第416話 本当のご褒美
「ホワイトシチュー……、だとっ?」
「スクランブルエッグ……」
テーブルに並べられた料理を見た俺たちは、少しの困惑と、多大なる喜びに包まれていた。
フェンタ子爵邸の食堂にいるのは、ガラリエさんを含めたフェンタ家の家族五人と一年一組、そしてヘピーニム隊を代表してシャルフォさんだ。
給仕をする人もいるけれど、席についているのは二十八人。
お誕生席にフェンタ家の人たちが並び、両脇には相変わらず一年一組が男女に別れて座っている。いつもとちょっと違うのは、人数の関係でシャルフォさんが男子列の一番前にいることくらいか。
コの字型に着席したはいいものの、俺たちは目の前の料理に目を輝かせていて、それを見るフェンタ家の人たちは嬉しそうにしつつも、ちょっと引き気味だ。
なんか申し訳なくもなるが、この段階ですでに俺たちにとっては最上級のもてなしを受けているのに等しい。
ちなみにヘピーニム隊のみなさんは別室で食事中だったりする。
イトル領でもそうだったけど、子爵ご当人が出てくる今回は、なおさら控えに徹するようだ。
フェンタ邸に迎え入れられた俺たちは、真っ先に風呂を所望した。
なにせまる三日も風呂に入っていなかったのだ。体を拭きはしていたものの、迷宮泊ですら風呂を用意するような俺たちにとっては切実な問題だった。
ましてやこれから夕食会なのだ。薄汚れた格好では相手に対し失礼に当たるのだから。もちろん本音は風呂に入りたいだけだったのだけど。
王都から一日のイトル領では俺たちが到着する日程が、ほぼリアルタイムだったからよかったものの、トラブル無しでも四日以上かかるフェンタ領では話が変わってくる。当初から女王様の派閥にいたフェンタ子爵は、ガラリエさんを通じて王都の正確な情報こそ得ていたが、最新のモノというわけにはいかない。
直近で女王様のクーデター成功と、それによって登る者と降る者の大まかなリスト、戴冠式の日程、勇者の出立予定くらいは伝わっていたようだけど、そこまでだ。
それらの情報が届いたのが式典当日の二日前だったというのだから、あんなに派手だったガラリエさんの晴れ舞台すら間に合うわけもない。
なので俺たちの到着にしても、今日か明日かといった風にアバウトにしか把握できていなかったのだ。料理はまだしも、風呂の準備などできているはずもない。
よって俺たちは荷車に積んであった水を全て供出し、一年一組が誇る風呂沸かしトリオ、すなわち【熱導師】の笹見さん、【氷術師】の深山さん、【雷術師】の藤永が全力最短で風呂を用意してみせた。
騎士職が木樽を持ち、空中に水球を浮かべた俺たちが、風呂に向かう廊下を突き進む光景を見た使用人さんたちは、ちょっとビビっていたかもしれない。
男子組が風呂に入っているところにキャスパート君とカルマット君までやってきたので、勇者の活躍なんかより、ガラリエさんの英雄譚を散々吹き込んでおいた。仲の良かった海藤が、とくに。
これでガラリエさんは弟さんたちの尊敬を集めまくることだろう。俺たちは気遣いのできる高一なのだ。
『そうしてガラリエさんは悪い兵隊を十三人も一度にやっつけたんだ。カッコよかったぞ!』
がんばれガラリエさん。
「みなさんが牛乳と卵を好むと聞いていまして、田舎料理で恐縮ですが」
そういう経過があってからの夕食会は、俺たちにとっては最高の贅沢として感じられるものだった。
ガラリエさんのお母さん、アルーテルさんが謙遜をしているが、まさかガラリエさん、俺たちの趣向まで実家に伝えていたとは。ナイスすぎる。
「うん。あたしは辛いのよりも、これくらいの味が好みだねえ」
「ううっ、美味しいよぉ」
「チーズもいい感じデス」
「な、なあ、シチューとごはんってどう思う?」
「草間、やめろそれ。おでんと同じくらい戦争になるから」
