第495話 親御さんだから
「まずは明言しておこう。今日、ここでの会話は記録に残らない。昨日あったウィルとの会談もだ」
初見の王妃様がいたので一通りの自己紹介を済ませ、着席した直後に侯王様が放ったセリフで会談はスタートした。
貴族っぽい優雅な雑談みたいな前置きは一切無しだ。俺たち的にはとても助かるのだけど、こういうところは好印象だよな。初回でもそうだったけど、侯王様とは趣味が合う。
言い放ってからすぐに、侯王ご夫妻は出された茶を真っ先に口にした。毒殺とかそういう方向性は完全無視の姿勢だ。
ティーカップは先日ティア様が持ち込んだものがすかさず活用されていて、その内二セットはすでにティア様とウィル様専用とされている。
お誕生日席に座るのは四人。左からティア様、王妃様、侯王様、そしてウィル様だ。
メーラハラさんは左端のティア様の背後に立っている。そういう風に命じられているのだろうけど、ブレない人だよな。
さて、そんな侯爵一家のお姿だけど、侯王様とウィル様は簡素な騎士服を着ている。というより訓練着に近いかな。明確な紋章とかも入っていなくて色もグレー。この人たちとしてはかなり地味な印象を受ける。
王妃様に至っては、そこらへんで見かけるような平民のおばちゃんが着ているようなスカートの長い茶色のワンピースだ。
とことんお忍び五人組を演出したかったんだろう。そういうノリができてしまう人たちだということを、突きつけられているような印象を受けるくらいだ。
ただ一人、ティア様の恰好がなあ。
「気合い入ってるみたいだけど、どうしたものかしら」
「サポートはするから、お互い頑張ろう」
肩に白いサメを乗せた綿原さんが小声で話しかけてきたので、俺は無理して明るく返す。それでも綿原さんの表情は優れない。
メーラハラさんは通常営業とばかりに茶色の革鎧なのだけど、問題なのはティア様だ。メーラハラさんとほぼお揃いの茶色な革鎧なんだよなあ。装備こそしていないものの、メットまで持参してきている。
たしかに今日は話し合いのあとに、フォーメーション確認とかもやる予定になっているけれど、気合が入りすぎだ。
普段のティア様だったらドレスを着込んで、訓練前に着替えるパターンなんだけど、お忍びモードであるために荷物を増やしたくなかったのかもしれない。
対する俺たちは、全員がこの前ペルマ=タで買ったばかりの上等な平民服だ。これはあえてである。
アウローニヤから持ち込んだ騎士服でもよかったのだけど、平民冒険者アピールとペルメッダで買い物をしましたよっていうのを見てもらうためにこうすることになった。
男子は全員スラックスと長袖のシャツ。統一こそされていないが、地味な色が多い。
女子の方はもう少しバリエーションがあって、派手過ぎない程度に刺繍の入った服を着ている子もいる。何名かはスカート姿で、俺としては実に新鮮なイメージだ。
日本ではセーラー服だったから当然だったとしても、綿原さんのスカート姿なんてペルメッダに来てからの数度だけで、レアといえる。
一年一組の場合、外では革鎧で拠点では訓練着っていうのがほとんどだからなあ。
「まずは、礼を言わせてもらいたい」
「娘と友好を結んでくださって、本当に感謝しているわ」
座ったばかりの侯王様と王妃様が音もなく立ち上がり、どこからどう見てもわかるくらいの角度で頭を下げた。
ウィル様は座ったまま顔に手を当て、ティア様は唖然として固まっている。
そんな異常な光景を、ティア様の背後に立つメーラハラさんは真っすぐこっちに視線を向けたまま、見なかったことにするようだ。
