第533話 開示した情報と隠す技能
「ほ、本当に僕だけでかい? みんなで手分け──」
「適任だから。出来るヤツ、向いてるヤツがやる。それが俺たち一年一組だろ?」
毒を食らってもいないのに顔色を悪くしている藍城委員長に、俺は笑顔で答えてやる。彼のためにもできるだけ爽やかに。
これから毒るのが目に見えているのだから、せめてもの……。
「八津はすっかりクラスに馴染んだね。メガネを掛けていないのが残念なくらいだよ。綿原さんもそう思うよね?」
「【観察者】がメガネ……、悪くないわね」
悔し気にメガネを光らせた委員長が綿原さんに話を振るけど、俺は動じないぞ。
一年一組の一員として認めてくれるのはとても嬉しいが、容赦は無しだ。それと綿原さん、俺は当面メガネの予定はない。
「そういう前置きいいからさぁ~、ちゃっちゃとしなよぉ」
「俺はやったぞ。今度は委員長の番ってだけのことだなぁ」
チャラ子な疋さんが軽く煽り、お坊ちゃん風な田村がいやらしく笑う。
ムチやらメイスやら盾なんかでクラスメイトたちの手により床に押さえつけられた『サトウキビ』は結構殴られたあとだから、それなりに弱ってはいる。それでもまだわしゃわしゃしているけどな。
「【聖騎士】の委員長は勇者の中の勇者だ。早くに十二階位を達成してほしいんだよ」
「僕の階位上げが優先されたことって、今まであったかなあ」
揉み手でお勧めする俺に対し、委員長が乾いた笑みを見せてくる。うん、委員長を完全に優先したことなんて、数度しかなかったと思うよ、俺も。
三体の牛と四体のカニの討伐はすでに完了している。トドメの内訳は牛が海藤と野来、委員長という前衛系。カニは草間、笹見さん、綿原さん、そして再び委員長。女子二人は【身体強化】持ちだから、弱らせたカニならば普通に倒せるのだ。
できることなら、委員長に牛を二体くらい担当させたかったのだけど、連戦ということもあり時間を掛けないことが重要だったから仕方がない。
ちなみに最初に見つけた二体の三角丸太は俺たちをスルーして、魔力部屋に行ったみたいだ。元居た二体と合わせて四体だな。
で、なぜここまで委員長を優遇したいのかといえば、残った七体のサトウキビの存在故にってことになる。ネチャっとした笑みで委員長を煽る田村は先日、嘔吐に耐えながらもサトウキビを倒してのけた。そう、嘔吐だ。
サトウキビのほぼ全体を覆う葉っぱには『嘔吐毒』がたっぷり含まれている。攻撃力が弱くて、急所となる茎がそこそこ硬いサトウキビ最大の特徴がソレだ。
マクターナさんみたいに長剣使いならば葉っぱに対してアウトレンジからトドメも可能かもしれないが、生憎俺たちは短剣しか持っていない。近づいて倒すしかないのだ。
どうしたって数度は毒を食らうだろうし、実際ここまで弱らせるまでに数名が嘔吐感で蹲るハメになった。ならば自分で【解毒】ができる人間がヤルのがどう考えても効率的だ。熟練度だって稼げるし、魔力のロスも最小限にできるのだから。
ついでに言えば【聖騎士】である委員長は騎士兼ヒーラーであるため必要とされる技能が多い。階位を上げることのできるシチュエーションならば、ヤルべきなのだ。
美しく明確な理屈がある以上、これはイジメではない。一年一組にイジメなど存在しないのだ。
俺たちは全員がアラウド迷宮三層のヘビで嘔吐毒を少なからず経験している。七階位レースとか言いながら群れとの乱戦を繰り返したからなあ。ということで、いまさら委員長だけ少々毒る回数が増えたところで、誤差なのだよ。
「あの、これは」
「これが最善手なんです」
無駄にゴネる委員長の姿を見かねたマクターナさんがこちらに声を掛けてくるも、悲し気な綿原さんの一言で押し黙った。そのワリには赤紫のサメが三匹、委員長の周囲を元気に回遊しているんだけどな。