「ウチの店、おでん百円セールの時ばかり、みんなが買いに来るのよね。美野里の家の方が美味しいのに」
「『うえすぎ』の看板料理ですから」
とまあ、騒いでも構わないという許しを得た俺たちはこんなノリだ。
ガラリエさんもニコニコだし、家族のみなさんも楽しそうにしてくれている。
とくに子供二人は賑やかな食事が嬉しいのか、大人しい感じのカルマット君までもが良い笑顔でいてくれた。
「美味しいわね。シチューって感じがする」
「ずっとアウローニヤ風だったもんなあ」
綿原さんがモチャっと笑って、俺もそれに笑顔で返す。
アラウド迷宮から離れているせいで、香辛料はお高くつくのだろう。たしかにスパイシーさには欠ける料理ばかりだ。たぶんだけど仕入れる香辛料を厳選して、地元料理に合った種類と分量が使われているんだと思う。
胡椒っぽい味が強く出ていて、それが本当にシチューっぽくていい。
「コレって迷宮のジャガイモ入れたくなるわね」
「鶏肉は地元ので、タマネギは迷宮のか」
俺たちの持ち込んだ物資には迷宮四層の高級食材たるジャガイモもあったりした。
綿原さんとしてはそれを掛け合わせてみたいようだが、さすがの俺たちでも今日くらいは厨房に乱入することはしていない。
俺たちはお客さんで、もてなす側にだってプライドがあるだろうしな。
「みなさんに喜んでいただけて、わたしも嬉しく思います」
「やっぱガラリエさんっしょ。わかってるよねぇ」
心底嬉しそうなガラリエさんに、こちらも素で笑う疋さんがチャラく答える。
聞けば普段はミルク粥に近いらしいが、今回は小麦粉とバターをふんだんに使って、フェンタ領で出来る限りのもてなし料理なのだとか。
所謂地元料理だ。俺たちが王都で生活をしていて、アウローニヤ最高の料理を味わっていたと知っていて、それでなお、フェンタにできる最高を……。
ありがちな話であるのかもしれない。地元の特産品に誇りを持ちながらも、じつは田舎の珍味でしかないのではないかという恐れ。
だけどガラリエさんとはふた月半にも及ぶ付き合いがある。俺たちが心から喜んでいることは伝わっているだろう。
だからガラリエさんは笑ってくれている。
「牛乳と卵をたくさん使えるなんて、いいとこですね、フェンタって」
邪気の無い夏樹がアウローニヤ側からしてみればスレスレなコトを言うが、今日のフェンタ子爵家はそれを誇りにしてくれているような余裕があるのだ。
なにしろこのあと……。そっちはその時に考えるか。今は楽しい時間を過ごしたい。
「あ、あのっ。この卵って生で食べられるんですか?」
「天才か、お前っ」
「いや醤油ないだろ、醤油」
「くっ……」
バカなコトを言い出すヤツもいるが、それもご愛敬だ。俺だって卵掛けごはんを食べたいし。
「養豚もですか」
「数は少ないが馬もです」
偉い方の席ではフェンタ子爵と滝沢先生が無難な会話を繰り広げているようだ。
「大きい声では言い難いのですが、ペルメッダを経由して帝国から少しずつ」
「……なるほど」
無難かどうか怪しいか。
どうやら当代のフェンタ子爵は中々のやり手なようで、帝国から豚や馬まで買い取って、そっちも育てていく野望を持っているらしい。
べつに法律違反ではないし、迷宮から離れたこの領地を栄えさせる手としてはアリなんだろう。
酪農王国フェンタか。悪くないフレーズだ。
「資金もどうにかなりそうで、みなさんには感謝してもしきれません」
「……いえ」
常に敬語を崩さないフェンタ子爵、ダイキスさんは、そこですっと目を細めてみせた。
生臭い話題と知っている先生は軽い返事をするだけで、子爵もそれ以上は踏み込まないし、話題も明るく領地開拓に向けてになっていく。
そういえば罪人になったベリィラント隊の一部を開拓部隊にして送り込むなんて話もあったっけ。
