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第446話 数字の怖さ

 今話における金銭にまつわる数字は大雑把です。一年一組の常識感覚とこの世界の違いを演出する意図が主軸であり、細かい内容については雰囲気程度で捉えていただけると助かります(クリーニング代など)。



「ふぅ、やっぱり風呂ですよね。この世界がこういう文化で助かります。アウローニヤとペルメッダだけなのかな」


「この世界、なあ」


 俺の口から普通に出てしまった言葉に、同じ湯船に浸かる『黒剣隊』隊長のフィスカーさんが訝しげな顔になる。


 たまに言ってしまうんだよな。アウローニヤの王城にいた頃はひと月くらいであそこの常識に慣れたけど、ペルメッダにやってきてからはまだ五日だし、新しい体験ばかりなのだ。

 今日だってこうして冒険者組合を訪ね、冒険者たちと行動を共にすることで、新発見の連続だし。


「どうなんだろうな。迷宮があれば水もある。余程の僻地でもない限り、どこの国でも似たようなもんじゃないか?」


「やっぱり迷宮ありき、なんですね」


「当たり前だろ」


 フィスカーさんの言っていることは、まさにこの世界の常識なんだろう。


 藍城(あいしろ)委員長や上杉(うえすぎ)さんが言っていたように、迷宮があるからそこを起点に文化が発展していく。人が集まり、増え、畑や街が広がっていくのだ。

 基本が迷宮であるが故に、そこから得られる素材を軸とした文明が発展していく。そこには水すら含まれる、ということなんだろう。


「俺にはよくわからんが、今は風呂を楽しめ。迷宮で戦って、風呂に入って、金を受け取り、飯を食う。それが──」


「冒険者ですね!」


 俺たちは全員が揃って無事に帰還するためにアウローニヤを離れ、緊急避難的にペルメッダで冒険者になろうとしている。

 個人的に冒険者の在り方に憧れを感じないかといえば嘘になるが、あくまで手段としてだ。


 それでも『黒剣隊』の戦いを見てしまうと、冒険者というものに高揚を覚えるのは仕方ないよなあ。異世界モノが大好きな高一なら。

 だけど、実体験は一度で十分だ。



 ◇◇◇



「『磨き屋』ねぇ、便利だけど一回一人四百ペルマってどうなんだろう」


「どれくらい稼げるかじゃないかな。ほら、磨いてくれてたのって、この街のお年寄りなんでしょ?」


「ああ、そういう」


「……儲かるようならなるべく使ってあげた方がいいかもしれないわね」


「そうですね」


 男子組から遅れること数分、女子たちがピカピカになった革鎧を着て合流した。


 彼女たちの言う『磨き屋』とは、迷宮から戻った冒険者の鎧やマントを磨き上げるサービスだ。

 クリーニングとは違って洗濯ではない。あくまで表面の汚れを落として、防水性のあるクリームのような油を薄く塗ってくれるだけ。


 作業をしているのはお年寄りが多くて、仕事は丁寧だと思う。料金は鎧一領につき三百ペルマで、マントは百と、俺の感覚では微妙な金額ではあるが、風呂に入っているあいだにコトがすんでいるというのは悪くない。


 女子がしていた会話の最後の方で中宮(なかみや)さんと上杉さんが、街のお年寄りに金を落とすことの意味に言及していたが、施すのではなく仕事をしてもらうというのは、たしかにアリかとも思うのだ。



