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第444話 目出度い



「うっひゃあ、鯛がいっぱい!」


「いいねぇ。美味しそうだねぇ~」


 ロリっ娘の奉谷(ほうたに)さんが大声を上げ、チャラい(ひき)さんがニマっと笑う。


 ペルマ迷宮を彷徨うことさらに三十分くらいで、一年一組は待望の魔獣に出会うことができた。

 本当に密度が薄いよな。ほかにはいい狩場もあるらしいけれど、アラウド迷宮の群れを経験してしまうと、こちらの冒険者たちが食べていけているのか心配になるくらいだ。


 とはいえタイだ。【三脚一腕鯛】。

 胴体のフォルム自体は確かにタイなんだけど、ソレがヒラメやカレイのように横倒しになっている。短い昆虫のような足が背中側から二本、腹側から一本。天井を向いた胸ヒレの辺りから伸びた一メートル近い一本の触手がうねっているのが最大の特徴だ。急所は胴体後方、尾びれの付け根にあるひとつの目。視界的に意味はあるのだろうか、それ。


「低いな」


「みんな、下段のいい練習よ」


 無口な馬那(まな)が唸るように呟き、木刀師匠の中宮(なかみや)さんの指導が飛ぶ。


 体長は五十センチくらいなのだけど、短い足のお陰でとにかく本体の位置が低い。さらには触手だけが妙に長いのが厄介だな。速度はツチノコウサギ程ではないが、それでも二層としては上の方になるんだろう。


 そんなタイだけど、俺たち的には二層でもかなり美味しい得物といえる。戦闘の相性でも、食事的な意味でも。

 なにせ俺たちはひたすら下段を磨いてきたのだから。


「ひとり一匹ずつだね。(りん)ちゃん、ボクの分だけ触手をお願い!」


「了解よ」


 遭遇したタイは七体。こちらの人数と同数だ。

 それを見た分隊長の奉谷さんは一対一を選択した。ただし自分の分だけは、中宮さんにフォローを要求する。自分の力を過信しすぎない、同時に頼るべき相手を即座に選べるあたりが立派だよ。さすがは俺の副官だ。



 さて、第一分隊となる『奉谷隊』の編成は、盾役として【聖騎士】の藍城(あいしろ)委員長と【岩騎士】の馬那。ヒーラーは【奮術師】の奉谷さんと委員長だけど、二人ともが本職とは言いかねる。だからこそ、その二人を同じ分隊に入れたんだ。

 アタッカーとしては【豪剣士】の中宮さんがメインで、サブに【裂鞭士】の疋さんと【忍術士】の草間(くさま)がいる。草間はとっくに【気配遮断】を使って忍んでいるようだな。

 術師は【熱導師】の笹見(ささみ)さん。さらにはバッファーと魔力タンクとして奉谷さんが最後方に構えている。彼女は隊長も合せると四役だ。そんなメンバーで七名。


 遠距離攻撃こそ難のあるメンバーだけど、『奉谷隊』は対応力が高くて、本当に安定した強さを持っている。比較するなら瞬発力の『綿原(わたはら)隊』、持久戦なら『夏樹(なつき)隊』ってところかな。


「しゅぅ、しゅあっ! これ、鳴子(めいこ)ちゃんの分」


「ありがと!」


 カタカタと硬い足音を立てて迫るタイの群れに真っ先に突っ込んだ中宮さんが、横殴りに木刀を一閃させれば触手が一本千切れ飛んだ。【魔力伝導】を込めた中宮さんの剣は、柔らかい部位なら斬ることくらいをやってのける。


