表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/76

36 泥酔いロマンス

 戦いが終わり、おれたちオーンスイ勇者は玉座の間に集められた。


「まずは、悪かったな」


 女王はどっかり玉座に座り、口元に小さな笑みを浮かべ、言った。


「まさか本当に無敵のスキルを持っているなど思わなかった。しかし(うたが)うのも仕事だ。許せ」


「別にいーよー」


 おれは首のうしろで両手を組み、


「それより約束は忘れちゃいねえだろうな。肉、酒、それとカレーノには甘いもんだ」


「くっ、フフフフ!」


 おや、ずいぶんたのしそうに笑っちゃって。おれァ冗談言ったんじゃねえぜ。

 ごまかそうったってそうはいかねえぞ。


「おい、カレーノ。この男はいつもこうなのか?」


「え、は、はい。そうです」


「そうかそうか。フフフフッ!」


 おいおい、なんでおれの質問に答えねえんだよ。

 まさかマジでごまかすつもりか!?


「そうはさせねえぞ! なんなら食糧庫から略奪してやったっていいんだぜ!」


「あははははは!」


 ちくしょ〜、笑ってんじゃねえ!


「安心しろ。きさまらには上等な酒を用意させた」


 えっ? あ、そうなの? えへへ。


「フフフ……本来なら色々と聞きたいところだが、まあ、あとにしよう。わたしも仕事が山積みだ。とりあえずゆっくり休め。そして夜は好きなだけ飲むがいい」


 そう言って女王さんはどこかへ消えちまった。

 ううむ……本当だろうな? 嘘だったら承知しねえぞ。


 なーんて思ってたが、その日の夕食を見ておれは感動しちまった。


 テーブルを埋め尽くす肉料理!

 かたわらには特級酒!

 ちらほらと顔を出すデザート!


 うっひょおー! さすがは女王さん!

 世界で一番尊敬するぜー!


 おれたちは飲みまくり、食いまくった。

 肉は今日倒した肉食性魔物の肉で、ちっとばかしクセがあったが、そんでもしっかり調理され、最高にうまかった。

 酒は、言うまでもねえ。極上だよ。


 いやあ〜、いい夜だ。勝利の(うたげ)ってヤツだ。

 みんな笑って、どんちゃん騒ぎしてさ。

 ガキの集まりみてえにわあわあ歌って、堅物(かたぶつ)のオンジーが半裸になってギター鳴らしたりしてよ。

 もう笑った笑った。こーゆーのをサイコーっていうんだぜ。


 そんなバカ騒ぎもひと段落つき、ぼちぼち寝室に行くヤツ、飲みながら寝ちまうヤツ、まだバカ言ってるヤツと、まばらになってきた。

 カレーノも甘いもんで飲みまくって、けっこう酔っ払ってやがる。

 たのしく飲めてよかったねー。


「さーて、おれも眠くなってきたな」


 おれはふああ、と大あくびをこいた。

 今日は大変だったからなあ。疲れちまった。

 そろそろ休むとしましょうかね。


「なによ〜、もう寝るつもり〜?」


 おや、カレーノさん、まだ飲むつもりですかい? かな〜り酔っ払っておりますが。


「まだ夜は長いでしょ〜。もっと飲みなさいよ〜」


 おいおい、そんな据わった目でおれの腕引っつかんで、明日に触るぜ。

 なにせ明日から掘っ建て小屋に移るのに、荷物運んだり、内装いじったりすんだからよ。


「なによ! あたしのこときらいなの!?」


 んなわけねえだろ。バカ言うな、でけえ声出して。

 あーあー、暴れるな。

 落ち着け。

 わかったわかった、飲もう。今夜はとことん飲もう。


「んふふふー!」


 えらいたのしそうだな、おい。

 飲みすぎじゃねえか?

 おれの隣にどっかり座って、肩に頭乗せてきて、シラフのおめえじゃまずこんなことしねえ。

 やっぱ眠いんじゃねえか?

 ……ま、悪い気はしねえけどよ。


「いろいろ話したいことがあるのよ〜」


 話したいこと?


「まずは、ありがと」


 は?


「またベンデルに守ってもらっちゃった」


 なんの話だ?


