」
ノリノリな感じで古韮が叫び、呆れた風に草間が返事をしているけれど、おいおい、俺も混ぜてくれよ。仲間外れなんて水臭いじゃないか。
このネタ、背後で見守ってくれている『赤組』の皆さんには伝わらないんだろうなあ。
「しっかり掴まって」
「はいっ、ひぃ!」
絶賛戦闘中の俺たちを尻目に、マクターナさんがミーハさんを抱えてカニの群れをジャンプで飛び越していく。
草間は隣の部屋を目指し、単純に古韮たち騎士の位置取りを利用して壁際を普通に走っている。せっかくのメガネ忍者なのに、草間はニンジャ走りをしないんだよな。スプリンターな春さんに仕込まれた、膝を上げて、両手を大きく振るスタイルだ。
「あっちから丸太だな。二部屋先だ」
「助かります」
『赤組』の斥候さんが左方向からの三角丸太の接近を知らせてくれた。
これって立派な戦闘協力になると思うのだけど、緊急回避という建前で押し通そう。
「こっちの戦闘が先に終わる。丸太の来る方の部屋は魔力の確認も終わってるし、無視でいい」
「おう!」
身内向けに敬語は取っ払い戦闘方針を打ち出した俺に対し、クラスメイトから威勢のいい声が返ってきた。
「ねえ、八津くん。このカニ、全部僕たちで平らげていいんだよね?」
文系オタの野来が、これまたソレっぽいセリフを投げてくる。こういうノリは嫌いじゃないし、むしろ大好物だけど、なんか変なテンションになっていないか?
野来お前、古韮と草間の会話で妙なスイッチ入れただろ。
この部屋にいたカニは全部で十一体。すでに半数が動きを止めている。
後衛術師とアタッカー組の助力こそあったとはいえ、騎士メンバーによるほとんど平押しだ。参考にするとか言っていたビスアードさんには、たぶんちっとも参考にならない戦い方になっているので、俺としては申し訳なさが先にくる。
「八津くん、こっちから牛だよ。三体。三部屋!」
右方向の魔力測定から戻ってきた草間が叫んだ。
左から丸太、右の牛、現在戦闘中のカニか。ここの魔力量がちょっと高めだからといって、いよいよらしくなってきたじゃないか。
「『赤組』で装備が出来ている人、右の部屋に走ってください。草間は一緒に行って罠の再確認」
「お? 助っ人か?」
俺の声を聞いたビスアードさんが意地の悪い笑みを浮かべる。そうじゃないんだよなあ。
「部屋に入ったらすぐに左の壁際に移動してください。牛がそっちを向いたところを、横からウチの連中が殴りつけます」
「囮か。なるほど面白い。手前ら、走れ」
「おうよ!」
我ながら酷いことを言っている自覚はあるけれど、ビスアードさんは素直に受け入れてくれた。
「俺たちが五層でやられたことの仕返しか。魔獣も災難だな」
ご当人は展開を見届けるつもりなのか、俺の横から離れない。笑えない冗談については聞かなかったふりだ。
ビスアードさんは現状素手状態で革鎧もボロボロだから、前には出ることができない。『赤組』内部で装備の融通をしてもいいと思うのだけど、各人が使いやすいようにカスタマイズしているようで、替えが利きにくいらしいのだ。いいよな、カスタム武器。
ウチのクラスなんてお揃いのメイスがメインウェポンだもんなあ。
中宮さんの木刀やミアの弓、海藤のボール、疋さんのムチ、ついでに先生のフィンガーグローブなんかは専用装備だけど、本人以外は誰も使えやしない。なんとも二極化したものだ。
「春さん、ミア、中宮さん、先生、疋さん、綿原さん、カニはもういい。隣の部屋に突入用意だ。できれば瀕死程度で抑えてくれ!」
「この期に及んでトドメを選ぶのか」
走り去っていく『赤組』の一部と草間を見送りながら、突入部隊を選抜する。呆れたようなビスアードさんの声が聞こえるけれど、気にしないぞ、俺は。
女子ばっかりの突入メンバーだけど彼女たちは十二階位で信頼と実績のヴァルキリーズだ。牛が三体程度なら十分だろう。あちらの部屋では伝えるまでもなく草間が【気配遮断】しているだろうし。
「後衛組、カニの素材回収を進めておいてくれ。そっちの指示は上杉さん。治療は田村だ」
「はいはい」
「おうよ」
残りのカニは三体。一分もあれば終わらせられるだろう。丸太も近づいてきているし、撤収を視野に入れておかないとだ。
「騎士組は連戦だぞ。気合入れてくれ!」
「任せとけぇ」
言うまでもなく気迫十分な声が返ってくる。うん、佩丘もそろそろ──。
「やっぱこの短剣、凄えぞ。それと八津、十二階位だ」
ひっくり返したカニの急所に短剣をねじ込んだヤンキー佩丘がニヒルに笑う。
『赤組』から譲り受けた短剣は、なにも俺専用とかではない。今はレベリング対象者となる騎士連中が三本を使いまわしている状況だ。
そんな中の一人、【重騎士】の佩丘が十二階位を達成した。これで十一人。クラスの半分がここまできたか。
「まったく面白い連中だよ。素材集めくらいなら手伝ってもいいんだろう?」
「凄く助かります。お願いできますか?」
「了解だよ、指揮官さん」
苦笑しながら上杉さんの下へ歩み寄るビスアードさんを見て、『赤組』の人たちも動き出す。
通り抜けざまに肩やら背中を叩かれるのはくすぐったいよ。
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