第395話 彼らの教官
「しぅぅぅっ……、しゃっ!」
中宮さんの剣が走る。地面スレスレまで低く沈んだ体勢から振り上げられた木刀が、途中で軌道を変えて突きへと変化したけれど、それはヒルロッドさんの盾に弾かれた。
「そうだね、ナカミヤ。君は意味なく無駄な空振りなどをすることはない」
「しゅあっ!」
「ならこの体勢からあり得るのは、軌道を変化させた突きになる」
大きく、それでいて油断をしていない後退をヒルロッドさんは選択した。
どんな技があったとして、魔力や技能が存在する世界であっても、物理的距離はどうしようもない。
ただ数歩うしろに引いたヒルロッドさんに、中宮さんは有効な打撃を繰り出せるワケがないのだ。
「俺にはどうしたらそんなことが可能なのか、その理屈が理解できていないんだよ。けれど結果は知っている」
ヒルロッドさんの間合いは、恐ろしいくらいに適切だった。
常識と思えるよりさらに二歩、俺の知る限りで中宮さんの剣が届く範囲のさらに半歩うしろ。あれこそがヒルロッドさんなりに彼女に対応するための間合いなのだろう。
「随分と喋りますね。けれどここからでも届かせるのがわたしの剣です」
「俺は教導騎士だからね。語るのも仕事なのさ。来るといい」
自分の剣の間合いを完全に外された状況でも、中宮さんに焦りはなかった。むしろ罠に嵌めたとばかりに笑うが、ヒルロッドさんも余裕を崩さない。
「しゅぅぅ、しゃうっ!」
再び下段からの振り上げが放たれた。まるで絨毯の上を滑るように体をブレさせた中宮さん渾身の一閃は、さっきよりも速くて深い。
足の裏と指すら移動手段にしてしまう中宮さんの踏み込みは、一気に間合いを潰し、さらにはヒルロッドさんの盾の位置と繰り出されるだろう剣の軌道すら読み切って、黒い木刀がその隙間を抜けるコースをなぞっていく。
中宮さんの勝ちだ。これは、当たる──。
「おお、あああ!」
なのに、叫ぶヒルロッドさんの振り下ろした木剣は、中宮さんの木刀を両断していた。
そんなことを可能としたのが俺の見えていた魔力の色。ヒルロッドさんは【大剣】と【鋭刃】の組み合わせ、中宮さんの使っていた【魔力伝導】を突き破ったんだ。熟練を積み重ねた剣技系技能が木剣を鋭く巨大な凶器と変えていた。
わからないのは、どうやってヒルロッドさんが中宮さんの木刀に剣を当てられたのか。
「あ」
あまりの速度で行われた攻防に誰もがセリフを言う暇もないが、一言ぐらいなら息も吐ける。
ヒルロッドさんの肩から先の魔力が濃いままだ。あまりに怪しいとは思っていたが、あれはまさか局所的な【剛力】か。
戦闘の直前に頭部の魔力が濃くなった中宮さんはたぶん【一点集中】を使っていて、そして右腕だけのヒルロッドさんは【剛力】を掛けていたのだろう。
今なら狙いがわかる。疑似的に『体全体』の筋力を上げる【剛力】を局所に集めて、ヒルロッドさんは普通では考えられない速さで無理やり剣を動かしたのだ。
中宮さんの木刀が人体を知り尽くした技術なら、ヒルロッドさんは魔力で体をねじ伏せたとでも言うべきか。
そんな技能の使い方をするヒルロッドさんも凄ければ、そうでもしなければ中宮さんの木刀に自らの木剣を合せることができなかったという事実も恐ろしい。
「じゃぁぁぁあ!」
だがそんなことで止まるような中宮さんではない。
すかさず用を足さなくなった木刀から手を離し、右手でヒルロッドさんの盾を掴んで押しのけながら、距離を詰める。
以前見たことのある状況、俺たちが拉致された時に滝沢先生がヴァフターを倒した形に似ているだろうか。ここからは、剣の間合いの内側での攻防だ。
とんでもない動きで中宮さんの木刀を叩き斬ったヒルロッドさんの剣は、床スレスレの位置まで振り下ろされていて、さすがにそこからの切り返しにはムリがある。一度あの剣を見た中宮さんがそれを想定できないはずもない。
