第420話 第一冒険者を発見
更新が空いてしまい申し訳ありませんでした。
手首の不調が治るまで、不定期投降になるかもしれません。あらかじめお詫びします。
「活気あるねえ。こっちに来てから一番じゃあないか」
「どんな食材や料理があるのか楽しみですね」
嬉しさを前面に押し出した声でアネゴな笹見と料理長の上杉さんが語り合っている。
「ワリと普通だなぁ。木造が多いけど、ガラスもしっかりしてるし」
「『外市街』だっけ。そんなに汚いって感じじゃないよね」
こちらは嫌味口調で小太りな田村とメガネ忍者な草間だ。
「メインストリートだって話だし、一本路地に入れば……」
「おいおい兄ちゃんたち、こんなところでどうしたんだよ、って?」
「それだよ野来。絡んできたチンピラどもを返り討ちだよな。もちろん危なそうな道なんて入らないけどな」
「だよね」
そして異世界オタな古韮と野来の会話は、テンプレを相互確認するような内容だった。
草間が言ったように外市街という、要は城壁の外側にある街の太い通りを一年一組は歩いている。
俺たちの引く荷車が並んで四台は通れるような道の両脇には、いかにもな建物が並んでいるのだが、そこは大通りだけあって普通の民家はほぼ見当たらない。
商売っ気があるってことだ。
「面白いわよね。スーパーとかコンビニみたいのは無いみたい」
「昭和の写真とかであったよな。肉屋とか八百屋とか」
「一緒に迷宮から採れるのに、分けて売るって意味あるのかしら」
「加工とか、捌き方とか?」
家がコンビニな綿原さんはそういう視点になるようだった。
答える側の俺は完全な素人なので想像でしか返事ができないのだが、二人でいろいろと考察をしてみるのが楽しいから、これはこれでオッケー。
ちなみに彼女は現在サメを出現させていない。さすがにこんな街中ではマズいんじゃないかと封印中だが、それでも異世界の街並みにテンションが高い綿原さんはサメロスな雰囲気ではない。
なにせ一年一組がこの世界にやってきてから、初めて見る真っ当な街だ。
召喚されて以来、俺たちは建前上アウローニヤの王都にこそ住んでいたのだが、離宮か迷宮ばかりで城下町に出たことなどない。
魔王軍に襲われているわけでもない国だったので、アニメとか有りがちな大々的に勇者のお披露目パレードをしましょう、なんてイベントは発生しなかった。
あのまま王国の戦力として居残っていたら、将来的に帝国との戦争に担ぎ出された可能性もあるが、それって勇者っぽくないしなあ。いや、それなりに勇者信仰のある国だったし、もしかしたら国威発揚とかいう名目でなら……。
そういう展開は女王様が俺たちを追放することで封殺してくれたわけだけど。
旅立ちですら王国の気遣いもあってアラウド湖を渡った漁村スタートで、俺たちは王都の街並みを見たこともないままだ。
旅の道中でもイトル領イタルトは閑散とした村だったし、フェンタ領フェントラーは郷愁を誘う地方の秘境みたいな感じで、栄えているというイメージは皆無だった。
東部の大都市はおおよそザルカット伯爵領にあったはずなのだけど、俺たちはあえてそこを迂回したわけで、本当に真っ当な街並みを見ないままアウローニヤを出てしまったのだ。
オープニングが王城だったのに大き目な街に入れたのは隣国に渡ってからとか、スケールが大きいのやら小さいのやら。
「おい! 武器屋だ、武器屋!」
「マジかっ!」
「すげぇ、剣とか槍とか飾ってある。触らせてもらえるのかな」
「今度だよ。今日はダメだ。今日は真っすぐ移動しないと、スメスタさんに迷惑だから」
なので武器屋があれば大盛り上がりで、藍城委員長にたしなめられるし──。
「あっ、服屋さんだ!」
「えっ、マジマジぃ!?」
「ちょっと、鳴子ちゃん、朝顔ちゃん、列から離れないで」
服屋さんがあれば女子たちが騒ぎ、中宮副委員長に連れ戻される。
要は俺たちはアガっているのだ。さっきも山の上からこの街を見下ろして盛り上がり、今度は現地ときたからな。
ガラリエさんやシャルフォさんたちとの別れは、まだちょっと引きずってはいるものの、だからこそこういうテンションでいる方が健全だと思う。
