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第394話 最後の夕食とそのあとで



「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


「いえ、お忙しいところ、申し訳ないくらいです」


「勇者様方とお会いできる機会より重要なコトなどあるわけがありませんよ」


「そう言っていただけると」


 夕食のスタンバイが完了したのと同時、時刻は十九時ほぼピッタリに女王様は当たり前のように隠し通路経由で離宮に登場した。


 で、初手は女王様と藍城(あいしろ)委員長との挨拶合戦である。


 女王様が言外にお前ら自分をハブる気だった? と言っているように聞こえてしまうのは、俺の心にあるこのお方への信頼感によるものだろう。



 大掃除は途中で料理班が抜けることになったが、滞りなく終わっている。


 熱水使いのアーケラさんとアネゴな笹見(ささみ)さんが風呂掃除、同じく水を操る藤永(ふじなが)深山(みやま)さんペアがトイレ掃除を担当して、それ以外のメンバーは美化委員の指示に従いそれぞれの持ち場を担当することになった。


 バンバンと開け放たれた窓からは、夕陽に染まりかけたアラウド湖からのなんとも爽やかな風が吹き込み、部屋の空気が入れ替わっていく。宿泊部屋と談話室、食堂なんかでは毎日やっていたことだけど、一気に全部となるとやっぱり違うものだ。

 一年一組がアウローニヤに現れてから七十四日、日付的には日本なら六月の下旬くらいになる。それと同じような気温だなと、ふと思いつき、妙な感傷を覚えたものだ。


 談話室のテーブルや椅子は壁際のままで問題ないとされ、絨毯に残されたキュビ印や壁紙に書かれた身長を測った線は、むしろ勇者が滞在した証として保存されることになるらしい。

 意味あるんだろうか。


 途中で水使いのベスティさんも戻ってきてくれたので、掃除は予定以上のペースで進み、途中からは旅に持っていくブツの確認に時間を掛けたくらいだ。

 そっちの担当は迷宮委員で全般担当な綿原(わたはら)さんと書記的存在の白石(しらいし)さん、掃除があまり好きではない古韮(ふるにら)がメイン。


 三人の指示に従って、保管庫やら武器庫、食料保存庫から物品が次々と談話室に運び込まれた。

 階位のお陰でデカい箱でも楽勝なあたり、見た目とのギャップが酷い。チビっ子な奉谷(ほうたに)さんが自分と同じくらいの体積のある箱を楽勝で運ぶんだものなあ。



 さて、俺たちと一緒に地球から飛ばされたブツは机や椅子を除き全て持って行くことになっている。

 教科書のワンセットくらいはシシルノさんに進呈しても良かったのだけど、他ならぬ当人から遠慮された。曰く。


『君たちの口から直接聞くから楽しいんだよ』


 だそうな。たまにそうして人を泣かせる言葉を放つからシシルノさんはズルいのだ。

 心の中では日本語を解析して知識を得たいに決まっているのに。



 アウローニヤで俺たちに与えられた装備関連は正式に俺たちの所持品ということになった。これも褒美のひとつになるのだとか。

『緑山』カラーの革鎧やマント、メイス、盾、短剣、ミアの弓と矢、海藤(かいとう)のボール、そして綿原さんの珪砂などなど、予備も含めて鎧以外は倍の量を用意してくれた。

 ついでにバーベキューセットや寸胴鍋など、迷宮泊用の備品もペルメッダに持っていく。


 ただし儀礼用の騎士服とフルプレートは返却。持って行っても使い道が思いつかないし、変にアウローニヤ所属的な色合いを持ちたくないからな。


 ちなみに『帰還章』と『昇龍紋』は各自のバッグに入れてある。王国に登録されてしまっている紋章なので、さすがに装備したままというのはマズい。だけどみんなで決めて、勇者担当者たちの色まで入れてあるのだ、手放してしまうのはあまりに惜しいから、せめて隠し持つだけでもということで。