さて、ガラリエさんが一年一組の旅に同行してくれたのはフェンタ領までの道案内を買って出てくれたからだし、男爵という肩書を持って故郷に錦を飾るというのもあった。
もちろんガラリエさんは俺たちとの旅を大切にしてくれてはいたけど、フェンタ子爵家の一員として、なすべきことをするためにここまでやって来たというのが本来だ。
それくらい、彼女にとって本当に大事な仕事がこれから始まろうとしている。
◇◇◇
「こんな時間にお呼び出しとは、どのようなご用件ですかな」
夜遅く、とはいってもまだ夜の九時くらいだけど、フェンタ子爵邸の応接室に呼び出されたそのおじいさんは、とても態度がよろしくなく、機嫌も悪かった。
さっきのお出迎えの列にもいたんだよな、このおじいさん。すっごく面白くなさそうな顔だったけど。
バーント・ヒア・バイレル男爵とかいう名前のおじいさんは六十を過ぎているように見えた。髪は真っ白で顎からは長い髭を生やした姿は、どこか宰相を思い出させる。イヤな思い出だな。
しかもこれから楽しくない話をすることになるのだし。
フェンタ子爵領に定住する人たちの中で一番のお金持ちはフェンタ子爵ではない。
大農家でもなく、デカい商会でもなく、目の前にいる白髪のおじいさんが跳び抜けて一番なんだとか。とか表現すると金貸しでもやっているのかといえば……、それもしているそうだけど、この人には資金源があるのだ。
バイレル男爵はフェンタ領の徴税官で、所属は王国財務部ということになっている。
ちなみにお住まいになっている場所はフェンタ子爵邸の離れで、実質この家の住人だな。家賃は払っているのだろうか。
おじいさん男爵を呼び出した応接室にいるのはフェンタ子爵、ガラリエさん、滝沢団長、藍城副団長、中宮副団長、そして俺。なんでこういう話になると俺を参加させようとするのかなあ。うそ発見器みたいな扱いなんだけど。
今頃キャスパート君やカルマット君たちと戯れているだろうクラスメイトたちが羨ましくて仕方がない。綿原さんのサメが乱舞しているんだろうなあ。
この場には政治的な話になれば参加しそうな上杉さんや田村、綿原さんがいないし、シャルフォさんすら同席していない。
それくらいクローズで、そして話し合いの余地がないくらいの、いっそ通達と表現べき場だ。『緑山』の幹部が出席しているのは、立会人としての肩書が必要だからにすぎない。
だから俺の存在は要らないのだけど。
それともアレか、俺は歴史の語り部みたいなポジで、エピローグでなんか語っちゃう系のキャラなんだろうか。死亡フラグが立たないのは助かるけれど。
「フェンタ子爵閣下、あなたのお嬢さんに物事の道理を教えてあげてはどうですかな」
コイツの言い分は、ここの徴税官は代々自分のものだと、ガラリエさんにそんなことも教えていないのかという嫌味を存分に含ませていた。二十七だか二十八年くらい前にご当人が着任したんだから初代なのに。
まあガラリエさんが一方的に告げた内容があまりにアレだったので、男爵がそう言いたくなる気持ちもわからなくもない。
それでもフェンタ子爵は目を細めて黙ったままだ。全てをガラリエさんに任せるという態度を崩さない。
「たかが男爵風情のわたしが陛下の名代を名乗ることなど、できるはずもありません」
「で、あろうな」
中央で女王様にへつらって、たまたま成功したご褒美に男爵にしてもらえたフェンタの娘。バイレル男爵からすればガラリエさんはそういう扱いなのかもしれない。
違うんだよな。ガラリエさんの目標は、本当に貰うべき褒美は。
「ですが、この件についてのみ、わたしは強制執行権限をいただいているのです」
そう言ってガラリエさんが広げた羊皮紙には王国印と女王のサインがあって、ついでに内務卿ラルドール伯爵閣下、つまりアヴェステラさんのサインも入っていた。