ミーハさんは悲痛な表情で杖を握りしめているし、滝沢先生は委員長と目を合わせないように俯いたままだ。相棒たる副委員長の中宮さんに至っては、部屋の隅で周辺警戒に当たっている。もちろん本人の立候補によって。
メガネ勇者の味方はこの場にいないんだよ。というわけで、いいからやれ。ゴネてる時間がもったいないんだ。
それとこれはすでに田村がやったネタだし、何度も繰り返すことでもない。
◇◇◇
「締まらないなあ」
「それが感想かい」
悪ガキっぽく笑う海藤に、やり遂げた委員長が疲れた声で返す。
そう、委員長は最後までやり通したのだ。嘔吐毒を食らうこと……、七回か八回。一体で一度は毒をもらった勘定か。可哀想に。
ぶっちゃけ委員長は運動神経が良い方ではない。戦う勇者というよりは、交渉力こそが彼のウリなのだ。
そんな委員長はせっかくだからとロリッ娘バッファーな奉谷さんから【身体補強】を授かり、歌い手な白石さんの【奮戦歌唱】の下、サトウキビに短剣を突き刺し続けた。せめて【鋭刃】を取っていれば、もっと楽になったかもしれないが、ないものねだりをしても仕方がないからなあ。
で、委員長は十一階位のままである。やっぱり牛が一体足りなかったか。
ちなみに委員長は解体担当からは外されて、壁際で体育座りになって休んでいる。話し相手として海藤が付き合っているけれど、アイツはアイツで普段以上に速度が求められた牛とのバトルで結構苦戦していたからなあ。
「ヤヅさんの仰っていた『地図を読む者』『判断をする者』の意味が良く理解できました」
「普通の冒険者なら最初の三角丸太に向かっていって、三方向から挟まれるなんてなかったかもですよ?」
「それはそうでしょうが、挟まれてからの判断は──」
素材回収としてカニの脚をバキバキ千切っていた俺のところにミーハさんを伴いやってきたマクターナさんが、楽しそうに話し掛けてきた。
さっきまで委員長の激闘を悲痛な表情で窺っていたのはどこへやら、なんとも見事な切り替えっぷりだ。
「戦闘する部屋を的確に選択し、あれほど手早く十二体もの魔獣を倒してしまうなんて」
「牛とカニは急ぐ必要があったので必死でしたし、最後の七体は結構グダりましたけどね」
「あはは」
さっきの戦いの流れをメモっていたミーハさんから賞賛の声が届けられる。むず痒いので冗談半分な返事をしたら、ミーハさんは乾いた笑みを浮かべてみせた。
「ここからは魔力部屋の三角丸太ですか?」
「いえ、迂回する経路で行きます。あそこの魔力量は測れましたし」
メモを片手に質問してくるミーハさんを本来の肩書通りで書記官っぽいよなあと思いつつ、俺は否と答える。
「お気遣い、ありがとうございます」
少しでも探索範囲を広めておこうという俺の考えを正確に受け取ったマクターナさんが軽く頭を下げ、ミーハさんもそれに続く。その礼にもうひとつの意味も込められているのは、俺にも重々理解できている。
「明日には『本日お勧めの狩場』って掲示になるんですかね」
「場所も含めて三角丸太が四体確定なんて、取り合いになりそうです」
敢えて軽い調子で俺が言えば、マクターナさんは笑顔で合わせてくれる。やっぱりいい人だよな。挑む人たちの心配だってしているのだろうに。
「一日寝かせるんです。派手な『魔獣溜まり』になってなければいいんですけど」
「警告はしますし、イザとなれば退避という判断もできるはずです」
「マクターナさんは冒険者を信じてるんですね」
「ええ。もちろん」
少しだけ声を小さくした俺の懸念を聞いても、マクターナさんはなんてことはないといった表情だ。
冒険者たちを信じる、か。
昨夜開催された臨時総会で、組合からいくつかの提案がなされた。
