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第442話 一層を駆け抜けろ



「迷宮だ」


「ああ、迷宮だな」


「っぱ迷宮っしょ」


 ペルマ迷宮一層階段前広間にクラスメイトたちの声が響く。


 みんながどこか楽しげで嬉しそうだ。深呼吸して迷宮の空気を感じているヤツまでいるくらい。


「うん、俺も大丈夫だ。問題なくイケる。むしろアガってきた」


「そっか」


「良かったね」


八津(やづ)、頼んだぞ」


 俺は俺で、自身の無事を告げれば、みんなの笑顔が大きくなった。


 最後は俺の不調のせいで逃げ帰る形になってしまったアラウド迷宮から、戴冠式と旅を経由することで、実に中十日という迷宮だ。ここまであいだが開いたのって、シャケ氾濫の調査で地上待機になった時以来か。それにしたって九日だから、今回が過去最長となる。



 そしてやはり実感してしまうのだ。地上で起きる政治やらなんやらの(しがらみ)から解放されるこの状況を、俺たちは嬉しく思ってしまうのだと。

 侯王様やティア様関連では政治色が残っていたが、ペルメッダでの生活が落ち着けばそういうのも薄れていくだろう。


 つまり俺の思い描くような異世界ライフが始まるのだ。

 もちろん帰還が最優先ではあるが、心の持ちようって大切だからな。地上では笑い合い、迷宮への英気を養うような生活を送りたい。


「不思議だよ。本当なら殺伐とした場所だし、いい思い出があるわけでもないのに」


「なぜだか落ち着くのよね。魔力のせいなのかしら」


 異世界モノを知らない上に良識派な藍城(あいしろ)委員長や中宮(なかみや)副委員長ですらこんな感じだ。


 すーっと息を吐く中宮さんが話題にした魔力については、もしかしたら本当なのかもしれないと思ってしまう。

 魔力が濃い方が精神が安定するとか、俺たちってヤバイことになってるんじゃないだろうな。


「やっぱり綿原(わたはら)さんも落ち着いてる?」


「そうね。けれども今は前向きに考えましょう。八津くんの調子が悪くないのは好材料なんだから」


「だな。うん」


 機嫌良さそうにサメを泳がせる綿原さんは、俺に問題が起きていないことを一番に喜んでくれているようだ。



「なんかお前ら、おかしくないか?」


「元から陽気な連中だとは思ってたけど、なんで迷宮に入ってからの方が」


 ナルハイト組長やフィスカーさんが訝しげな視線を送ってきているが、たしかに俺たちはアガっている。


 けれども油断をしているわけではないし、警戒を怠ったりはしていない。

 迷宮内でも一番安全だとされる一層階段前広間であっても、忍者な草間(くさま)は【気配察知】をしているはずだし、チャラ子な(ひき)さん、木刀女子の中宮さん、陸上少女の(はる)さんあたりは【聴覚強化】を使っている。

 ほかにも【視覚強化】や【遠視】を持っているメンバーは技能を回しているだろうし、綿原さんのサメを筆頭に、術師たちは魔術をスタンバイ。もちろん俺も絶賛【観察】中だ。


「そうか、魔力の回復が気持ちいいのか」


「それ、あるかも。術が軽いんだよね」


 俺の呟きを、これまた石を浮かばせたカワイイ系男子な夏樹(なつき)が拾った。


 豊富な技能を持つからこそ、常に何かしらを使っている俺たちだ。どうしたって魔力の回復速度が気になってしまうんだよな。

 アウローニヤを旅立ってからの全力なんて、ティア様を相手にした時くらいか。道中、ザルカット伯爵領で横領兵士のミレク一党を成敗したのはガラリエさんだけだったし。


 急いで強くなりたくて、だけど戦闘経験が足りない俺たちは、あらゆる方法を使うしかない。

 滝沢(たきざわ)先生や中宮さんに武術を教わり、食事に気を使って筋量を増やし、連携にも力を入れている。もちろんそこには技能を使いまくって熟練度を上げるというのも含まれて当たり前。