「しゃぁっ!」
右手で相手の大盾ひっ掴み、左足を大きく踏み込んだ中宮さんは、そのまま左拳をヒルロッドさんの肩……、むしろ腋の辺りに叩き込んだ。
ただの握りこぶしではない。中指だけ第二関節で曲げることでそこを尖らせている、たしか『中高一本拳』。空手の流派ではありがちらしいが、当て身を内包する『北方中宮流』でも普通に使われる拳の形だ。
「ぐぅっ!」
「がっ!?」
おそらく中宮さんはソレをトドメ一撃としては考えていなかったのだろう。一瞬でもヒルロッドさんの効き手を鈍らせれば、くらいの手筋だったはずだ。
なのに、両者はほぼ同時にうめき声を上げた。
ヒルロッドさんにダメージが入るのは理解出来る。わかっていても喰らわざるを得ない攻撃だ。だけどなぜ中宮さんまでも。
「は?」
そしてまたも俺の間抜け声だ。
ヒルロッドさんの肩のあたりだけ、魔力の色が濃い。さっきは腕全体だったのに、いつの間にか。
「【頑強】を集めたんだよ」
「……参りました」
手を開いて木剣を取り落とし、右腕をだらりと下げたヒルロッドさんがそう告げれば、首筋に大盾の縁を押し付けられた中宮さんが降参を宣言した。
「感想の前に治療かな。ウエスギ、タムラ、頼めるかい? ナカミヤは指を折っている」
「ヒルロッドさんは右肘の靭帯よ。ついでに腋かしら」
お互いに相手の負傷箇所を指摘しながら、苦笑を浮かべ合うヒルロッドさんと中宮さんは、なんか滅茶苦茶カッコ良かった。
◇◇◇
「ナカミヤ、強いて君の失敗を挙げるなら、【魔力伝導】ではなく【剛剣】を使うべきだった、くらいかな」
くたびれたように絨毯の上であぐらをかいたヒルロッドさんが、一本だけ指を立てて言った。
「はい」
対する中宮さんは、ビシっと背筋を伸ばした正座で対面に座っている。
まさに師匠と弟子って感じだな。映画に出てきそうなルーズなタイプな師匠が出てくるやつだ。
それぞれ【聖導師】の上杉さんが中宮さんを、【聖盾師】の田村がヒルロッドさんの怪我を治療して、そこからは激闘の講評だ。
二人を取り巻くようにクラスメイトと担当者たちが二人を取り囲んでいる。女王様などは頬を赤らめ嘆息すら混じっているような。
さっきの戦いが余程カッコ良く見えたのかもしれない。
「熟達者の【大剣】と【鋭刃】ならば、折ることができなくても、斬れる。君たちも知ってのとおり、薄さを意識した【大剣】は【鋭刃】と相性がいいんだよ」
「身に沁みました。まさか芯ごと斬られるなんて。【魔力伝導】で散らせると思ったわたしの甘さです」
「ああ、いやナカミヤ、そこまで畏まられると、続けにくいのだけど」
「いえ。全てを、お願いします」
「そ、そうか」
なぜ教える側なヒルロッドさんが気圧されているのかは謎だけど、それくらい中宮さんはガチ真摯だ。口調からしていつもよりさらにお堅い。
元々武術に対しては並々ならぬ感情を込めていた彼女のことだ、余程思うところがあったのだろう。
「これまで対戦してきた実力者は君を殺そうとしていなかった。違いはわかるね?」
「はい。手加減とは違うのでしょうけど、致命傷を避けるための手段を選んでいたんだと思います」
「そうだね。近衛は仕事柄捕縛も重視する。もちろん守護が第一だが、殺してしまえばそこまでだからだ」
ヒルロッドさんの語る内容は、すごく怖い世界な話になっているが、なるほどと思わせるものがある。
俺たちは勇者で、生かしておいてこそ価値のある存在だから、そういう扱いをされていたということか。本気の殺意なんて総長との戦いの、しかも最終盤になってからだけだったものなあ。