昨日ウィル様がペルメッダと魔族に関するヤバいネタを暴露したのもそうだけど、なるほどこれは記録になんて残せるわけがない。
「とくに我が娘が渇望していた師、タキザワとナカミヤには感謝の言葉もない」
「率直に苦言を呈してくれるワタハラさんは得難い人物だと言っていたわね。ほかにも──」
「お父様、お母様っ!」
一年一組を褒め称える両親にあっけに取られていたティア様だけど、このあたりでなんとか気を取り直して、そして叫んだ。
「わたくしたちは夕食だけでも一緒にするようにしているのよ。リンといったら、そこでもう」
「お母様ぁ!」
動揺と怒りの混じったティア様の声にも、王妃様はものともしない。これが親パワーってやつか。
というか、王妃様の喋り方っておばちゃんっぽくて、貴族感が薄いんだよな。見た目は物凄く美人な貴族様なのに。
それにしてもティア様、綿原さんのことをそんな風に評価していたのか。諫言をしてくれる配下こそ大切にっていうのは、俺の読むラノベなんかでもで良く聞くフレーズだけど、まさか綿原さんがそんなポジション扱いになっているとはなあ。
「今朝はウィルもいろいろと言っていたな。歴史を知る聖女と、もっと語り合いたいとも」
「父上……、僕まで巻き込むのは勘弁してほしいのですが」
そんな展開はウィル様にまで飛び火した。
この場合は褒め殺しっていう表現とは違うな。褒めた側が殺されかけている感じだ。
だけどそうか、ウィル様は歴女な上杉さんが気に入ったのか。
たしかウィル様には婚約者がいるので大丈夫……、婚約破棄パターンじゃないだろうな? いやいや、上杉さんが婚約を受け入れるわけもない。滝沢先生なら揺らぐ可能性もあるが、ウチの聖女はそういうのを笑ってスルーできる人だ。
現実、口に手を当て楽しそうに目を細めているくらいだよ。度胸満点だな、上杉さん。
名前を出された先生や中宮さん、そして綿原さんは、なんか居心地が悪いって感じの表情になっているのに。
◇◇◇
「ところでだ、貴様らの故郷には文字でもって芸術とする文化があるそうだな」
しばらくのあいだ侯爵夫妻による実名を使った褒め責めと、ティア様やウィル様への被弾が続き、それがひと段落したところでこんなセリフである。もちろん侯王様によるものだ。
一年一組に緊張が走る。ただし、一瞬だけだ。いや、中宮さんはまだ固い。そりゃあそうだろう、ここからが大変なんだし。
すまない中宮さん、俺は見守ることしかできないんだ。イラストとなれば、話は別なのだけど。
「なんというか、申し訳ない。昨日は戻りが遅くなったのだけど、執務を終えた父上とバッタリ出会ってしまってね。思わず自慢してしまって」
「それを言ったらわたくしもですわね」
ここでウィル様とティア様によるネタバレだ。兄に見せつけておいて、ご両親には秘密ってわけにもいかないだろうしなあ。
一年一組はこの突然の訪問の趣旨を測りかねていた。
正確には、見落としこそあるだろうけどいくつかの思惑が想像できてしまい、それらに対応すべく急いで動いたのだ。
これもそのひとつ。
「わたくしも見せてもらったのだけど、あれはとても綺麗で、それはもう」
「人の名を美と化すとは、見事であった。二人が自慢してしまうのも理解出来る程のものだったな、あれは」
王妃様と侯王様は、息子さんと娘さんから相当煽られたようだ。
そんな家庭内でのマウント合戦はどうでもいいとして、どうしてお二人の目はキラキラ、というかギラギラしているのかな?
