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第494話 お忍びな人たち



『ティアにも納得できて、わたしたちの目的から外れない形を話し合ってみるので、明日にもう一度』


 ティア様を大泣きさせた張本人、中宮(なかみや)副委員長の提案が昨夜の会談の締めとなった。



「四十五万か。一人二万って考えたら上等なのかな」


「貢献点も五万増えたし、あの日の三食、全部賄えたから。お米は別だけど」


 藍城(あいしろ)委員長が背嚢に入れた素材代金に触れれば、会計を担当しているメガネ女子な白石(しらいし)さんが補足をしてくれる。


 涙の一幕から一夜明け、俺たちは冒険者組合事務所に立ち寄ってから内市街での買い物に向かっているところだ。

 時刻は午前の十時過ぎ。冒険者たちは迷宮でお仕事している時間帯だけど、ペルマ=タのメインストリートもまたそれなりの賑わいをみせている。


 組合事務所には休日の予定が吹き飛んだマクターナさんがちゃんといて、昨日納品した素材代金を手ずから渡してくれた。

 金額については日本とは物価が違うのでピンときていないが、それより気になるのは四層に出現した新区画についてだ。

 今日の早朝から組合専属の冒険者と、ペルマ迷宮冒険者組合の誇る一等級クラン『赤組』と『白組』から選抜されたメンバーが調査を開始したらしい。もしかしたらサーヴィさんやピュラータさんなんかも参加しているかもしれない。

 マクターナさんは休日返上で地上の控え。『ペルマ七剣』を名乗るのも大変だ。


 異変があれば一部の隊が地上に走ることになっているそうなので、今のところは何も起きてはいないってことになる。


『アラウド迷宮で新しい魔獣が発生した件については把握しています。魔力の異常についても』


 連続勤務なのにそれでも笑顔なマクターナさんはこんなことを言っていたけれど、どこまでアラウド迷宮がヤバいことになっているかは実感できていないだろう。

 とくに魔力の異常値は群れを生み出す要因になりうる。ペルマ迷宮に潜る人たちに、どれくらいのノウハウがあるのか。


 俺が一年一組の出番じゃないかと考えた理由のひとつがこれだ。

 なにしろ俺の【魔力観察】は『発生直前』の魔獣を見ることができる。そして四層の新しい区画ならば死者の影を見ることもないだろうから、普段より精神的な意味で安全に調べることが可能なのだ。

 魔力を調べることができる冒険者、ウチならメガネ忍者な草間(くさま)に『魔力部屋』を発見してもらい、そこを俺が巡ることで、効率的に異常に対応できるんじゃないかと考えたわけだな。


 俺の【魔力観察】を公表することについては、迷宮の床の魔力が見えるから魔獣の出現を『ある程度予測できる』ってくらいにしておけば、それほど問題にはならないだろう。

 昨日のティア様もそうだけど、俺たちはそれなりにこの世界の人たちに入れ込んでいる。気の良い冒険者たちの安全を買えるなら、少しくらい隠しカードを開いてもいいじゃないかっていうくらいには。



「委員長、大金持ちなんだから、盗まれないように気を付けてよ?」


「わかってるさ」


 茶化すような口調の陸上女子たる(はる)さんだけど、そんなことを言いながらもポジションは当の委員長のすぐうしろだ。【聴覚強化】持ちで素早さに定評のある彼女が、まさに大金を輸送している委員長をガードしてくれているのは実に頼もしい。


 本日の外出組は委員長と白石さん、春さんのほかに、お坊ちゃんな田村(たむら)、寡黙な馬那(まな)、チャラ男の藤永(ふじなが)、そして俺という七名だ。

 盾は持っていないしメットも被っていないものの、全員が革鎧装備で、メイスと短剣も腰にしている。マントのフードを深く被ることで、所謂冒険者ルック状態だ。なんのことはない、黒髪と黒目を隠したいだけなんだけど。


 一日一度の組合事務所訪問と買い出し、並びに掘り出し物の探索は持ち回りで行われることになった。

 食材関係はストックがあるので、本日は料理長の上杉(うえすぎ)さんと副料理長の佩丘(はきおか)はホームで別行動。迷宮委員でしおりの作成を手掛ける綿原(わたはら)さんも居残り組だ。