こんな物騒な単語が飛び出す講釈なんて、【平静】でも使っていなければやっていられない。武闘派な中宮さんはマジ顔だけど、気弱連中はむしろげんなりとしているくらいだ。
「それとこちらの勝因だけどね。俺も君たちと同じく考えたということだ。さて、前提からにしようか。さっきみたいな戦い方は近衛同士では意味が薄い。わかるかな? ナカミヤ」
どうやら苦言はそこまでだったらしく、続けてヒルロッドさんがどうして勝てたかに話が変わるはずだったのだけど、けれどその前にもうひとつあったようで。
「【頑強】【強靭】【硬盾】【剛剣】……、ですか」
「そうだ。優秀な騎士はそういった技能を瞬発的に、そして偏在すらさせてくる。【鋭刃】は相殺されやすくもあるんだよ」
「あの、ヒルロッドさん、もしかして」
「ああ。俺はさっきの戦いで【頑強】と【剛力】を偏らせて使った。これでも二十年来の騎士だからね」
やっぱりそういうことだったのか。
ヒルロッドさんの一撃が異常だったのに気付いていた中宮さんが納得の表情になる。同じく先生も。
ほかのメンバーはたぶん気付いてないんだろうな。自分の身体すら壊しかねない、なんかすごい一撃っていうイメージしかできていないんだと思う。ミアはウンウンと頷いているが、それはどっちなんだろうか。
ああ、ここで会話に混じりたい。実は俺、見えてて、しかも推測できましたって。ここのメンツに対していまさら【魔力観察】の性能を隠しても意味ないし。
けれど今は、ヒルロッドさんと中宮さんの大事な会話中だ。武術談義に俺が入る余地はない。あとで誰かにバラそう。古韮か夏樹あたりだな。
「では考え方と技術的な部分のネタばらしだ」
表情を改めるわけでもなく、飄々とヒルロッドさんは続ける。
こういう戦い方の話になると、この人はワリと普通に饒舌になるのだ。権力が絡むととたん弱腰になるのが萌えポイントだな。
「戦闘中の繰り返しになるが、俺はナカミヤの戦い方を知っている。どういう理屈であんなマネができるのかは理解できないままだが、できることの範囲は想定できるんだよ」
「対策を考えていたんですね」
クラスの中で中宮さんの挙動を理屈で説明できる人物など先生くらいなもので、かろうじて俺が見たママを述べるのが関の山だ。ミアとか綿原さん、それと疋さんなんかは感性でこなしてしまうけれどな。
理屈はわからないと言い切ったヒルロッドさんだが、現象だけは把握できる。中宮さんがどれくらいの引出しを持っているのかについてはどうする気だったのかな。いや、だからこそあの間合いか。
あとはそれにどうやって対応するのか考えるのが筋なのは当然のことなんだけど……。
何故か中宮さんの表情は明るい。というか、とても嬉しそうだ。
「たとえ剣を無力化しても素手の追撃があると想定できて、関節が狙われるところまで知れている。それが致命の打撃ではないからこそ受けたんだ。つまりナカミヤとタキザワ先生専用の対策だね。それでもタキザワ先生の【鉄拳】が相手なら、分が悪い賭けになっただろう」
「無理をしてでも剣さえ『墜とせ』ば……、むしろそこからの流れを誘導できる、ですか」
ヒルロッドさんのネタバレを聞き、中宮さんが感じいったように唸るが、なんか違わないだろうか。
普通は剣を斬られた段階で終わってると思うのだけど、なにやらその先があるのが当たり前みたいな内容に、なぜか誰も疑問を挟まない。
なんとも恐ろしい集団なんだけど、俺も素直に馴染んでいるのがなあ。
「これでも【頑強】を集めるのは得意な方なんだ。周囲には内緒にしておいてくれよ?」
「はいっ」
そんなおちゃらけに中宮さんはマジ顔で返事をしているが、この場にはアウローニヤの人もいる。なんといっても同じ騎士職のガラリエさんが。