いや、想像は付いてるのだけど。
「我にもひとつ」
「わたくしも、ぜひ」
となるわけだ。
だけどまあ、城に呼び出して書かせることもできる権力者がこうしてお忍びでやってきて頼んでくれるというのは、俺たち的には好印象でもある。
あれ? 無国籍の冒険者だから、迷宮と関係のない案件での呼び出しってできるんだろうか。先生や藍城委員長が法律を調べてくれているけれど、そっち方面は聞いていない。俺たちがやってはいけないことなんかは念押しされているんだけどな。
「ひとつだけハッキリとさせておいてください」
侯爵夫妻のあからさまな要望を受け、ついに中宮さんが決意の表情で二人に語り掛けた。目力が凄いが、相手も剛の者、堂々と受け止めている。
これからひと試合なんていう空気が食堂に漂う。バトル回じゃないんだけどなあ。
「書くことはします。ですがそれは、お二人がペルメッダ侯爵ご夫妻だからではありません」
「ほう?」
「あら」
キッパリという擬音が聞こえるくらいの勢いで、中宮さんは権力者に屈するわけではないと言い放つ。
当の侯爵夫妻はそんなセリフを聞き、逆に楽しげな声をこぼした。
「わたしの友人であるティアのご両親だからです。そこはご理解ください」
凛とした中宮さんの一声で、食堂が静かになった。
これこそが偽らざる中宮さんの本心だと、誰もが信じ切るだろう口調だったのだから。
権力に翻弄され、そして救われた俺たちは、帰還に繋がるならば状況次第で阿ることも辞さない覚悟を持っている。生き残るために強い人の力を借りることなど戸惑わない。
だけど同時に、相手が偉い人だからという理由だけで、なあなあで媚びることはしたくはないんだ。
我儘な考え方かもしれないけれど、俺たちは高校生なんだから。
たとえば日本にいた頃に、知り合いでもないおじさんが国会議員だからと、いわれもなく芸を見せるかって話だ。山士幌の町長さんならば委員長の父親だからオーケー。これはそういう理屈である。
委員長とは幼い頃から家同士の付き合いがある中宮さんだからこそ、前面に出てしまうプライドなのかもしれない。
「リン……」
らしくもなく震え声でティア様が感極まっているけれど、昨日の泣き顔といい、悪役令嬢度が薄まっているんじゃないだろうか。俺としては不敵に邪悪に、よくぞ言ったぞリン、くらいのノリでいてほしいのだけど。
「よくぞ申した!」
「ええ、ええ、とても嬉しいわ」
侯爵夫妻も天晴れみたいな感じになってるし、まあ、これはこれでアリか。
◇◇◇
「では、まずはこちらを」
一度談話室に行ってから戻ってきた中宮さんが四枚の紙を食堂のテーブルに乗せた。
毎度のごとく縦に長い長方形の紙である。
「こちらが侯王陛下のお名前です。こちらが『ひらがな』、こっちは『カタカナ』です」
そこに書かれていたのは侯王様のフルネーム、ユーハラード・メルス・ペルメッダという文字だ。中宮さんの言う様に、ひらがなとカタカナの二枚。
「そして王妃殿下のお名前がこちらになります」
さっきの自己紹介で伺った、ジュニフェア・ソウ・フルエ=ペルメッダと書かれた紙が二枚、こちらは王妃様の前に差し出された。
中宮さんと、助手たるチャラ子な疋さんが席を外していたのは一分足らず。
つまりこれは事前の仕込みだ。俺がいないあいだ、侯爵夫妻がお忍びでやってくるという先触れを受けたクラスメイトの中にコレを予測したヤツらがいた。
イケメンオタこと古韮と、この手の仕込みに定評がある疋さんだ。
『準備をしておいた方がいい』
『絶対言ってくるっしょ』
なんて会話があったそうな。
で、ひらがなバージョンとカタカナバージョンが事前に用意されていたという展開だ。
「ほう、流水のような美とでもいうか」
「とても綺麗ね。でも……」
絶妙に崩した書体で表現された、読めもしない自分の名前に侯爵夫妻は感じいった様子だが、王妃様の語尾のように、これだけ? という言葉が続いているのは明白だ。
「書いているところも見たいのではないかと、『漢字』についてはこの場で」
「わかっておるではないか!」
「まあっ、素敵!」
つらっと自分の席に戻った中宮さんは、緊張を含んだ声でそう提案する。もちろん侯爵夫妻は大喜びだ。
