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第529話 その背を押す者たち:マクターナ・テルト一等書記官



「重要なのは隊そのものの人数を増やすことと斥候職です。挟み撃ちを考慮して最低でも二人、できれば三人。それと職に関係なく、経路選択をする選任がいてもいいかもしれません。地図読みの速い人や、判断ができそうな人を──」


 百名を超える冒険者に向かい、目の前の少年は堂々と説明を続けている。二階席には侯爵家の姿もあるというのに、物怖じを感じさせないのは立派なものだ。たとえ侯息女殿下とはすでに友人とも呼べる間柄だったとしても。


『こういうのは綿原(わたはら)さんとか委員長なんですけどね』


 それがヤヅの戯言だった。


 本人たちに言わせると【平静】のお陰だそうだが、それだけではない。

 交わす言葉ひとつひとつが理に適っているのだ。自らの経験と理屈に自信があるからこそ、ああもできるのだろう。先日彼から説明を受けた身としては、さもありなんといったところだ。


 すでに前提条件と機序の説明は終わり、そのままの流れでヤヅは質疑応答に応えている。

 ここまでやってもらう予定は無かったのだが、冒険者たちは現場の声を聴きたがるのだ。


 これは特別貢献が十万では少なすぎる。組合長と相談して増やすか。彼らは遠慮するだろうが、二十万を押し付けるしかない。



「斥候か。数を揃えるとなると、中々なあ。こりゃあ【探索士】の勧誘合戦か」


「ウチの場合は【聴覚強化】で斥候の補助してますね」


「手ではあるか」


『ジャーク組』のデスタクス組長の問いかけに、ヤヅは惜しげもなく『一年一組』の情報を開示していく。


 先日『一年一組』について情報を求めてきた『ジャーク組』が何をやらかしたのかはおおむね想像ができているが、先ほどのサメッグ組長やイン組長、そしてデスタクス組長の様子を見れば、和解はなされたのだろう。


 そして確かにヤヅの言う【聴覚強化】という案は悪くない。斥候職でもなければ候補にすらならない【気配察知】と違い、【聴覚強化】は満遍なく取得することは可能だ。ただし、騎士や剣士などの前衛ともなれば、優先すべき技能候補は多くある。


「弓士系とか、中長距離の人ならアリじゃないかなって思います」


「なるほど。確かに弓士に【聴覚強化】は相性がいいかもしれないな。引退後にも役立つだろうし」


 ヤヅの案にデスタクス組長のみならず、会場全体が一定の理解の色を示した。


 たしかに『一年一組』には【疾弓士】と【剛擲士】、それに【裂鞭士】が居る。実際に運用しているのは【裂鞭士】のヒキだけで、それ以外は【豪剣士】のナカミヤと【嵐剣士】のハルカ・サカキということは、当たり前だが口にしないようだ。

 彼ら『一年一組』の場合は、豊富な斥候だけではない。そこに【聖術】使いと『魔力渡し』が四名ずつ、前衛まがいの行動ができる後衛術師が追加されるが、通常の組ではとても用意などできないだろう。

