第492話 言葉だけの安心だけど
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「あれ? それじゃあ魔族の人たちにとって、やっぱり勇者って悪者じゃない?」
弟系男子の夏樹がふと気付いたように言った。
気になるワードをウィル様から並べられた俺たちだけど、そこからはいくつもの推測ができてしまう。ポジでもネガでもだ。
夏樹が思い付いたのはそのひとつ、一年一組が一番望んでいないパターンだ。
「あ、言い方が悪くてごめんなさい」
「気にしなくていいよ。それより、どうしてそういう結論になるのか教えてもらえるかな」
テンションが上下すると口調がタメになってしまう夏樹が謝り、笑顔のウィル様は微笑んだまま先を促した。このあたりはいかにも寛容そうなウィル様って感じである。妹のティア様も、別の意味でタメ口歓迎派なんだけどな。
「ええっと、北部って単語があるなら、全体もあるはずで、だったらたとえば中央ってまさにアウローニヤのあたりかなって。です」
「なるほど、そういう解釈もできるね」
「昔はそこにも魔族の人たちが住んでいて、北に追い出されたとしたら、勇者のせいかなって」
「だけど君たちは、張本人ではない」
「同じ国の出身……、って保証もないんですけどね」
夏樹が精一杯頑張ってる空気を発しながら、ウィル様との会話を続ける。頑張れ、夏樹。その調子だ。
このストーリーはアウローニヤにあった勇者伝承とそれなりに似ている。ただし、アウローニヤバージョンではアラウド迷宮を発見したのは初代勇者ということにされているので、夏樹が考えているのは、もしも当時から魔族が先住していたとしたら、ってことだ。
この場合、普通に勇者の悪役度が上昇しているんだよなあ。あとから登場して魔族を追い出したんだから。
初代勇者たちは黒髪黒目の集団とされているだけで、日本人で確定しているわけではない。ただし、白々しい名乗りが妙に日本の匂いを感じさせるのも事実なんだけど。
夏樹が言っているのは、要は魔族は日本人全てを恨んでいるかという、国家規模な話なのだ。そんなレベルの話はしたくないのだけど。
「殿下はフィルダール国の版図が広かったとお考えですか」
「可能性のひとつとしてはね」
夏樹に続いて口を開いたのは歴女モードな上杉さんだった。真打登場の貫禄だなあ。
そんな雅な質問に、ウィル様も楽しそうな口調になる。趣味が合うって感じなのかな。
もしも西方共通言語たるフィルド語の源流が魔族の使うフィルダール語にあるとすれば、アウローニヤ王国はもちろん、ここペルメッダ侯国、ウニエラ公国、さらには帝国に滅ぼされた旧ハウハ王国までがエリアとなる。なんなら聖法国アゥサだって第二言語として使っているはずだ。
それだけの国に存在する迷宮の数を合せれば、十を超えることになる。
そんな広大な領域から魔族を追い出した? 初代勇者が?
