第514話 撃墜せよ
「低く避けろ。相手は床スレスレで減速する! 高さは二キュビ。攻撃できると思ったら、そこを狙え」
「すぐにわかっちゃうんだね」
「【観察】と【目測】だよ。ヒヨドリは急降下するけど、床に着地せずに天井に戻ろうとするんだ」
俺の言葉を聞いた、ほとんどしゃがみ込んだ姿勢になっているロリっ娘な奉谷さんが感心したようにしている。
うん、我ながら誇らしいけど、一年一組は絶賛苦戦中だ。
突入した広間にいたヒヨドリは八体だった。
天井の梁にぶら下がり、そこから急降下攻撃を仕掛けてくるところまでは資料に載っていた通りなのだけど、その速度が予想以上だったのだ。そりゃあ資料にヒヨドリは時速何キロで飛びます、なんて書いてあるワケないもんなあ。
戦闘を開始してから二分程だがこちらは様子見なのもあって、まだ一体も倒すどころか、無力化にすら成功していない。
アーチャーなミアの矢も、ピッチャー海藤のボールも数度試したが、当たる気配もないので、本人たちが自発的に諦めた。
結果として、高い天井を持つ広間には、未だ八体のヒヨドリが舞っている。
「ハトより速いわね。結構厄介」
「受けきれる綿原さんも大したもんだよ。三・七キュビ!」
「八津くんの指示あってこそよ。どらぁ!」
バディモードで俺の指差した位置にサメを滑り込ませた綿原さんが、勢いを削がれたヒヨドリを盾で殴る。
普段の綿原さんならそこからメイスの一撃が追加されるのだけど、盾がギリギリだったせいで、体勢が崩れてしまい、それ以上の攻撃ができない。
弾かれたヒヨドリは、大したダメージを負った様子もなく、天井目指して舞い上がる。さっきからあちこちでこんな展開の繰り返しだ。
「面倒ね」
体勢を立て直しつつ目を細めてヒヨドリを睨みつける綿原さんは、かなりカッコいい系美少女だなあ。
いや、いかん。幾ら視界全部が見えるとはいえ、こういうのは【観察】の悪用に当たる。控えねば。
急降下と横からの攻撃パターンを持っていたハトと違い、ヒヨドリは急降下一辺倒だ。
だけど速いし、鋭角的に軌道を変えてくる。そこが厄介なんだよな。
だけど、そろそろ見えてきた。
ハトとヒヨドリは違うけれども共通点が多い魔獣だってことが、そのまま攻撃パターンにも当てはまっている。
念のために何十回も確認したが、例外は無い。イケるな。
「本体じゃなくって角だけ見てればいい。軌道を変える時に角が先に動いてる!」
俺の叫びに全員が納得した様子だ。ウチの前衛は【反応向上】と【視覚強化】持ちも多い、薄々わかっていたのだろうけど、俺の確定を待ってくれていたんだろう。
「広志のお墨付きが出まシタ」
「わたしも同感よ」
案の定、ミアと中宮さんは当たりを付けていたようだ。
ハトは急降下の前に一瞬角を振り上げる挙動を示していたけれど、ヒヨドリの場合は軌道変更の直前に行く先に角が向く。
「確認できた範囲で軌道変更は一回の急降下で一度だけだ。見切ってくれ!」
「無茶をいうねぇ」
「何言ってるんだよ笹見さん。術師の見せ所だろ?【熱術】は要らない。軌道上に水を置けば、それでいい」
「あいよお」
断言する俺にアネゴな笹見さんがツッコミを入れてくるが、ウチのメンバーならやれる。
十メートル以上もある天井からの攻撃だ。手元に来る前に対応できる前衛は少ない。
上下というヒットアンドアウェイは、中々どうして強敵だ。純前衛だけの集団なら待ち構えてからのカウンターを狙うだろうけど、一年一組はそれだけじゃない。
敵が宙を舞い、急降下の最中では倒せないにしても、動きを鈍らせる手段を持っているんだ。
「えいっ」
「ナイスっしょ、夏樹ぃ」
こういう展開になると強いのが、精密操作と威力を両立させることのできる【石術師】の夏樹だ。
四つの石に【魔力付与】を掛けて飛ばし、そのうち一個を見事に当ててみせた。すかさず【裂鞭士】の疋さんが弾かれたヒヨドリにムチを巻き付ける。【魔力伝導】を込めたムチだけに、アレはほぼ無力化完了だろう。
「やったね、藤永クン」
「深山っち、やれるっすか?」
「ウン」
意外なのはこちらの藤永深山ペアだったりする。
