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第474話 レベリングを続けたい

 表記についてですが、カッコ付きで『一年一組』の場合、冒険者クランとしての固有名詞となります。

 山士幌高校としての一年一組と混在することになりますが、ご理解いただけますと幸いです。



「アイツらか」


「ああ。『白組』の連中が現場で会ったらしい」


「『雪山組』も何やってんだか」


「三層で人助けだぞ。大したもんじゃねぇか」


 アウローニヤからの手紙を受け取った翌日、冒険者組合事務所を訪れた俺たちは、昨日と同じように冒険者たちの囁き声を聞くハメになった。


「昨日とはちょっと違うわね。湿度、かしら」


「湿度って、どういう表現さ」


「なんとなく?」


 こちらも小さな声での会話になったけれど、綿原(わたはら)さんの言いたいことはなんとなくわかる。湿度という表現がアレだけど。


 昨日は探るような声が多かったような気がする冒険者たちだけど、対して今日はそこに小さな称賛が混じって、綿原さんの言葉を借りればカラっとした感じなんだ。



「冒険者は噂話が大好きですからね。おはようございます」


 窓口に出向くまでもなく、『一年一組』専属担当のマクターナさんはすでに俺たちの横にいた。


 見えていたぞ。結構離れた扉から出てきたのに、ここに来るまで約三秒。しかも走ったのではなく、歩いていた。十五階位の性能を無駄遣いしているよなあ。

 ウチの陸上少女な(はる)さんとは別系統の謎技術だ。俺と同じく接近に気付いていた滝沢(たきざわ)先生を筆頭とした面々が、感心やら驚きの表情になっている。


「おはようございます!」


 そのせいもあって、俺たちの返事は一拍遅れたのがちょっとダサい。

 イタズラに成功したかのように笑顔なマクターナさんだけど、そういう部分もあるんだな。打ち解けてきたからだと前向きに捉えよう。


「いつもの会議室を取ってあります。お話はそこで」


「あ、ちょっと待ってもらっていいですか」


「どうされました?」


 最早定番となった二階の第七会議室に俺たちを(いざな)おうとするマクターナさんに、文系男子の野来(のき)が待ったをかけた。


「アレ、書き留めておいてもいいですか?」


 野来が指差したのは壁に掲示された巨大な迷宮地図だ。


 現在時刻は約束の五刻、十時のちょっと手前。朝イチのラッシュが終わっている、いつも通りの時間帯となる。どの組が迷宮のどこを予約したか、それをメモっておきたいと野来は言い出したのだ。

 野来以外で担当するのは書記な白石(しらいし)さんとクラスの副官たる奉谷(ほうたに)さん。事前に用意しておいた迷宮の地図を引っ張り出して、準備はすでに万端だ。


「ええ、もちろんです」


 昨日説明されたことを『一年一組』がちゃんとやろうとしている姿に、専属担当のマクターナは良い笑顔である。



 なにも俺たちはお利口さんぶりたくってこうしているわけではない。

 藍城(あいしろ)委員長や副委員長の中宮(なかみや)さん、聖女な上杉(うえすぎ)さんの影響なのか、一年一組の面々は総じて真面目だ。怠けたがりや悪ふざけに走る連中もいるにはいるけれど、最終的にはやるべきことをシッカリこなす。これぞ十年をかけて培われた人間関係なんだろう。

 新参の俺はといえば、元々性根は真面目で正義サイドだ。だよな?