物語によってまちまちではあるが、勇者の人数は十人から三十人程度。俺たちレベルならムリだろうな。全員が十六階位になったとしてもできる気がしない。いや、現地の『人間』と共同すれば……。
嫌な考えだよな。それでも想定だけはするけれど。
もちろん魔王がアウローニヤの辺りで人間たちを使役していたとか、魔族が攻め込んできて撃退された、なんていうパターンもあるので、全部が全部勇者の蛮行とは言い切れない。
「是非過去の検証をお聞きしたいところですが……。あえて言語を習得しようとする程度には、殿下は現在の魔族の方々とお会いすることが多いのですね」
「実際の交易はさっきの話に出てきたように、北にある村が主になっているんだ。僕は次代だから視察で何度か。ペルマ=タでは機会に恵まれたことは無いけれどね」
「わたくしも行ったことがありますわ」
話題を切り替えた上杉さんの問いかけにウィル様だけでなく、ティア様も乗ってきた。この兄妹、絶対仲良しだよな。
だけどこの質問の意味するとこがちょっとわからない。上杉さんはどういうつもりで……。って、笑みが深くなっている。ポジティブ要素があったってことか。
「そこいらの貴族たちよりは、余程楽しい連中でしたわね」
そこで連中とかいう表現を使ってしまうのがティア様なんだけど、それはさておき、このお方は魔族をかっているようだ。
なるほど、上杉さんはペルメッダ兄妹の雰囲気を拾ったのか。過去と現在という単語を材料にして。
あるかどうかもわからない過去の怨恨よりも、今の魔族はどういう存在なのか、上杉さんはそっちを重視したってことだ。
どうしても魔族と勇者の関係っていうテンプレに引っ張られる俺では、そこまで開き直れない。
「君の聞きたいことはこうだよね。僕としては、彼らがペルメッダやペルマ冒険者組合との関係を悪くするような行為をするとは思えない。それくらい友好的なんだ」
「同感ですわね。過去の勇者と今の勇者が別の存在であるくらいの分別は持っていると見ますわ」
「つまり彼ら魔族が問答無用で君たちを害することは無いと、僕とリンは考えている」
「わたくしなど、最初から想定もしていませんでしたわ」
上杉さんの意を汲んだウィル様とティア様は、俺たちが欲しがっていた言葉をテンポ良く連打してくれた。その言葉が聞きたかったっていう、まさにそれを。
ああ、談話室の空気が一気に軽くなったのが目に見えるようだ。
綿原さんの浮かべるサメも心なし元気になったようで、ウィル様が興味深そうにソレを目で追っている。
「そもそも君たちに危害を加える可能性がある事象を、リンが警告もせずに見過ごすと思っているのかい?」
「そうですわよ。わたくしがあなた方になにも言わない時点で気付くべきですわ。そこが面白くありませんの!」
ウィル様の煽りでティア様が妙な方向でお怒りになっているけれど、場の雰囲気は明るい。むしろティア様への好感度が上がっているくらいだ。
なるほど、ティア様が警告を発していない段階で、か。
初対面の頃ならまだしも、ここ十日の付き合いでティア様の人となりは見えている。気付いてあげられなかったことがちょっと申し訳ないくらいだ。
アウローニヤ時代も後半で女王様やアヴェステラさんたちがそういう判断基準ポジにいたなあ。この人が大丈夫だと踏んだなら、それは信用できるだろうってパターンで。
「とはいえ、僕やリンの目が絶対とは言い切れない。申し訳ないけれど、何かあった時の責任は取り切れないね。もちろんこの国の法で裁くことになるけれど」
「わたくしの見識は信じて間違いありませんわ」
さっきまで息が合っていたウィル様とティア様のやり取りが、続くセリフで逆転した。
だからといって二人の表情は変わらない。お兄さんは優しく微笑み、妹さんは不敵な笑みのままだ。
「ありがとうございます。とりあえず気が楽になりました」
「それならよかったよ。訪問させてもらった甲斐があった」
これまでずっと黙って説明を聞いていた滝沢先生が礼をすれば、ウィル様は爽やかに返してみせる。イケメンムーブだよなあ。
間違いなく先生の方が年上なのだけど、こういう口調になっているのは、ウィル様が自分の立場をわかっているからなんだろう。先生は誰に対しても敬語がデフォだしな。
「ティア様も──」
「リン」