「武器や盾には触らせないし、あくまで鎧だけだ。組合の職員が立ち会っているから盗みなんて話は、まず聞かないな」


「あの人たちって冒険者と関係あるんですよね?」


「……磨き布や油は組合からの持ち出しで、一割を上納だ。つまりは『仕事』なんだよ。やらかせば大事(おおごと)になるって言い含めた上でだな」


「『身内』に手厚い組織というのは、いいんじゃないかって思います」


「アイシロ、お前なあ」


 ナルハイト組長と委員長が含みのある会話を展開し、それを聞くクラスメイトたちは理解の色を示す者がいれば首を傾げるメンバーもいる。



「ごめん古韮(ふるにら)、意味わかる?」


「関係者ってアレだろ。冒険者の奥さんとか両親とか。八津(やづ)にはちょっと言い難いけど、もしかしたら亡くなった人の遺族を優先的に、な」


「……そういうことか。悪い、変なこと聞いた」


「いいって」


 なんとなく知り合いとかを優先するのかなって程度で古韮に確認してみれば、返ってきたのは俺にとって微妙に重たい言葉だった。


 冒険者は命懸けの仕事だ。大怪我をして引退することもあるだろうし、家族を残して死んでしまうことだってあるかもしれない。

 残された人たちに便宜を図る仕掛けっていうわけか。


「冒険者本人とか、引退して商売を始める連中への貸付けなんてのもあるぞ。審査は厳しいけどな」


「そんなのもあるんですか」


 俺と古韮の会話を聞きつけたのか、フィスカーさんが追加の情報を教えてくれた。

 これには古韮も感心しきりだな。


「ああ。俺が資金を借りて、ウチの両親と妹夫婦が店を開いてる。今度紹介してやるよ」


「店、ですか?」


「飯屋だ。内市街で、わりといい場所だから安心してくれ」


「それはいいですね。是非とも」


 自慢げなフィスカーさんの言葉に乗っかったのは、我らが聖女というよりこの場合、小料理屋『うえすぎ』の次期女将たる上杉さんだ。


 一年一組としても異世界食堂事情には興味深々である。

 先日の買い出しでは、別行動をしていた俺を含む五人に気を使って屋台の料理を買ってきてくれたように、仲間想いなのがウチのクラスだ。

 そのあとに起きたティア様の襲来としおり作りで有耶無耶になっていたが、これは早期に突撃を掛けたい事案だな。


 料理サイドな強面の佩丘(はきおか)も、言葉にはしないものの興味を引かれている様子だし、俺としても異世界大衆食は大歓迎だ。


 だけどこれは確認しておかないと──。


「あの、フィスカーさん」


「どうした、ヤヅ」


 滝沢(たきざわ)先生の耳に入らないように、至近距離からフィスカーさんに小声で話しかける。


「このあいだの会合もそうでしたけど、ウチの滝沢先生、お酒を飲まないんです」


「飲めないのか?」


 俺の雰囲気を拾い、フィスカーさんが小声で合せてくれた。


「いえ、俺たちが全員で故郷に戻るまでは、って」


「……そうか。見るのも毒ってわけだな。大丈夫だ『パーター』は酒をウリにはしてないし、個室とまではいかないが、離れた卓もある」


「それならよかったです。家の名前の店ですか。いいですね」


 先生のお酒事情を説明する代わりというわけでもないけれど、フィスカーさんの両親が経営している店の名を知ることができた。


 上杉さんの家が食事処の『うえすぎ』ならば、フィスカーさんの家は『パーター』食堂か。

 フィスカーさんのフルネームはフィスカー・パーター。異世界であってもこういうところが一緒なのはちょっと面白い。


 ちなみにだけどフィスカーさんのご両親と妹さんご夫婦がペルマ=タで店を開いているということは、ペルメッダ国籍を持っているのを意味する。商業組合だか食堂組合とかは国籍所有者しか入れないからだ。従業員は別だけど。

 それだけ冒険者組合が特殊だということになるのだけど、そういう組合同士、人同士が連なって社会が成り立っているのだから面白いよな。


「だろう? それと、聞かせてくれて助かった。今後は気に掛けるようにする」


「ありがとうございます。内密でお願いしますね」


 前回の会合で先生の前でワインをガブ飲みしたのを思い出したのか、フィスカーさんは申し訳なさそうだけど、今後に言及してくれたのは安心材料だ。


 やっぱり『オース組』の人たちはいい感じだよなあ。



「よーし、じゃあ事務所行くぞ」


「はーい!」


 移動を告げるナルハイト組長の声に対し、俺たちの返事は気やすい感じになっていた。



 ◇◇◇



「まずはみなさん、お疲れさまでした」


「ありがとうございます!」


 身ぎれいになった俺たちは冒険者装備のまま組合事務所のホールに戻り、そこでペルマ迷宮冒険者組合一等書記官マクターナ・テルトさんの出迎えを受けて、二階の第七会議室に移動した。