「しゅあっ。しゃぅっ!」


 触手を斬り飛ばしたタイを後方にスルーし、中宮さんはその場で大きく低く踏み込んで、続いて迫る触手を回避した。

 腕だけを上段に残すという『北方中宮流』独特の動きから突き落とされた切っ先が、見事タイの急所を捉える。相変わらず凄い見切りだ。



「えいっ! よしっ、やったよ!」


 いつの間にか敵の最後方に現れた草間がメイスで胴体を叩き伏せて、すかさず短剣でトドメを刺した。もちろん【気配遮断】を使っての戦法だ。

 二手クリティカルってところか。今回は大成功だな。


 委員長や馬那は魔獣を盾で一度受け止め、そこからメイスを振り下ろして、丁寧に対処していく。

 アネゴな笹見さんの場合は大きめの『熱水球』を当てた段階で相手は瀕死。こっちも問題なし、と。


「ほいっとぉ」


 さらには、器用さがウリな疋さんはムチを触手と本体に巻き付けて、そこから【魔力伝導】と【魔力凝縮】の合わせ技であっという間に自由を奪う。


「で、ザックリっしょ」


 ミアと並んで疋さんは通常の戦闘でも短剣を使うことが許されている数少ないメンバーのひとりだ。近々【冷徹】なる深山(みやま)さんが追加される予定だが、彼女の場合は【身体操作】を取ってからだな。


 そんな疋さんの短剣は、違えることなくタイの急所を貫いていた。



「とうっ!」


 最後の一体となった、触手の千切れたタイと対峙することになったちびっ子の奉谷さんが、元気な声で横っ飛びして相手の突進を躱す。

 なにしろ彼女は【身体操作】を持ち、自身を【身体補強】できるのだ。【身体補強】のバフ効果は自分自身に掛けるのが一番効果が高い。もしかしたら【身体強化】の半分くらいはできているのではという推測すらされているくらいだ。


 中宮さんから歩法を、春さんから走り方を学んだ奉谷さんは、ぶっちゃけ俺より速いんだよなあ。

 小さな体はこの場合、むしろ有効に働く。小回りが利く上に、姿勢の低いタイに視線が近いのだ。


「えいっ! あれ?」


 タイの横に回り込んだ奉谷さんは両手持ちしたメイスを、急所に当たるシッポの辺りに叩き込み、そして首を傾げる。


「クリティカルアタックだよっ!」


 そのまま動かなくなったタイを見て、ゲーマーな夏樹が目を輝かせている。

 中宮さんや疋さんも事実上の一撃だったけど、触手が無かったとはいえ後衛職の奉谷さんまでやってのけるのか。


「やったね!」


「だねえ」


 ちっちゃい奉谷さんと長身な笹見さんがハイタッチをしてお互いに笑顔を浮かべる。


 こうして『奉谷隊』は見事無傷でタイ七体を倒してのけたのだ。



 ◇◇◇



「笹見、馬那、草間、それと委員長ぉ。もうちょいなんとかならなかったのかよ」


「いや、ここは堅実に」


「それはわかるけどよ……、ちっ」


 見事な完封劇を見せた『奉谷隊』なんだけど、その中の四人が怒られている。というかグチられているのか。文句をたれているのは副料理長ことヤンキーな佩丘(はきおか)だ。

 困った顔の委員長の言い分にも、面白くなさそうな態度を隠さない。


 ヤツが言っているのは戦闘ではなく食材的な意味での問題だった。

 笹見さんの『熱水球』を食らったタイは問題外として、佩丘的にはメイスで身の部分を叩いたのがお気に召さなかったらしい。


 贅沢な注文だとはわかっているし、佩丘としても安全第一を考える方だ。けれども十階位メンバーなんだから手加減くらいは余裕だろうと口に出したいところなんだろう。

 とはいえ、らしくないといえばらしくない。佩丘がこんなことでグチるのは珍しいな。


「佩丘くん。迷宮素材なんですから、こういうこともあるでしょう。それこそ腕の見せ所ですよ」


「そうだな。すまん上杉(うえすぎ)。お前らも、すまねぇ」


 そんな光景に横入りをして窘める人物こそ、我らが料理長の上杉さんだ。

 たった一言で佩丘はバツの悪そうな顔になり、そして委員長たちに謝った。筋が通れば謝ることができるのが佩丘なんだよな。



「できたよ」


 状況を見てというより、単に作業を終えただけという理由で深山さんはごく自然にそんな場に首を突っ込んだ。


 ポヤっとした彼女がやっていたのは氷を生み出し、それを防水革袋にタイと一緒に詰め込む冷凍作業。

 実は佩丘、グチを零す前にはシッカリとタイの足と触手を切り取り、急所からうしろとなるシッポを切断してから水路で血抜きと、やたら丁寧な作業をしていたりする。マメなヤツだよなあ。