ちなみにウチの女子たちは戦う系なので、どうしてもスカートを身に着ける機会がない。というか、召喚初日にセーラー服を着ていただけで、以来ずっと騎士服だ。
部屋着や寝巻としてワンピースみたいのを着ていた頃もあったのだけど、談話室で夜間訓練をするようになってからは、ほぼズボンで押し通していた。女子部屋には入ったこともないし、彼女たちのスカート姿がちょっと思い出せないくらいだ。
王城の女性文官さんたちは普通にスカートだったんだけどなあ。
男子たる俺としてはウチの女子たちがどれくらいスカートを着用したがっているのかは、正直把握できない。
本気で興味を持っているのか、それとも単なる賑やかしかなんて判別できるはずもないのだ。
そんなペルマ=タの外市街だけど、人通りは多い。基本的には白い肌をした西洋風な人たちばかり。
革のズボンやフェルト地の上着を着ている人が多くて、スカートも厚手な感じで、わりとカラフルだ。やっぱり迷宮があるだけあって、極端にボロい恰好をしている感じはない。
というか、アウローニヤの王都に住む人たちの恰好って、運び屋以外だと資料でしか知らないんだよな。
この国は三十年前に独立したばかりだから文化とかはほとんど一緒だけど、気温は低い傾向があるらしいからその分厚手なのかも、なんていう想像ができるくらいだ。
「おー、馬デス!」
「ミアは服よりそっちなんだ」
「春だって似たようなもんデス」
「なにおう」
ついには馬車を見かけた野生なミアと、これまたワイルド傾向が強い春さんが不毛な言い合いを始める始末だ。実に楽しそうに。
「馬車、こっちの世界で初めて見たけど、あれって……」
「べつに偉い人が乗ってるわけじゃないよな。荷車引いてるだけだし」
「わたし、馬車ってもっと気品がありそうなのを想像してたのよね」
「帯広の観光馬車、見たことある?」
「一度だけね」
綿原さんと俺の雑談もアガっている。牛もいいけど、馬もいいよな、馬も。
ミアが大声を出して指差した馬車だけど、アレに貴族とかが乗っていたら見事にフラグだったかもなあ。
今回の場合はそんなこともなく、旅の商人と護衛って感じの人たちは全員が徒歩で、馬が引くのは荷車だけ。馬力か人力かの違いで、俺たちと大した変わらない集団ってことだ。
そう、俺たちは目立つ集団ではない。
外市街に入った段階で、すでに似たような隊列を三度は見ているし、関所あたりでもすれ違ったし。
俺たちの装備している革鎧は近衛仕様の高級品ではあるが、使い込まれている。工房長から教わって毎日のメンテナンスは欠かしていないが、それでも細かい傷など数えきれないくらいだ。つまり悪目立ちしそうな新品ピカピカってわけではない。
そもそもこの国の人間が俺たちコレを近衛の装備と見破ることもないだろう。なにせ見たこともないはずなのだから。
さらにはフードを被り、盾は荷車に積んであるので厳めしい感じも出ていないとは思う。
騒がしい俺たちだけど、周囲から冒険者の集団に見えていたら、ちょっと嬉しいかも。
いや、ムリか。どちらかというと田舎から出てきたお上りさんだよなあ、俺たち。
「先生、アレってどう思います?」
「難しいですね。むしろ中宮さんの感想を聞かせてもらえますか。わたしはその……、わりとマンガの影響を受けていますので」
「……戦い方が読みにくい、です。あんな大きな剣」
「盾としての運用もあり得ますね」
「なるほど、捌くんじゃなくて、受ける……」
中宮さんと滝沢先生が物騒な会話をしているが、決して揉め事に巻き込まれたわけではない。
もうちょっとで『内市街』、つまり『街壁』に囲まれた区画と『外市街』を隔てる『街門』に到着というあたりですれ違った、どうやら冒険者らしき六人組の中に、背中にデッカイ剣をもったおじさんが混じっていたのだ。どうして冒険者なのかといえば、彼らの装備がバラバラすぎるから。
で、先生や中宮さんは真面目に相手の戦闘力を測っているようだけど、クラスメイトたちの大半は大盛り上がりである。そこには俺も当然含まれていて、綿原さんの視線が若干生暖かい。
「八津くん、僕、鼻血出そう」
「こらえろ、夏樹」
ゲーマーな夏樹からしてみれば、夢みたいな装備だろうなあ、アレ。
大剣の長さは一メートル五十くらいで、刃渡りでだけでも一メートル以上。なにより特徴的なのは幅が三十センチ以上もあるということだ。近衛標準の片手長剣とは長さで一回り、幅で二回り以上違う。