 だからなのか、こうして遠慮なく技能を使える状態に俺たちは安心と落ち着きを得ているのかもしれない。【平静】とは別の意味で。

【氷術師】の深山(みやま)さんは普通に【冷徹】を回してるみたいだけどな。



「とりあえず、進まない?」


 大盾に短槍な騎士スタイルのシェリエンさんが先を急かしてくる。

 周囲に視線を送っているようだけど……、まあ、そうだよな。


 ここにはそれなりに人がいる。水汲み場までの警備をしている兵士たちや、組合から派遣されて常駐しているらしい【聖術師】さんが、奇妙なモノを見るような顔をこっちに向けているんだ。

 視線が迷宮の奥に向かっていたものだから、俺の【観察】を以てしても気付かなかった。


「『迷宮のしおり』の件は地上に戻ってからで、ここは迷宮に集中ね。八津くん、出番よ」


 サメを三匹に増やした綿原さんがモチャっと笑い、言葉で俺の背中を押してくる。


「任せてくれ。一層は俺たちが先行でいいんですね?」


「ああ。好きにしろ。俺たちはうしろからついていく。面白いモノ、見せてくれるんだろ?」


 俺の確認に、フィスカーさんは笑って答えてくれた。


 一年一組はいまさら一層で事故を起こすような段階に居ない。

 ならばまずは俺たちの進軍を見せるという意味合いで、一層では一年一組が先を行くことになっているのだ。


「俺たちもやりますけど『黒剣隊』はいちおう後方警戒、お願いしますね。『草樹(くさき)陣』のお披露目だ。みんな、行こう!」


「おう!」


 威勢のいい唱和と共に、一年一組が迷宮で動き出す。



 ◇◇◇



夏樹(なつき)。左の二体。イケるな?」


「任せてっ!」


 当たり前だが迷宮一層にだって魔獣はいる。敵はネズミが五体。今の俺たちにとっては雑魚に間違いはないが、素材としての価値も無いし、経験値にもならない。つまり時間が惜しいだけの敵だ。

 初手は遠距離からの一撃。しかも後腐れが無いのが望ましい。


 ウチの遠距離攻撃手段となれば【疾弓士】のミア、【剛擲士】の海藤(かいとう)が真っ先になるのだが、矢もボールも有限だから回収する必要が出てくる。そんな時間がもったいない。

 実は俺たちは今回、一層で一切足を止めずに階段まで速足で駆け抜けるというテーマで動いているのだ。そしてそこには戦闘も含まれる。

 だからこそ【石術師】、夏樹の出番がやってくるのだ。


「えいっ!」


 隊列の『一番前』を行く夏樹が二つの石を地面スレスレに飛ばす。勢いよく直進した石は、ネズミの足元に届いた辺りで急激に角度を変えて上昇した。


 ゴンという鈍い音が同時に二つ響く。夏樹の操作した石は見事ネズミの急所となる喉元にブチ当たり、相手を斜め上に吹き飛ばしてみせた。 

 部屋の奥、俺たちの進行方向に落下した二体のネズミは、ピクリとも動かない。完璧なカウンターでの急所狙いだったな。小走りで動きながらの攻撃だったのによくも当てられるものだ。凄いじゃないか、夏樹。


 熟達した【石術】で夏樹は通常四つの石を扱える。それをあえて二個にして、【視覚強化】と【遠視】を使った精密狙撃だ。

 いくら相手の動きが単純だとしても、タイミングの取り方まで万全だったな。あまつさえ尖った石だと血で汚れて、そのあとの操作性が落ちるからと丸い石を使うというこだわり様だ。