「おう。やっぱし深山の氷は役に立つぜ」


「うん、ありがと。せっかくの初物だもんね。お祝いしないとだし」


「お前なぁ」


「あれ? 黙ってた方がよかった?」


 佩丘と深山さんの妙なやり取りで、幾人かが何かに気付いたような顔になる。どういう意味だろう。


「ペルマ迷宮の初挑戦で初鯛だよ。それに、八津(やづ)も問題なく一緒に入れたんだ。祝いにはピッタリなんだろうね。尾頭付きとはいかないけれど」


「委員長……」


 状況が好転したとみた委員長が素早く俺の横に移動して、なにが起きているかを教えてくれた。

 そういう意味だったのか。佩丘め。全く持って目出度いヤツだ。


「普通に昨日、カルパッチョだったのにね」


「台無しだよ、草間」


 たしかに昨日の夕食には佩丘たちの作ったタイのカルパッチョが出てきたけれど、それを言ったらだめだろう、草間よ。



「素材回収は終わったな。どうするヤヅ?」


「え? どうするって」


 どことなく吹っ切れた表情のナルハイト組長が声を掛けてくる。


「今から戻れば夕方の混雑も避けられるし、組合にも話を通せるだろ。あの『しおり』の件もある」


「でも、俺たち三回しか戦ってないし、全体の戦闘だって──」


「お前らが二層で手抜きをしても楽勝なのはわかったよ。素材の扱いも問題ない。それとまあ、性根は知ってるつもりだ」


 そんなコトを言う組長は明らかな笑顔になっていた。うしろに立つ『黒剣隊』もまた、笑っている。


「えっと、それって」


「合格だ。お前らは冒険者で食ってける。推薦状は明日、組合で渡してやるさ。義理だけは欠いてくれるなよ?」


 聞き返した俺の声は震えていたかもしれない。そんな俺を見た組長は口を開けて笑いながら合格という単語をハッキリ言葉にしてくれた。


「え? こんなのでいいの?」


「やったあ」


「鯛の意味が追加されたねぇ」


「当然のことデス!」


「ふぅ」


 クラスメイトたちが思い思いの声を上げ、それはいつしか広間に響き渡る歓声となっていく。


「やったわね」


「ああ。やったな」


 白いサメを浮かばせた綿原さんがモチャっと笑うので、俺は負けじと笑い返すのだ。



 ◇◇◇



「ところでヤヅ、君だけ戦ってないじゃないか」


 合格発表からの帰り道で俺の横に並んできた大剣使いのフィスカーさんが言っていることだけど、そのとおりなんだよな。


 騎士職の馬那と古韮(ふるにら)野来(のき)と委員長が肩に丸太を担ぎ、タイの入った革袋は佩丘と海藤(かいとう)が背負っている。ウサギの方は滝沢(たきざわ)先生と中宮さん。