 そこに加えて、ここは異世界。真面目にやっていかないと、痛い目にあうのは自分たちになる。だから調べごとはシッカリやるし、毎日の訓練も欠かさない。

 ついでに年長者への態度も大切にしているつもりだ。アウローニヤで思い知ったように、味方は多ければ多いほど良いに決まってるし、尊敬できる相手ならばなおさらとなる。だから俺たちは目上に対しての礼儀を忘れない。敬語が苦手なヤツもいるけれど、そこは心でカバーだ。


 俺たちは王様や貴族に即タメ口を叩ける系の主人公などではない。

 超絶チートを持っていたら、帰還のためにもっと無茶をやらかしていたかもしれないし、他者との関わり方だって違っていた可能性もある。


 けれども無いものは無いし、だったらどうするかってことだ。

 真面目ちゃんを気取る鼻持ちならない連中と映るかもしれないけれど、無頼漢を気取るのは性根からしてできないんだよな。


「できたよ!」


「終わりました」


 俺が思考を巡らせているあいだにも鉛筆モドキを走らせていた奉谷さんと白石さんが、作業の終了を告げてくる。


「僕も」


「あとで突き合わせて確認だね」


 少し遅れて野来もメモを終え、笑顔の白石さんと実務的なコトを言い出した。砂糖が足りていないぞ。


 ウチのクラスのペアは大人しい深山(みやま)さんとチャラ男の藤永(ふじなが)もだけど、甘い言葉を交わす時間よりもこういう会話の方が多いんだよな。

 迷宮委員の俺と綿原さんについては……。そういうのは、うん、日本に戻って正式に付き合ってからだ。告白したら、受けてくれるかなあ。



 ◇◇◇



「遅いですわよ!」


 組合事務所の二階にある第七会議室では、メーラハラさんを引き連れたティア様がドレス姿で待ち受けていた。

 マクターナさんめ、知ってて黙ってたな。


「ティア……、約束の時間には間に合ったんだから──」


「わたくしの登場に遅れたのが問題なのですわ」


 中宮さんが宥めにかかるが、ティア様は見事に悪役令嬢をする。さて、俺たちはどれくらい早く着いていれば怒られずに済んだのだろう。


「ふふっ、黄石公(こうせきこう)ですね」


 なんか上杉さんが楽しそうだけど、俺には意味が分からない。たぶん歴史系のネタなんだろうなあ。



「まあいいですわ。次回から気を付けるようにしてくださいまし」


「はーい!」


 一分くらい荒ぶっていたティア様からのお許しを得た俺たちは、元気に返事をする。こういうやり取りは慣れたものなので、すでに一年一組側は誰も気後れをしていない。


 そんな俺たちの態度に、いつもと違うモキュっとした小さな笑みを浮かべたティア様がいるわけで、そういうところがポイントなんだよ。

 さっきの回想を翻すようだけど、あんまり堅苦しくしすぎたら、ティア様は絶対拗ねると思うのだ。要は相手との距離感ってことだな。



「それでは、まずはわたしから。みなさん、昨日はお疲れさまでした」


 着席した俺たちに、マクターナさんが笑顔で語り掛けてくる。


「そして、ありがとうございました。みなさんが冒険者として決断してくださったことを嬉しく思います。わたしからみなさんに申し入れた指名依頼は完遂されました。必要以上なくらいです」


 冒険者として、か。実にいい響きだ。自覚があるのかはわからないけど、マクターナさんは俺たちを持ち上げるのが上手い。

 勇者とされる俺たちの迷宮行を見届けたいというマクターナさんの依頼は、転落事故というトラブルをひっくるめて高評価をいただけたようだ。


「とくに階位上げの手法と、それを成し遂げる技術には感心させられました」


「……ありがとうございます」


 そんな言葉と共にマクターナさんから視線を送られたので、仕方なくお礼をする。


 レベリングの部分を評価される可能性は高かったけれど、やっぱり注目されたか。

 アウローニヤの女王様がいきなり十一階位になったのは公表されているし、マクターナさんも把握しているだろう。ならば女王様のレベリングをしたのは何者かということになるのだけれど、当然俺たちが疑われる。

 魔獣の群れが発生したことでアウローニヤが階位上げのコツを掴んだのか、それとも俺たちが特異なのか。たぶんだけどマクターナさんは俺たちの仕業だと思っているだろう。


 正解は『両方』なんだけどな。

 一年一組だって自分たちの階位も含めて、どれだけ常識外れなレベリングをしてきたのかは自覚している。そんな俺たちはノウハウを残してきた。それこそが『緑風』であり、勇者がいなくなったとしても、アウローニヤの成長は止まらない。