 十階位となった夏樹の魔術は、一層の魔獣を単独で倒し切るレベルに到達している。



「部屋に罠は無し! 残りの敵は左から中宮さん、先生、春さんで。真っすぐ吹き飛ばすようにして倒してくれ。流血させるな」


「しゅあっ」


「あぁい!」


「条件多いよねっ。てやっ!」


 部屋にトラップが無いことを再度確認し、続けて出した俺の指示に三つの影が反応した。


【豪剣士】の中宮さんの木刀が下段から振り抜かれ、【豪拳士】の先生のつま先がネズミの喉元に叩き込まれ、【嵐剣士】の春さんのメイスが斜め下からカチ上げられた。


 何もできずに吹き飛ばされたネズミはピクリとも動かない。この三人についてはいまさらすぎるな。二層でもこんな調子でやってくれるだろう。



「騎士組、歩きながら回収。つぎの部屋に入ったすぐに水路がある」


「なんかヤな役目だなあ、おい」


「ここは階段に続く経路だからな。掃除はしっかりとだよ」


「わかってるって」


 文句を言いつつも【霧騎士】の古韮(ふるにら)は、速度を落とさず通り過ぎざまにネズミの死骸を掬い上げて小脇に抱え込んだ。

 残り四人、【重騎士】の佩丘(はきおか)、【岩騎士】の馬那(まな)、【風騎士】の野来(のき)、そして【聖騎士】の委員長が同じ行動を取る。


「つぎの広間は右に扉が二つ、奥にひとつで、経路は直進。右の二つは疋さんとミアで警戒」


「はいよ~」


「ラジャーデス」


 真っすぐ前を見ながら、念のために手にした地図を同時に視界に入れつつ進行ルートの確認をしておく。


「草間は索敵に集中だ。攻撃は考えなくていいから、二部屋先まで探ってくれ」


「うん。任せて」


 先頭を行く【忍術士】の草間は、ひたすら索敵だ。

 アイツや夏樹のすぐ近くには先生や中宮さんがいるので、そうそう問題は起きないだろう。



白石(しらいし)さん、ヒュレタさん。速さはこのままで大丈夫ですか?」


「うん」


「は、はいっ」


 現状一年一組で一番足が遅いのは【騒術師】の白石さんか【氷術師】の深山さんということになる。俺も大した変わらないけどな。

 ちょっと前までは【聖導師】の上杉(うえすぎ)さんもそうだったのだけど、彼女は【身体操作】を取ってから地上の旅を経て、歩くフォームが良くなっているのだ。夏樹にしてもまたしかり。

 一見足が遅そうな【奮術師】の奉谷(ほうたに)さんに至っては、【身体補強】の自己バフ効果が高いのと、これまた【身体操作】を取得しているので、本気を出したら俺より速い。


 走ることについては短距離なら春さんが、長距離は綿原さんがコーチすることができるので、新しく【身体操作】を取った面々の上達っぷりが羨ましい。


 ちなみにヒュレタさんは『黒剣隊』の【聖術師】で十階位。三十歳くらいの小柄な女性で、もしかするとこの集団の中では一番体力に欠けるかもしれない。

 それでも【聖術師】で十階位というのは凄いよな。アウローニヤなら間違いなくトップクラスを張れるはずだ。ペルメッダの冒険者業界のレベルの高さは、俺たちの想像以上なのかもしれないぞ。


 こうして俺たちはダッシュするでもなく、かといって足を止めることもなく、ひたすら速足で迷宮一層を駆け抜けていく。

 目指すは二層へ続く一層三番階段だ。



 ◇◇◇



「で、なんだったんだ、アレは」


「『草樹陣』です」


「名前じゃねぇよ。意味が分からんってことだ」


 予定通りに一層三番階段に到着した俺たちは、二層へ降りている最中だ。

 そこでナルハイト組長からツッコミが入り、俺が説明係になったわけで。


 ちなみに階段の名前についてだけど、アラウドは発見順でペルマは階層プラス利便性の番号で名付けられている。

 つまり一層三番階段は、最初の広間からわりと遠くにあるということになるのだけど、出発してからの所要時間は三十分弱。なかなかいいペースを出せたと思う。


「ずっと速足で止まらずに進むのを重視した陣形です。あんなの一層でしか通用しません」


「一層専用の陣形とか、お前らなあ」


「みんなで相談してたんです。どうやったら一番早く、安定して一層を抜けられるかって」


 隠すことでもないので、俺はそのままを組長に話す。

 迷宮を進むに当たって一番効率がいいのは、速足くらいで速度を維持することだ。


 旅の途中で散々語る時間があった俺たちは、いろいろなコトを話し合った。

 今回のお題、どうすれば手早く一層を抜けられるかについてはサバイバルなミア、長距離ランナーの綿原さん、自衛官志望の馬那が強く主張した内容が反映されている。


 魔獣が索敵に引っかかれば立ち止まって戦闘、そして再び歩き始める。そんなやり方で移動時間を縮めるならば、ストップアンドゴーが繰り返されることになるだろう。

 それはペースという視点でも、それ以上に体力面でよろしくないのではないかという考え方だ。


 十階位の俺たちは、一層ならば魔獣を殲滅するのも、逃げ切るのも自由自在ではある。つまり最速を狙うなら最低限の魔獣を走りながら倒して、それ以外は無視して走り抜けるのが一番早い。