『黒剣隊』所属、黒髪のシェリエンさん曰く、とても偉い人であるらしいマクターナさんだけど、出かける前と一緒で愛想の良い笑顔のままだ。

 いやまあ、行く前と返ってきたあとで態度が違ったら、それはそれで怖いけど。



「まずは素材査定の結果を」


 全員が着席したのを確認してから切り出したマクターナさんは、二つの小さな革袋をひとつずつ、フィスカーさんとウチの委員長に差し出した。


「内容をご確認の上、袋だけは返却してください」


 続けての説明は完全に俺たちに向けたものだろう。こういうやり方をするんだよ、って。


「これが高額となると、預けるかどうかを最初に確認してくる。今回は、そういうことだ」


 掛け合いの様にナルハイト組長が解説を加えてくれる。


 なるほど、袋の大きさといい、今回は小遣い程度ということか。

 片や迷宮体験で一割しか報酬を受け取れない一年一組と、もう片方は少量のボロボロ素材だけだった『黒剣隊』。


「金額を口にしないのも流儀ですか?」


「そうですね。普段は『隊』単位での対応となりますので、一階の窓口になります。周りの耳もありますので、その場ではあまり」


「なるほど。ありがとうございます」


 袋の中身を覗いた委員長が質問をすれば、マクターナさんから流れるような返答が飛んでくる。


 とことんまで『本番式』の対応をしてくれているということか。

 組長にしても素材査定や風呂、さらには『磨き屋』と、一連の流れを体験させるようにスケジュールを組んでいたし、迷宮だけでなく『冒険』を教えてくれたということだ。


 たしかに破格の金額を支払った依頼ではあるけれど、ここまで気を使った対応をしてくれるのは嬉しくなるな。



「六千ペルマ……」


 袋から取り出した小さな紙片を目にした委員長の呟きは、良い響きではなかった。


 委員長が手にした六枚の銀貨を見て、幾人かのクラスメイトが渋い顔になったり、目を閉じている。


「月に実働二十日として、今回は一割だけど、冒険者なら九割だから──」


「年間千二百九十六万。税金はかからないにしても、二十二人で……」


「一人頭で六十万に届かない。月給じゃなく、年収で」


 綿原さん、上杉さんのセリフが続き、結論を述べたのは委員長だった。


「いやいや、五人家族だと考えれば」


「それだと三百万だねぇ」


「五人家族の年収が三百万って、ヤバくない?」


 クラスメイトたちのざわめきが会議室に響く。


 ウチのクラスには実家の年収を把握している連中も多いからこそ、ヤバさが理解できるのだろう。

 俺などはピンとこないが、たしか死んだ父さんの年収が六百とか七百って聞いた記憶がある。四人家族でそんな数字だ。半分以下って、ヤバくないか?


