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9 うら若きくっつけばばあ

 夕方、おれはカレーノに連れられメシ屋に入った。

 ホントは酒場に行って、バカどもにクソを漏らさなかったおれの活躍を聞かせかったんだが、今後の話がしたいっていうから誘いに乗ったんだよ。

 したら、くだらねえ。

 ”今後の話”って、どう活動してくかじゃなくて、受付の姉ちゃんをどう落とすかの話かよ。

 バッカじゃねえの?


 カレーノのヤツ、前のめりになって、


「いーい? 女の子はこうすればよろこぶの!」


 ってまくし立ててやがる。メシなんかまともに手ェつけねえ。

 思い出したようにちょぼちょぼつまんで、ほとんど話してばっかだ。

 せっかくのあったっけえスープが冷めちまうじゃねえか。


「ねえ、ちゃんと聞いてる?」


 聞いてるよ。つーか食ってんだよ。おめえも食え!


「とにかく毎日通って、かならず花を持っていくの。おなじのはダメよ。毎回別の花を一本持っていって、次はどんな花を持ってきてくれるのかなって期待させるの」


 んなこと期待するかよ。

 花より酒とか肉の方がうれしいだろ。


「そうしてドキドキさせたら、あの子のお休みの日を訊いて、食事に誘うの。そこでどうすると思う?」


 知らねえよ。さっさと食え。


「どーんと花束を持っていくの! サプラーイズよ! サプラーイズ!」


 な〜にがサプラ〜イズだ。

 鼻息荒くして拳握って、メシを食いに来たんだからメシを食え! ハエたかってんぞ!


 ……でもまあ、言われた通りにしてみっかねえ。

 なんせおれァ女のことなんてろくに知らねえからよ。

 女が言うんじゃ正解なんだろう。


「いい? わかった?」


「わ、わかったよ……」


「ふふふ、きっとうまくいくわよ〜。あなた顔は悪くないんだから、とにかく態度に気をつけてね」


 そう言うとカレーノはやっとメシに集中した。

 あ、ハエに気づかねえで”ごと”食いやがった。

 あーあ、ちゃんとしねえから。栄養たっぷりだな、おい。


「それよりこれからどうするんだ? またソロに戻んのか?」


 おれは本来話すべきであろう話を切り出した。

 そっちの方が重要だろ。おれたちゃ勇者なんだから。


「もちろんいっしょにやるわよ」


「ほう、そりゃありがてえ」


「じゃなきゃあの子の反応がわからないじゃない」


「そっちかよ! おれは真面目な話をしてんだ!」


「真面目よ。カップルはどんどん成立してくれなきゃ」


「はあ?」


 おれはカレーノの言うことがよくわからなかった。

 この話のどこが真面目なんだ?


 カレーノはふぅ、とため息をつき、言った。


「みんな”そろそろじゃないか”って言ってるわ」


「なにが」


「大侵攻よ」


「……」


 おれはピタリと食事の手を止めた。

 そう、みんな言っている。そろそろ魔族が大侵攻をはじめるんじゃねえかって。


 ここ十年、魔族の大規模な侵攻はなかった。

 それまでは魔王が先陣に立って魔物の大群を率い、人間の土地といのちを奪ってきた。


 とはいえ人間もバカじゃねえ。百年も戦い続けてりゃ”やり方”ってもんを覚える。

 数十年前には魔物ごとの対処法が確立され、五分(ごぶ)以上の戦いができるようになった。

 おかげでおれたちも少数で多数の魔物を駆逐できる。


 だから戦いは拮抗した。いや、わずかに人類が押し返していただろう。

 すると魔王は攻めっ気を失った。ある日を境に大規模な行軍をしなくなった。


 人類の想像では、魔王はどれだけ知恵を絞ってもくつがえせねえほどの大軍を作り、いっぺんに人間を壊滅させるために魔物の育成を図っているのだろう、と考えている。


 この予想はおそらく正解だろう。

 なにせ観測チームの報告だと、奪われた土地で魔物がわさわさ増えてるっつうし、中には城みてえにでけえドラゴンを見たなんて話もある。

 いくらドラゴンがでけえったってせいぜい馬車くれえだぜ。

 それが本当なら、強大な戦力を育ててると見て間違いねえ。


 ヤツらの猛攻が落ち着いてからおよそ十年。ひとびとは小さな侵攻を相手に圧勝し、一種の平和を謳歌(おうか)している。

 もはや魔王を討伐することなんて忘れちまった勇者がどっさりだ。


 もしいま魔王が攻めてきたら、はたしてどれだけのやろうが逃げずに戦えるだろうか。

 後方じゃ軍を整備してるっつーが、それがどんだけやれるのか。


「魔王が攻めてこないうちに、人間は増えなくちゃいけないわ」


「そうだな……」


「そういうわけだから、あなたがんばりなさいよ」


「ああ……」


 そうだな、おれもがんばらなきゃな……


「……って、おい! なに言ってんだ!」


「あらー! な〜に照れた顔してるの?」


「お、お、お、おめえなあ! おれはまだあの子の名前も知らねえんだぞ!」


「明日訊けばいいじゃな〜い。あらー、たのしみねえ〜」


「う、うるせえ!」


 こいつ、けっきょくたのしんでるだけじゃねえか! ひとの恋愛で勝手に盛り上がりやがって。

 おめえみてえなのを世間じゃなんていうか知ってるか? くっつけババアっつーんだぜ! くっつけババア!


 ……まあ、それでくっついたら悪い話じゃねえけどよ。

 あの子なんて名前なんだろうな〜。ドキドキ。

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