 俺も迷宮委員なのだけど、魔族の絡みもあって【魔力観察】担当者として外出グループに入っている。拠点に戻ったら手伝うので、許してほしい。


 アウローニヤにいた頃は一日のルーチンがあって、時々大イベントが起きるっていう感じだったけど、ペルメッダではまだ事件らしい事件は起きていない。精々『雪山組』の遭難に出くわしたくらいなものか。アレを小イベントと思えるくらいには、アウローニヤで鍛えられた俺たちだ。


 冒険者登録も終わり、そこから二度の迷宮も経験した。

 次回の迷宮泊をやり遂げれば、おおよそ一年一組の日常ペースも固まってくることだろう。日帰りならば中一日、宿泊をしたら二日休息とかって感じで。

 そのためにも本日午後から予定されているティア様との打ち合わせは結構重要だ。納得してもらえるといいのだけど。


 そして日常ルーチンを完成させるための最後のピースがこれから埋まろうとしている。



「百二十万の絨毯って、凄いよね。どんなお金持ちなんだって感じ」


「そうっすよねえ。加工の手数料があったとはいえ、これで安い方だっていうんだから、驚きっす」


 両手を広げて大袈裟に表現する春さんに、下っ端口調で藤永が同意する。俺もたしかにそんな気分だ。


 ティア様がお兄さんを連れて襲撃を仕掛けてきたものだから話題に上がらなかったけれど、昨日の昼間に談話室用の絨毯を注文した店から連絡があったのだ。

 昨晩も大活躍だった談話室の絨毯は、建前上アウローニヤ大使館からの貸し出し物ってことになっている。派手なデザインで大きさも中途半端なので、地べたに座るのを生活の一部にしている一年一組からは不評を買っているちょっと可哀想な存在だ。


 それがお役御免となる日がやってきた。あのど派手な絨毯は、新しい主の下で活躍して欲しい。


 伝言を受け取ったのは一年一組が迷宮に入っているあいだ拠点を警備してくれていた『雪山組』のおじさんたち。

 侯爵家の兄妹にビクビクだったせいか、言い忘れるところだったのだとか。申し訳ないことをしてしまった。



「中宮の言ってた文机(ふづくえ)、だったか。あんのかよ、そんなの。ローテーブルはバカ高いんだろ?」


 いつも通りに面倒臭そうな口ぶりで田村がボヤく。


(りん)ちゃんの我儘なんて珍しいし、ティア様担当だから」


「ちっ、仕方ねえなあ」


 田村を咎めたのは見た目も中身も大人しい白石さんだったりする。


 俺からしてみると、こういうところが一年一組の凄さだと感じるのだ。これでチャラ子な(ひき)さんが、ちょっと男子ぃみたいな言い方をするならわかるけど、白石さんが田村にツッコミを入れられる関係性だよな。

 ウチのクラスは全員が、見た目も語りもヤンキーな佩丘に茶々を入れてしまうような連中で、いつの間にやら俺すらそんな連中の内側だ。


 さておき、この場にいない中宮さんのご所望は背の低いテーブルだった。


 ティア様絡みで最近書道をするシチュエーションが重なった中宮さんは、やるならやるでちゃんとしたいと言い出したのだ。意識高い系女子である。

 ちなみにそうした方が心が安らぐのだとか。風紀委員女子のテンプレをとことんまで貫いてしまうのが我らが副委員長なのだった。


 ちなみにだけど、アウローニヤ文化圏に含まれるペルメッダには、ソファーに座るスタイルもある。よってローテーブルも存在しているのがつい先日の調査でわかっているのだが、そもそものソファーが貴族くらいしか使わず、ほぼ全部がオーダーメイド。連鎖するようにローテーブルもそうなるわけで、しかも超高級路線を突っ走っているのだとか。

 なにしろ『地上の木材』を使うのが当然らしい。


 だからこそ、先日誰だかが言っていたように安物のテーブルの脚を切ったらどうだろう、なんていう大工さんに喧嘩を売るような発言が出てきたのだ。


「まあまあ。ここは木工品が安い街だから、フルオーダーでも十万には届かないだろうって綿原さんも言っていたし」


「委員長お前、金銭感覚どうなってんだよ」


「ははっ、そうだね。ここのところ十万とか百万のやり取りが多かったから」


 委員長の発言に対する田村のツッコミは、今度は正当だと思う。それにしてもこの二人、片や山士幌町長の息子で、もう一人は病院の一人息子という、実家が太い方なんだけどな。