革の鞘に入れて背中に引っ担いでいるので正確なところは抜いてみないとわからないけれど、あれでペラペラな薄さってことはあるまい。絶対に分厚いに決まっている。
つまり異常に重たいはず。最早階位というか、外魔力を前提とした武器だよな。
地球人なら持ち上げるだけで一苦労しそうだ。
「鈍器としても十分だよな」
「夢が足りないよ。鎧ごと叩き斬るって、そういうのを想像しよう」
「鎧着てる魔獣なんていないだろ」
「八津くんって異世界好きなワリに、変なトコで現実的だよね」
すまない夏樹、俺も好きなんだけど、ツッコミが先に出る方なんだ。最近自覚してる。
「カッコいいよね! すごい!」
「ちょっと鳴子、声おっきいよっ」
「なかなかのツワモノと見まシタ!」
「ミアもっ」
大きな声を出したロリっ娘な奉谷さんを笹見さんがたしなめるけど、ミアが被せてそれを台無しにした。
相手に聞かれてたらヤバいんじゃないか? 絡まれるとか。
などと思ってしまったのが失敗だったのかもしれない。彼らは俺たちの車列から数メートル離れたところで立ち止まり、こちらを振り返った。
男四人に女の人が二人の六人で、下は二十代の半ばから上は三十くらい。グレーのマントの下は濃灰色の革鎧だった。アウローニヤだったら不敬で取っ捕まりかねない。
年齢と性別を判別できたのは、俺たちと違ってフードを被っていないので顔が丸見えだったからだ。
しかもなんと六人のうちの二人は『髪が黒い』。あれが噂で聞いた勇者ごっこか。普通におじさんたちなんだけど。
そんな六人パーティはじっと俺たちの方、というか大声を出した奉谷さんやミアをじっと見つめ──。
そこから恥ずかしそうに表情を崩して、それでも笑って片手を挙げた。あからさまに嬉しそうなんだけど。頬が赤くなっていて、照れているのが丸わかりだ。
ほんの数秒こちらに手を振った彼らは、そのまま立ち去って行ったわけだが……。
「絶対子供に褒められて嬉しかったってだけだよな、あれ」
去って行く彼らをポカンと見つめていた古韮が、クラス総意を語った。
俺たちはフードで顔こそ隠しているものの、身長や体格を見れば子供の集団だとすぐにバレる。
ましてや奉谷さんなどは百五十に届かないちびっ子だ。
「あ、あれは、そうだな。経験豊富で実直な冒険者とみた。たぶん後輩とかにも慕われているタイプの」
「う、うん。絶対近所の子供たちの憧れだよね」
「いぶし銀って感じ」
なんともいえない空気を、俺と野来、そして異世界モノを知る白石さんでフォローしていく。
いまさら子供扱いされて落ち込むような奉谷さんでもないし、ミアに至っては歯牙にもかけないけれど、いちおうな。
むしろ俺がこうして褒め称えたのはあの人たちへの気遣いだ。だって本当にいい人そうだったし。
「ここの冒険者はあんなものですよ」
道中黙って俺たちの様子を窺っていたスメスタさんが、笑いを堪えるようにしながら教えてくれた。
「そうなんです?」
「ええ。中には荒っぽい人もいますが、彼らの本領は迷宮の中にあるのですから」
「迷宮の中、ですか……」
委員長の問いにも、スメスタさんの返事は明瞭だ。しかも嬉しそうにしている。
なにしろ、それを聞いた一年一組の目が輝いているのだから。
そうか、ペルメッダの冒険者はそういう人たちなのか。
◇◇◇
「みなさんには楽しくないかもしれませんが、今晩の宿泊はアウローニヤ大使館ということでお願います」
「……はい、構いません。こちらこそお気遣い、ありがとうございます」
さっきの冒険者談義とは一転、スメスタさんが苦笑交じりに今夜の宿泊場所を教えてくれたのだけど、ここまでの道中で観光ついでに聞かされた大使館の現状に、委員長の返事はどことなく乾いている。
「ご安心ください。元大使はすでに拘束し、しかるべき場所にて監禁されています。みなさんの目に入ることはありません」
せっかくの異世界旅なのに『何のトラブルもなく』街門の内側に入った俺たちに、スメスタさんは黒い実情を教えてくれた。
一時間くらいを掛けて賑やかにペルマ=タの外市街を楽しんだ俺たちを待ち受けていた巨大な街門は、スメスタさんのお陰でほぼスルー扱いされた。