 二枚あるバナー形式のデカい『帰還章』は片方を俺たちが、もう片方は王国に残される。というか、どうやら離宮に飾るようだ。これまた勇者の遺産という感じなのだろうか。


 そういうのがかき集められて、談話室の一角に山積みになったのだが、明日の朝、自分たちで運ぶのは個人で装備できるだけの量と、山士幌から持ち込んだ私物だけだ。



 船で運べるスペースにも限界があるので、持ちきれない装備や食料は荷車に乗せて夜のうちにアラウド湖の東岸に別途用意してもらうことになっている。そういう気配りには感謝しかないな。

 食料について特筆すべきは、アウローニヤに備蓄されている米を積める限り持って行ってもいいと言ってくれたことだろう。最高だぜ。


 そういった別便は木箱に詰め込み、先ほど警備のイトル隊を経由して離宮から運び出されていった。厳重な警備態勢だったのが、これまた気が引ける。



 やるべきコトで残されたのは、明日の早朝に使うキッチン、風呂、トイレの簡単な掃除をすることくらいか。

 元々大したモノを置いていたわけでもないが、アウローニヤから預かっていたたくさんの資料とか本は、これまた木箱に詰められ談話室の一角に置かれていて、そういう光景が引っ越し前日を思い出してしまい、どこか寂しくなるというものだ。


 まあいいさ、やるべきことはだいたい終わった。

 あとは最後の夜を楽しく過ごせばいい。



 ◇◇◇



「ハキオカ様、この短期間でさらに腕を上げましたね」


「お、おう、です」


 女王様がカエルのカラアゲモドキを口にしてお褒めの言葉を述べるが、副料理長の佩丘(はきおか)はいつもどおりに敬語が上手く出てこない有様だ。


 フィルド語での会話でも敬語がたどたどしいというのが、なんとも謎だよな。語尾がおかしいミアもまたしかりだけど。


 食卓になる巨大テーブルの席次はいつも通りで、お誕生席に女王様とアヴェステラさん、シシルノさん、ヒルロッドさん。対面にはアーケラさん、ベスティさん、そしてちょっと顔色がよろしくないガラリエさんだ。パーティで苦労したんだろうか。

 ヒルロッドさんの顔が疲れているのはいつも通りなので、気にはならないあたりが無情だな。


 テーブルの長辺はいつも通りに男女別に出席番号順で一年一組のみんなが座っている。

 つまり俺の向かい側は普段と同じで綿原さん、隣の席は馬那(まな)だ。この配置にも慣れ切ったなあ。



「こちらのヘビタンもいいね。味付けを変えたのかな」


「ええ、いろいろと調味料を試してみたんです」


 シシルノさんは料理長の上杉(うえすぎ)さんを褒め称える。

 女王様がおべっかを使っているとは思わないが、シシルノさんの称賛はストレートに刺さるよな。


 今日の食卓に並ぶのは、量よりも種類が重視されていた。

 女王様も気にしないというのはわかっているので、素材は階層問わず。タンパク質系だけでも一層で取れるシャケのフライモドキがあれば、四層の牛肉一口ステーキ、三層のヘビタン、一口ジンギスカン、二層のカエル、などなどだ。もちろんキャベツやタマネギを使ったスープもあるし、サラダも山盛り。カットされたリンゴやミカンも並び、ついでにパンとライスはおかわり自由といった様相となっている。


 明日の朝食は出発時間が早いということもあって、今日の残りとおにぎりだけになるらしい。

 つまり離宮での食事らしい食事は、これが最後ということだ。上杉さんや佩丘が気合を入れるのもムリはない。


 二人が居てくれたお陰で一年一組は異世界でも日本の料理をイメージできて、食事で悩むことは少なかった。米騒動こそあったものの、今ではそれもいい思い出だな。

 ウチのクラスはいろんなメンバーが得意分野で頑張ってくれているから、こうして笑っていられるのだとつくづく思い知らされる。



「こういった料理をわたくしが好むという風聞を流したいと思っているのです。変わり者の王と呼ばれることでしょうから、折り合いですね。とりあえずは鮭と蛙を好むということにしておきましょうか」