「……ティアも、ありがとう」
「どういたしまして、ですわ」
これまた口を閉ざしていた中宮さんは、お兄さんの前でのタメ口をためらったのだけど、ティア様にすかさず怒られている。
こういう展開になるのが予想できるのに、それでも礼をしようとするのが中宮さんの律義さだよな。
ウィル様が二人の事情を知っているのかどうか、表情からはわからないけれど、とりたてて口を挟むつもりはなさそうだ。むしろ微笑ましいものを見る目ってヤツである。
ウィル様とティア様の言葉が絶対の保証となるわけではないのは、みんなだって重々承知だろう。
だからといって文章で『勇者に手出しはしません』なんていう書類があったとして、それにだって意味は薄い。襲われるときは襲われるのだから。
ウィル様はともかく、一年一組的にはティア様が俺たちを気遣ってくれていて、そしてこの場で堂々と言い放ってくれたことが嬉しいのだ。
◇◇◇
「魔王国としては冒険者をペルマ迷宮に送り込むつもりはないようなんだよ。とはいえ魔王国でも冒険者は国籍を持たず、自由な存在らしい。この先も永遠にという保証があるわけではないから、どうなるかは今後次第だね」
結論を言い終えたウィル様は、すっかり質疑応答アンド暴露モードで俺たちと会話をしてくれている。
時刻はすでに二十一時に近いけれど、一年一組としてもせっかくの情報収集の機会だ。貴顕なお二人のスケジュールが許してくれているのなら、疑問はできるだけ解消しておきたい。外で待ってくれている御者さんと、ずっと立ちっぱなしのメーラハラさんにはごめんなさいだな。
「あの、内市街で見かけないっていうのは」
今度はメモ帳を片手にした文系オタな野来の質問だ。
ちなみに書記担当の白石さんだけでなく、副官でロリっ娘な奉谷さんや、サメを頭の上で漂わせている迷宮委員の綿原さんなんかもメモを取っている有様で、こういうところは本当に真面目だと思う。
「ペルマ=タ内の通行も魔族については平民と同じ扱いで自由とされている。もちろんペルメッダの法に従う約定だけどね。内市街まで彼らが入らないのは、自発的にだそうだよ」
「それはどうしてですか?」
「アウローニヤ人に出くわさないように、らしいね。とくに内市街では大使館関係者もいるから」
「うわぁ」
笑顔で説明してくれるウィル様だけど、言っていることは辛辣だ。
今はスメスタさんが暫定トップなアウローニヤ大使館だけど、ついこの前までは悪徳代官ならぬ、銭ゲバ大使が居座っていた影響か。勝手なイメージだけど魔族を蔑んでいたに決まっている。
こういったところからも、魔族が人間たちとのトラブルを避けている様子が伝わってくるなあ。なるほど、勇者暗殺を企むようには思えないというのも頷ける話だ。
「ペルメッダも魔族に頭を下げてまでアウローニヤの顔を立てていたんだよ。魔王国が大使館を作ればアウローニヤと同格扱いになってしまうからね。なのに魔王国側がそれを気に掛けていないようなので、こちらとしても情けない限りさ」
次々と毒をブッコンでくるウィル様は良い性格をしている。
魔王国大使館が無いというのはスメスタさんから聞いていたが、そんな経緯があったとは。
「銅を筆頭に我が国はアウローニヤとの取引量が一番大きいからね。仕方がなく、というわけだよ」
そしてちゃんとした理由まで教えてくれる。なんだか元アウローニヤ人として、申し訳なくなる感じだ。
どうやらペルメッダの貿易量はアウローニヤが飛び抜けていて、帝国が続き、魔王国とは目立たない程度って感じらしい。
ちなみにペルマ=タには帝国ジアルト=ソーンの大使館もあるが、区画はアウローニヤ大使館と離れた場所にあって、俺たちはそこにだけは近づかない様に気を付けている。ここまでの話を聞いていたら魔族と出会ってしまう方が余程マシなくらいだ。
さらにだけど、ペルメッダが魔王国と交易をしていることを知った聖法国アゥサは、なんとこの国を国家として認めていない。お陰でペルメッダでは教会勢力がアウローニヤよりもさらに弱いらしいのだ。だからこそ気軽に髪を黒く染めるなんていう流行もあるわけで、こちらは俺たちにとって喜ばしい話だな。
そこからもクラスメイトたちからの質問は続き、ウィル様はそのすべてに答えてくれた。時々ティア様が茶々を入れる会話がちょっと楽しくなるくらいに。
