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60 ウンコブリブリ無双

「行くぞおおーーッ!」


 おれは迫り来る魔物どもに向かって突っ走った。

 本来なら見ただけで足がすくんでしまうような大群だが、スキルの発動したおれには怖いものなどなかった。


「おらあーーッ!」


 剣を抜き、次々と切り抜けていった。

 おれのスキル”無敵うんこ漏らし(ビクトリー・バースト)”は触れた生き物を灰にする。

 服の上からでも、道具ごしにでも、触れれば効果が及び、いのちを奪う。


 流れゆく視界の隅が灰色に染まっていった。

 背後で濛々(もうもう)と灰が舞った。おれは絶好調だった。


 いまだかつてないほどのパワーを感じる。

 以前スキルを発動したときより明らかに足が(はや)い。

 魔物にぶつかっても止まることなく跳ね飛ばしてしまう。

 どうやらカレーノに見られた恥ずかしさが相当なエネルギーとなって爆発しているらしい。

 そう考えればこの超パワーの説明がつく。


 おれは蛇行し、正面の敵をガンガン散らした。

 それが現段階におけるおれの役目だ。


 魔王にたどり着くには軍ごと移動しなきゃならねえ。

 おれがクソを漏らすために、チャージするクソを持った人間がついてこなきゃならねえ。


 だからこうして活路を開いている。

 できる限り人間の被害を出さず、常に前進できるように掃除していかにゃならねえ。


「おっと、そろそろか」


 おれは数千匹の魔物を蹴散らしたところでいちど後退した。

 パンツの中のクソがスキルのエネルギーとして消費され、あらかた蒸発していた。


「おーい、クソをくれー!」


 おれはカレーノたちのいる軍の先頭に戻った。

 軍は側面から膨大な攻めを受けていたが、おれの活躍により先頭は激戦というほどではなかった。


「ベンデルおかえり!」


「おう、ただいま!」


 おれは、馬を降り槍を構えたカレーノと目を合わせた。

 いいもんだね、好きな女とただいまおかえりってのはよ。


 ……っと、いまはそれどころじゃねえ。早く次のクソを漏らさねえと。


「カレーノ、おめえのクソもらっていいか!?」


「ええ、もちろんよ!」


「よっしゃ、じゃあ早速いただくとするぜ」


 オート・スキル発動! ”うんこ吸収チャージ・ザ・ダークネス”!


 ——おっ! 入ってきた! カレーノのクソがおれの中に入ったぞ!


「よし、漏らすとしますか!」


「あ、ちょっと待って!」


 えっ? なんで止めるの?


「まだ魔王の雲が出てるわ! いまスキルを発動したら、連続でスキルが使えることがバレちゃうかも!」


「あっ!」


 そーいやそーだ!

 いったいどんな魔法を使ってんのか知らねえが、ヤツはおれたちを見ている!

 ここで漏らせばヤツにオート・スキルのことがバレて、下手すれば撤退されちまうかもしれねえ!

 そうなりゃ取り返しがつかねえ!

 どーしたもんか!


 と、そんな苦悩に頭を抱えていたところで、ほとんど奇跡といっていい発言が出た。


「クククク! 早速使ってしまったな! ベンデル・キーヌクト!」


 雲が笑った。

 はるか上空の白い魔が、高らかな嘲笑を見せた。


「魔王!」


「なるほど、きさまは二度までクソを漏らせると見た! だから後半に再び漏らせるよう、スタートですぐに漏らしたというわけだな! ワハハハハハ!」


 およ? なんだか都合のいい解釈してくれてるぞ?


「どうやらこれ以上見ている必要もなさそうだ! おれ様は昼寝でもするとしようか! わーっはっはっはっはっはっはっはーー!」


 そう言うと、雲は風に流れ、散り散りバラバラになってしまった。


 おいおいマジかよ。

 戦況をろくに見もせず昼寝とか、どんだけバカなんだ?

 そーいやあいつ、前に会ったときもおれたちの死を確かめもせず死んだと決めつけたりしてたな。

 甘すぎんだろ。


 でもまあ、いいや。

 おかげで思う存分クソが漏らせる!


「ツいてるわね! これでいけるわ!」


「ああ! どーやらそのようだ!」


 おれは腰を落とし、カレーノの目をまっすぐに見つめた。

 なにをするかって? もちろんクソさ。

 愛する女の目の前で、これからクソを漏らすのさ。


 ああ、死ぬほど恥ずかしい。

 心臓がバクバク言って、顔も耳まで熱くなって、緊張で変な汗かいてらあ。


 だが、それが力になる!


「さあ! 見ててくれ! おれのクソ恥ずかしいところを!」


「ええ! 見てるわ! 汚いところを見せて!」


「う…………うおおおおおーーッ!」


 ——ブッブリュリュリュブゴゴブドブブーッ!


「やっ、臭い!」


「お、おめえのクソだぜ!」


「そ、そうだけどお!」


 くう〜〜! クソ恥ずかしい! マジで地獄だ!

 けど、さっきよりもさらにパワーが湧いてくる!

 好きな女と見つめ合いながらクソ漏らすのがこんなにやべえとはよお!


「平和のためだぜちくしょおーー!」


 おれは再び戦いに走った。

 魔物どもは倒しても倒しても続々迫ってきやがる。

 おれはそれを次々と倒す。

 正面は常に空だ。

 どんだけヤツらが来ようとも、どんな脅威が迫るとも、おれの前に敵はない。

 わずか数分で千の敵を葬る。


 背後からどこかの戦士が叫んだ。


「このクソ漏らしの力、まさに無双! これぞひと呼んで、ウンコブリブリ無双なり!」


 ウンコブリブリ無双?

 ……やだなそれ! もーちっとかっこいい言い方ねえかな!?

 ベンデル無双とか、ベンデル快進撃とか、いろいろあるじゃん!


 まーなんでもいいけどよ! やるべきことをやるだけだ!


 おれはなんどもクソを漏らし、敵を蹴散らした。

 おかげで全隊はどんどん前進した。


 もちろん側面は被害が出ている。

 生身の人間が大量の魔物と常に戦っているんだ。死者が出るのは防ぎようがねえ。

 とはいえ、スキル持ちがちょいちょいいるらしく、ところどころで炎や雷が飛び出し、大量撃破を見せていた。

 なかなか幸先(さいさき)がいい。


 ……しかしこれもどこまで持つかねえ。

 スキルを使うにはかならずトリガーが必要になる。

 たとえばカレーノの場合は辛いものを食うことだが、舌がギブアップすればそれで終わりだ。

 いったいどんなトリガーでヤツらは戦っているのか。

 きっと苦痛に耐えてのことだろう。


 それにまだ脅威が残っている。

 あの日、魔王襲撃の晩に現れた五匹のドラゴンのうち二匹がまだいるはずだし、ほかにもでけえのがいると思っていい。


 そして、武人ゲーリィ。


 メンタルは弱えが、とんでもねえ戦力だ。

 一騎当千の実力を持つうえ、おれの無敵スキルを受け止められる。

 一番の脅威はあいつだ。


 果たしてどれだけうまくいくか……


 そんな不安を胸に残し、おれたちは進んだ。

 二時間ほど戦い続けた。


 そしてとうとう最初の障害が現れた。

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