たとえばどこの組でもやっている戦闘詳報をこれまで以上に細かくすることであったり、できる限りそれを組合に提供してもらうとか。
そして強く求められたのは、お残しした魔獣についての情報。俺が今の会話で冗談のネタに使ったのがそれだ。
豪放がウリの冒険者らしく、魔獣から逃げ出したなんていうのは恥だという風潮がある。それを押して今回の異常を鑑み、逃した魔獣の種類、数、位置といった情報の提供を組合は冒険者たちに願い出た。
どれくらいを狩ったのかなんていうのは、余程の投棄でもなければ素材買取で把握ができる。だけどどの程度残したのか、そればっかりは現場の目が全てとなってしまう。だからこそ、組合は要請した。
逃走の恥はさておき、明日以降の獲物というという意味でも見逃した魔獣の情報はそれなりに有効だ。
ペルマ迷宮でもたまに同じ狩場を連日選ぶ組もあるようで、ある程度ではあれ事前に居場所が想定できる魔獣というのはありがたい。とくに魔獣が顕著に増加し始めた現状ならば、有効な情報になるだろう。
翌日、もしかしたら倍くらいに膨れ上がっているかもしれない『魔獣溜まり』を狩ることができるだけの能力が求められるのだけどな。それこそ俺たちがさっき見つけた魔力部屋が、明日には魔境みたいになっている可能性だってある。
稼ぎと危険の隣り合わせがペルマ迷宮の現状ってことになるのだ。
「迷宮が変化するのなら、冒険者たちもそれに合わせて変わっていかなければいけません。支援する組合もです」
「そう、ですね」
「昨日ヤヅさんがされた説明、それに今の一連の戦いを見て、階位や人数だけでは足りないと確信しました」
決意を秘めた目つきをするマクターナさんの心は、すべてが冒険者のために向けられているようで、思わず見とれてしまう。
伝統に縛られた一部の組が難色を示したものの、組合からは逃した魔獣が行きつく可能性が高い魔力部屋の情報も併せて掲示するという条件で、ついでにあくまで任意という単語を付け加えることで冒険者たちからの同意は得られた。たった二日で四名の冒険者がリタイアしたのは、それくらいの大事だったのだ。
そういう決着に行きついた要素として俺と草間の描いたイラストの持つインパクトが一役買ってくれていたのなら、それは自慢してもいいかもしれない。
とりあえず本日ミーハさんという『組合職員』が魔力部屋を一個見つけた。ついでにそこに三角丸太が居座っているなんて情報は、完璧なお手本ともなるだろう。モデルケースを作ろう、とかいうのは委員長の表現だったかな。
俺たち的には時間が掛かり、素材の持ち運びが面倒な丸太との戦闘よりも、ミーハさんに数字合わせを鍛えてもらうのが本日のメインテーマだ。よって捜索範囲を広げることになる。もちろんレベリングも並行するけどな。
「牛の方は終わったぞぉ」
「こっちも概ね、ですね」
牛の解体を担当していたヤンキー佩丘の声に合いの手を入れるように、カニ班を仕切る料理長な上杉さんがすかさず返す。その際チラっと俺の方に視線が来たけど、大丈夫。会話しながらでも作業は終わらせてあるよ。
サトウキビについては倒せば葉っぱが無毒化するので、剥ぎ取りはとっくに完了している。
こちらも納品素材となるジャガイモの蔓でサトウキビを腰に縛ったメンバーは、見ようによっては原住民みたいだ。
ジャガイモの蔓をこうして活用するという小ネタは、イケメンオタな古韮たちが『オース組』から教わってきたものだったりする。かくも素材運搬というのは奥が深くて面倒なのだ。
「じゃあ、ここからの経路確認だ。集まってくれ」
「おーう!」
俺の声を受け、みんながわらわらと部屋の中央に集まってきた。
◇◇◇
「五、です」
「はい。僕も五でいいと思います!」
ミーハさんの下した判定に、元気よく草間が合わせていく。草間よ、キャラがブレてないか?
