第511話 明るい夜と昏い朝
「馬那、地上に戻ったら奢ってくれよな。買い食いしようぜ」
「おう」
「あ、わたしもお小遣いあるから、孝則くん、欲しいものある?」
「僕は、うーん……。碧ちゃんの好きなモノを買えばいいんじゃないかな」
「だったらアタシ~。糸を追加したいんだよねぇ」
「そっちは経費で落とせるよ?」
夜だけど明るいままの広間のあちこちで、小声で会話が交わされている。一部が甘ったるいなあ。
時刻は日付を超えて夜中の三時も目前だ。もうちょっとで交代時間だな。
十二時から三時までと三時から六時までの三時間ずつで一度の交代。全員が【睡眠】持ちの一年一組はちょっと眠いけれど、それくらいは余裕でこなす。俺なんて【安眠】だからな。それはもう安らかだ。
乱入してきた魔獣をあっさり倒してのけた侯王様は、そのまま一緒に泊っていきそうな雰囲気を醸し出していたけれど、見事ティア様に撃退された。
こちらとしても出し物で汗をかいたり、調理で油と煙に塗れたのもあり、寝る前に一っ風呂の気分だったので、お客様には早々に退散してもらいたいたかったのだ。やっぱりティア様は俺たちの味方だよな。
そんなティア様は現在、一年一組特製寝具を使ってスヤスヤとお休みになられている。
よく動き、たくさん食べて、風呂に浸かればとも言えるけれど、よくもまあ【睡眠】無しで迷宮で眠れてしまうものだ。胆力が凄い。
当人からは自分も交代で見張りをやると言われたのだけど、さすがにそれは辞退してもらった。メーラハラさんが寝ずの番をするのだからその代わりだと伝えれれば、ぐぬぬったお顔でなんとか納得してくれるのがティア様である。自分の守護騎士のメンツを立てることができる人なのだ。
ただし一時間早く、五時に起こすという微妙な条件がくっ付いてきたのだが。
「ティア様って凄いよね。迷宮で寝るの、おっかないってみんなが言ってるのに」
「豪胆にして繊細な方ですから」
そんなティア様の横で体育座りをしているのは、ロリっ娘の奉谷さんとメーラハラさんだ。
ティア様を挟んでではなく、メーラハラさんが中央だな。
放っておいたら寝ているティア様の横でずっと立っていそうなメーラハラさんを見かねて、奉谷さんが説得したらこういう形になった。
こういうところで頑固なタイプのメーラハラさんだけど、何故か奉谷さんの言葉が通りやすいことを一年一組は学びつつある。風呂でも食事でも、奉谷さんの説得が一番効果的だったのだから、検証は済んだと言ってもいいだろう。
理由は何故かは不明だが、奉谷さんと話をする時のメーラハラさんは、普段よりも口数が増えるのだ。
さらに驚くべきことに、俺の【観察】はメーラハラさんの表情が心持ち柔らかくなっていることを捉えている。
現に今もメーラハラさんは、ティア様を見つめながらも、奉谷さんの語り掛けにはそちらを向き直って返事をしているのだ。これって凄いことだよな。
さすがは奉谷さん。伊達に『御使い』のあだ名持ちはやっていない。
すでにクラス内では、ティア様担当が中宮副委員長であるならば、メーラハラさんは奉谷さんという方向で内々の結論が出ているくらいだ。
「メーラハラさんも疲れてない?」
「わたしなら問題ありません。それよりも」
「それより?」
「最近のリン様です」
呟くような小声だけど、メーラハラさんは奉谷さんに向かって小さく微笑んだ。笑っただとっ!?