なんと【雷術師】の藤永は、薄く広げた『雷水球』を急降下するヒヨドリの手前に置いて、そこを通過させることでスタンに成功させたのだ。
藤永の雷、というか電流は、未だスタン以上の効果を持たない。直撃したら黒焦げだぜ、みたいなことはできないでいる。
ついでにいえば動物系の魔獣には効きがいいが、野菜・果物系には微妙だし、丸太ともなるとほぼ無力だ。
さらにスタンの効果は持って数秒なので、突進力のある馬や牛では勢いで相殺されてしまうのが常だったりする。
だけど、鳥ならば。空中でスタンしたらたとえ硬化している時間が数秒であれ、墜落するに決まっている。なにせ急降下攻撃の途中なんだから。
対空専用みたいな技だけど、藤永もいろいろ考えてるんだな。やるじゃないか。
「手際いいっすね」
「えへへ」
さらに凄いのは、さも当然とばかりに手早くヒヨドリの羽を切り裂いていく深山さんだ。
やっていることは殺伐としているのに、会話がちょい甘なのはなんなんだろう。
ハトもそうだったけど、ヒヨドリでも急所部位以外の箇所は後衛でも刃は通るようだ。捕まえさえすれば、無力化が難しくないタイプの魔獣ってことになる。とはいえ、魔獣であることに変わりはない。
ヒヨドリは頭が無くてもそれなりに鳥という形状をしていて、迷宮に出てくる魔獣としては生き物っぽい方だと思うし、加えてやっぱり角が怖い。
硬直時間は数秒のはずなので、復活すれば暴れ出すこと間違いなしのヒヨドリに対し、深山さんは躊躇なく目の前にしゃがみ込んで、短剣ではなくサバイバルナイフで三枚ある羽を切り落とした。
さすがは【冷徹】と【鋭刃】持ち。アウローニヤで『めった刺しの赤目』と恐れられた深山さんは、『切り裂き雪乃』へとクラスチェンジしたのだ。
「藤永クン。角折ってもらえる?」
「りょ、了解っす」
少し試して自分の力では角を折るのに時間が掛かりそうだと判断したのか、深山さんはポヤっとしたいつもの表情のまま、藤永に助力を要求した。アルビノ系特有の白い頬にしたたる赤紫な魔獣の血が、なんとも壮絶だなあ。
「ぐぬぬ、っす」
頑張れ藤永。男の見せ所というか、深山さんのご所望だぞ。オーダーに応えられなくて、なんのペアか。
すでにスタンが切れて暴れているヒヨドリだけど、羽を失ってしまえば身をよじるのが精一杯だ。十秒も掛からずに藤永はやってみせた。うん、カッコ良かったぞ。
なにはともあれ【氷術師】と【雷術師】なんていうこれまで決定力に欠けていたコンビが、クラスの全員が苦戦しているヒヨドリをやっつけたのだ。これは快挙だぞ。
「ナイスだ、藤永、深山さん。そのままペアでやってくれ。深山さんが羽を切っているあいだ、藤永は上空警戒怠るな」
「ウン」
「やるっす!」
未だヒュンヒュンとヒヨドリの舞う広間に、深山さんと藤永の声が響く。片や平坦で、もう片方は下っ端っぽいけど、それでも二人は息がぴったりだ。
「よっし。綿原さんは俺とこのまま。ここからの無力化は疋さん、先生、中宮さん、深山さんメインで。海藤も合せられるようなら頼む」
「ワタシの名前が入ってないデス!」
「ハルもっ!」
ミアと春さんはオーバーキルしかねないだろうに。
「二人は周辺警戒。ニンニクが来るかもだろ?」
「そっちは壮太がやってマス」
「そうだそうだ。壮太なだけに」
ああ言えばこう言うモードかよ。春さんは上手いことを言ったと満足気だし。そのネタ、古韮の譲と一緒で、もう何度聞かされたことか。
「じゃあ二人には重大任務だ。ティア様とメーラさんのお供をしてくれ、っと、四・二キュビ!」
「どらぁあぁ!」
ミアと春さんに適当な役割を与えているあいだにも、ヒヨドリは降ってくる。
俺の指示した場所にサメが形成され、ソレを潜り抜けたヒヨドリは明らかに減速した。材料にヒヨドリの血を使って【魔力付与】を強めでいったか。やたらと粘性が高そうだ。
さらにはメイスの横薙ぎで魔獣にダメージを入れていく。体勢さえ崩れていなければ、綿原さんのサメホームランはちゃんと機能するのだ。
「おらあ!」
横に吹っ飛ばされたヒヨドリの胴体に海藤の投げたボールが直撃する。力の抜けた慣性飛行している物体程度、海藤ならば当てて当然だ。
だからミア、対抗するように弓を構えるな。それじゃあトドメになるから!