 だけどそこであえて安定した進軍速度を維持するならばどうすべきか。


 それが『草樹陣』の主眼だ。


 索敵に強い草間を先頭に置き、さらには回収作業を必要としない長距離攻撃が可能な夏樹も前に出す。

 普段の俺たちならば騎士グループを前に配置して万全の態勢を取るのだが、一層ならば問題にはならない。

 索敵に専念する草間と柔らかい夏樹の傍には速度に優れる春さんと、武闘派な二人、先生と中宮さんがいれば十分だ。


 中距離攻撃ができる疋さんは遊撃、左右に遠距離攻撃が必要になればミアと海藤が担当してくれる。その場合は残念ながら一時停止だな。

 二列目は楔型に騎士が並び、その内側に術師を抱え込む。ちなみに俺も二列目で、部屋のトラップを確認しながら指示出しするのがお仕事だ。


 普段なら最前列にはあまり出ない二人、つまり草間と夏樹にあやかって『草樹陣』。草間は前に出ないというか単独行動も多いんだけどな。なのでコレは事実上の『夏樹陣』とも言える。

『間夏陣』とか『夏草陣』とか、どうでもいいところでも議論があったけど、最終的には多数決で名が決められた。決め手はゴロの良さ。



「ナツキだったか、いい腕をしてる」


「えへへ」


 一連の説明を受けたナルハイト組長が夏樹を褒める。嬉しそうに頭を掻く夏樹に、クラスメイト一同も自分たちが褒められたような気分に溢れている。

 夏樹は奉谷さんと並んで誰にでも愛されるキャラなんだよな。少しは分けてもらいたいくらいだぞ。


「十階位の術師がいないわけじゃないが、真っ当な攻撃手段になっているのが見事だ。しかも二つ同時とは、恐れ入った」


「ホントは四つ同時にしたいんですけどね」


 旅の途中で夏樹は四つの石を操作できるようになった。道路整備のお陰というのも微妙な話だが、できてしまったのだから仕方がない。


 それでもネズミの急所狙いとなれば、今のところは二つが手一杯。そう、一層のネズミですらだ。二層の魔獣ならばこうはいかないだろう。

 狙ったクリティカルにはまだまだ遠い。そういう点では専門家のミアや海藤には劣るのだ。これからも精進だな、夏樹。


 さて、こんな攻撃手段を使える人材が一年一組にはもう一人いるわけだけど、綿原さんは大人しい。

 彼女の白サメは、たしかに夏樹の石と同じくらいの精度を出せるし、なにより切れる。だけど威力の一点集中には欠けるのだ。

 ネズミを相手にすれば、綿原さんのサメでも一撃必殺は可能だと思う。だけど絶対とは言い切れないし、そうなればトドメに一手を追加する必要があるのだ。ついでに今回の『草樹陣』では極力魔獣の流血を避けるというテーマもあったし。


 本人もそれは自覚しているので、今回は大人しく中央で柔らかい術師たちの守備に入ってくれていた。

 大丈夫、ティア様との対戦でも思い知ったけど、綿原さんは対人戦でも強いから。ひたすら当てることに特化した夏樹の石と、多彩なサメを生み出す綿原さんの違いであって、どちらが優れているとかいう話ではない。