もちろんこれ、接待シナリオである。中宮さんは渋ったのだけど、なにしろティア様とウィル様の場合は目の前で書いたという実績がある。ご夫妻が知ったとしたら見てみたいとなるのはごく自然だ。
二度手間になったら面倒くさいじゃないか。
中宮さんに対し、そんな説得を頑張った委員長には周囲から喝采が贈られた、なんていう経緯があったり。
「よいしょっと。んじゃあ碧、ちょい席外してね~」
「うん。わかった」
中宮さんの助手のごとく背後に控えていた疋さんが、中宮さんの席の前に習字セットと紙を二枚、それと小さなメモを置く。
左隣に座っていたメガネ文学少女な白石さんが席を外すのは、中宮さんの両脇を空けるためだ。ちなみに右側は疋さんの席だったので、最初から空いている。
「近くで見たいのでしたら、どうぞ」
ここまでくればと開き直った中宮さんの声に、侯爵一家四人全員が立ち上がった。ノリノリだなあ。
「我の名が描かれるところを見届けるのだ。わかっておるだろうな」
「母を立てることもできない子を育てた覚えはないわよ」
「わかっていますよ」
「ぐぬぬ、ですわっ」
仲良し侯爵一家の話し合いの結果、中宮さんの両脇には侯王様と王妃様が座り、そのご子息とご令嬢は背後からの見物というフォーメーションが決定された。
どこからどう見ても圧迫なんとやらである。中宮さん、可哀想に。
自分の席からそれを見守る綿原さんは優雅にサメを泳がせている。いいご身分だよな。俺もだけど。
「では」
一呼吸分だけ息を吐いた中宮さんは、雰囲気を一変させる。瞬間、食堂の空気が切り替わった。
誰もが中宮さんの挙動から目が離せない、そんな何かがある。
本当ならローテーブルならぬ、文机で正座の姿勢で書きたいという彼女の希望を叶えてあげたくなるような気合だ。
今まで何度も中宮さんが書道をするのを見てきたけれど、今回はとびっきりだな。
ティア様の前で恥をかきたくないのか、それとも自分の誇りのためか。とにかく彼女はマジモードだ。
あたかも魔獣を相手に木刀を振り下ろすかのように、中宮さんの筆が躍った。
「こちらが侯王陛下のものとなります」
剣技のような筆捌きの末、深く息を吐いた中宮さんが、その書を左に座る侯王様に差し出す。そこには──。
『勇覇嵐道・鳴瑠守・辺流迷陀』
繰り返しになるが、侯王様の名はユーハラード・メルス・ペルメッダ。
「読む際の音だけではなく、嵐の様な勇ましさでペルメッダを守るという意味が込められています」
「ほうっ!」
まさに中宮さんの言ったように、縦書きにされた漢字たちは荒ぶるような力強さを表現していた。
これには侯王様でなくても感嘆の声を出してしまうというものだろう。
ちなみに原案はもちろんチャラ子な疋さんによるものであり、中宮さんの解説は事前に吹き込まれていたことではあるが、書体にその意思が汲まれているのは間違いない。
こういうのに疎い俺ですら、勇ましさみたいなものが伝わってくるのだから。
「では、続けます」
侯王様を筆頭とする熱が冷めやらぬのを狙ったかのように、中宮さんはもう一枚の紙に立ち向かい、そして筆を振るう。流れるような所作で書かれたのは──。
『珠音妃・蒼・風麗詠=辺流迷陀』
重ねて繰り返すが、王妃様の名はジュニフェア・ソウ・フルエ=ペルメッダだ。
「流麗な風の音。こちらには『妃』という文字を使わせてもらいました」
書の一角を指差し、やり遂げた風情で中宮さんは大きく息を吐いた。
「まあ、まあまあまあ」
王妃様が頬に手を当て、嬉しそうに中宮さんの習字に目を見張っている。
これも凄いな。さっきの荒々しさとは違い、こちらは優しさを体現したような緩やかな書体だ。
これまた字を当てたのは疋さんなのだけど、中宮さんはちゃんとその意を自分なりに表現してみせた。
「同じ文字とは思えぬほど、伝わるモノが違っているな。見事としか言い様がない」
「フィルド文字にも装飾書体はいくつもあるけれど、これはまさに芸術品ね」
「いえ、わたしのこれは素人の延長でしかありませんから。変わった文字だからそう見えるだけで」
ベタ褒めする侯爵ご夫妻の様子に、やり切ったはずの中宮さんは困惑を隠せていない。もう終わりにしてくれって感じだな。