何となく見てはいけないものを見てしまったような気になって、俺は少しだけ顔を背けながら、それでも【視野拡大】で視界内に二人を納める。やっていることは、結局覗き見だ。
「リン様は、以前にもまして明るくなられました。眩しいくらいにです」
「そっか、良かったねっ……、とと」
メーラハラさんの前向きなセリフを聞いて、ちょっと声が大きくなりかけた奉谷さんが、慌てて自分の口を塞ぐ。
そんな奉谷さんの仕草を見たメーラハラさんが、さらに微笑みを大きくした。たしかに可愛い仕草だとは思うけどさあ。
「勇者の……、『一年一組』のみなさんのお陰です」
「じゃあさ、メーラハラさんは?」
「わたし、ですか……」
思いもしていなかったのだろう奉谷さんの問いかけに、メーラハラさんが一瞬固まる。
さすがは一年一組のバッファーなだけあって、奉谷さんは大したものだ。俺なんかはメーラハラさんは大変そうだなあって程度なんだけど、奉谷さんはそれを声にしてしまう。
しかもそこに一切の邪気が無いものだから、相手だって素直に受け止めざるを得ないのだ。実際メーラハラさんの表情をここまで動かすなんて、とんでもないことだと思う。
「……わたしも、楽しいのだと思います。今こうして、ホウタニさんと会話をしているのも含めて」
それは、とてもメーラハラさんが言ったとは思えないセリフだった。
そうか。メーラハラさんもティア様と一緒でいてくれたんだ。盗み聞きしておいてなんだけど、みるみる笑顔になっていく奉谷さんと一緒で、俺まで心が温かくなる。
「なら良かったぁ。それにほら、明日はティア様と一緒に十一階位だよ?」
「リン様とわたしが同じ十階位というのは未だ実感できませんが、明日は揃って十一ですか。想像するだけで嬉しくなりますね」
ほんの少しだけの笑顔だけど、メーラハラさんは嬉しいと言ってくれた。
「ホウタニさんと、みなさんには感謝しています」
「ならさ」
「なんでしょう」
「メーラハラさんのこと、ティア様や侯王様みたいに、ボクも『メーラ』さんって呼ばせてもらっても……、いいかな?」
体が小さいものだから、奉谷さんからメーラハラさんは見上げるような形になる。それがまた、こういうところで効くんだ。
ちびっ子の可愛いおねだりとしか思えないよな。遠くから見ていても破壊力が凄まじい。直撃を食らっているメーラハラさんはどうなるんだろう。
いきなりな提案を受けて笑顔を引っ込めたメーラハラさんだけど、頬がちょっと赤くなっているぞ。
「やったか?」
おおっといかん。思わず呟いてしまった。
「……はい、喜んで。ですがリン様の許可を頂きたいと思います」
「やったぁ。ティア様なら笑って許してくれるよ」
俺のフラグを蹴散らして、奉谷さんの大勝利である。
メーラハラさんは再び微笑み、どこか満足気な表情だ。それでもティア様の許可って言い出すあたり、さすがはメーラハラさんだ。
この話を聞かされて一番驚きそうなのはティア様だろうな。一年一組的には奉谷さんがこういうことをやらかしても、光属性が勝利したんだろうな、としか思わないだろうし。
いやあ、実によろしい夜だ。満足満足。
◇◇◇
「メーラハラさんがねっ、みんなで『メーラ』さんって呼んでいいって、言ってくれたんだよ!」
翌朝、朝食のカニを食べ終えて、さあ出発という段になって発された奉谷さんの宣言を受け、広間は驚愕に包まれた。
俺はまだまだ奉谷さんを低く見積もっていたんだろう。恥じ入るばかりだな。
奉谷さんとメーラハラさんのあいだで結ばれた協定だけど、ロリっ子バッファーにかかれば、それはクラス全員に波及する。広範囲バフってやつだ。
こういうところがあの綿原さんをして、クラス最強の存在と言わしめているんだろう。
「本当ですの? メーラ」
予想通りの驚愕から一転、訝しげになったティア様がメーラハラさんを問い詰める。
「……はい。お許しを頂けますか」
一瞬だけ奉谷さんに視線を送ったメーラハラさんだけど、そこにあるのは天使の放つ満面の笑みだ。ここでやっぱり違うと言えるだろうか。無理だよな。