 意地の悪い笑みでシャケとカエルと連呼する女王様だけど、漢字にしたら区別が付けにくいんだろうな、などと俺は妄想したりする。


 さておき、あえて女王様がそう言ったのは、シャケが一層で、カエルが二層の魔獣だからだ。


 王城の貴族たちは階層の深い素材こそ価値があるとして好む傾向がある。上手い不味いとか向く向かないではなく、格式として。

 それもまた文化なのだから口出しをしたいとまでは思わないが、迷宮が荒れているというのが現状だ。女王様としてはダブつきまくっている二層の素材を流行らせたいという思いもあるのだろう。


 四層なんてほとんど手つかずなものだから、ダイコンとジャガイモの価値が高騰しているとか聞くと、なんか切なくさせられる。スーパーの主婦みたいなフレーズに聞こえるんだよなあ。



「それにしてもみんな『ジンギスカン』好きだよねぇ」


 そう言いながら、ベスティさんだって美味しそうにジンギスカンを楽しんでいるようだ。

 それはさておき、途中でパーティを離脱して離宮に戻ってきたようだけど『緑風』関連は大丈夫だったのだろうか。まさかとは思うが、ガラリエさんに全部押し付けたとかじゃないだろうな。


「ペルメッダの三層にも羊が出るみたいですから、まずはそこですね」


 答える綿原さんもこれまたあっけらかんとしたものだが、その言い方だとペルメッダに行く目的がヒツジ狩りに聞こえるんだよなあ。


「わたしとしては迷宮での食事も思い出深いですね」


「迷宮で料理という概念が普通はないからね」


 アヴェステラさんが感慨深そうにヘビタンを口にし、横のヒルロッドさんは苦笑を浮かべている。



 ◇◇◇



「わたしが最初だったんじゃないかな。君たちが勇者と看破したのは」


「あなたのアレは、気に入っただけでしょう」


「そうさ。わたしに見込まれた。それこそが勇者たる重要な資質だろう?」


 シシルノさんが良い笑顔で言い切れば、アヴェステラさんがツッコミを入れるといういつものパターンが展開されている。


 食事も後半になると、これまでの思い出話が増えてきた。

 話題の少ない女王様がちょっと不満そうだけど、それでも興味深そうに聞き入っている。報告書には書かれていないネタもあるだろうしな。


「わたしなんて表情を作るのに大変。ガラリエもよね?」


「ええ。できるだけにこやかにしていようとアーケラさんを真似ていました」


「わたくしですか」


 王国勢がちょっとした裏話をしてみたり。


「僕たちだって疑ってました。ベスティさんなんて、絶対凄腕の斥候だって」


「そういや八津(やづ)が言ってたなあ。ヒルロッドさんが最後に敵になるとか。あの人はそういう雰囲気あるってな」


「ちょっ!?」


「そうなのかい?」


 一年一組からも漏らしても構わない程度の身内話を暴露していく。

 だからって海藤(かいとう)、俺をネタにするなよ。


 飛ばされて来た当初なんてお互いに探り探りだったのに、今ではこうして結構なところまでをさらけ出し合う間柄だ。



「あの、先生。最後の日ですし警備も万全です。今日くらいはお酒を──」


「いえ。これは願掛けだと思ってください。一度だけだからは二度目に繋がり、際限がなくなるのです」


 離宮にはアルコールの類も常備されているのだけど、滝沢(たきざわ)先生は頑なにそれを口にしない。言葉にしないし、飲まないという二重の意味でだ。

 今もおずおずと先生シンパの中宮(なかみや)さんが薦めているが、頑なに我慢を続けるらしい。


「山士幌に戻った最初の一杯はどれくらい美味しいのでしょうね」


「先生……」


 気持ちはわからなくもないけれど、中宮さん、涙ぐまなくても。



「離宮の後片付けなどこちらでやりましたのに。最後まで勇者様らしいといいますか」


「そういう文化で生活してきたということで、納得してください」


「ええ。見習うべき部分は是非取り入れたいと考えます」