 ワリと余裕のある状況だ。魔獣に遭遇したら、放り出して戦闘開始だな。


 この感じだと三倍の分量くらいは運べるだろう。査定の相場は知らないから、これがどれくらいの金額になるのかはこれから勉強しないといけない。


 さておき、俺が戦わない理由なんだけど──。


「要らないって言われたんです」


「は?」


「俺が入ったら分隊長の練習にならないって」


 七人の分隊が三つで二十一名。そして一年一組は二十二人。おかしな話だ。一人足りないじゃないか。

 それが俺だった。


 決してハブられたとか、ハズレスキルで追放だとかではなく……、なんていうのはいまさらだな。

『緑山』創立時、第一から第三までの分隊は書類上六人構成だった。騎士団長の先生と副団長の委員長と中宮さんを分隊に入れることができなかったから。


 そんなタガはとっくに外れ、あれほど強力な戦力を分隊に組み込まない理由がない。

 というわけで、団長と副団長職は消滅し、三人は分隊に編入された。で、タキザワ隊隊長職の俺の行方はっていう話だ。


『八人目でもいいじゃないか。居るはずのない八人目ポジション』


『外から見てろ。ヤバくなったら口を出せ』


 どこかの分隊に八人目として入れてくれと要求した俺だったが、嫌味な笑みを浮かべた田村(たむら)に一蹴されてしまった。ほかの連中も納得顔だし。


 けどまあ田村の言っていることにも一理はあった。

 全体指揮とルート設定こそが俺のお仕事で、分隊で戦うのならば外側から見守るのもたしかに役割りだ。


 言いくるめられたような気もするんだけどな。まあいいか、分隊戦闘なんて滅多にすることもないだろうし。

 だからフィスカーさん、哀れな人を見るような目をやめてください。



「それなんだが、分隊長があの三人っておかしくないか?」


「それってアウローニヤでも言われました」


「アウローニヤでは……、爵位で決まるものだったか」


 俺の返事に嫌そうにかぶりを振るフィスカーさんだけど、俺からしてみれば大した変わらないと思うんだよな。


 アウローニヤの場合、隊長職は偉い人でほぼ確定だ。軍の分隊長クラスでなんとか実力者が、って感じになる。近衛騎士なんて全員が騎士爵以上なので、完全に偉いかどうか。それこそ実家の格まで登場するくらいだ。


 対してペルマ迷宮の冒険者たちならどうなるかといえば……、横を歩くフィスカーさんが『黒剣隊』の隊長だという段階でお察しである。

 強いか、それとも人をまとめられるかってところだ。大抵の場合は両方なんだろう。フィスカーさんもそうだろうし。


「俺たちは後衛職で、指示出しに向いてるかっていう理由で選んでるんです」


「後衛の方が俯瞰できる、か。わからなくもないけどな」


「ウチは戦いの素人がほとんどですから、役目に集中してもらいたいんです。前線で剣を振りながら全体を見渡すなんて、とてもじゃないですよ」


 俺の言葉に嘘は混じっていない。


 ウチのクラスでうしろの方から指示出しをすることができるメンバーで、辞退しなかったのがああだったっていうだけだ。


 初期条件で近接系前衛職はナシっていうのは確定していた。ここで八名が脱落だな。


 俺の副官ポジをやってくれていた奉谷さんの名が真っ先に挙がり、簡単に当選。白石(しらいし)さんも【大声】持ちだからイケそうだけど、彼女は書記系で強気な方ではない。同じく深山さんも内気タイプなので残念ながら。コールこそ得意だけど、実は果断さに欠ける自覚を持つ笹見さんも辞退した。


 遠距離組だとミアは問題外で、海藤は前線寄り。

 チャラいけど意外と調整ができるのが藤永なんだけど、前線すぐうしろが定位置になりつつあるアイツには盾組の掌握に集中してもらいたい。田村も同じ理由で前線側。


 草間については忍者は忍んでナンボなので、指揮官としてはどうなんだろうという理由で却下された。本人は苦情を申し立てていたが、全会一致だったので諦めてほしい。


 上杉さんは自称向いていないとのことだけど、絶対できると思う。けれど本人がやりたがらないのだから仕方がない。


 疋さんについては、最終候補まで残っていた。ムチという武器の特性。視界の広さと耳と良さ。

 何より彼女には器用さと判断力がある。言ってはなんだけど、藤永の上位互換みたいな存在だな。


『アタシ? ヤだよ。アタシって八津の後釜狙ってるしぃ』


 だけど疋さんは謎の理屈で辞退した。それって本気じゃないよな?


 という経緯もあって、ウチの分隊長は奉谷さん、夏樹、綿原さんとなった。

 夏樹もハキハキタイプだし、【石術】と指揮官との相性はいい。綿原さんに至っては迷宮委員で元々副官同然だ。夏樹と同じく【鮫術】が遠距離精密攻撃タイプだというのも大きい。