アウローニヤの外交官特権を笠に、微妙に後ろ暗い気持ちで門を通り過ぎた俺たちはなんだったんだろう。
うーん。通常の異世界モノだったら門でトラブルが発生してから勇者の異常さ、もしくは非常識さが原因ですごいイベントが発生するとか、親切な門番さんがいろいろと教えてくれるシチュエーションなのだけど、アウローニヤの外交官の威光をもってすればなんのその。
おかしいなあ、前科があるかどうか判別できるマジックアイテムに触る予定だったんだけど。そもそもこの世界に、所謂魔道具って存在してないのが大変よろしくない。
『がんばるんだぞ、若造ども。冒険者は夢がある商売だからな』
それはさっき聞いたし俺たちも頑張るけれど、門番さんにしみじみと言われてしまったのがなあ。
設定としてはアウローニヤでの政争に敗れ、全財産を担いで冒険者になるためにやって来た貴族子弟の面々という感じで、衛兵たちは俺たちに哀れみの表情すら見せていた。
どう思われているんだろうなあ、アウローニヤって。冒険者が絶望する国ってか。
こうして起きうるテンプレを次々と踏み潰し続ける一年一組ってなんなんだろうと、ちょっと思うところがある俺である。
「重たい荷物を引かせてしまってすみません。こちらの大使館も入用がありまして、余裕が無い状態なんです」
スメスタさんは機能が半壊している大使館を取り仕切る外交官として、いろいろな意味で金が必要だったらしい。
なので、俺たちが固有資産として持ち込んだほかに、女王様から託されたアウローニヤ大使館用の金に大喜びである。
女王派であるスメスタさんたちにクーデター成功の情報が届いたのは七日前。その知らせを受けたペルメッダにあるアウローニヤ大使館でコトが起きたのが五日前だったらしい。
以前から準備を進めていたとはいえ、大使をはじめとした宰相派の面々は完全に無力化されているというのだから大したものだと思う。
スメスタさんたち女王派は結構前から現地に金をばら撒いて、密かに戦力をかき集めていたらしい。とはいえ冒険者はそういう内輪揉めには手を貸さないので、傭兵団を使ったのだとか。
なんでスメスタさんにそんなことができたかといえば、女王様から個人的な金が送られ続けていたのが大きい。付け加えれば、女王様ご自慢のペルメッダ経由の帝国との通信網の元締めがスメスタさんらしく、商人や傭兵にしっかりとした人脈があったということだ。
で、戴冠式における人事の詳細と勇者追放の段取りが大使館に伝わったのが二日前だったとか。
とにかく丁寧に対応しろという命令を受けたスメスタさんは、事実上大使館のトップという立場でありながらも、昨日から関所に詰めてまで俺たちの到着を待ち受けていたらしい。
大使館の混乱も終息していないだろうに、なんか申し訳ない気持ちになる話だ。
「元大使らの隠し資産を使って大使館の活動資金を繋いでいるのが実情でして。今回の資金輸送には本当に感謝しているんです。情報を伝える商人と僕が大手を振って会うのも憚られますし、目立ちすぎる金額ですので」
なんで俺たちはアウローニヤ大使館に運営資金を運び込む片棒を担がされているのだろう。
◇◇◇
「ペルメッダ侯王は冒険者で商人です。利を取るのは確実ですから、みなさんが心配するようなことはありませんよ」
街門を潜り、内市街の通りを進む俺たちは、スメスタさんからこの国の王様、侯王様のコトを教わっていた。
外市街と違い内市街は古びた石造りの建物が多く、道も石畳になっている。ヨーロッパの古い町並みってこういう感じかもしれない。
行ったことないし、むしろアニメとかの印象が強いけどな。
街門を潜ってからは大通りを外れたせいで、道幅は外よりちょっと狭くなっているが、人通りは少なく、比較的静かというか、落ち着いているというか。内市街にも一般市民や冒険者が騒がしくしている場所はあるそうなのだけど、このあたりはそうでもない。
すでに城のすぐそばまで来ているので、あたりは貴族の家や、なにかしらの重要施設なんかが多いらしく、道を進むにつれて建物がどんどん大きくなっている感じがする。
ちなみにペルメッダには所謂領主貴族はいないらしくて、公務員的な役職で貴族が世襲されているらしい。このあたりはアウローニヤの文化を引き継いでいるんだろうな。