 その辺りを理解できているヤヅの提案は、通常の冒険者にとって現実の範囲だ。


 こういう他者に対する理解が及ぶ若者が、ペルマの若手冒険者たちにどれだけいることか。



 ◇◇◇



「──魔獣の組み合わせ次第で戦場も選ぶべきです。たとえばヒヨドリと牛がいる部屋なんて最悪でしょう?」


「横を気にしながら上を見上げるか。考えたくもねえ」


「一度牛を引き付けて倒してから、ヒヨドリに手を付ける。魔獣の行動様式に合わせて戦うんです。そこで重要になるのは、やっぱり索敵と判断なんですよね」


「なるほどなあ。ごちゃごちゃした魔獣に合わせた戦い方か。で、それをやるのに準備が要る、と」


「はい」


 いざ戦闘へと話題が移れば、ヤヅは具体的な例を挙げて冒険者たちの危機感を煽りつつ、回答を並べる。


「現状の『魔獣溜まり』で慣らしていくって感じか」


「そうですね。練習って言ったら失礼になりますけど、今のうちにできるだけ……、だと思います」


「対応できる人材を育てないとなあ」


 そこで気付いた。つらつらと問いに返していくヤヅだが、『楽しそう』なのだ。


 迷宮での闘争で猛々しく笑う冒険者は割と多い。だが、今のヤヅの醸し出している空気はそういう類のものではなく、そう、演劇や楽曲を楽しんでいるかのようで……。

『雪山組』の救出を含め、彼が迷宮で戦う光景を見た時とは違い、まるで子供たちが遊戯に当たって事前の相談をしているかの如くだ。


 あの表情はヤヅのどのような面を映しているのか。



「──状況次第で撤退を躊躇するような冒険者はいないと思います。ですけど、逃げること『も』恐れてください」


 話題が戦い方から撤退に及んだところで、笑顔を小さくしたヤヅが意味深な表現をした。これまでのテキパキとしたやり取りもあってか、冒険者たちはそれに文句を付けるでもなく、黙って聞きに回る。


「複数の魔力部屋が近接している場合、魔獣がどう流れているか読みにくくなります。良かれと思って逃げた先でもっとヤバい状況になるかもしれないってことですね。大切なのは経路の選択と、戦闘時間を考慮した最低限の退却。時には魔獣の向こう側に安全地帯があることだってあり得ます」


「さっき言ってた地図読みと判断の選任か」


「はい。なにも隊長である必要はないと思いますが、そこは組ごとの考え方でしょう」


 それをしてしまうのが『指揮官』、もしくは『地図師』のヤヅというツッコミはさておき、迷宮内における隊の行動は隊長に一任されるのが通常だ。理屈ではわかっていても、隊長と指示を出す者を別建てにするのは感情的に難しいところだろう。


「たとえばですけど『副隊長』とか『行動担当』とか、そういう肩書だけでも」


「モノは言い様ってか。面白いコトを抜かす」


「あはは。ウチの組はその手の肩書を持った連中がたくさんいるんですよ。料理担当とか、記録係とか、それこそ声出し係まで」


 そんなヤヅのセリフに会議場が笑いに包まれた。ああ、これこそが新しい風なのかもしれない。


 こうして笑顔を見せているヤヅが『迷宮恐怖症』を危惧されていたことを、わたしは担当者として知らされている。問題はなかったと判明してからではあるが。

 そんな彼がこうして快活に冒険者たちと迷宮を語り合えていることが、わたしにはとても素敵な光景に見えてしまうのだ。


 ヤヅにはわたしと同じ想いなど不要なのだから。



 ◇◇◇



 かつてわたしは『迷宮恐怖症』を患ったことがある。


 ペルマ=タの有力商家に生まれたわたしと二つ上の姉は、幼い頃から冒険者に憧れて木剣で遊んでいたものだ。

 冒険者に理解を示す両親を説得するのも簡単だった。何しろ姉は【水騎士】を授かり、遅れて二年後、十五になったわたしは【斬剣士】となったのだから。

 家業は兄に任せればいい。わたしはすでに姉が所属していた、実家とも繋がりの深い、とある組に入ることになった。どうやらわたしたち姉妹は素質もあったらしい。もてはやされつつも、それでも厳しく組長たちに鍛えられ、順調に階位を上げ、わたしたちは探索層を深めていった。


 そして冒険者となった二年後、わたしは姉と二人だけで迷宮を彷徨うことになる。

 当時はわたしが八階位で姉が十階位。わたしの失敗が原因で迷宮三層の罠にかかり、隊から孤立してしまったのだ。


 生きて地上に戻れたのはわたしだけ。

 姉はわたしを庇いながら戦い続け、救助隊が来てくれた時には、すでに息をしていなかった。背負っていた姉は、二度と動くことはなく、今わの際の言葉すら聞くこともできず。道中で……、すでに気付いてはいたのだ。


 嘆き悲しむ両親と兄は、それでもわたしや組に恨みの言葉など吐かず、ひたすらこちらを気遣ってくれた。それが最終的にわたし心を折ることになる。あの時のわたしは誰かに罰してもらいたかったのかもしれない。