「魔力部屋っていうには、ちょっと足りないか」
「近くが二とか三ばかりだから、誘引効果はあるかも」
陽キャと化した草間を一部クラスメイトが生暖かく見守る中、俺は隣でメモを取り続けているメガネおさげな白石さんに小声で話し掛けた。
「これくらいの魔力なら魔獣も生えやすいのかもな。『白菜』あたりだったら好都合なんだけど」
「……八津くん」
後半部分で声をさらに一段落としてそれっぽいコトを言った俺を見る白石さんは、どこか呆れた様子だ。当然だけど、彼女は俺の言葉が持つ意味を理解している。
「数は?」
前方の離れた場所にいるマクターナさんとミーハさんをチラ見してから、こちらも小声で白石さんが訊ねてきた。
俺を挟んで反対側にいる奉谷さんや、斜め前に位置する綿原さんも耳を大きくしているな。
「七。美味しいとは思うんだ」
「……委員長が二体、海藤くんが五体くらいで、たぶん二人とも十二階位になれると思う」
俺の持ち出した数字を聞いて、メモをめくった白石さんがメガネを光らせる。
さすがは一年一組の書記担当、数字の把握はバッチリだ。もちろん誤差はあるだろうけど、それは仕方ない。
草間やミーハさんがこの部屋の魔力量を計ったように、俺は俺で【魔力観察】を使っている。床にあったのは、白菜の影。それが七体だ。
どれくらいで実体化するかは未だに検証できていないが、一時間以上引っ張られた例はない。今のところは、だけどな。
「近くに魔獣がいるか気になるわね。もしかしたらこの部屋に集まってくるかも」
「だよな」
こちらを振り向いた綿原さんが、周囲に聞こえるくらいの声で俺に提案してきた。
モチャっと笑っているけれど、発音自体は自然なモノだ。大した演技派じゃないか。俺なんて短いセリフでごまかしているんだけど。
ペルメッダにいる人で俺の【魔力観察】を知っているのは、ティア様とメーラさんくらいのものだ。ティア様経由で侯爵家にも、なんては思っていない。あの悪役令嬢はそういう点では信用できるお方だと、一年一組は信じている。
いつかはマクターナさんにもバラすかもしれないけれど、迷宮で異常が起きつつある現状で便利屋扱いされる可能性は排除できない。そういうわけで聖女な上杉さんの【聖導術】と並んで、俺の【魔力観察】は広めないようにしているのだ。
必要以上に情報を提供してきた俺たちだからこそ、隠しておく手札くらいはあってもいいだろうさ。
綿原さんなんかはサメ自体は晒しまくっているけど対人用の『跳血鮫』は隠してあるし、白石さんだって迷宮内で『エアメイス』を使っていない。
そもそも【魔力観察】は魔獣の発生がわかるのも便利だが、『そこに人が居る』のを判定できるのが強いんだ。【暗視】を持たない俺だけど、【魔力観察】を使えば暗闇の中ですらどこに人が何人いるかなんてモロバレになる。
そういう意味でも秘匿技能なのだ。隠密キラーなんだよ、俺は。
「経路を少しだけ変えよう。この部屋の周囲をぐるっと……、三部屋か四部屋くらい離れた範囲かな。もしも魔獣がいたら、その時考えるってことで」
「了解っしょ~」
なるべくワザとらしくないように気を付けながら発言した俺に、疋さんがいやらしい笑みを向けてきた。くそう、察しのいいヤツにはバレバレか。
こんなことなら綿原さんに言ってもらいたかったセリフだけど、迷宮内でのルート設定は俺が選任だ。どうしたって俺が言い出さないといけないことになる。
さて、気になる相手の様子だが、ミーハさんは普通のままだけど、マクターナさんの笑みが深くなってる……、かな。不自然さに気付かれたかもしれないけれど、追及はしてこないようだし、マクターナさんの良心を信じるとしよう。
◇◇◇
「急げ! 十一階位ならトドメは誰でもいいけど、できるだけ委員長に」
「芋煮戦法は使わないんですか?」
「近くに魔力部屋があるんですから、いつどこから魔獣が来てもおかしくありません。こういう場面ではちょっと」