「俺らも負けてられないっすよ、深山っち」
「ん、その前に」
床を転がっていくヒヨドリを見た藤永が、チャラいワリに真面目さを発揮しようとするけれど、そこに深山さんが待ったをかける。
「待たせましたわね。ご苦労ですわ、ユキノ、ヨウスケ」
「ひっ!?」
夏樹と疋さんの連携で無力化したヒヨドリのトドメを終えたティア様の登場であった。もちろん脇にはメーラさんを侍らせている。ミアと春さんもそこに参加してもいいんだぞ?
血に濡れた短剣を片手にしながら獰猛に笑う金髪ドリルロールの悪役令嬢。さらには魔獣の返り血もトッピングだ。藤永が怯えた悲鳴を上げるけど、それでも深山さんは不動。やっぱり【冷徹】は強い。
さっき食らった『ホーシロ隊』の悪口を思えば、一年一組の全員で取得したいくらいだ。滝沢先生は候補に出していたか。
忌まわしい過去の出来事は置いておいて、迫力満点のティア様が見下ろしているのは、深山さんと藤永が身動きを封じたばかりのヒヨドリだ。
我に献上せよって空気だな。その通りなんだけど。
「ですわ!」
藤永によって床に抑えつけられたヒヨドリの胸に、ティア様の短剣が突き刺さる。十階位の前衛職で【剛力】の上乗せだ。トドメなんて楽勝だな。
それにしてもこの光景、アラウド迷宮の二層でも見たヤツだ。当時まだ第三王女だった頃のリーサリット様が兵士たちからウサギを受け取って……。邪悪な儀式っぽかったよなあ。
楚々としていた女王様と、邪悪な笑みでやってのけるティア様、どっちも俺の知る暗黒儀式にはお似合いだ。
そういえば日本への帰還条件として、魔獣を倒した数なんていう説もあったっけ。
召喚の生贄があるなら帰還でも、っていう発想から出たネタだけどな。
以前から一年一組内にある帰還条件『技術説』と『物語説』それぞれの支持者からも、両者からアリなんじゃないかって言われているところが面白いんだよな。
神授職や階位、経験値、それこそフィルド語情報が魔力的に記録されているならば、累積経験値が一定以上になったら、迷宮が何かを起こしてくれるんじゃないかという考えは、捨てるには惜しい。
たとえばだけど魔獣のスタンピードを終息させたとか、物語的にも成し遂げた感があってアリなネタなのだ。
「八津くん」
「ああ、悪い」
綿原さんの咎めるような声で、俺は思考を戦いだけに振り向ける。目の前でサメをスタンバらせている綿原さんは、いつでも迎撃可能だと言わんばかりに天井を見上げたままだ。
「昼は焼き鳥だなあ」
「俺、タレが好きなんだけど」
「塩しかねぇよ」
「ジンギスカンのタレ・カッコ仮じゃダメなのか?」
「アレと鳥肉か……」
緊張感を取り戻した俺だけど、聞こえてくるのは副料理長の佩丘と、もっぱら食べるだけの海藤の会話だった。
二人とも軽口を叩いてはいるものの、視線はヒヨドリを追いかけ続けているし、まあいいか。
要はこの戦闘、ヒヨドリのパターンが見えたお陰で、それくらいの余力が持てるようになったということだ。
「わたくしとメーラからの振舞ですのよ? 味を落とすことは許しませんわ」
そんな感じで一年一組の会話に切り込んでくるのが大好きなティア様は、三体目を倒して中宮さんが抑えつけている四体目に向かっている。
これだけお膳立てされているのに、それでも素材のラストアタック所有権を前面に押し出すあたりは、まさに悪役令嬢の鑑だな。
これには強面な佩丘も苦笑いだ。アレで傲慢で奔放なティア様のことを気に入っているのが見て取れるあたりが面白い。