 そうしてわたしは迷宮に入ることができなくなった。



 組合事務に勧誘されたのは、わたしが冒険者を経験し、実家が商売をしていたお陰で計数に長けていたというのが建前上の理由だ。そこに、いつかまた、という先代の組合長の意思が含まれていたのは間違いない。


 笑顔の絶えない姉妹と呼ばれていたわたしが、それを取り戻すのに一年を必要とした。

 再び迷宮に入ったのはさらに一年後。八階位の剣士が、ようやく一層を歩けるようになったのだ。組合事務として奔放な冒険者たちと付き合う時間が、わたしの背中を押してくれたのだと思う。


 一層まで降りてしまえれば、三層も同じだった。すでに迷宮への恐れは払拭されたと言ってもいい。それを知った冒険者や組合職員たちは大いに喜んでくれた。

 だが、代わりとばかりに別の恐怖が訪れる。


『事故った! 三層に二人、転落だ。救助を──』


 事務所に駆け込んできた冒険者の叫びを聞いたわたしは、事務仕事を投げ出し革鎧に着替え、救助隊に志願した。

 立場も何も考えずの行動だ。頭を支配していたのは、失うことへの恐怖だけだったと思う。義務感や、冒険者としての矜持などでは、断じてない。


 遭難者の救助に成功したのちに聞いた話だが、名乗り出たわたしは涙を流しつつ鬼気迫る表情をしていたという。

 当時の組合上層部は二等書記官だったわたしの扱いに悩み、結局、『必要に応じて』迷宮に入ることを認めた。それをできるだけの階位上げも併せて。


 そうして数年、わたしは十五階位となり、迷宮事故と聞けば真っ先に駆け出す事務員となった。

 気づけば一等書記官、『手を伸ばす』マクターナ・テルトときたものだ。ただただ助けたいだけなのに大層な肩書を得てしまったが、それが冒険者たちの励みになるならば、それでいい。