 まとめてみればわかる通り、これは消去法とかではなく、三人ともが立派な理由があっての選出なのだ。



「ヤヅならできるんじゃないか? 前線で指揮」


「……俺は剣なんて振れません」


 そういう意地の悪い言い方はやめてもらいたい。せっかく人格者認定をしていたというのに。


「でもまあ良かったな。組長の推しだ。組合からも文句は出ないだろ」


「組合から勇者を理由に断られたらどうしようかと思ってましたよ」


「逆だろ。マクターナがあんなに楽しそうなの、珍しいぞ?」


「そうなんですか」


「そりゃあそうだ。勇者を抱える冒険者組合なんて、それこそ伝説だな」


 そうして笑うフィスカーさんだけど、俺たちからしてみれば、そんな厄介な存在を受け入れてもらえるかどうかが心配だったんだ。

 だからこそ微妙なカバーストーリーまで作って、まずは実力を示そうとしていたわけで。



「……フィスカー」


「魔獣か? ギャルマ」


「丸太だな。二体」


 話し込んでいた俺とフィスカーさんに声を掛けてきたのは、『黒剣隊』の斥候職、ギャルマさんだ。

 基本無口なんだよな、この人。ウチの前髪が長いメガネ忍者は見かけと違って普通に喋るタイプなんだけど、ギャルマさんはロールプレイがしっかりしている。


 俺たちは現在、変則『綿原陣』で移動中だったけど、試験が終わった帰り道だからと斥候を二手に分けていた。右が草間で、左がギャルマさん。

 ギャルマさんが探知したということは……、つぎの部屋の左側の扉からって感じで接敵になるか。倒せないどころか楽勝ではあるのだけど。


「どうします?」


 みんなにも俺たちのやり取りは聞こえていたんだろう、全員が一時停止している中で、俺はフィスカーさんに問いかける。


 試験が終わったという状況なので、この場を仕切るのは基本的にフィスカーさんだ。次点でナルハイト組長。

 組長はあくまで俺たちの試験官として同行しているので、コトが戦闘に及ぶとなると『黒剣隊』のリーダーが決断を下すのがスジだ。


 一年一組が総攻撃を掛ければ三十秒案件なんだけど、俺としてはできれば──。



「僕っ、『黒剣隊』が戦うとこ、見たいです!」


「あ、ボクも!」


 そこで手を挙げてまで元気に主張してきたのは一年一組のムードメーカー、弟系の夏樹とロリっ娘な奉谷さんだった。

 偉いぞ二人とも。俺も見てみたかったんだ、『黒剣隊』の戦いを。っていうか、フィスカーさんの大剣とシェリエンの短槍さばき。


「勉強させてもらいたいです」


「フィスカーさん、期待していいんですよね?」


 武闘派の中宮さんは大真面目にお願いをし、対する古韮はカッコいい成分の補給を求めている。


「同じ弓士として、ピドットサンの矢を見てみたいデス!」


「大盾と槍の組み合わせって、騎士っぽくていいよね」


 ミアと野来までもが煽れば、ついに『黒剣隊』の面々の表情が……。



「そこまで言われちゃ、仕方ないなあ」


 そう言うフィスカーさんの表情は笑み崩れているし、頬が赤い。

 ほかの五人も似たようなものだ。


 コレはアレだな。俺たちがペルマ=タに到着した時に偶然出会った『黒剣隊』が、あの場では名前すら知らなかったけど、冒険者かっけーって言われた彼らの照れ顔。

 大小はあれど全員が頬を赤らめ、ニヤつきを隠せないでいる。


「さあて、あたしの槍を唸らせようかな」


 十三階位の【速騎士】、黒髪をなびかせたシェリエンさんが槍を斜めに持ち替えた。


「……ふっ」


 ニヒルに笑っているけど、十三階位の【探索士】、ギャルマさんの耳は赤い。


「わ、わたしは、出番あるのかな」


 あわあわしている十階位の【聖術師】、ヒュレタさんは意味なく左右を窺っている。


「僕の矢ですか。期待された以上はやるしかありませんね」


 柔らかい口調な十三階位の【強弓士】、ピドットさんは目が垂れ下がるくらいニヤけが止まらないようだ。


「いいだろう。俺の水と剣、見せてやる」


 なんか俺のツボに入る感じでカッコいいコトを言うのは、十三階位で【水剣士】のヒアタインさん。ちなみに黒髪の三十歳くらいのおじさんだったりする。


「じゃあやるぞ。『黒剣隊』、前進だ」


 口元をむにゃむにゃさせながら指令を下したのは、十三階位の【重剣士】にして『黒剣隊』のリーダー、大剣使いのフィスカーさんだ。


「おう!」


 広間に『黒剣隊』の声が轟いた。

 ちなみに全員が二十代半ばから三十歳くらいの人たちである。


「……好きにしろ」


 ノリについていけなかったナルハイト組長は、ため息を吐くようにそれだけを言って首を横に振った。



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