イエスという言葉と共に浮かべたメーラハラさん改めメーラさんの小さな苦笑に、当人と奉谷さん以外の全員は、再び驚くことになった。
「おーっほっほっほ。さすがはメイコですわね。わたくしのメーラを篭絡してしまうとは思いませんでしたわ。よろしいですわよ。広い度量でもって認めて差し上げますわ!」
「やったあ!」
一拍の間を置いて立ち直ったティア様が高笑いで許可を下し、奉谷さんは両手を上げて体全体で喜びを表現する。
こうしてペルマ迷宮における一年一組初の迷宮泊二日目は、明るい動乱でスタートすることになったのだ。
◇◇◇
「何か御用ですか?」
硬い声色でそう言ったのは藍城委員長だった。
迷宮泊をしていた広間を出発してから五分も経っていないタイミングで、一年一組はソイツらと対峙している。
相手は八人。全員が二十歳くらいという、俺たちよりちょっと上のお兄さんとお姉さんたちだ。男が五人で女性は三人。見た目はごく普通の若手冒険者だ。装備にも怪しいところは見当たらない。
時刻は朝の七時を回ったあたりで、冒険者が三層に到達しているのには早い時間だが、この層は激戦区ともいうこともあって不自然とまでは言い切れないだろう。
こちらのことを完全に『一年一組』と認識しているようだけど、二十人以上で黒髪の集団というのはペルマ迷宮ではほかにいない。
俺たちが冒険者になった時点で事務所に掲示されたのもあって、余程の間抜けでもない限り見間違えるようなことはないはずだ。
「はっ、落ちぶれた挙句、勇者ごっこか」
「お前らさ。目障りなんだよ。もっと言えばよ──」
悪意を隠すこともなく、ソイツらは毒を込めた言葉を放ち続ける。
「ペルメッダから出てってくんねぇか?」
とても昏い熱を持って、目の前に立った冒険者はそう言った。
俺たちが冒険者となったあの日、まとまった冒険者の移動など帝国系の一部でしかないと、頭部がザビエルなベルハンザ組合長が言っていたのを思い出す。
では小規模、あるいはバラバラであるならばどうだ。しかも組合長が俺たち一年一組に言いたくない類のものだとしたら。
たぶんそれが目の前にいる連中の正体だ。
そこにあるのはいきなり登場した若造だけの独立した組への『やっかみ』だけではない。アウローニヤで何度も浴びた蔑みとも違う。むしろ、忌み嫌うモノへ向けられた明確な悪感情。
「白石さん、キツいだろうけどメモを」
「う、うん」
書記の白石さんに小さく声を掛ければ、彼女はコクコクと頷いて、いつも手にしているメモ帳を開いた。可哀想に、指が震えているじゃないか。
ここでの会話の内容は、イザコザとなった時にある程度の証拠にできる。会話の一言一言が具体的で、如何にも相手が言いそうな内容であればあるこそ、真実味が増すはずだ。
「間違いありません。『ジャーク組』です。たぶん『ホーシロ隊』。詳しい階位はわかりませんが、三層隊だったはずです」
普段の聖女チックな微笑みを引っ込めた上杉さんが、緊張を孕んだ声で相手を特定してくれた。役割とはいえ、しっかりとあちらの肩にくっ付いている組章と隊章を記憶してくれていたのには頭が下がる思いだよ。
三層隊というのは、八階位から十階位で構成されているという意味となる。
つまりお互いの人数と階位を鑑みれば、ここで戦闘となってもまず負けは無いってことだな。それだけは安心材料だ。
「やっぱりそうなのね」
とても残念そうな表情の綿原さんが、サメと一緒に首を横に振る。
目の前にいる連中、『ジャーク組』という名前が一文字違えば綿原さんのお気に入りになりそうとか、どちらかといえば『邪悪』に聞こえるなんていう日本人感覚はこの際置いておこう。
俺たちは『事前に』この組をマークしていたのだ。だからこそ上杉さんは判別ができるように、紋章官的な知識を得ていた。隊まで判別できたのは、要チェック対象だからだ。
「ティア様、メーラさん。辛抱してください。お互いのためにならないので」