 姉を助けることができなかった反動が、わたしの行動原理だ。要は臆病。それがわたしの本性……。



 ◇◇◇



「──王国、アラウド迷宮では、二十四時間交代制で群れへの対応に当たっていました。そうでもしないと鉄や塩がマズいことになりそうだったので」


「ペルマ迷宮では、そうなる前にできる限りの準備を終わらせておきたいですね。さあ、ヤヅさん、そろそろ」


「あ、はい」


 アウローニヤの事情に踏み込んだヤヅを、柔らかく止めておく。

 ちょっと頭が回れば容易に想像できる事態ではあるが、口にするのとではまた違う。ヤヅとしては、これで秘匿しておくべき要点は抑えているはずだが、それでもだ。


 それに時間が……、予定より三十分以上は押している。


「みなさんには念を押しますが、彼らにも冒険者としての活動があります。拠点に押し掛けるようなことは控えてください」


「そうは言うが彼らの話は──」


「あ?」


 持てる限りの剣気を放ち、ろくでもない言葉を封殺する。


「ウチは『一年一組』と懇意でねえ。交流は持たせてもらうよ?」


 放っておけば『一年一組』の拠点に群がりかねない雰囲気に釘を刺すも、『蝉の音組』のイン組長が混ぜっ返し、会場が再び笑いに包まれた。


 これだから冒険者は。



「噂として伝わっているかもしれませんが、組合側から『一年一組』の持つ資料から作成した『指南書』を配布する予定です」


 ここからは今後の対応についての説明をする時間だ。


 自分の席に戻るヤヅとバスタ顧問を見てから、観衆に向かって『指南書』の存在を正式に公表する。

 バスタ顧問が大きく頷くが、果たしてどれだけの効果が出るかはこれから。まだまだコトが始まったに過ぎない。


「もちろん導入するかどうかは、組ごとになるでしょう。ですが、部分的にも参考になることは間違いないかと思います」


 たとえ保守的な組だとしても、全くの無視は不可能だろう。

 それくらいヤヅの説明には現場を見てきたという説得力が込められていた。冒険者たちは経験を重視する。だからこそ参考にせざるを得ないのだ。


「加えて、魔力部屋の情報も随時更新していくことになっています。そのために日替わりで組合専用の狩場を設定することになりますので、ご理解を──」


 日ごとで異なるとはいえ、組合が冒険者を差し置いて狩場を予約するのは、かなり繊細な線引きとなる。

 わたしの言葉に明確に反対の声こそ上がらないものの、参加者たちの表情が変わった。


 組合は規則違反でもしない限り、冒険者の上には立たないのが基本だ。冒険者は自由でなくてはならない。

 わたしとて、そういった彼らの気風は好ましいと思っている。だが、今は変革すべき時でもあるのだ。


 縛りと受け止められない程度で彼ら冒険者を守るのもまた、組合の務めなのだから。


「即効性の高い対応として、みなさんがすでに隊の人数を増やしているのは承知しています。そのため、区画の見直しも想定しなければいけません。狩場ひとつ当たりの人数が多くなっていますので」


「それは魔力部屋ってヤツの数や位置も含めて、ってか?」


「その通りです。魔力部屋の位置や数を考慮した変更が必要でしょう。結果として細分化されることになると思われます」


「巡回が楽になりそうだなあ」


 気軽な声で前向きな合いの手を入れてくれた冒険者に感謝しつつ、暗黙の了解に近い決まり事について、変更を並べていく。


 人員の融通を含めた組同士の連携の強化を推奨。

 魔力部屋を発見した組への特別貢献点を設定。


 夜間に軍を迷宮に入れ、ある程度魔獣を間引くことも予定されている。実行された区画については翌朝掲示し、それで重複は避けることが可能だ。これは将来『魔獣の群れ』が発生した場合、国軍も冒険者と共に立ち向かうため必要となる措置でもある。軍も新たな迷宮に慣れる必要があるのだから。

 これについては、さっきヤヅが口走ったアラウド迷宮での二十四時間体制を知った侯王陛下の判断によるものだ。『一年一組』から事前に話を聞いた侯息女殿下が、随分と熱心に語ったらしい。『一年一組』について侯爵家は、組合よりも多くの情報を得ているとみて間違いないだろう。


「当面は素材のダブつきが予想されますが、買取価格は下げたくありません。増加したぶんについて、当面は国の持ち出しで素材を開拓村に回すことで調整しています。いつかは見直しする必要が出てくるかもしれませんが、むしろ『群れ』と対峙することになれば持ち帰ることが困難となることも予想され、価格が上昇する可能性すら──」


 要点となるのは冒険者たちの安全と稼ぎを援助すること。直接的な補助金を渡すのではなく、決め事で安定を保証する方向でだ。


 ここ数日を掛けて組合内部だけでなく、侯王陛下とご子息まで合わせた会合を繰り返し、出された計画の数々。

 ペルマ迷宮冒険者組合による臨時総会という建前もあるため、この場で侯国側は発言しない。それでも二階席におわす侯爵家御一行は、真剣な表情でこちらの様子を窺っている。


 中心人物である侯王陛下は、どうやら昼間に大立ち回りをしたらしいが、どこ吹く風だ。



「では、おのおの方。組合は情報は常に出し続け、意見を求めることとなる。変革を恐れる者もいるだろうが、敢然と立ち向かってもらいたい。これにて本日の臨時総会を閉幕とする」


「おう!」


 ベルハンザ組合長の言葉で、臨時総会は予定を遥かに超えた十一刻半に終了した。


 わたしたち事務員や組合上層部は、このあとも打ち合わせが待っている。

 明日は『一年一組』と共に迷宮だ。彼らの潜る時刻が遅めなのが、少しだけありがたい。たしか彼らは全員が【睡眠】を持っているのだったか。それもまた、羨ましくもなるというものだ。