「血を流さないようにしたのは、ワザとなのか?」


 つぎなる質問をしてきたのはフィスカーさんだ。


「半分はワザとです。ウチの攻撃役はアレが普通ですけど」


「素手に木剣、戦鎚か」


 先生なら貫手、中宮さんなら突きで相手を流血させることもできるけど、今回はあえてそうしなかった。

 魔獣の死骸を『始末』する前提で行動していたので、だから流血を嫌ったんだ。


「こんなところで汚れたくなかっていうのもあります。お試しですけど上手くいきました」


「ヤヅ、君たちが強いだろうことは知っているつもりだが、迷宮を──」


「な、舐めてなんていませんよ。血に塗れなかったら後衛職が十階位なんてなれるわけ、ないじゃないですか」


 ちょっとだけ怒気をはらんだフィスカーさんに気圧された俺は、必死になって言い訳をする。


 言い方が悪かったのは反省しないとだな。だからみんな呆れた目を向けないでくれ。

 新しい陣形が上手く行き過ぎてちょっと調子に乗っただけなんだから。



 さておき、魔獣の『始末』についてだ。これが中々面倒くさい。

 ひたすら魔獣を倒して運べない分は投棄してしまっていたアラウド迷宮と違い、冒険者であふれるペルマ迷宮ではこちらのやり方がある。


 そのひとつが倒した魔獣の扱いだ。


「本当ならネズミくらいなら、倒しても放置しておいて問題ないんですよね?」


「まあそうだね。二層以降は狩場を分けているんだし、一層で階段までの経路上なんて、放置でも構わない。君たちは全部綺麗にしたわけだが」


「『貢献点』ですか。ややこしいですね」


 肩を竦めるフィスカーさんには申し訳ないけれど、俺たちにとっては正直面倒なルールがペルマにはある。


 地上で俺たちが指名依頼した時にも出てきた単語だが、隊や組に対する評価のひとつとして『貢献点』というものがある。

 端的に表現すれば、どれくらい組合に上納したかだ。ああ、反社会的集団みたいだなあ。


 さっき俺たちが依頼料として支払った金額の内、四百四十万ペルマが組合に渡ったわけだが、アレがそのまま『オース組』の貢献点となる。上納金を言い換えただけじゃないか。

 それはさておき、冒険者として真っ当に活動した場合、一番の貢献点となるのが迷宮素材の持ち込みだ。そのための冒険者なんだし。


 ならば『持ち帰れなかった素材』はどうなるのか。

 時間経過で迷宮に吸われるのなら、なにも問題にはならない。近衛騎士総長のコトを思い出すんじゃないぞ、俺。この場で考えることは別だ。


 話を戻せ。つまりは『ハイエナ』をどう考えるか、だな。

 俺たちが大量の魔獣を倒したとして、運びきれない素材を放置したとする。それを別の冒険者が持ち帰ったとしたらどうなるだろう。

 拾い物をした冒険者が何食わぬ顔で地上に戻り、ソレを納品したならば、そいつらに貢献点が加算される。これがよろしくないのだ。


 実力に見合わない功績なんていうのは、隊や組の評価に対し、邪魔でしかない。

 正当で真っ当、そんな数値を冒険者組合は必要としている。個々の冒険者、隊、組がどれくらいの能力を持っているかを様々な角度から判定したい。それが評価のあるべき姿だからだ。



 アラウドで迷宮泊をした時に、余った素材をミハットさんに流したコトを思い出すなあ。

 アレはここ、ペルマではやってはいけない行為になってしまう。


 なので冒険者たちは組に所属し、食えないメンバーを運び屋として使い、育て、そして稼げるようにしていくのだ。四階位から六階位くらいの冒険者がそうして生きているらしい。

 これもまた組が存在する理由であるし、力さえ身に付ければ、個人としての評価もついてくる。


 一層のネズミ程度なら大した問題にはならないのだけど、今回俺たちはこの件を意識するために、あえて死骸を水路に投棄した。アラウドでは壁に寄せて放置だったんだけどな。

 なるほど水路の活用法とはこういうのもあったのかと、知った時には膝を打ったものだ。手を洗ったり風呂に入ったのに、排水路として使うとは考えなかった。固定概念というのは恐ろしい。


「君たちがその人数でひとつの組をやるなら、狩りすぎないように気を付けるんだな。やりすぎると運び屋依頼を出すハメになるぞ?」


「やっぱりそうなりますよね」


「ま、本当に『狩りすぎ』ができるかどうかをこれから見届けてやるわけだがね。ほら二層だ」


 フィスカーさんが顎をしゃくって先を示す。


 もったいないお化けにまつわる怪談を階段でしている内に、俺たちは本日の目的階層に到達した。



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