南北が少し長い楕円形をしたペルマ盆地がペルメッダの領土となるが、首都であるペルマ=タは南西に位置している。対する魔王国は北側になるので、主な取引はそちら側にある村が舞台となっているらしい。これは一度聞いた話だな。
その辺りはペルメッダでも最大規模な小麦生産をやっているらしく、一部は魔王国への輸出専用になっているのだとか。さすがは百年の歴史である。
魔王国が求めているのは小麦がほとんどで、あちらからは海産物と迷宮素材がメイン。やっぱり山を越えた北側は海があるようだ。
残念ながらウィル様の口からは味噌と醤油という単語は出てこなかったけれど、海とは関係ないもんなあ。
取引の内容は物々交換がほとんどだとか。だからといって魔王国に通貨がないわけではない。ただ、ペルメッダでは流通していないだけだ。
交易に関わる魔族たちも身なりがみすぼらしいとかそういうこともなくって、魔王国はそれなりに独自の文化を持っているらしい。
とりとめのない質問にもウィル様は軽々と答えてくれていく。本当に魔族オタって感じだ。
「北の交易所ではなく、遠くペルマ=タまでやってきている魔族なんだけどね、あちらの言い分では若者に人間の街を経験させるためらしいんだ」
「修学旅行みたい」
「『修学旅行』というのはなんでしょう。わたくし、気になりますわ! 説明なさいな、ナツキ」
なんていうネタみたいな話も出てくるのがなあ。
◇◇◇
「あの、物々交換は仕方ないとして、あちらは山を越えて荷物を運んでいるっすよね。しかも往復で。大変そうっす」
「やはりそこは気になるだろうね」
「はい……、あれ? マズかったっすか?」
そんな質問をしたのは、この手の会話では聞き手になることの多い、チャラ男な藤永だった。聞いておいてキョドっているのがアイツらしい。
そりゃまあ、ウィル様の返事に含むところがあったからな。
「そんなことはないよ。ならば僕の見たことをそのまま教えよう」
ウィル様の表情が少しだけ真面目な方向に傾いたことで、一部の聡い連中の目つきが変わる。
ああ、何気ない疑問だけど、そういうことか。これであの話題に繋がるんだ。
だけども張本人の藤永がわかっていなさそうなところがなあ。
現状で俺たちが知る限り、地上で瞬間最大出力を誇る動力源は『人間』だ。
アウローニヤの王城の至る場所にあった水車には持続力という意味で負けるけれど、人間ほどの使い勝手の良さには敵わない。
神授職や階位を持たない牛や馬など比較にもならない。仮にあったとして、草食動物の階位をどうやって上げろというのか。それでも魔力のせいか、日本で見た馬よりはパワーはありそうだけど。
まさに今日、ペルメッダ兄妹が馬車で登場したのだけど、アレは貴族としてのステータスとしてだ。ゲーム的なステータスではなく、体裁って意味で。
こういう前提を踏まえて、山脈を越えて荷を運ぶとなれば──。
「僕の見立てでは十三階位相当の前衛職、だったよ。もしくはそれ以上だ」
ウィル様の言葉に談話室が沈黙した。
今日の迷宮で丸太を担いでいたからこそ、ウィル様の言う光景が生々と想像できてしまう。
外魔力に優れ、【身体強化】を筆頭とする強化系技能を持つ人間は、地球ではちょっと考えられないような力を発揮する。まさに荷運びなどでは歴然と。
なにしろ地上を移動するにあたって、悪路を想定したからとはいえ人力荷車でペルメッダにやってきた俺たちは、骨身に染みて理解できているのだ。
「まるで迷宮を征く冒険者たちのようだった。低い階位の者たちでは絶対に担げないだろう大荷物を背負っての山登りを見送ったんだよ」
そこに嘘や誇張はないんだろう。大真面目な表情でウィル様は言い切った。
聖法国との戦争が成立していて、そしてペルメッダでの荷物運び。魔族が何かしらの超常パワーを持っているのは確定したといってもいいだろう。
「わたしたちとそれほど背丈の変わらない犬耳さんとか猫耳さんですよね。体格は?」
「ええ、ご想像の通りですわ。それこそアオイと同じくらいの背格好の者まで、平然と大袋を担いでいましたわね」
白石さんからの問いかけに、ティア様が高らかと答えてくれた。
クラス内でも低身長である……、たしか百五十五か六くらいの白石さんと同じくらいの魔族か。貴族令嬢らしくもない身振り手振りで袋の大きさを表現しているティア様と比較をしてみれば、それはもう地球ではあり得ない光景が目に浮かぶ。