 群れありきというのが引っかかるけれど、しばらくは安泰……、魔力の異常は続くだろう。


 それでもティア様の九階位は楽勝、なんていうムーブをしていた俺としては、いくらトラブルがあったとはいえ言い過ぎたって反省もしているんだけどな。

 そう、ティア様のレベリングは完遂したとは言い切れないんだ。昨日の時点では口約束レベルで納得してくれてたけれど……。


 さて、気になるもうひとつの依頼はどうなるか──。



「侯息女殿下には申し訳なく思っています」


「構いませんわ。むしろわたくし、仲間を助けるために行動する冒険者たちを見ることができたことを、喜ばしく思っていますの」


 レベリング依頼が冒険者のトラブルで中断されたのだ、組合職員のマクターナさんが謝罪するのは間違っていない。


 鷹揚に許してしまうティア様に嘘はないんだろう。

 冒険者寄りな人だよな、ティア様って。伊達に冒険者天国なんていわれているペルメッダの娘をやっているわけじゃない。


「わたくしとしては、緊急時の対応を見学させていただいたということで、指名依頼は達成されたと思っていますわ。八階位になれたのは事実でもありますし」


「そう言っていただけると」


 扇を取り出し悪い笑顔を浮かべたティア様が任務達成を宣言してくれたお陰で、皆が安堵する。

 これにはマクターナさんも素直に頭を下げた。もちろん俺たちもそれに続く。


 昨日のティア様の様子を見ていればゴネるとは思っていなかったけれど、記録の残るだろうこの場でハッキリと断言してくれたのにはホッとするしかない。


「それよりも次回ですわ。前回と同じだけの依頼料は支払いますし、当然受けてくださいますわよね?」


「ごめんなさい。一度間を置かせてもらいたいって、わたしたちは考えてます」


 当然出てくるだろうと予想していたティア様の要求を突っぱねたのは、小さな白いサメを浮かばせた綿原さんだった。



 ◇◇◇



「どうしてですの?」


 さすがはティア様。ここで駄々をこねるでもなく、喚きもせずに、まずは理由から聞いてくる。目つきは滅茶苦茶厳しいけどな。

 それでもちゃんと筋を通してくるあたりがこのお方のいいところだ。お遊びのように集合時間でゴダゴダしたのとはワケが違う。


「四層に挑戦しようと思っているんです」


「同行するにはわたくしが足手まといだとでも?」


「そもそもティア様は『一年一組』じゃありません」


「わかっていますわよ!」


 前言撤回。仲間外れにされたとばかりに、ティア様は大層不機嫌となってしまった。

 綿原さんも言い方が悪い。


 次回の迷宮にティア様は連れていかない。これは一年一組が多数決で決めたことだ。仮に前回の迷宮でティア様が九階位を達成していても、こうするつもりだった。

 もちろん依頼について受ける受けないの判断はこちら側にある。ぐぬぬと歯ぎしりしているティア様には申し訳ないけれど、こればっかりはなあ。


 一年一組はティア様を好意的に捉えているけれど、だからといってベッタリというのは違うんだ。ティア様に疎外感を感じさせるのは心が痛むけれども、今回ばかりは仕方がない。


 アウローニヤで『緑山』が結成された時に、俺たちはガラリエさんたちを従士として仲間に迎えたが、アレはそれが最善だったからだ。アウローニヤ側の政治的事情と俺たちの都合がマッチしていたので。ついでに勇者担当者たちとはあの時点で付き合いも深かったし、迷宮で死線を乗り越えた同志でもあった。