 こんな感じで俺たちは、賑やかに街を練り歩くのだ。



 ◇◇◇



「戻ったっすよー」


 藤永のとぼけた声とともに、俺たちはホームに帰宅した。


 四人がかりでロール巻きにした絨毯を二枚携えてである。

 予想どおりに中宮さんの注文に一致したローテーブルは見つからなかったので、あらかじめ用意しておいた図面を木工屋さんに渡して発注はしておいた。お値段は六万ペルマ。日本円換算で六万円のちゃぶ台を高いと見るかどうなのか。


「……なんかあったのか?」


 十二時の手前ならみんなは談話室だろうと入ってきたのだけど、どこか不穏な空気を感じたのだろう、寡黙な馬那が口を開いた。

 俺にもわかるくらいに、ハッキリとおかしい。具体的には滝沢(たきざわ)先生と中宮さんの義姉妹コンビが疲れ果てていて、鮫女の綿原さんは心底ゲンナリしている。サメが床スレスレだ。


 俺たちが絨毯を持ち帰ることは確定していたので、元々あった派手な借りものは巻き取られて壁際に置かれている。石でできた灰色の床が寒々しいが、そこにこれから安物だけど新品の絨毯が敷かれれば……、って話になるはずだったのに。


「それがねえ」


 立ち尽くす俺たち七人に事情を説明してくれるのは、苦笑を浮かべたアネゴな笹見(ささみ)さんのようだ。


「先触れが来てね。ティア様からのだよ?」


「珍しいな。あの人がそんなことするの」


 笹見さんの言葉に驚いてしまった。ティア様の先触れなんて、初めてじゃないだろうか。

 これは嫌な予感がしてきたぞ。委員長なんかはすでに頬に汗を浮かべているし。


「七の刻、午後二時に四名様だってさ。ペルメッダ侯爵ご一家のお越しだよ。追加で護衛が一名だね」


「ははっ、さすがは旅館の娘だ。それっぽいね。護衛っていうのが風情に欠けるフレーズだけど」


 与えられた情報から現実逃避をしたような委員長の声は乾いていて、石床の部屋に良く響いた。


 ティア様とのお友達宣言の翌日に家庭訪問ってか。

 我とか言っちゃうこの国の王様と王妃様が、二人の子供を引き連れ冒険者の拠点にやってくる。


 なるほど、引率者な先生と、お友達筆頭の中宮さん、そして迷宮委員としてティア様とのレベリング依頼の交渉役に抜擢された綿原さんが煤けるわけだ。

 サメ勝負ならば侯王様ともタイマンができた綿原さんだけど、商談を見張られるのは嫌だろうなあ。



「俺たちの昼飯は前倒しだ。上杉と佩丘たちが作り始めてくれてる」


「お話合いをする場所は食堂でいいよね? 掃除しておいたよ。雪乃(ゆきの)ちゃんと玲子(れいこ)ちゃんが頑張ってくれたんだから」


 こういう事態に意外と動じないイケメンオタな古韮(ふるにら)と、こんな時こそ元気になれるロリっ娘の奉谷(ほうたに)さんが実に頼もしい。


「草間とミアが屋敷の周りを確認しに行ってくれてる」


 この口ぶりからして現状を仕切ってるのは古韮なんだろう。


 ん? このメンバーで偵察となれば、草間とペアにするなら疋さんか中宮さん……、後者は壊れてるか。


「疋は、ちょっと、な」


 俺の表情から脳内をキチンと読み取ってくれた古韮が、親指を使って部屋の片隅を指差した。そこには机に向かってガリガリと何かを書いている疋さんの姿が。

 部屋に戻った時から気付いてはいたんだけど、どういうことだろう。


「もしもに備えないとだよ。即興で失敗したくないからな」


「ああ、そういうことか」


 意味深な苦笑の古韮の言葉で、俺にも気付くことができた。そういことか。



「まずは絨毯を敷こう。俺と……、馬那、田村、野来(のき)でやる。委員長と八津(やづ)はあっちだ」


 テキパキと指示を出す古韮が再び親指で示した先には、落ち込んでいる三人の姿がある。


「とくに八津だ。交渉は綿原メインだけど、サポートはお前の役割だろ? それとも誰かに譲るか?」


「わかってて聞くなよ」


 古韮のセリフに背中を押され、俺は綿原さんの下へ向かうのだった。


「ほら委員長も」


「古韮がいてくれて助かったよ」


「どういたしましてだ」


 誰かがへこたれたなら、ほかの誰かが立ち上がる。俺はそんな一年一組が大好きなんだ。なんてな。

 ああ、これも現実逃避なんだろうなあ。



 ◇◇◇



「来たよ。本当に徒歩で五人だ。ティア様とメーラハラさんが混じってるのは間違いない」


 メガネ忍者の草間が断言する。コイツの【気配察知】は付き合いの長い人物ならば、個人の特定までできてしまう強スキルだ。ただし、体格や動きが似ている人は難しいのだとか。