「……わかっていますわ」
剣呑な相手であると判定した直後に最後方に移動してもらったティア様とメーラさんに念を押す。まさかメーラさんという呼び方を最初に使う機会がこんなだなんてな。
二人だけでなく、イザコザに巻き込まれると面倒事になりかねない滝沢先生までもが一番うしろだ。
そんな三人を、盾を構えた海藤、野来、綿原さんたちが視界を遮るようにガードしている。
最前列で厳戒態勢を取っているのは、委員長、ヤンキーな佩丘、笑みを引っ込めた古韮、十六になったばかりの馬那、そして木刀を持った中宮副委員長だ。
喧嘩っ早そうな陸上女子の春さんやワイルドなミアは、チャラ子な疋さんとチャラ男の藤永が引き留めている。
メガネ忍者の草間には、【気配遮断】を使い、あらかじめ決めてあった別任務に就いてもらった。
できれば善良で第三者になってくれる冒険者が来てくれるのが一番助かるのだけど。
「てめえらみたいのがここに居るって思っただけで、腹が立つんだよ!」
「言いたい放題だな。ちくしょうめが」
俺たちの存在そのものが気に食わないと言われてしまえば、ブスくれた田村の愚痴にも賛同できるというものだ。
普段はアネゴな気風だけど本当は気の強い方じゃない笹見さんや、感情が表に出やすい夏樹、奉谷さんなんかはすっかりしょぼくれている。そんな仲間たちの姿に心が痛む。
最初は刺客かもと警戒はしたけれど、目の前で喚いている連中は俺たちの『敵』なんかじゃないのに。
俺たち『勇者』がここペルメッダ、もっと絞り込めばペルマ=タで冒険者をやるに当たって、警戒すべき相手は多数存在している。
たとえば過去に勇者と因縁を持つとされている魔族。彼らについてはティア様とウィル様からの情報で、たぶん衝突しないで済みそうだというお墨付きが出ているので、今のところそれはいい。
次点で帝国、ジアルト=ソーンが気になるが、今のところ大使館からの接触は受けていない。
勇者を対聖法国への看板として利用したい派閥を内包している帝国だけど、アウローニヤでは拉致に失敗したし、その上でペルメッダでまで荒事を起こしたくないだろうというのは予想の範疇だ。なにしろ帝国とペルメッダは交易を通じて友好関係を結んでいるのだから。
帝国系の冒険者なんかは、俺たちに危害を与えて得など無い。そんなことをすればペルマ迷宮冒険者組合が黙っていないからな。自分たちで自発的に職を失う行動なんて、普通に避けたいはずだ。
一時の金に目が眩んだとしても、帝国にもある冒険者組合に通報されて一生追われるハメになるかもしれない。
もしも帝国が俺たちに手を出すならば、冒険者ではなく一般人を使うだろう。つまり迷宮ではほぼ安全だということになる。
さらに聖法国アゥサだけど、あちらは魔族と交易しているペルメッダ侯国を国と認めていない。無論国交があるわけでもないので、息を汲んだ間者を潜り込ませるだけで一苦労のはずだ。
アウローニヤの女王様が俺たちにペルメッダで冒険者となることを勧めた理由は、こういった要素の組み合わせとなる。
そしてアウローニヤ王国の宰相派残党。俺たち勇者の活躍により、負け組に転落してしまった連中だ。
こちらは女王様が絶賛無力化に励んでくれている。硬軟織り交ぜての取り込みで、続々と女王様の下へ降っているのが大多数で、俺たちに手出ししている余裕など無いはずだ。
むしろ何かを仕掛けたら家ごと潰されるだろう。
こういう経緯でペルメッダに居座る俺たちは、冒険者登録が終わった時点で比較的安全な状態を確保した。ペルメッダ侯国とペルマ迷宮冒険者組合という二枚の壁でもって、俺たちは守られているのだ。
「いい装備をしてやがるじゃねえか。それも俺たちから奪い取ったようなもんだろうがっ!」
「随分と豪華な拠点に居座ってるらしいわねっ!」
こちらが言い返さないのをいいことに、『ホーシロ隊』の連中は好き勝手なセリフを連発している。
こうやって目の前で悪意しかない暴言を吐きまくっているこの人たちは、国家単位でのアレコレではなく、別の意味で警戒対象として想定していた存在だ。
