誰かが言っていた、親切はかえってこないのではなくかえさない人がいるので親切にする人は選びましょう。と
短編『誰かが言っていた、親切はかえってこない』のパン屋の女の子のもしものお話です。
読まなくても内容はわかると思いますが、読んでいただけると私はうれしいです。
夢を見た。
嫌な夢だ。
自分が死ぬ夢。
それも殺される夢だ。
私が毎朝パンを届けているあの夫婦に。
どうして?
あの優しい夫婦が?
ん?
優しい?
ここで今までのことを思い出してみる。
あれ?優しくないな。
パンを届けにいったら玄関の掃除しろとか昨日の食器洗ってとか言われることも毎日のようにある。
パンを届けに行っただけなのに。
パンを届けてくれてありがとう、とかも言われたことないな。
そもそもあの夫婦は毎朝私がパンを持ってくることを当たり前のように思っているよな?
感謝の気持ちすら感じたことないな。
そうは思っていても時間はすぎる。
パンを届ける時間になり、疑問を抱えつつも夫婦のところに届ける。
「おはようございます。今日のパンです」
「ん、窓が汚れているから拭いといてくれるか」
「すみません!他にも届けなきゃいけないところがあるので私はこれで!」
早口でまくしたてて勢いよくその夫婦の家をでた。
後ろで「おい!」とか聞こえるが気のせいだということにしておこう。
それよりも大事なことに気がついてしまった。
流れるように家事を私にやらせようとしたな。
今まで当たり前のようにやってきたからなんとも思わなかったが、パンを届けに行って毎日のように家事をさせるって結構ヤバい。
そう思ったらもうこんな考えしか頭に浮かばなかった。
どうしよう、もうあそこに行きたくない!!
両親には反対されるかもしれないがなんとか話してみよう!!
「そうか、ならもうあそこにはパンを届けなくていいぞ」
あっさりとそう言われたことに私は面食らった。
しかし、色々理由があったようだ。
最近パンの料金を滞納しているようなのだ。
以前も滞納することがあり、また滞納することがあればすぐにやめるという話をしていたことがあったらしい。
その度にあの夫婦は「それは困る!」逆ギレしていたらしい。
ちなみに、貧乏でお金に困っているというわけではなくこっちを下に見て料金を払うのを渋っている感じが見て取れるらしい。
え、本当?
知らなかった。
そして、両親はあの夫婦が私に家事雑用の類をやらせていたことを知らなかった。
あの夫婦になついているのだと思っていた、とのことだった。
なのでお互いに「え、あの夫婦そんなことしてたの!?」という状況だった。
そういった事情があったので思っていた以上にあっさりパンを届けないことが決まった。
そうして三日ほど経った時だった。
あの夫婦がやってきたのだ。
自分の足で歩いてやってきたのだ、文句を言いに。
あれ、私がパンを届けていたのってあの夫婦の足腰が悪いからじゃなかったけ?
店に来られるならもうパン届けなくていいよね。
そんな私の心の声はとりあえず置いておいて。
夫婦がやってきた理由は「なぜパンをとどけないのか」ということだった。
ここまでやってきたんだから文句言わずお金払って買っていけばいいのにと思った。
なのに、夫婦は両親と掃除をしていた私にくってかかってきた。
両親は毅然とした態度で答えた。
「料金の支払いができていないからです」と、しかし夫婦はめげることはなかった。
「以前に支払いが遅れた時はもうお届けはしないと言いましたよね!?」
かなり強い態度で言うも夫婦には全く響いていないようであった。
大きな声で周りの住人にも聞こえるように言っても夫婦には関係がないようであった。
「そんなことは屁理屈だ!」なんて言い出した。
ちょっとそれはないんじゃない?
と、私は思った。
思ったのは私1人ではなかったようだったようだった。
「それはないんじゃないか!」
そう言ったのは近所の八百屋さんだ。
「そうだ!あんたたちは自分が大変だとかいっていっつも誰かに手伝ってもらっているじゃないか!」
「体が悪いからって!」
「仕方ないからって!」
「誰かやってくれないかって!」
「「「「自分では動こうとはしない!!」」」」
「そんなことはない!」
「そんなことはない!?」
「じゃあもういいな!?」
「仕方ないからって手伝っていたことももういいな!?」
「自分ではやれないって言って手伝っていた行政関係の手伝いもやらないからな!?」
「ああ!大丈夫だ!!」
「「「「言ったな!?」」」」
そうして、近所の八百屋さんに肉屋さんに魚屋さんに本屋さんは言質を取っていった。
このやりとりからもわかる通り、あの夫婦はいろんな人の親切で生活していたようだった。
それをさも当たり前のようにして感謝の気持ちを示すこともなかったのだろう、私たちと同じように。
他にも同じ目にあっている人がいると知って、私たちの団結はさらに強くなった。
誰かの親切を当たり前のようにして生活をしていたあの夫婦は、やはり生活が苦しくなっていったようだった。
お金がないわけではない。
でも、いつも誰かがやってくれるだろうと何もしてこなかったツケは大きいようだった。
あの夫婦をみていると自業自得だという気持ちと、ああはなるまい。という気持ちがまぜ合わさって複雑な気持ちになった。
しかし、もう終わったことだ。
気持ちを切り替えて進んでいこう。
そうして私は結婚の話を進めていた隣街の菓子屋さんに嫁いでいった。
あの夢のことも、あの夫婦のことも思い出すことはなかった。
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