 時刻は午後二時の数分前。俺たちは『一年一組』のホームである邸宅の門前でペルメッダ侯爵家ご一行を待ち構えていた。

 二十二人全員というのはさすがにアレなので、メンバーとしては【観察】ができる俺、サーチが得意な草間、役職者として先生と委員長、そして副委員長の中宮さんだ。



「出迎えご苦労」


「ようこそお越しくださいました」


 相変わらず尊大なおじさんがまず最初に口を開き、こちらからは代表して先生が挨拶をする。学生四人も揃って軽く頭を下げた。


「お互いあまり目立ちたくはないだろう?」


「そうですね。お入り下さい」


 まさに侯王様の仰るとおりなので、先生はすかさず客人たちを邸内へ誘導する。


 侯爵家総出のお忍びという異常事態だ。しかも訪問先はできたばかりの冒険者組の拠点。

 ある時はドレスを着たティア様が徒歩で、昨日は侯爵家の馬車で兄妹、そして今日は一家四人がお忍びで。状況次第で手段を選ぶっていうか、侯爵夫妻が混じっているというのがネックなんだろうな。ティア様だけなら奔放なお嬢様の戯れってことで、ペルマ=タでは知られているようだし。

 そのすべてに同行しているメーラハラさんの心中や如何に。


 直前に俺と草間、中宮さんなんかが総出で周辺の再チェックをして人影が無いのは知っているが、門の前で悠長に会話をしている場合ではない。

 もしも刺客が大量に現れたら、この国の未来が危ないレベルだ。この場にいないクラスメイトたちはエントランスに控えていて、いつでも飛び出せる態勢を取っている。


 それもこれも目の前にいるメーラハラさん以外の四人、いや、フードを被ったティア様の口元が面白くなさそうに歪んでいるので、保護者の三名が悪い。

 抜き打ち家庭訪問とか、本当に勘弁してもらいたいのだ。


 ペルメッダに来た初日には近衛兵、この国では守護騎士をゾロゾロ引き連れ馬車で乗り入れた侯王様だけど、あれはアウローニヤ大使館だったからなあ。

 それに対して今回はメーラハラさんだけというザル警護だ。まあ、侯王様自身が十六階位の【土騎士】というペルメッダ最強の一角なので、今更といえば今更か。


 そんな五人は全員がペルマ=タでよく見かける似たような色の外套を身に纏い、フードを被っているので、とてつもなく目立つ一行とはいえない。配慮をしてくれているのはわかるんだけどなあ。



 脳内でつらつらと考えていれば短い、といっても馬車を停めるくらいはできる前庭を歩き終わり、すでにそこは玄関前だ。


「いらっしゃいませ」


「お待ちしておりました」


 自動ドアのように両開きの扉が動き、エントランスが目に入る。

 扉を開けるのを担当したのは古韮と笹見さん。対人ではあまり物怖じしなくて、口調が取り繕える二人が選抜された。普段はアネゴ口調な笹見さんだけど、温泉宿の娘だけあってこんな口の利き方もできてしまうのだ。


 エントランスで緊急事態に備えていた連中は、侯爵家一行が敷地内に入った時点でダッシュで食堂に向かっているはず。実に慌ただしいことだ。


「外套をお預かりします」


「ああ、頼む」


 凄いな笹見さん。如才が無さ過ぎて別人みたいだ。普通に接客しているじゃないか。


 笹見さんの実態をあまり知らない三人は置いておいて、ティア様がすっごく複雑そうな顔で脱いだ外套を手渡しているぞ。メーラハラさんはいつも通りだけど。


 そんな御一行だけど、ティア様とメーラハラさんは見慣れた顔で、お兄さんのウィル様は昨日会ったばかり。二メートル近い巨体で口髭を生やしているのにやたらとイケメン……、イケオジな侯王様は十日ぶりくらいで二度目の邂逅となる。