「ほら〜、あたしがお腹痛くて動けないときあったでしょ〜。魔物から守ってくれたじゃない」


 あー、あんときか。そういやそんなこともあったなあ。


「あんたねえ、なにぼけっとした顔してるのよ。あたしホントに感謝してるんだからね!」


 わかったわかった! 痛い、痛い、叩くな! わかったから!


「わかればいーのよ、わかれば」


 ……おめえマジで酔いすぎじゃねえか?

 感謝されてんだか、怒られてんだか、わかんねえぞ。


「それでさあ、どーするつもりだったの?」


「なにが?」


「魔物よ。あなた魔物を助けたけど、あれが襲ってきたらどーするつもりだったわけ?」


「どーするって……」


 どーするつもりだったんだろうなあ。


「なにも考えてなかったの!?」


 ……考えてなかったな。


「はー、呆れた」


 あんときゃとにかく魔物が(あわ)れで憐れでしょうがなかったからなあ。

 しかし思い返すとずいぶん怖えことしてたよ。

 よく無事に済んでくれたぜ。


「まったくだ」


 おや、この声は……


「わたしもいままでいろんな人間を見てきたが、こんな危なっかしい男は見たことがない」


 おや、女王さんじゃねえか。

 こんなところに来ていいのかい? いろいろ忙しいんじゃねえか?


「ふふふ……本来なら仕事もあるし、兵士どもの相手もせねばならんのだが……」


 女王さんはおれの正面に座り、一杯やりながら言った。


「どれもつまらんのだ。しかしきさまと飲むのはおもしろそうだ」


 はあ、そりゃ光栄なこった。美人ふたりと飲めるなんてしあわせでござんすよ。

 ……眠いんだけどね。


「ところできさまら、明日から城下町に移るんだろう?」


 そうするよう手配したのはあんたらだろう。


「……ベンデル、きさまはこの城に住め」


「はあ!?」


 と大声を出したのはカレーノだった。

 おいおい、おめえがそんなに驚いちゃ、おれが驚けねえだろう。


 しかしなんでまた……


「きさまは実に愚かだ。愚かという言葉では言い表せないほどに愚かで、愚直で、いいかげんだ」


 なにが言いてえんだ? バカにしてるみてえだが。


「だが、わたしは愚かな男が好きだ。といってもただ愚かな男に興味はない。腕が立ち、こころに芯を持ち、しかしどうにも愚かという男がかわいくてたまらんのだ。わからんか?」


 わかんねえよ。こっちは酔っ払ってんだ。


「ぐるるる……」


 およ? カレーノがなんか(うな)ってるぞ。また腹でも痛めたか?


「ふふふ……まったく愚か者め。ますます気に入った。ところでそろそろ眠いのだろう。きさまには専用の寝室を用意しておいた。わたしが案内してやるからついてこい」


 えっ、専用の寝室!? なんか知らねえけどすんげえ特別扱いじゃん!

 しかも女王様直々(じきじき)にご案内だなんて、いったいどーゆーこったい!


「さ、立て。行くぞ」


「はーい」


 おれは言われるまま立ちあがろうとした。

 が、


「待ちなさいよバカ!」


 カレーノがおれの腕をつかみ、


「あんたはあたしと飲んでるんでしょーが! 行かせないわよ!」


「おいおい、なに怒ってんだよ」


「怒るわよ! だって、だって……」


「だって?」


「う、うう〜……だってえ〜」


 げっ、こいつ泣いてやがる! なんで!?


「ちょ、ちょっとタンマ! こいつちっとなだめてからにしてくれ! じゃねえとおれ寝れねえよ」


「……ふふふ、そうか」


 女王さんはスッと立ち上がり、カレーノの隣に来て、肩に手を乗せ、


「悪いことをしたな。だがまあ、それくらい男の甲斐性だ。つまらん男じゃ、こんなことにはならんぞ」


 そう言って部屋を出ていってしまった。

 おいおい、おれの寝室は? おーい。


 ふーむ、なんだかよくわかんねえなあ。女ってのはホントわかんねえ。

 しっかし眠ィや。


「ほら、いつまで泣いてんだ。なにが気に入らねえってんだ」


 おれがそう言うと、カレーノは立ち上がり、


「ベンデル、来て……」


「は?」


「いいから来て!」


 そう言っておれの手を取り、バルコニーまでつれてきた。

 そんでどうしたかっていうと、手すりに寄りかかって、夜風を浴びて、遠くを眺めて、なんか黙ってる。


 なにがしてえんだ、こいつ?