◇◇◇
「十一階位、ですわ」
その言葉は、いっそ静かで厳かだった。
戦闘開始からほぼ十分くらい。六体目のヒヨドリを倒したところで、ティア様が十一階位を達成したのだ。
「っしゃあ!」
「やったね!」
「おめでとうございます」
クラスメイトたちから歓声が上がり、それを一身に受け止めるティア様は満更でもなさそうだ。
「メーラ、ここからは一人で動きなさいませ。わたくしの護衛はハルとミアですわ。なにしろ『指揮官』からの指示なのですから」
「……はっ」
ティア様のお言葉を聞いたメーラさんが、一瞬俺の方を見て、それから命令は受領されたらしい。
なんか瞳に恨みがましい色がなかったか? 奉谷さんへ向ける視線と全く別物みたいな、ナニカが。
とはいえここからはメーラさんのターンだ。残り二体のヒヨドリは……、最後の一体が疋さんに無力化されたところか。トドメ待ちの状態で準備は万端だ。
「さ、さあ。メーラさんの階位上げだ! みんなで頑張ろう。草間、中宮さん、生まれてたらでいいからニンニクを引っ張ってきてくれ」
メーラさんの濁った瞳に責めを感じた俺は、声を大きくする。
レベリング対象になるメーラさんに媚びを売るためにも、草間と中宮さんには使い走りをしてもらおう。俺は今、一刻も早く戦闘をしたい。
なんで俺は面倒だからと、春さんとミアにあんなことを言ってしまったんだろう。いやいや、それを意地悪い悪役令嬢がイタズラに使ったのが悪いんだ。
「どうした八津、なんか必死だぞ?」
その通りだよ、古韮。わかってて言ってるだろ、それ。
「ささっ、メーラさん。存分にやっちゃってください」
「……はい」
揉み手でトドメを勧める俺に、ちょっと間を置いてからメーラさんの返事が届いた。
微妙な空気をなんとかしたくなった俺は、これはいかんと奉谷さんにアイコンタクトを送ることで事態の改善を期待する。
「頑張ってねっ、メーラさん!」
「はい、ホウタニさん」
やっぱり態度が違うじゃないか。これからメーラさんとやり取りする時は、なるべく奉谷さんを経由するようにしよう。
「嫌ってるっていうより、ティア様と離れる指示自体が不服なんでしょ?」
「そうかなあ」
挙動が怪しい俺を見て取った綿原さんが慰めの言葉をくれるけど、どうにもなあ。
ほとんど表情を変えることがないけれど、メーラさんが俺を見る目って、そう、アウローニヤの近衛騎士総長代理たるキャルシヤさんを思い出すんだ。曰く、畏怖。もっと正確に言えば、キモい。
三十くらいのキャルシヤさんどころか、二十歳ちょっとのお姉さんなメーラさんからキッモって思われてる俺か。ははっ。
◇◇◇
「ニンニク、ちゃんと三体こっち来てるよ。……八津くん、どうしたの?」
「大丈夫だ草間。俺は生きている」
「なんで人生みたいなコトになってるのかなあ」
数分後、偵察とトレインから戻ってきた草間が俺を見て首を傾げる。
「ほらほら八津くん、しゃっきりしなさい」
「だな。騎士は戦列組んでくれ。一度受けてから無力化するぞ。毒に注意!」
偵察に同行していた中宮さんなどは、すでに扉に向かって戦闘態勢だ。そうだな、俺も切り替えないと。
メーラさんは……、ヒヨドリ二体を倒し終わったところか。なんともいいタイミングだ。
ここでレベルアップして機嫌を良くしてもらえると助かるのだけど。
◇◇◇
「昨日からずっと、ティア様とメーラさんに奢ってもらってばかりですね」