「侯王陛下はアウローニヤとの繋がりを切るような方ではありません。もしアウローニヤが帝国と名を変えたとしても、同じように交易を続けるでしょう」
「それが商人ってことですか」
「はい。ですから今回アウローニヤで起きた政変についても、侯王陛下はすでに情報を持っていますし、利がある限りは新王陛下の即位を公式に認めるでしょう」
静かな通りにスメスタさんと委員長の会話が響く。
アウローニヤが女王様のモノになっても帝国になっても、か。
ほぼ最速の通信網を持つスメスタさんですら戴冠式が無事終了したと伝わったのが二日前なわけで、今の段階ではペルメッダからの公式見解は出ていないらしい。
「王国との関係を大切にする侯王陛下がみなさんを無下にする理由はありませんし、そもそも冒険者の気質を知る人でもありますから、なおさらです」
「冒険者ってさっきの人たちみたいな?」
「そうですよ、ホウタニさん。迷宮で勇敢に戦い、地上では気さくで善良。侯王陛下はそういう真っ当な冒険者たちを愛するお方です」
「ボクたちもあんな風にカッコよくなりたい、かな」
スメスタさんの話に割り込んだ奉谷さんがニパっと笑う。
どうやら彼女はさっきの冒険者さんたちが気に入ったようで、周りの連中も頷いている。気さくそうだったもんなあ、さっきの冒険者たち。
「みなさんならなれる、などと無責任なことは言いません。ですが、女王陛下から伝えられたみなさんの行いを知ると、むしろ侯王陛下の思惑を超えるような冒険者になるのではないかと、僕は思ってしまいます」
なんかどこかで似たような言われ方をされたような気もするけれど、俺たちはそこまで持ち上げられるような立派な存在じゃないんだけどなあ。
だからスメスタさん、そうやって笑っているとシシルノさんを幻視してしまうのだけど。
◇◇◇
「さあ、到着です。ようこそ、アウローニヤ大使館へ」
ようやくたどり着いたゴールに建っていたのは、巨大な石造りの邸宅だった。フェンタ子爵邸よりもずっと大きいじゃないか。
ところで気になるのは、石と鉄柵で造られた正門前に兵士らしき人が並んでいるところだ。
軽装の鉄鎧ではあるけれど、アレって街門でも見たこの国の兵士じゃないか? それが十人以上。しかも、大盾と短槍を持ったフル装備って感じの。
まさかこの展開って、ようこそ、そしてバカめってやつ?
微笑みを崩さないスメスタさんがいるからこそ、逆に俺たちの警戒感がマックスになっていく。
ハメられたんじゃないかという予感が走るのも当然だろう。いくら女王様の派閥だからといって、俺たちを拉致したパラスタ隊なんている例もあるのだから。
「警戒させてしまったようで申し訳ありません。僕としても意外な展開ですね、これは」
意外と言っておきながら戸惑いを感じさせないスメスタさんに警戒を解けと言われても、そうできるはずがないだろうに。
「スメスタさん、それってどういう意味ですか?」
探るように委員長が問いかける。
「余程興味を持たれたか、それとも……」
口元に拳を当てたスメスタさんがブツブツと呟いているけど、とにかく説明の方をお願いしたい。
「彼らはペルメッダ侯爵家専属の、アウローニヤで言うところの近衛騎士たちです」
「……まさか」
呆れたように大使館の前に並ぶ兵士たちを指差したスメスタさんは、彼らの正体を一年一組に打ち明けた。
委員長をはじめとした何人かが、その言葉の持つ意味に気付く。
噂をすれば影という言葉が頭の中をよぎった。
夕方というにはまだ早い時間なので、門の前に整列した兵士たちがどんな表情をしているのかが、俺には見える。あれは俺たちに対して警戒こそしているものの、敵対者を見る目じゃない。むしろ、値踏み。
「この国を治める侯爵家のどなたかが、大使館を訪問中のようですね。アイシロさんに僕も同意見です」
「侯王陛下が、僕たちを待っているんですね」
「その可能性が一番高いと思います」
俺たちはアウローニヤに召喚された直後に王様と当時の第三王女様と出会っている。
で、ペルメッダに来た初日に、こういう展開になるとは。
勇者補正でも掛かっているのか、ロイヤルな人たちへのショートカットが過ぎないか?