「なるほど……」
ちょっと早口になった俺の説明に、ミーハさんが首を傾げながらも納得してくれたようだ。本当のコトだし、どうしてここまで俺が慌てているかはごまかせただろうか。見れば彼女の手元のメモには『芋煮戦法は状況次第で』なんてフレーズが追記されているし、本当に真面目な人だよ。
マクターナさんは前方で行われている戦闘を注視しているし、こちらもまた真剣だ。
ここは白菜の出現が確定している魔力部屋から三部屋しか離れていない。しかも部屋の造りは、行くか戻るかだけの扉が二枚だけ。そんな部屋で俺たちは十体のジャガイモと戦っていた。
引くことも考えたけど、それだと白菜の発生タイミング次第で挟み撃ちになりかねない。ならばこの場で急いでジャガイモを倒し、背後の白菜に警戒するしかないだろう、っていうのが戦闘開始までの流れだ。
「はいっ! 委員長!」
「ありがっ、とうっ!」
中宮さんが蔓を引きちぎったジャガイモを委員長にパスしている。流れるような手順だけど、受け取る委員長の方はちょっと不格好かな。俺が言えた義理じゃないか。
短剣を使わずにひたすらメイスを叩きつける戦法だけど、今回のバトルではアリだ。素材の状態よりも早急に終わらせるのが優先される。料理番の佩丘がふてくされたような顔になっているけど、見なかったことにしておいてやろう。
二十個のジャガイモが、果たしてどれだけまともな形で残ることやら。冒険者的には本来ナシな行為だよなあ。
「『魔獣の群れ』では素材どころじゃないってこともあるんです」
「……そうですね」
俺が指示したとはいえ仲間たちのあまりに荒っぽい戦いっぷりに、思わず言い訳っぽいことを口にしてしまったが、マクターナさんはスルーしてくれた。俺的に彼女への好感度が上昇しまくりである。
「十二階位だ。やったよ!」
「おー!」
急げと言ったワリに各所からジャガイモを届けられるという接待攻勢を受けていた委員長だけど、六個目を叩き潰したところでレベルアップは達成されたようだ。クラスメイトたちから歓声が上がる。
そう、サトウキビを押し付けたのには意味があったのだ。繰り返しになるが、アレはイジメなどではない。
「技能は落ち着いてからにするよ。僕はここから盾だけでいいよね?」
「頼む。夏樹の守りに入って──」
「うしろから来てる!」
委員長につぎなる指示を出しかけたところで、緊張を伴った草間の声が戦闘中の広間に響いた。俺の傍にいたミーハさんもうしろを振り返り、驚きの表情になっている。
「種別と数!」
「白菜だと思う。六か七!」
俺にとっては白々しい確認になるけれど、詳細を伝えられていなかった草間は真剣だ。
「手は要りますか?」
ミーハさんを守れる位置に瞬間移動したマクターナさんが助太刀を確認してくる。けれども──。
「この程度ならまだまだですよ。ミーハさんを確実に守れる形で見ていてください」
「わかりました」
これは本心からの言葉だ。たしかに四層の魔獣は手強く、後衛陣では通常の手段で倒すことが困難だろう。
ジャガイモは残り四体。背後からは白菜が七体。マクターナさんとミーハさんからしてみれば、四層で複数種の挟み撃ちなどというこれまでのペルマ迷宮ではあまり見られない危機だと感じるかもしれないが、この程度ならまだまだイケるんだよなあ。完全に予測の内側だから。
八割くらいでこうなるだろうなってシチュエーションでもあるから、とっくに心構えはできていた。うん、やっぱり【魔力観察】は悪くない。
「ジャガイモの無力化は中宮さんと疋さんだけで、手早く。トドメは綿原さんと笹見さん。盾は全員反対側に移動! 海藤、ミア、夏樹、先制攻撃だ!」
「おう!」
俺の指示と共に騎士たちが残ったジャガイモを無視して一斉に走り出し、石と白球と鉄の矢が新たに乱入してきた白菜に飛んだ。
次回の投稿は明後日(2025/07/30)を予定しています。