 要は、今後も続くだろうティア様との付き合い次第ってことだ。もちろん俺たちとしては仲良くなりたいと思ってはいる。

 だからこそここで一旦線引きをしておいた方がいい。


 もしかしてだけど迷宮委員だからというだけでなく、綿原さんは複雑そうな表情で様子見をしている中宮さんの代わりに悪者をやっているんじゃないだろうか。

 さっきから中宮さん、口を挟みかけては我慢しているもんな。



「八階位のティア様を四層にお連れしたらどうなると思います? わたしたちがそこにいる魔獣に対応できるという前提で、です」


「……わたくしが四層の魔獣を倒せたとすれば、即九階位。十階位すら手間ではありませんわね」


 おかんむりなティア様を宥めず、むしろ理詰めで綿原さんは切り込んでいく。


 現在八階位のティア様は、三層の魔獣を倒し続ければ遠からず九階位となる。それが一般的なレベリングだ。

 そんな彼女が四層の魔獣を倒したとすればどうなるか。たぶん数体で九階位、十体くらいで十階位となるだろう。


 これぞ一年一組お得意の適正階層越えレベリングだ。

 RPGなら一歩踏み込んだフィールドで効率的に経験値を稼ぐなんていうのは常套手段だが、命を懸けるとなれば慎重にコトを進める必要がある。役立つチートを持つ俺たちだけど、万全の下準備があってこそやることのできる手法だ。


 アラウド迷宮に潜っていた頃、新しい階層に挑戦する際には必ず高階位の同行者がいてくれた。

 けれどもペルマ迷宮では──。


「わたしたちはまだ、ペルマ迷宮の四層に挑んだことがありません。余裕をもって戦えるなんてあり得ないのは、わかってもらえますよね?」


「ですわね……」


「準備が必要で、だから現地を見て、戦ってきます。ついでにわたしたちの階位も上げてくれば、ティア様の階位上げも楽になりますから」


 一年一組の十一階位は十二人。十名が十階位で残されている。

 前衛系の誰かが十二階位になるのは大歓迎だけど、まずは全員を十一階位にしてしまいたい。幸いアラウド迷宮の最終回で、俺と上杉さんみたいな柔らか系だけでなく、田村(たむら)笹見(ささみ)さん、藤永(ふじなが)、綿原さんなんていう後衛系メンバーも十一階位を達成できている。

 ここに追加して十一階位を増やすことができたなら、俺たちは自由に四層を闊歩できる集団となれるはずだ。


「……ナギの言うことは道理ですわ」


 深く長い溜息を吐いたティア様は、絞り出すように綿原さんの言葉を肯定した。


「わたくしを言いくるめた以上、成果が無かったでは許しませんわよ!」


「それは大丈夫です。わたしたちは『一年一組』ですから」


「よろしくてよ。口惜しくはありますが、あなた方の活躍を地上で想像するといたしますわ」


 綿原さんの表現はティア様のツボなんだろう。方や邪悪に、もう片方はモチャっと笑い合う光景は……、和むべきなんだろうか、これ。



「それと、言い出しにくいんですけど」


 いい感じにまとまりかけていたところだけど、表情をマジに切り替えた綿原さんが申し訳なさそうに会話を続ける。


「なんですの?」


「ティア様、わたしたちの目標は、あくまで故郷への帰還です」


「わかっていますわ……」


「ごめんなさい」


 ここで綿原さんは太い釘を刺した。


 一年一組の目標は山士幌へ帰ることだ。

 何度も繰り返し自分に言い聞かせていることだけど、俺たちが迷宮に潜るのは帰還の鍵を探すのと、それを実現できる力を身に付ける、あくまで手段でしかない。

 前回の迷宮でティア様のレベリング依頼を受けたのは、俺たち『一年一組』が三層で戦えるところをマクターナさんに見てもらうついでだった。


 そんなことはティア様だってわかっている。

 ただ目の前で複雑そうなお顔をしている侯息女様は、アウローニヤの元第一王子との婚約破棄を果たし、さらには滝沢先生という拳の師匠を得ることで、ハイテンションになっているように見受けられるんだ。