「アウローニヤ・ペルメッダ間における関税管理権と通行税徴税権はフェンタ子爵家に移行されます。これは畏れ多くも女王陛下御自身による裁可です」
「ば、ばかな。いきなりそこまで、そこまでするのか……」
今日の昼間、ミレク一党をとっちめたばかりのガラリエさんが、またもやご老公モードになっているのだけど、こっちはド本命。ヤルパーン隊の一件は完全にイレギュラーだ。
そう、これこそが、ガラリエさんにとって、フェンタ子爵家にとって最大の報奨である。
「十日以内に新たな徴税官が到着する予定になっています。わかりますか? バイレル卿。あなたのすべきことはこの場で喚くことではなく、中央に戻ってからどう立ち回るのか、なのです」
「儂はこの地のっ──」
「バーント・ヒア・バイレル男爵は現状の任を解き、一族郎党すべてに対し、陛下から召喚命令が下されています。まさかとは思いますが、抗うのですか?」
ババンと効果音が聞こえるようなノリでガラリエさんは宣言してみせた。
ぶっちゃけガラリエさんが男爵になったのも、戦隊長になったのも、オマケとまでは言い過ぎだけど、それは個人に対してのご褒美だ。給料はとてつもなく上がったらしいけど、苦労に見合うものかどうかはこれから次第だな。
そして当時の第三王女派に入る証明として、人質同然に長女たるガラリエさんを近衛に送り出したフェンタ子爵家そのものに対する、女王様からの直接的な褒美がこれになる。
ペルメッダとの交易に伴う関税管理権と通行税徴税権。ペルメールの乱とその後の国交回復の際にフェンタ家が持てるはずだった権利が、三十年越しに本来の場所に戻ってきた。
バイレル男爵が中央から任命された徴税官だとしても、新王たるリーサリット陛下が認めないならばどうしようもない。しかも叩けば埃がいくらでも出てくるような小物だ。
ペルメッダと国境を接するフェンタ子爵領フェントラーを物資が通過する際に、二つの税金が課せられている。
ひとつは品目ごとに国家間協定で決められている関税。これは出ていくモノについてはスルーだが、ペルメッダからアウローニヤに入ってくる輸入品に掛けられる税金だ。
名目上は国家財源と王室財源に振り分けられることになっている。
もうひとつは都市通行税、通称通行税。宿泊や荷物の積み下ろしをするような規模の都市を通る時に掛けられる税金で、こちらは地方領主の取り分になる。イメージとしては関所かな。
たとえばザルカット伯爵領なんかでは三か所の街で徴収されているし、キャルシヤさんのイトル領でも俺たちの宿泊したイタルトは通行税が必要な街だ。イタルトについては、キャルシヤさんのツテと女王様特権で顔パスだったけどな。
北方ルートはそういう税金のかからない抜け道にも使えるが、道が悪い上に時間がかかる。
当然それだけ人件費やら食料やらが必要になるわけで、だったら通行税を払ってでも主街道を通った方が安上がりになるという寸法だ。
まるで俺たちが密輸したように聞こえるな、この表現。
で、現状のフェンタ領なのだけど、関税徴収手数料と通行税の一切が入ってきていない状況なのだ。
全部先代フェンタ子爵、つまりガラリエさんのお爺さんが三十年前に起きたペルメールの乱でやらかしたのが原因なのだけど、関税は当然として、関税徴収に関わる業務手数料と通行税は王家と行政府の財源に組み込まれている。
さらには中央から送られてきた徴税官、つまりバイレル男爵と、王都にいる財務卿やら宰相やらのポケットにも。
新しい女王様が誕生したからややこしい表現になるが、先々代の王様がそういう書類にハンコを押してしまったのだからどうしようもない。
力のある領主貴族なら反乱を起こしていたレベルというのが、歴女たる上杉さんの談話だった。
「三十年前、フェンタは破れ、あなたは勝ち組としてこの地にやってきました。こんどは負けの側になっただけ。それだけのことなんです。受け入れてください」