もはや神授職云々とか言っている場合ではないだろう。
魔族たちは超常の力を持っている。それが人間の階位と同等のものなのかはどうでもいい。現実として受け入れるしかないのだ。
「彼らに対して【神授認識】を使ったことはない。理由は言わずともわかってもらえるね?」
再び静かになってしまった俺たちに、ウィル様が声を掛ける。
言いたいことはわかるんだ。彼らが魔族と呼ばれるようになった理由が神授職の有無である以上、友好関係を結びたいならば、ソレを暴く【神授認識】なんて無礼の極みだろう。
「【魔力視】や【魔力察知】を使ったことはあるんですか?」
「ある。そして『魔力』が見えたそうだ。ただし僕たちの知る【魔力視】が『超たる力』と『魔なる力』を区別できている保証はない。『魔なる力』を見たことがないのだから」
委員長の質問に対しウィル様は『超なる力』という意味で魔力と言った。同時に区別もできないと。
【神授認識】は相手に触れて同意を得なければ行使できないが、魔力を見る【魔力視】や【魔力察知】は別系統だ。シシルノさんお得意の【魔力視】はレア技能だけど、国単位ともなれば複数名は存在している。
もちろん俺の【魔力観察】については、この場でティア様たちに流す情報ではない。今のところはナイショだ。
だから何人か、具体的には酒季姉弟と藤永、それとミア、俺を見るな。ペルメッダの人たちにこちらが隠しカードを持っているのがバレるだろうが。
「前言を翻すようで申し訳ないけれど、ペルメッダは国として魔族に備えなければいけない。たとえ百年に渡る友好があったとしてもだ」
「それは、理解できます」
さらに剣呑な話題を語り始めたにも関わらず、ウィル様の表情は優しげだ。こちらを諭すような物言いを受けて、委員長もしっかりと頷く。
『隣国すべてが仮想敵というのは防衛の基本だ』
なんて言っていたのはミリオタの馬那だった。
アイツの説明によれば、現代の地球ですら条約とか国際的評価なんてお構いなしで戦争は起きるのだし、当然それに備えておく必要がある。平和というのは祈ることも大切だけど、抑止としての準備も大切なんだとか。
ましてや俺たちが今いるこの世界では、すぐ近くの地続きな場所で戦争が行われている。
日本人的感覚では戦争なんてディスプレイの向こう側な出来事だとしても、ここではどこでも起きる可能性を考えておかないとなんだよなあ。
まさにアウローニヤが戦争一歩手前なのだし。
「君たちは理解が早くて助かるよ。リンの言っていたとおりだ」
魔族の性能を探るというのは必要なことだと俺たちが理解していると知り、ウィル様は感心した様子だ。横ではティア様が邪悪な笑みでふんぞり返っている。
「さて、ペルメッダとしては君たちの滞在を魔王国側に通達してはいない。する理由がないからね」
ウィル様の言葉はもっともだ。
俺たちはペルメッダの国民ではないし、冒険者だ。そして勇者でもない。法的に勇者から解き放たれた、無国籍の平民なのだから。一人だけ名誉男爵がいるけど、なんて考えたら仲間外れみたいで先生が可哀想か。
魔族がこの国で悪さをすれば、当然ペルメッダは彼らを犯罪者として対応はするが、だからといって俺たちが特別扱いされるわけではないのだ。
それどころか次期侯王様がこうして出向いてまで説明してくれているだけでも、超特別待遇とすらいえる。
「むしろ助かります。いろいろと教えてくれてありがとうございました」
「君たちには妹が良くしてもらっているからね」
委員長のセリフに合わせて、一年一組のみんなが頭を下げる。それを見て優しく笑うイケメンお兄さんは、言動までがイケていた。
「では情報料についてかな」
「え?」
良い話っぽく会談が終わりそうな雰囲気になった傍から、ウィル様が妙なことを言い出した。
小さく驚きの声を上げたティア様は怪訝な視線を兄に送っている。そんな話は聞いていないってところか。
「僕の名前も勇者の文字で書いてもらえないかな。リンが見せびらかすものだから、羨ましくてね」
あんまりなウィル様のご要望に、クラスメイトたちは驚き顔の中宮さんとチャラく笑う疋さんへと視線を二分させた。
次回の投稿は明後日(2025/04/25)を予定しています。