「ヤバいの?」


「え? 冒険者って大変?」


「貯金、あるよね」


 そんな俺たちのうろたえっぷりを見るペルメッダサイドな面々の表情は様々だ。


 ナルハイト組長は無表情、『黒剣隊』は訝しげで、そしてマクターナさんはにこやかなまま。


「みなさん、落ち着いてください。ペルマと円は一緒ではありません。物価や税、社会保障についてもです。数字が先行しすぎていますよ」


「不確定な数字が多すぎる、か。先生、すみません」


 こういう場面ではとても珍しいことに、先生が口を開いた。

 加えて委員長が不確定と言ったことで、クラスメイトたちの顔に少しだけ落ち着きが戻ってくる。


「そもそも生活できないならば、冒険者という職業が成り立つはずがありません。まずは話を聞いてみましょう」


 澄ました顔の先生からは内心を読み取ることができないが、たしかに言っていることはそのとおりだ。



「つくづくお前たちが異世界とやらの出自だと、思い知るな。それとも良いところの商家の出ってところか? いや、それならもっとマシな顔をするはずか」


「わたしなどは勇者のみなさんの楽しい一面を見ることができて、むしろ嬉しく思います。なるほど、異なる世界の感覚ですか」


 組長とマクターナさんの語り口は対照的だった。


「外市街に住んでる連中だったら、五人家族でそれ以下っていう家も多いと思うよ?」


「そうなんですか」


 呆れたような口調で黒髪のシェリエンさんがそう言えば、委員長がちょっと間が抜けた声で返事をする。


「それより君たち、月に二十日とか言ってたが、そんなに迷宮に入り浸る気なのか?」


 別の角度から攻撃してきたフィスカーさんの言葉に、俺たちは黙るばかりだ。


 いかんなあ。この街の生活水準や冒険者の生活パターンなんて、資料で得られるものじゃない。

 その手の数字なんていうのは、現地に飛び込んで、肌で感じるしかないんだ。



「今日の成果についてですが、みなさんは持てる限りの素材を持ち帰りましたか?」


「あ、いえ。粘ればですけど、倍はいけると思います」


 水を向けてきたマクターナさんに対し、俺は素直に返事をした。


 委員長の手にした明細がチラっと見えたが、六千という数字の内、五千が丸太だ。つまり最後にエンカウントした丸太を『黒剣隊』に任せず俺たちが綺麗に素材にできていれば、一万一千になっていたはず。冒険者としてならば十万近い収入になっていたのか。

 タイを売らなかったのもあるし、あそこは過疎地と聞いていたし、まだ三時間くらいは粘れただろうし……。


 あれ、そう考えると、結構イケそうな。


「三層ならば倍は稼げるでしょう。四層となれば四倍から五倍ですね。みなさんは四層を主な狩場にすると思うのですが」


「は、はい」


 五倍という数字に、返事をした俺だけでなく仲間の何人かが喉を鳴らした。

 対するマクターナさんの笑みは、どこか大きくなったような。


「冒険者に掛かる税と表現できるのは半年に一度、組合費としての十万ペルマだけです。こちらについては『貢献点』で相殺されますので、通常の活動をしていれば問題は起きません。ご存じでしょうが、登録手数料の一万は初回だけですね」


 スラスラと説明していくマクターナさんは、最後の部分でニコリと笑う。笑いポイントなんだろう。


 組合費の半年十万というのは、名義だけの冒険者を弾くためのシステムだ。これは資料で見たから知っているぞ。

 マクターナさんの言う様に、素材を収める時に差っ引かれる一割の貢献点で相殺されるので、真っ当な活動をしていれば気付けば払い終わっていることになるはずの、いわば冒険者としての最低限ってことになる。