だけどそんなガラリエさんこそ真剣な表情で聞き入っているあたり、もしかしたらヒルロッドさんは彼女にすら伝えようとしているのかもしれない。
「あとが続かないから一対一限定で、しかも近衛相手だと通用しないやり方だよ」
「わたしのためだけに」
「ああ、これでも勇者の戦技教官だ。簡単に負けるわけにはいかないからね」
対中宮さんのために温めていた戦法なんだろう。
だからこそ中宮さんは感動を隠せていない。十三階位の近衛騎士が、ほかの場面では使えもしない作戦を練っていたという事実。それが俺の胸すらも揺さぶってくる。
「おい、ヒルロッドさんがカッコいいぞ。身を張った対策をしていました系主人公みたいな感じで」
古韮が小声で茶々を入れてくるが、すっごく嬉しそうな顔をしていやがる。たぶん俺もそうなんだろうな。
「長いよ、古韮。それにそこは、まだまだ若い者に負けるわけにはいかないからな系師匠ポジだろ」
「だなっ」
だから俺も思ったことを言い返してやるわけだ。ニカっと笑うイケメンオタの古韮は、やっぱり楽しそうだった。
先生とヴァフターの対決も中々のモノだったけど、タイマンベストバウトというのなら、今回が一番かもしれないな。
これまで何度も離宮の談話室で、中宮さんはとくに熱心に模擬戦を繰り広げてきた。
そんな中宮さんに対して、ミルーマさんは女王様を預けられるかを試しながら守護する騎士を示し、ガラリエさんは魔術と騎士との融合を見せ、そしてヒルロッドさんは騎士の剣を伝えてくれていたのだと、俺は認識している。
一連の集大成と言ってもいい今回の戦いで、ヒルロッドさんは勝ちに出た。
地球に技術があるように、魔力のある世界ならではの戦い方を見せつけながら、あえて勝つことにこだわってくれたのだ。
それこそが中宮さんという気の強い女子に対する最高の教えになるのだと、そう考えて。
とことんまでの教導騎士。これが俺たちの戦技教官、ヒルロッド・キョウ・ミームスさんなのだ。
「さて、大事な得物をダメにしてしまってすまなかったね」
「いえ、これは大切な教えとして手元に残したいと思います」
申し訳なさそうに頭を掻くヒルロッドさんだが、中宮さんは柄とその先十センチくらいになった木刀を、大事そうに胸に抱えながら答えてみせた。
そこまではいいんだ。すごくいい話っぽくなってるし。
だけどここからがすごく微妙なのだ。中宮さんを含めて全員が同じ方向、部屋の一角を見ていたりもするんだよなあ。
なにしろここに入室した時に、ヒルロッドさんは持参していた『二本の木刀』を壁に立てかけていたのだから。隠しもせずに。
「ではこれを君に渡しておこう。素材は一緒だが、芯を太めにして重量が増えている。この方が今のナカミヤになら合うんじゃないかと思ってね」
「あ、ありがとうございます」
どこか引きつった笑みで、中宮さんは二本の木刀を受け取った。斬られた木刀を抱いたのと大違いだな。
こういうのは見えないところに隠しておくとか、せめてラッピングしておくものじゃないだろうか。この世界の常識なのか、それともヒルロッドさんのデリカシーの問題なのか知らないが、なんとも残念すぎる。
なんで【アイテムボックス】っていう技能が無いんだよ。こういう時こそ使いどころだろうに。
とはいえ、クラスメイトたちは笑いをこらえるのに必死だ。
「わたしの生徒のために、ありがとうございます」
そういう空気をなんとかすべく敢然と立ち上がった先生が、ヒルロッドさんに歩み寄り頭を下げる。
がんばれ先生。だから俺もそろそろ笑いを抑えこめ。
「わたしは指導者の立場になったことがないもので、ヒルロッドさんには感謝の言葉もありません」
「君は『先生』……、ああいや、学業の先生だったか」
「ええ。武術指導は手探りのままです」