政争に負けたんだから諦めろと、ガラリエさんは言う。王城でのクーデターを経験した彼女の目はガチだ。
もしかしたらバイレル男爵は政権が変わった程度で、すぐにこんな地方にまで手が回るとは考えていなかったのかもしれない。
ましてや自分が取り仕切っているのは『王家』に入金している関税なのだ。新たな女王様からしてみれば、余計な手間をかけないで済むぶん、これまで通りの方が都合がいいまである。
いかなフェンタが勝ち組になったからといって、厳重注意や取り分の変更くらいはあっても、役を解かれるまでは想像していなかったのかもしれないな。
いや、現実逃避的希望的観測とでもいうべきパターンか。とてもありがちだし、俺も気を付けよう。
なんにしても、目の前にいるじいちゃんはやりすぎた。
関税徴収手数料や通行税はもちろんのこと、関税そのものにまで手を付けていたのだ。
この手の中抜きの基本は、王家や行政府に入れる金額はそのままにして、お目こぼし代として上役にも利益を渡して、そして自分の取り分は増やすものだけど、自分の人生で使い切れないくらい貯め込んで何をしたかったんだろうな。
初代とはいえどうせ役職は世襲なのだし、やっぱり帝国に落ち延びるための金策なんだろうか。
迷惑な国だよな、帝国って。バイレル男爵のことはちっとも可哀想だとは思わないけど。
というわけで女王様の判断はこのおじいちゃん男爵の解任。真っ当よりちょっとグレー寄りな程度の人だったら女王様だって脅しをかけて自分の手駒にしたかもしれないが、宰相に近すぎて、そして悪質だったのがアウトだ。
もちろんフェンタ子爵家に溜飲を下げてもらうためというのが一番デカい理由となる。
中央に戻ったら爵位は剥奪、下級文官でもやらされるのがオチかな。あの女王様なら有効活用してくれるだろう。
「あなた方バイレル男爵家がお住いの離れでは、現在王都軍ヘピーニム隊が調査を行っています」
「貴様あっ! なんてことをっ!」
「繰り返しになりますが、わたしは本件について強制執行権限をいただいていますので」
完膚なきまでにトドメを刺しにいくガラリエさんだけど、数字についてはアヴェステラさんが事前に調査を終えているので、シャルフォさんたちがやっているのは新たな実態を見つけるというよりは、証拠の押収といったところだ。ついでに私財の没収も。
やっと活躍ができるとヘピーニム隊のみなさんが張り切っていたから、コトはつつがなく進むだろう。強いぞ、ヘピーニム隊は。
これが終われば特別報酬として、ここまで運んできた高級ワインがガラリエさんから贈られるらしいし。
「お父様、フェンタは生き返ります。わたしが王都でお会いした陛下の治世であれば、たとえアウローニヤが帝国に降ろうとも、それでも必ず」
「そうか……、それ程のお方だったか」
「はい」
崩れ落ちたバイレル男爵を他所に、フェンタ親子は感極まったようにお互い静かに涙を流していた。
それを見る一年一組サイドは、大の大人が微笑みながらハラハラとこぼす涙に総じてドン引きである。とくに中宮さんは顔に出すぎだ。俺もだろうけど。
とにかくこれでフェンタ領には生き残る余地ができた。牛を育ててしぶとく生き延びてきた迷宮の無い土地に、財源という強力な武器がもたらされたのだ。
関税そのものなんかではない。あくまで関税徴収手数料と通行税であって、しかも中央から迎えた徴税官に給料だって払わなければいけないのだけど。それでもだ。
フェンタ子爵領は領主貴族が持つべき真っ当な徴税手段を取り戻し、面子を保つとともに貧弱な領地経営をマシな状況にすることができるようになった。
俺としてはその財源を元に、是非ともこの地に酪農天国を築いてもらいたいと思うのだ。ワリと本気で。