 ちなみに初回のみ半年分を前払いが規則なのだが、通常は『親となる組』が支払うらしい。俺たちの場合は自分のサイフから持ち出しだな。

 これに初回登録料を合わせて十一万。ああ、二百四十二万が数日の内に飛んでいく。いやいや、さらに『組』の登録料と見せ金も必要になるはず。


 金が出ていく一方だ。王国から持たされた大金だけど、最速で無茶を押し通すなら余裕たっぷりってわけでもなかったのか。



「勇者のみなさんが持参金も持たずに入国したとは思えませんし、困窮に関する心配はしていないというのがわたしの本音です」


「あの、楽しそうですね」


 ニコニコ度合いが深まっているマクターナさんに、思わずといった感じで切り込んだのは綿原さんだ。


 なんとなくだけど、この人とは今後も付き合いが長くなりそうだし、今日はここから試験結果についての説明と、迷宮のしおりの件も残っている。

 綿原さんとしてはマクターナさんがどういう人物なのか、肩書ではなく性格について探りを入れたいという思いがあるのかもしれない。


「ええとても。お恥ずかしいのですが、お金にまつわるお話が大好きなんです。とくに前向きな方向ですと、なおさらですね」


「そ、そうなんですか」


 豪快にぶっちゃけたマクターナさんに綿原さんが気圧されている。


 頑張れ綿原さん。コンビニの娘なんだから接客と金銭にまつわる話ならイケるだろう。少なくとも俺なんかよりはずっと。



「お金の話ばかりではなんですね。勇者のみなさんと行動して、『オース組』としての見解はいかがでしたか?」


「それこそ金にまつわる話にもなるんだがな。稼げない冒険者なんて意味もない」


「それはたしかに」


 綿原さんに良い笑顔を向けてから、マクターナさんはナルハイト組長に話を振った。


 金から冒険へと話題が移るかと思ったけれど、どうやら両者は切っても切り離せないようだ。

 それもそうか。俺たちは就職活動をしているようなものだしな。


「結果だが、問題なく合格だ。隊を分けるなんていう手抜きをして、何の危なげもなく二層で戦ってのけた。後衛職の連中が普通に魔獣を倒してやがったぞ」


「そこまでですか」


 ちょっと棘が混じった表現になっているような気もするが、ナルハイト組長の太鼓判にマクターナさんは口元に手を当てた。

 なのに笑ってるんだよな。驚きながら笑うって、どうしてそんな器用な表情ができるんだろう。


「そこのワタハラなんざ、丸太を盾で受け止めて、同時に魔術攻撃だ。この業界で長くやってきて、強い魔術を使う連中は何人も見てきたが、力と魔術を両立させるとか、意味が分からん」


「盾の練習はたくさんやってきましたから」


「それでも普通は避けるなり受け流すなりするんだよ。なんで正面から行くんだか」


 化け物呼ばわりされた綿原さんが反論に出るが、組長はものとものしない。


「数が少ないから試しただけです。試験だったから、いいところを見せたかったっていうのもありますけど……」


 綿原さんのセリフは最後の方で声が小さくなっていく。あーあ、ナルハイト組長があんなコトを言うから。



「お、俺は認めているぞ? お前らは強い。だから稼げる。それは本当だ」


 一年一組どころか身内からも視線の圧を受けた組長はここで折れた。


「ただしだ。調子に乗りすぎるのはダメだぞ?」


 それでも念を押してくるあたり、そんなに俺たちは調子をこいていただろうか。いや、傍から見ていたらそうかもしれない。


「あれは、あんまりにも数が少なかったから」


 我ながら言い訳じみているとは思うが、俺としてはこう言うしかないんだ。綿原さんを助けてあげないと。


 ぶっちゃけ今日は、余裕がありすぎた。

 そもそも危険領域で俺たちがふざけていたら、先生が黙っているはずがない。一歩手前どころか二歩前くらいで注意が入るだろう。


「アラウド迷宮の魔獣の群れ。そんなにだったんですか?」


 そこでマクターナさんが口を挟んできた。

 ちょっとだけ目が細くなったかな。金が絡んでないから?


 それとも何かを探っている?

 まあいいか。ここの人たちがアラウド迷宮に手出しできるわけもないし。


 委員長をチラ見したら頷きが返ってきた。ゴーサインだな。



白石(しらいし)さん、二層で一番酷かったのって、どれくらいだっけ」


 質問に対する返答は俺でなく、この場にいる最適任者、つまり書記系少女な白石さんを頼ることにする。

 発言機会は大切だからな。決してうろ覚えなのが理由ではない。


「連続だと切りがないから省きますけど……。一部屋で最大なら、丸太が三、竹が五、カエルも五、ウサギが十で、トマトとキャベツが合せて五、くらいのがあったと思います」


「……」


「そこまでだったのかよ」


 白石さんの並べた魔獣の数に、マクターナさんは真顔で黙り、組長が唸り声を上げる。『黒剣隊』の人たちも絶句しているな。


 いちおう初回の会合で俺たちの戦いについては『オース組』に説明はしていたけれど、ここまで具体的な数字は伝えてなかったか。

 もしかしなくても、ここまでの規模だとは思っていなかったようだ。


 白石さんが挙げたのは、たぶん鉄の部屋開放戦のあたりのバトルだろう。いや、もしかしたらハウーズ救出作戦最終盤かも。


「逃げなかったのですか?」


八津(やづ)くんの指示で全部倒しました。逃げても挟まれるだけだって言うから」


「その頃、みなさんの階位は」


「七階位が三分の二くらいで、残りは六階位でした」


 すっかり笑顔を引っ込めたマクターナさんが問いかけてくれば、白石さんはメガネを光らせ即答してみせた。


 ああ、これってもしかしなくても『俺たちなんかやっちゃいましたか』ムーブになっているのか。それ故に白石さんはノリノリで。


 ところでだけど、俺が主犯みたいな言い方になってないか?



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