 俺たちの大掃除と片付けの話を聞いた女王様は勇者の在り様を絶賛し、卒なく委員長が謙遜するわけだが、こっちとしては高校生のノリだからなあ。


 だから女王様は対面に座るガラリエさんに視線を送らないであげてもらいたい。

 ムリをしてまで『緑風』に変な風習を持ち込む必要はないのだ。ガラリエさんがビクっとして可哀想じゃないか。

 たしかに整理整頓は大切なのかもしれないけれど。


 こんな感じで微妙に政治が混じる女王様の発言以外は、概ね和やかムードで夜は進んでいった。



 ◇◇◇



「お伝えしたいことがいくつかあるのですが、どうやらそういう空気ではないようですね」


 ちょっとだけ呆れたようなアヴェステラさんの声が談話室に響く。


 食事会も終わり、場所は変わって各自がコップに飲み物を入れ、適当なツマミを皿に乗せて、絨毯の上でくつろぐといういつもの一年一組スタイルだけど、その一角からバトルオーラが立ち昇っているのだ。


「腹ごなしにはちょうどいいのかな、ナカミヤ」


「はいっ!」


 気軽に食後の余興のように語るヒルロッドさんに対し、中宮さんは気合満点だ。


 さっきまでの食事会が上杉さんや佩丘によるアウローニヤクッキングの集大成であるならば、今度は武の試し。

 一年一組が誇る武の頂点が勇者担当者のトップに挑む、最後の決戦である。先生は番外ってことで。


 食事中に誘ったのは中宮さんの方からで、受けたヒルロッドさんは苦笑交じりではあったものの、俺には見えていた。

 苦笑の形がいつもと違う。俺もいろいろな人たちを見てきたし、ヒルロッドさん個人の様々な表情も観察した。アレは訓練の時の顔ではない。むしろ、迷宮内で魔獣と対峙したような、戦うヒルロッドさん。


 中宮さんがマジならば、ヒルロッドさんとて本気だということだ。



「わたし、最初に訓練場を見た時に悲しくなったんです」


「憶えているよ。あの時は煽ってしまって悪かったと思っているんだ」


「いえ。ヒルロッドさんが正しかったんだと思います。武は力ありきだというのに、それが理解を超えていたからといって」


「魔力の無い世界の剣技。君とタキザワ先生の技は素晴らしいと素直に思うよ。一階位同士で技能無しなら、まず俺の負けだろうからね」


 談話室の中央で五メートル程の距離を開けた二人の会話にみんなが聞き入っている。


 中宮さんは盾を持たずに両手持ちの木刀一本スタイルで、所謂本気モード。

 ヒルロッドさんは大盾と片手木剣という、こちらもまた基本だからこそ全力を出せる状態なのだろう。


 両者ともが簡易騎士服で裸足という防御無視な状態だが、外魔力ガードは強力だし、そもそも相手に大怪我を負わせるような未熟者でもない。


「十三階位同士で技能も一緒ならヒルロッドさんが上……、って意味ですよね」


「そのとおりだよ。階位が上がれば体の動かし方も変わってくる。技能ひとつで幅も広がる。ナカミヤだけじゃなく勇者の全員がわかっているんだろう?」


「思い知ってます。ありがとうございます、ヒルロッドさん」


「なに、礼には早いさ」


 これが最後の教えだとばかりに、ヒルロッドさんは声を柔らかくした。けれど、表情はさっきのままで、苦笑の中に獰猛さが潜んでいるのが見て取れる。



「ナカミヤが十一階位で俺は十三階位。けれども技能の数ならそちらの方が多いくらいだし、いい勝負ができると思うよ」


「先生はヴァフターに打ち勝ちましたし、わたしだってファイベル隊の十三階位に勝利しています」


「確かにそのとおりだね。だが違うんだよ。俺は君を知っている」


「それでもです」


 そろそろ試合開始かとも思ったのだけど、二人の口数は妙に多い。しかもこれ。


「おい八津、なんか雲行き怪しくないか?」


「やっぱり海藤もそう思うか」


 横にいた海藤が戦場を見つめたまま小声で俺に語り掛けてきた。


 ヒルロッドさんはさておき、中宮さんが熱くなってないか?