 ならば一番わかりやすい行動は、彼女の性格的にも迷宮でのレベルアップ。数字で強さが測れるのだから、目安としてはもってこいだからな。

 王子に合わせるために七でストップしていた階位が二年ぶりに上がったのだ。そりゃあ嬉しいだろうし、ならばもっとというノリにもなる。


 そう、気持ちはわかるんだ。



「ならばわたくしが『一年一組』の戦力となればよろしいのですわ!」


 静かになってしまった会議室だったけど、やおら立ち上がったティア様が気合の入ったセリフで空気が変わる。

 ちょっと意味が分からないんだけど。


「え、あの、ティア様。だから『一年一組』は」


「今のところ、組に入れろとは言いませんわ」


「今のところって……」


「わたくしの階位上げとあなたたちの戦力向上を両立させるだけのことですわ!」


 滅茶苦茶な理屈で押してくるティア様に綿原さんがたじろぐ。攻守逆転って感じだ。


 ティア様の言いたいことは半分だけわかる。もしも彼女が十階位になれば、俺たちが十一階位を揃えたとしても立派な戦力だ。四層でも足手まといとはならないだろう。付け加えれば十階位で騎士職なメーラハラさんが、もれなく手に入るってところもか。


 なによりティア様は、俺たちのメイン目標が稼ぎではなく戦力向上であるというコトをしっかり理解してくれている。そこがちょっと嬉しい。


 今のところ『一年一組』に入るつもりはないって部分は聞かなかったことにしよう。

 なんで侯息女様が冒険者にならなきゃならないのか。国籍を抜くとか、いくらなんでもだからな。



「あの、マクターナさん?」


 窮地に陥った綿原さんはマクターナさんに縋るようだ。


「組合としては推奨できかねます」


「ですよね?」


 ネガティブだと言っているのに笑顔なマクターナさんを見た綿原さんが首を傾げる。

 どういう風に捉えるべきか困っているんだろう。クラスメイトたちも要領を得ていない様子だが、なぜかティア様は悪く笑ったままだ。


 マクターナさんがお勧めしないというのは理解できる。

 冒険者が迷宮で活動する際、他者、たとえば兵士なんかの助力を得るのは基本的にタブーだ。昨日の事故の様な場合は話は変わるが、冒険者以外の助けを借りて魔獣を狩ったとして、そこから得られる儲けや栄誉はどうなるのかって話だな。

 冒険者組合は迷宮での稼ぎを極力冒険者で独占するために存在している。だからこそ自力でなければならないのだ。なので冒険者同士の協力ならばオーケーという理屈となるけれど、取り分で揉めることも多いので、そういうケースは少ないのだとか。



 それはさておき、ティア様が力を求めるならば冒険者に頼むのではなく、ペルメッダの軍に同行すればいい。弱小貴族などではなく侯息女という立場ならばそうすることができて、そちらが本来なのだから。


 今のティア様は俺たちが勇者だというのもあるのだろうけれど、むしろ情で動いている。こちらもそんなティア様の感情を浴びせられたからこそ、応えているのだ。

 けれどもティア様が実戦力としてカウントできるようになったら、同行するのは冒険者の道理に反する。


 なら、なんでマクターナさんは笑っているんだろう。


「ですが、『一年一組』のみなさんが侯息女殿下より強くあり続ければ、見過ごすこともできますね」


「うわぁ」


 強引な解釈を持ち出してきたマクターナさんのセリフに、クラス内から呆れた声が上がる。

 そりゃまあ、理屈ではそうなるかもしれないけれど。


「おほほほほっ。ナギたちの階位がわたくしより上であればいいだけのことですわ。もしかすれば、わたくしが一撃を入れたあとの魔獣を倒すことになるかもしれませんわね!」


「それじゃあダメじゃない……」


 レベリングの対象が逆になる、組合的には逸脱したティア様の発言を食らった綿原さんは、口調が素に戻っている。


 そんな光景を笑顔で見守るマクターナさんだけど、組合の書記官としてはどうなんだろう。

 器用にもテーブルに突っ伏すサメが、力なく尾びれを振っていた。



 次回の投稿は明後日(2025/03/17)を予定しています。

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