俺たちの武闘派教師はあくまで英語の先生だからなあ。
大学を卒業してからは英語教師一本で、空手は引退。それからは鈍らない程度に体を動かしていただけらしいし、むしろ武術師範としてなら中宮さんの方が正統なのかもしれないくらいだ。
けれど先生はやっぱり先生であって──。
「タキザワ先生は見事な指導教官だと、俺は思っているのだけどね」
「ヒルロッドさん?」
「教官というのは訓練内容や戦い方を教えるだけでは足りないんだよ。大切な部分、心構えを教え、自ら率先できるかが一番だ。模範たれ、だね。タキザワ先生はそうしているじゃないか」
ヒルロッドさんのその言葉に、先生の顔が一瞬歪む。談話室がおおとざわめき、中宮さんは目を輝かせている。
さすがはヒルロッドさんだ。俺たちの想いを一切の恥ずかしげもなく言い切ってくれた。
「わかってるぅ」
「さすがっす!」
「ヒルロッドさん、かっけぇ」
クラスメイトたちが一斉に立ち上がり、ヒルロッドさんを取り囲む輪を狭めていく。俺もその中のひとりに加わり、さらに周囲にはサメが回遊している。
いい感じな空気になって良かった。本当に良かった。
そう、残念なところもあるけれど、やっぱりヒルロッドさんはカッコいい人なのだ。
◇◇◇
「ミアは【上半身強化】を持っていたね」
「デス!」
「偏在に応用してみるといい。ただし反動がキツいので気を付けることだね。君なら普通にできそうな気がするよ」
そこからは自然とヒルロッド教官による最後の指導の時間となった。
とはいえこの場には女王様もいるわけで、ヒルロッドさんの言葉は短めだ。それでもヒルロッドさんは思いつく限りの言葉を俺たちに託してくれた。
『ヤヅの強みは見切りだ。魔獣に合わせた距離を制御できるようになれ。シライシとホウタニ、ウエスギを守る最後の壁になるんだろう?』
『はい!』
なんてな。
まさか俺が最後の壁だなんて言われる日がくることになろうとは。
「ありがとうございマス! お礼にワタシからヒルロッドさんに名を授けまショウ。『コーチ』デス」
満面の笑みを浮かべたミアの言葉に、談話室の空気が凍った。
なあ、俺は感動の余韻に浸っていたのだけど。ミア、お前なんてことを……。
「ミア、それは……」
「指導者って意味デス」
「いや、そういうコトでは」
さらに室温が急降下していく。ああ、山士幌の北には日本で一番寒い町なんて呼ばれるところがあったっけ。
「いやあ、わたしの『プロフェッサー』とお揃いだねえ。『コーチ』ヒルロッド・キョウ・ミームス卿」
すさまじく嬉しそうに悪い笑顔になったシシルノさんが、場を攪拌しにかかった。なにをしてくれるんだ、この人は。
「いや、俺としては畏れ多いというか、今回は遠慮を──」
「良かったではありませんか、ヒルロッドさん」
「アヴェステラ……」
いつの間にかクラスメイトの輪は解除され、そこに悠々と割って入るように歩み寄りながら、アヴェステラさんが冷たく微笑んでいる。
ちなみにガラリエさん、アーケラさん、ベスティさんまで引き連れているんだよなあ。
ちょっと離れた場所でそれを見守っている女王様なのだけど、微妙に面白くなさそうな顔をしているし。
「ミアさんがせっかく授けてくれた二つ名です。ありがたく頂戴すべきでしょう。わたくし、アヴェステラ・シ・フォウ・ラルドール宮中伯は、そう思うのですが」
「ぐっ」
ここで貰ったばかりの伯爵位を持ち出すくらいにアヴェステラさんはキているようだ。なんかヒルロッドさんが暑苦しいくっころ状態になっているのだけど。
おかしいな、ここはそういう貴族の上下を問わない素敵な場所だったはずなのだけど。
さっきまでの感動に満ち溢れた空気はどこに行ってしまったのだろう。大掃除も終わって、とっくに窓は閉めたはずなのに。