「ねえ、ベンデル」


「なんだ?」


「なんていうか……あんまり歳の差があるのはよくないわ」


「はあ?」


 歳の差? なんのこっちゃ。


「やっぱりね、結婚するなら同い年くらいの方がいいと思うの。たとえば相手の女性が十歳年上だと、あなたが三十になるころには相手が四十でしょ? それよりもっと近くて、身近なひとの方がいいわ。あ、でもまったく同い年より、女が二、三歳上の方がいいかもね。その方がいろいろと釣り合うのよ」


 なにを話すかと思えば恋愛話かい。

 女は好きだねえ〜。ほかに言うことねえのかよ。

 それにしてもなんでまたこんな話を突然……


「たしかにヒットリーミ女王は美人よ。胸だって大きいし、魅力的なのもわかるわ。でも育ちも違うし、見た感じ十歳くらい上だし、きっと合わないわよ」


「なんの話?」


「……あなた女王の誘惑に乗ろうとしたじゃない。だから……乙女の忠告」


「誘惑?」


「……もしかして気づいてなかったの?」


 誘惑………………あっ!


「ああー! そーゆーことか!」


「はあー!? あんたホントにわかってなかったの!? ばっ……バッカじゃないの!?」


 はー、そーゆーことでございましたかー!

 いやあー、なにせほら、おれって女のひととお付き合いしたことございやせんから!

 あー、そうかー。そうだったのかー。


 ふーむ……あの美人がおれをねえ。惜しいことを——


「ニヤけたツラしてんじゃないわよ、バカ!」


 いでっ! こ、こいつ思いっきりぶちやがった! なんでぶつんだよ! ひでえやろうめ……


「もうっ」


 そう言ってカレーノは遠くを眺めた。なんかわかんねえけど、おれもそうしたよ。


 しかしこいつ、なんでそんなに怒ってんのかねえ。もしかしてこいつ、おれのこと…………


 ……って、んなわけねえか。女ってのは好きな男に手ェ上げたりしねえはずだ。

 そりゃおれもカレーノみてえな美人だったらいいなあ、な〜んて思ったりもするけどよ。

 ないない。こいつは”ステキな王子様”と結婚したがるような女だぜ。

 おれの真逆だっつーの。

 はあ……


「ねえ、ベンデル」


「なんだ?」


「星がきれいね」


「……そーだな」


 言われて見りゃずいぶんきれいなお星さんだ。

 ずーっと平原が広がって、雲もほとんどねえから、視界一面星の海だ。

 数えきれねえほどの星々がまたたいている。

 ふだん星なんて見ねえけど、こうして見ると案外いいもんだなあ。

 お、あの辺なんてすげえ明るい星が集まって、いやー見事だ。


「……バカ」


 え、なんか言った?


「……そろそろ眠くなってきたわね。もういい時間だし、寝ようかしら」


 そうだなあ。でもお星さんきれいだしなあ。

 もうちっと見てくってのも……


「おや?」


 おれはふと、なにかを見つけた。

 月の位置からして北東方面。

 なにかが平原を歩き、こっちに向かってきやがる。


「なに、どしたの?」


「なあ、あれなんだ?」


 おれはそいつを指差した。

 だいぶ遠いが、輪郭(りんかく)くれえはわかる。


「おれには、黒い服の人間が、黒い犬に乗ってるように見えるんだが……」


「そうね……でも肌の色が変よ。なんだか青っぽいわ」


「あの感じ……女か?」


「……こんな夜遅くに女が? しかも犬に乗って?」


「でもそう見えるぜ。ありゃいったい……」


 青い肌、黒い服の女が、黒い犬に乗っている。

 この組み合わせ、どこかで……


 ——ハッ!

 と、おれたちは顔を見合わせ叫んだ。


「キレジィ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