ペルマ迷宮に潜る冒険者の出自にはそれぞれがある。
ペルメール辺境伯時代からこの地に住んでいた人たち。帝国との国交による交易を主体とした冒険者。アウローニヤの名だたる悪法、『冒険者強制動員制度』を受けてペルメッダに駆け込んで来た人も多い。
誰もが本来勇者に敵対する立場ではないのだが、ごく一部の例外に当たるのが、喚き続けているこの人たちだ。
「俺たちが収めた税で好き勝手しやがって!」
アウローニヤからの流民。しかもここ数年で厳しさを増した圧政を受けてペルメッダに亡命した人たち。
関所抜けをしなければいけないから決して多くはないけれど、だからといって皆無ではない。
ペルメッダへの旅の途中で見た廃村と、俺たちに襲い掛かってきた痩せ衰えた村人たちを思い出す。
「負け犬貴族のガキどもがっ!」
そうなんだよ。俺たちの『設定』を真に受けて、怒りを覚えてしまう人もいるってことだ。
「『ジャーク組』っていいところなんだよね?」
「名前と違って、そうらしい。この人たちを見ればわかるけど、階位上げもしてるし、ちゃんとした装備だろ?」
「だよね。ヤだな、こういうの」
落ち込みまくっている奉谷さんが現状を再確認するように、小声で俺に話し掛けてきた。
ついさっきまで、メーラさんの件でお日様みたいに笑っていたのになあ。
奉谷さんの言う様に、『ジャーク組』は立派なクランだというのが一年一組の認識だ。
アウローニヤの課税や徴兵に耐えきれなくなってペルメッダに流れてきた人の行く先はそれぞれだ。都市や農村で働くか、地方の開拓民となるか、そして冒険者になるか。
ペルメッダの侯王様はそんな人たちを、ぶっちゃけ喜んで受け入れているらしい。王政国家にとって国民とは所有物で財産だ。それが隣の国の圧政によってこっちに流れてくる。受け入れる余地があるならば、喜んで手に入れたいだろう。
普通ならアウローニヤから国として正式に非難されるはずなのだけど、宰相派だった元大使にチョロっと贈り物をすれば水に流してもらえるのだから、侯王様からしてみればホクホクである。
という感じのコトをアウローニヤ大使館のスメスタさんに、俺たちは教わっていた。
話を『ジャーク組』に戻すと、危なげな名の組は、アウローニヤ難民の若手を冒険者として育て上げるのに積極的なことで知られている。
ちゃんと冒険者の気風を叩き込み、レベリングをして、装備を整えるのだ。素晴らしいじゃないか。
目の前で騒いでいる人たちの恰好を見れば、教育はさておき三層まで来ることのできる階位と、普通にしっかりした革鎧を着ているのがわかる。アウローニヤの村人ならば、階位上げをした者など稀だろう。そんな連中を、数年で一端の冒険者に仕立て上げる手腕は見事と言わざるを得ない。
態度にさえ目を瞑ってしまえば、というか対峙したのが『一年一組』じゃなければ、普段は良い人たちなのかもしれないと思うと、胸にくるものがあるな。
「何とか言ったらどうなんだよ!」
そうは言われても、俺たちだって返事に困る。
アウローニヤの政変に『敗れて』、民から吸い上げた家の資産を引っ担いでペルメッダに落ち延びてきた貴族子弟の集まり。しかも髪を黒く染めて、絶賛勇者ごっこ中。『ホーシロ隊』の人たちからは、こちらがそう見えている。
勝敗さえ逆にすれば、結構当たってるんだよな。俺たちの持つ資金は民から吸い上げたモノだと言われれば、たしかにその通りだし。
どうせ俺たちが『本物』の勇者だってバラしても、認めたりなんかしないんだろうなあ。少なくともこの場では間違いなく。
「草間くん、遅いね」
「まったくだよ」
奉谷さんと俺は小さく頷き合う。というか草間が出発してからまだ三分も経過していない。
広間では真面目に応対してもいいことなんて一つもないやり取り、もとい一方的な糾弾が続いている。
そんな時間は酷く長く感じられるものだった。
次回の投稿は明後日(2025/06/06)を予定しています。