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7 乙女の絶叫

 やがておれたちはゴブリンの巣が見えるところまでやって来た。

 相変わらずギルドの情報は正確だ。こんなに広い世の中なのに、地図にぴったし印をつけるんだからよ。


「ねえ、どう攻める?」


 おれたちは草陰で作戦を練っていた。

 ゴブリンは基本的に洞窟や岩穴に巣を作り、生息数に応じて広く掘り進める。

 今回もそのパターンだ。

 短い一本穴なら崩落させて終わりだが、出入り口が複数作られていた場合、挟み撃ちされる原因になりかねねえ。

 なにせ敵のど真ん中に突っ込むわけだからな。


 それに見張りもいる。

 じゃなきゃただの洞窟と区別がつかねえ。

 逆に言やあ、外をゴブリンがうろうろしてるおかげで発見できる。

 今回も三匹ほど、先のとがった木の枝を持ってたむろしていた。

 あいつら根性がねえから座ってあくびしてやがる。

 あれじゃただの目印だ。お役目ご苦労さんだぜ。


「正面から行こう」


 おれはそう提案した。

 当然カレーノは反対したよ。


「甘く見たら危険だわ。それにわたしたち、ふたりしかいないのよ」


「あんたはいつもひとりなんだろ?」


「そうだけど……」


「それに、今日はなんだか暴れてえ気分なんだ」


 そう、おれは暴れたかった。

 正確に言うと、クソを漏らさねえ真の実力を試したかった。

 あーいいねえ。こうして草陰にいるといっつも腹がゴロゴロしてたのに、今朝一発出してからというものスッキリ爽快、最高のコンディションだ。

 カレーノに「お腹の調子は大丈夫?」なんて訊かれたが、大丈夫なんてもんじゃねえよ。

 あー、早く暴れてえ〜。


 だがそんな提案が受け入れられるはずがなく、おれたちはこっそり近寄って奇襲を仕掛けることにした。

 近くの茂みで音を殺し、勇者間でお決まりの指合図で突入する。

 ま、妥当なとこだろうな。

 巣も小さそうだし、一気に攻めれば中のヤツらが武器を持つ暇もなく終わらせられる。

 まず失敗はねえ。


 けどよ、実戦ってヤツはいつだってイレギュラーがつきもんだ。


 ——ぷう〜!


 のわあ! カレーノのやろうなにやってやがる!

 こんなときに屁をこくヤツがあるか!


「ぎぎっ?」


 当然見張りの三匹が音に気づき、こっちをじろじろ見てきやがった。あちゃ〜、これじゃあ奇襲は難しいぜ。

 おいおい、なにが「ご、ごめんなさい」だ。

 顔真っ赤にして目尻に涙溜めて、かと思えばちょっと笑ってるじゃねえか。


 笑ってる場合ですかい。

 そうこうしてるうちに一匹こっちに木の槍向けて歩いてくるぜ。

 どうすんだよ。


「ああもう、めんどくせえ! 行くぜ!」


 おれはガサっと茂みを飛び出し、目の前の敵を斬り殺した。

 途端に残った二匹が大声を上げるが、そいつらも即、駆除だ。


「ああん、こんなはずじゃあ!」


 はいはいわかったよ。

 それよりもうはじまってるんだぜ。もたもたしてねえでさっさと槍を構えろよ。

 ほら、どんどん武器持ったゴブリンが巣穴から出てきやがる。

 十匹、二十匹、三十匹……おお、けっこういるなあ。

 このまま放っといたらひと月後には数百匹の軍勢になってただろう。

 そしたらおれでもさすがに参っちゃうなあ。

 ここはさっさと駆除してやるぜ。


「おらあー!」


 おれは真正面から切り込んだ。

 敵小隊は木製武器を構えて応戦したが、なんせおれってば強えからよお。

 左右から突きが来てもスッとふところに潜り込んで、そのまま二匹をクルンと撃破。

 さらに数匹同時に飛びかかって来たヤツらもすべて見切って受け止めて、多少の腕力と最高のテクニックでズバッと叩っ斬ってやった。

 どうだい、かっこいいだろおれ。


 でもカレーノのヤツも負けちゃいなかった。

 なにかとお上品だからどんなもんかと思ったけどよ、なかなか貫禄のある戦いするじゃねえか。

 サクサク動くおれと違って、どっしりゆったり歩きながら豪快に槍をぶん回しやがる。

 なるほど、腕力がねえからその分遠心力でパワーを出してるのか。

 おっぱいが小さいから腕を振る邪魔にならなくていいね!