「もしかしてヒルロッドさん、煽ってるのかよ」


 感嘆するように海藤がこぼす。ヒルロッドさんがそこまでするのか、と。


 いつも通りの口調で、だからこそ中宮さんには効果アリなのだろう。

 これがあからさまな敵なら、むしろ中宮さんは冷静になるのかもしれない。けれども相手はヒルロッドさんで、これは模擬戦だ。


「とっくに戦いは始まってマス。あれだから(りん)は甘いんデス」


「ミア?」


 海藤のさらに向こう側でふんぞり返って腕組みをしたミアが、わかったようなコトを言ってくる。


 目はマジくさいけれど、こういう時にミアの言うセリフは本当かネタなのか、判別が付けにくくて困るのだ。



「八津くん、ムリじゃなければだけど……」


「だな。ちょうどいい。やってみる」


 海藤とは反対側で俺の横に立っていた綿原さんが、躊躇しながらも提案をしてきた。


 言葉が短くても、彼女が言わんとしていることはわかる。

 実力者二人が技能を使おうとしているというのも、俺のテンションがアガっているのも合せて、ここでこそだろうな。


 保険のために【平静】を使いながらも、俺は【観察】と【視覚強化】、そして【魔力観察】を動かした。


「……どう?」


「大丈夫。イケる。妙な感じもない」


「それなら……、良かった」


 心配そうにこちらを窺ってくる綿原さんに、俺は笑い返す。

 ムリしているのがわかる、みたいな嘘くさい笑顔にならないように気を付けてだ。本当にムリはしていないのだけど、意識してしまうと逆に変顔になりそうで。


 俺を覗き込む綿原さんアンドサメが三匹。これはどういう包囲網なんだろう。

 横では海藤が呆れた顔をしているし、ミアはソッポを向いてしまった。


 さて、総長の影を見てしまって以来の【魔力観察】だけど、考えてみれば地上で使うのは初めてになる。検証を旨とする俺たちとしてはあり得ない話だよな。



「地上だとこうなんだ」


「どんな感じなんだ?」


 綿原さんと同じく俺のコトが気になっていたのだろう、海藤が聞いてくる。


「人の色は変わらない。床は……、迷宮よりほんの少しだけ薄い赤紫、だな」


「その心は?」


「お前なあ。赤紫は魔力そのものって感じなんだと思う。まてよ? だったら魔獣は」


 考えを放棄したような海藤にツッコミを入れながら、俺は考察を始める。


 迷宮は赤紫の魔力に包まれ、魔獣もそうだった。そして談話室も迷宮程濃くはないが、赤紫。

 やっぱり魔獣って、そういうことなんだろうな。これはあとでシシルノさんとお話タイムだ。


「八津くん、それより体調の方。続けてても大丈夫なの?」


「大丈夫だ、綿原さん。気持ち悪くもないし、心も辛くない。今さっき【平静】を切ったけど問題無しだよ。技能もちゃんと動いてる」


「そ。……良かった」


 技能の効果がどうしたではなく、ひたすら俺の身を案じてくれている綿原さんに、本当を伝える。

 やっと納得してくれたのか、綿原さんの口調はいつものノリに戻ってくれたようだ。サメも彼女の周囲に戻って元気に泳いでいる。


「ミア、大丈夫だ。心配かけたかな」


広志(こうし)が大丈夫なのなんて、当ったり前デス」


 さっきからこちらをチラ見していたミアにもいちおう一声は掛けておく。

 ニカっとヤンチャに笑うミアは妖精顔なのに、なんでそんなに似合うんだろうな。美少女補正はズルいというヤツか。



「それよりもあっち、だな」


「ああ」


 俺の様子に安心したのか、再び中宮さんとヒルロッドさんの対峙する方に目を向けた海藤はマジ顔だ。


 もちろん俺もそちらに集中する。なるほど目のあたりの魔力の色が濃いのか。【視覚強化】を使っているってことなんだろう。

 技能を使ってこない魔獣より、【魔力観察】は普通に対人戦闘で有利に働くんじゃないだろうか。



 そして見えてしまう。ヒルロッドさんと中宮さんの持つ木剣と木刀、両方が色づいているんだ。

 いや、ヒルロッドさんの剣、実体が無い部分にまで魔力が広がっているのか。しかもふちの方が濃い? 中宮さんは木刀全体がぼんやりなのに。使っている技能が違うのと、熟練の差なのか?


 それだけじゃない。中宮さんの頭のあたりが。さらにはヒルロッドさんの──。



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