 そして初見の女性が一人。


「ジュニフェア・ソウ・フルエ=ペルメッダよ。みなさんへの正式なご挨拶は後程ね」


 俺の視線に気付いたのか、ティア様の母親にしてこの国の王妃様が優しい笑顔をこちらに向けた。ティア様と違ってですわ口調じゃないんだな。それどころかやたらとフレンドリーな感じがする。


 ティア様よりも少し背の低い痩身で四十代半ばの、妙に儚げな雰囲気を持つ人だ。金髪をうしろで纏め上げ、瞳は翡翠色。そう、侯爵家カラーなんだよな。

 雰囲気としてはティア様よりはウィル様に近い。娘は父親に似て、息子は母に似ているパターンか。


 どうしてこの人の髪と瞳が侯爵家の色なのかといえば、名前にヒントがある。

 慌てて食べた昼食中に上杉さんからレクチャーを受けたのだけど、王妃様の実家であるフルエ子爵家はペルメッダ侯爵家の分家筋なんだそうな。

 目の前のご夫妻は又従兄妹くらいの関係らしい。


 元第二王女のベルサリア様がそうだったけど、アウローニヤ文化では夫妻のどちらかが偉い人と結婚した場合、嫁いだ方が二つの家の名を持つケースがある。一代限りではあるらしいけど。


 そんな侯王妃様だけど、こんな見た目で十三階位の【速騎士】だったりする。言うまでもなく俺より強い。儚げな美人さんなのに、ペルメッダはこんな人たちばっかりだな。

 半年も経てばアウローニヤもそうなっているかも。そう考えると、ちょっと楽しい。



「いつまでお母様に見惚れていますの、コウシ。ナギに言いますわよ」


「あらあら」


 王妃様を観察していた俺に、ティア様からの無体な言葉が投げかけられた。可愛らしくコロコロと笑う王妃様に、それこそ見とれてしまったら傷が広がるだけだな。


 すでに古韮や笹見さん、ついでに中宮さんが悪い顔になっているくらいだし。



 ◇◇◇



「殺風景になったものだ。我としてはこちらの方が好みなくらいだがな。以前は絢爛に過ぎた」


「来たことがあるんですか?」


 食堂へ向かう廊下の途中で侯王様が唐突にそんなことを言い出し、委員長が聞き返す。


「アウローニヤ大使の私邸だぞ。何度も夜会に呼ばれたものだ。アレは派手好きだったな」


「……そうだったんですか」


 侯王様の答えに対する委員長の返事は歯切れが悪い。


 だって当の『アレ』とやらの末路が……。会ったこともない元アウローニヤ大使は、実質的に俺たちの敵だからなあ。

 なんかこう凄まじく気まずいんだけど。なんなんだ、この会話。


「旦那様」


「ああいや、すまなかったな」


 すかさず王妃様からツッコミが入り、侯王様はタジタジとなる。


『陛下』じゃなくて『旦那様』っていう言葉を使ったところをみると、いかにもプライベートだと印象付けられるな。もしかして小芝居だったのか?

 だとしたら悪趣味だと思うのだけど、侯王様って迫力ある会話は得意でもこういうのは不得手なんだろうか。

 こんな状況でもウィル様は澄ました顔だけど、ティア様なんかはやたらと複雑そうな表情だ。



「こちらになります」


 笹見さんの開けたドアは、この邸宅にあるメイン食堂の偉い人用のものだ。木製だけどやたらと大きくて、装飾にこだわりが感じられる。俺たちは普段、こっちを全く使っていない。


 侯王様を先頭に、侯爵家一行とメーラハラさんが続き、さらに一年一組出迎えメンバーが入室していく。

 午後の日差しが差し込む大きな食堂の中央には、安物なので売却先が無かったけれど大きさだけは確保されたテーブルが置かれていて、その三辺には等間隔で椅子が整列していた。せめてもの掃除はバッチリだな。普段は敷いていないテーブルクロスも綺麗なものだ。

 それぞれの席のうしろにはクラスメイトたちがお出迎え用の澄ました顔で立っている。


 さあ、ロイヤルな会談の始まりだ。そもそも議題はなんなんだろう。



 次回の投稿は明後日(2025/04/29)を予定しています。

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