 ……言ったら怒られるんだろうなあ。


 そんな感じでおれたちは危なげなくゴブリンを駆除していった。

 十匹くらいやったかな? このまま行きゃあ余裕だな。

 やっぱクソさえ漏らさなきゃおれは強えぜ〜!


 でもよ、さっきも言った通り実戦にはイレギュラーがつきものなんだわ。


「危ない!」


 おれはカレーノの叫びでそいつの奇襲に気づいた。


 音もない飛び込み。

 でっけえ黒猫アサシンパンサーが岩をも切り裂く鋼の爪を振りかざしてきた。


「おおっと!」


 おれはすかさず剣で受け止めた。

 動きが素早くて仕留められなかったが、ともかく死なずに済んだ。


「危ねえ! 助かったぜ!」


「気を抜いちゃダメよ!」


 へえ、すんません。おかげで助かりやした。

 しっかしさすがソロでやるだけあるねえ。

 ほぼ無音の影みてえなこいつに気づくなんて、よほど全方位に気を向けてなきゃできねえことだ。

 素直に尊敬するよ。


 ところでなんで黒猫やろうがいるんだ?

 ゴブリンの巣の駆除じゃなかったのか?


「ほかにもいろいろいるみたいよ」


 あら、ホントだわ。

 巣穴から出てくるのはゴブリンだけど、その周りから続々と獣タイプの魔物が現れ、おれたちを取り囲んじまったじゃねえか。


「あーっと……ちょっとやばかねえか?」


 うん、やべえ。

 単一の魔物ならある程度数がいても対処できるが、こういろんなのに来られると、早えの、強えの、器用なのと、さまざまな戦法を混ぜて回避不能な攻撃されちまう。


 ……あれ、もしかしておれ死ぬんじゃねえか?


 と、おれが顔を真っ青にして固まっているときだった。


「やるしかないわね……」


 カレーノはすげえ真剣な顔でつぶやくと、ポケットからとうがらしを取り出した。


 え? なにがやるしかないわねなの?

 死ぬかどうかの瀬戸際だぜ?

 つーかなんでとうがらしなんか持ち歩いてんだ?


 カレーノは見ただけで舌がひりひりしそうな真っ赤なとうがらしをまじまじと見つめ、なにを思ったか口に放り込み、ばりばり音を立てて噛み砕いた。


 なにしてんだ!

 頭がおかしくなっちまったか!?


「ほっ、ほおおーーっ!」


 カレーノは絶叫した。

 瞬時に顔じゅうから汗が吹き出し、目ン玉おっ広げてホーホー大騒ぎした。

 やべえええ、狂ってやがる!

 こりゃ結婚できねえわー!


 おれはその狂態にクソ驚いた。

 だが次の瞬間、それ以上の驚きを味わうことになった。


 なんとカレーノの口から炎が吹き出した。


「ほおっ! ほおおおーー!」


「えええっ!?」


 火!? こいつ火を吹いてる!?

 どどどどーなってんの!?


 あ、そーかあ!

 そういえばこのひとトリガー・スキルの持ち主だった!

 辛いもん食うと火を吹く”激辛の炎レッド・ホット・バーニング”の使い手だった!


 うわあ、すげえなあ……

 絶叫しながら火ィ吹いて、大男でも丸呑みにしそうなブットい炎が蛇みたいにうねうね動いて、あららら、魔物をガンガン焼いていくじゃないの。

 こらすげえなあ。

 ただ火ィ吹くだけじゃなくてコントロールまでできんのか。

 あんらまあ、これじゃおらの出番なんてねえっぺよー。


「は、はらい! はひー! はらほろひれはら!」


 でもひでえなこりゃ。

 トリガー・スキルは反骨の精神が生み出す力だって女神が言ってたけど、つまりはいやなことしなくちゃいけないんだろ?

 見ろよこの醜態(しゅうたい)。かなりの美人なのにあーんな顔してホーホー叫んで、手足をバタバタさせてやがる。

 つらそうだな〜。

 やだよおれ、あんなふうになるの。

 バカらしいったらありゃしねえや。


 たしか”無敵うんこ漏らし(ビクトリー・バースト)”だっけ? おれのスキル。

 絶対使わないね!

 最強だかなんだか知らねえが、おれはぜーってーいやだ!

 死んでも使うもんか!

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