「ううむ、褒美は必要ないと釘を刺されたのが悔しいほどだな」
侯王様が悔しそうに唸っているが、この件で一年一組はペルメッダ侯爵家から何かを引き出すつもりはない。
国籍を持たない冒険者である俺たちが、必要以上に侯爵家と深い繋がりを持つというのはメリットとデメリットが多すぎるのだ。侯爵令嬢と仲良しくらいまでならギリオーケーで留めておけるはずだけど。
なのでこれは友人の両親に対する芸であり、少々力が入ってしまったけれどあくまでお遊戯なのだ。
「そうね。ではこうしましょう」
と、王妃様が良いことを思いついたように声を上げた。これには中宮さんを筆頭に、一年一組全員が身構える。
「まず、これについてはお客には見せないことにするわ」
「あ、それは助かります」
褒美とは別方向の王妃様の言葉を聞いて、素に戻った中宮さんが表情を明るくした。クラスメイトたちも大きく頷いている。
この件でちょっと心配していたのが、ほかの貴族にコレの出所を知られることだったのだ。
ティア様やウィル様、ついでに一度だけの出会いであったけれど侯王様の気質からして、俺たちに関することを吹聴するようなマネはしないと思ってはいた。
そこにきて初見な王妃様からの提案だ。これは本当に助かる。
「だけど、それだけじゃお礼にならないわね」
「お礼なんて……。魔族のコトを教えてもらっただけで十分です」
「だからこうしましょう。書には書でお礼。感謝状でもいいのだけど、侯爵家の名義では受け取れないでしょう?」
「え、その、はい」
まさにおばちゃんのごとく言葉を連ねる王妃様の勢いに、中宮さんが混乱状態になっている。
「だから紙でお礼をさせてほしいの。あなたたちの話を聞くと、普段からたくさん使うのでしょう?」
「それはまあ、はい」
「それと、筆記用具も。もちろん普段使いのものを贈らせてもらうわ」
なるほど、そうくるか。たしかに一年一組は紙の消費量が多いし、この提案は正直助かる。
貴族様からの贈り物という単語から連想されるような高級な壷とか絵画とかでなく、えっと、なんていうんだっけ。そうだ、消え物。生々しく現金とかじゃないのも気遣いなんだろうな。
ああ、矢面に立っている中宮さんが助けを求めるように先生に視線を送っている。
対する先生はアイコンタクトを受け止めてから、ティア様を見た。視線のパス回しってか。
「ティア?」
先生の思惑が届いた中宮さんは、背中側に立って黙ったままのティア様に振り返り、不安そうな声をかける。
そんなティア様だけど、面白くなさそうな顔をして、腕組みをしているんだよな。真意はどこらへんだろう。
「諦めなさいまし。こうなったお母様は、そう簡単には引きませんわよ。説得する時間が勿体ないですわ」
「そ、そうなの」
「本当ならわたくしから真っ先に礼をすべきでしたのに、あの時は舞い上がっていましたわ」
そんなことを言うティア様は本気で悔しそうだ。
で、王妃様は押しの強いおばちゃんであると。これってもう、どうしようもないよな。
「喜んで受け取らせてもらます」
悩める中宮さんを救ったのは、苦笑を浮かべた我らが委員長だった。
中宮さんとしては自称素人の習字で見返りを受けるのに抵抗があるようだけど、ここらで打ち止めにした方が話が早い。クラスメイトの大半も、もう受け取っちゃえよって雰囲気になっているし。
「……わかりました。ちょっと意固地になっていたかもしれません」
「そこがリンの良いところですわ!」
疲れた笑顔で降参する中宮さんに、ティア様から容赦のない声援が飛ぶ。今の中宮さんに誉め言葉は、逆にダメージになってしまうのになあ。
「そういうことで、本題に入ってもいいでしょうか。昨日の迷宮とティア様の依頼について、ですよね?」
表情をキリっと一変させた委員長が、習字の終了を宣言する。
そう、そのセリフこそが中宮さんの救いとなるのだ。カッコいいぞ、委員長。
「うむ。どのような話が飛び出るか、期待しておるぞ」
中宮さんの隣の席から立ち上がった侯王様が、悪い笑みで元いた誕生日席に戻っていく。
さあ、ここからは綿原さんとお手伝いな俺のターンだ。
次回の投稿は明後日(2025/05/01)を予定しています。