 隣に座るミーハも疲れた表情になっている。できれば早めに休みたいのだが。



 ◇◇◇



「おはようございます!」


 翌朝五刻、すでに先行組は迷宮に入り終わって、人がまばらとなった事務所に彼らの元気な声が響いた。

 わかっていても若さが眩しい。


「本日はよろしくお願いいたします。ご迷惑をおかけしないよう、気を配ります」


「お願いします」


 わたしの言葉に続き、迷宮装備のミーハも頭を下げる。


「こちらこそです。マクターナさんが一緒だと、やっぱり心強いですね」


 当たり障りのない返事をしてくるアイシロの如才無さにも、もう慣れた。そういうところは子供っぽさに欠けている。



「へえ、ミーハさんって杖装備なんですね」


「拙いですが、まあ」


 さてこのまま迷宮かと思ったところで、フルニラが満面の笑みでミーハに歩み寄る。


「カッコいいよな、杖使い」


「ちょっと構えてもらえます?」


「事務所じゃまずいでしょう。迷宮入ったら、一通りの型を──」


 フルニラだけではない。ヤヅが続き、ノキやナカミヤまでもがミーハを取り囲む。


 ミーハは盾を持たず、身長程の杖を攻防に使い分ける戦い方をする後衛斥候の【捜術師】だ。

 十階位ともなれば基本となる【気配察知】や【魔力察知】はもちろん、【聴覚強化】などを彼女は所持しているのだが、その中には【視覚強化】と【視野拡大】、【遠視】、【思考強化】も含まれる。

 要は目の良い後衛職として、護衛に負担をかけないような方向を目指しているのだ。普段から長い杖を使っての訓練を怠ったりはしていない。


 だが、ここまでもてはやされるのは、どうなのだろう。

 わたしもひとつ、剣でも抜いてしまえば彼らの関心を引き付けられるかもしれないが……。


「何を考えているのでしょうね」


 思わず声がこぼれてしまった。


 幸い彼らの視線はミーハに集中しているので聞かれはしなかったようだが、わたしは今、何を。



「ほらほら、あんまりミーハさんを困らせたらダメだよ。中宮(なかみや)さんまで一緒になって」


 苦笑を浮かべたアイシロが『一年一組』の面々を窘める。普通の組ならこういう場面で組長が出張るところだが、『一年一組』はそうではないのだ。


「ウチの人たちが騒いでしまってすみません。ミーハさん、マクターナさん、出発してもいいですか?」


「ええ、もちろんです」


『迷宮委員』を名乗るワタハラが呆れ顔で、わたしとミーハに話を向けてきた。もちろんわたしに否はない。


「みなさんとまた迷宮を一緒にすることができて、嬉しく思っています」


 心からの本音だ。


 彼らは勇者が来たからペルマに異変が起きたのだという噂が流れることを気にしていたが、そんなことは決してない。

 むしろ今、この瞬間に『一年一組』がここに居てくれることがどれだけの価値を持っているのか。素材、金、貢献、それどころではない。そこにあるのは冒険者として代えがたい知だ。


 わたしは彼らが伝承の勇者とはまた別の存在だと捉えている。物語にあるような存在ではなく、人間としての在り様が彼らの本質だ。

 彼らからはもっと多くを見せてもらいたいと思う。『手を伸ばす』などと呼ばれるわたしが、こんなにも背中を押されてしまうなんて。わたしの手は二本で、彼らは合わせて四十四。彼らの手管を学べば、わたしの腕は、もっと長くなるかもしれない。太くなるのはいただけないけれど。


 そして思い至るのだ。これまでも、組合や冒険者たちはわたしの背を守ってくれていた。わたしは手を伸ばしてばかりではない。ずっと、冒険者たちと一緒にいたということを。

 今はもういない姉……、スファーラ姉さんからも。



 次回の投稿は明後日(2025/07/22)を予定しています。たぶんいけると思います。

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― 新着の感想 ―
>ミーハは盾を持たず、身長程の杖を攻防に使い分ける戦い方をする後衛斥候の【捜術師】だ。 >十階位ともなれば  すげえな。  身体強化とか無しに、自前の戦闘技術を磨くだけで十階位か。  一年一組方式の…
まずい。マクターナさんの好感度がずっと上がりっぱなしでやばい。好きすぎる
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