「構いませんわ。わたくしもこの野趣を堪能しておりますもの」
おべっかを使う委員長に、余裕なティア様が鷹揚に答えてみせる。普段から貴族業界であんな感じなんだろうと、易々と想像できるから怖い。
委員長の言っていること自体は本当で、昨日からこちら米や調味料以外の食材は、全てティア様とメーラさんが狩った得物ばかりだ。
昨日に至っては道中で『白羽組』のおじさんたち、夜の宴会では組合職員と侯爵家御一行にまで大盤振る舞いだもんなあ。
それでも食材はダブついていて、深山さんが念のために冷凍したのを四層まで運び込んでいる。
現在時刻は午前の十時を過ぎたところで、かなり早めの昼食となるが、どうせ午後のオヤツも食べる予定なのでこんなものだ。よく食べてよく戦うのが一年一組流。
「いやあ、いい匂いだ」
「炭火焼き鳥かあ」
古韮と野来が見ているのは、戦闘時よりも真剣じゃないかってくらいの表情でバーベキューコンロへと立ち向かっている佩丘だ。佩丘の脇では海藤とミアがサポートに当たる、焼き物担当の全力だな。
広間には炭火で炙られた肉とニンニクの香りが漂っている。
佩丘が焼いているのはヒヨドリ肉のニンニク挟み串。ねぎまの亜流みたいだけど、ワイルドさは上を行く。
調味料は塩とコショウだけだけど、焼けた鳥肉の油と、ニンニクの香りが食欲をそそりまくるのだ。コレは絶対に美味いヤツだぞ。
「ここからメーラさんのトドメは俺の指示でお願いします」
「はい」
そんな匂いの暴力の中、少しでもコミュニケーションをと考えた俺は、メーラさんに確認を取るべく話しかけた。
残念ながらメーラさん、ヒヨドリ二体とニンニク三体では階位が上がらなかったのだ。足りないだろうというのは予想できていたので、お互い落ち込む様なことでもない。
とはいえ、ティア様の横にポジションを戻したメーラさんは、至ってノーマルモードだ。つまりいつも通りに澱んだ瞳が俺を見据えている。それでもさっきよりはマシかな。
綿原さんの仮説通りで、メーラさんはティア様から離れることを極端に嫌っているのだと思う。で、奉谷さんだけは特別なナニカがあると。
だからといって依怙贔屓とか言う気にもならない。何しろ常時光を放つのが奉谷さんなのだから、俺なんかとは格が違い過ぎる。
そして何より現在のメーラさんの表情や目は、クラスメイトたちに見せているものと一緒だ。そこから導き出される結論は、俺はキモくなんてないってことになる。やったぜ。
「ティア様は、トドメを刺さない程度の攻撃をお願いします」
「ええ、心得ておりますわ。メーラ、わたくしが助ける側ですわよ?」
そして十一階位になったティア様は【頑強】を取得して大層ご機嫌である。
拳士として完成するために、そして先生を追いかける者として、昨日今日で一気に前進だもんな。
「それと、ティア様の横にはやっぱりメーラさんだと思うので、一緒に行動してください」
「お~っほっほ! やはりコウシは見る目がありますわね! メーラ、ここからはあなたが主役でしてよ!」
一気に畳みかけるために断言してみせる俺に、高笑いでティア様が返す。
さっきのちょっとしたイタズラで俺が怖い目に遭ったというのに、この態度である。全くもってティア様は悪役令嬢なのだ。
「よっし、出来たぞ。どんどん追加で焼いてくから、適当に持ってけ!」
広間に佩丘の威勢のいい声が響き、一年一組と高貴な二人はコンロに群がった。
次回の投稿は明後日(2025/06/12)を予定しています。