13 滅亡への入り口
翌日、おれたちはがれきと焼け跡だらけの街で炊き出しを食っていた。
でかいメシ屋が無償でみんなに軽食を作ってくれたんだ。
ありがてえもんだね。なにせこっちは徹夜で火消しやら人命救助やらしてたから腹ペコだ。
胃に食いもんが入った瞬間から、くーっと元気が湧き上がってきたぜ。
気前のいいヤツがいてくれたもんだよ。
いくら街が壊滅して商売ができそうにねえからって、数百人の腹を満たす食材を解放したどころか、うんまく料理までしてくれてよ。
いやあ、ホントにありがてえ。世の中捨てたもんじゃねえよ。
ただひとつ気に入らねえのは、逃げた勇者どもがあたりまえのツラして食ってることだ。
そりゃドラゴンが去ったあとはがんばってたよ。
でもおれたちの仕事は魔物と戦うことじゃねえか。このチキンどもめ!
「いいじゃない、あんなの逃げない方がおかしいわ」
カレーノはそう言うが、女が最前線に立ってたっつうのに大の男がそれでいいわきゃねえだろ。
キンタマ引っこ抜いてこいつにくれてやった方がいいぜ。
「それにおれたちはスキル持ちだからな」
と言ったのは、スキル”音痴衝撃波”の持ち主、オンジー・カネヒトツだ。
そりゃまあ、武器だけで戦うただの男より、強力なスキルが使える女の方が戦力にはなるだろうよ。
けどあんときゃ爆薬でしのごうとしてたんだぜ。んなのはいいわけだ。
そもそも衝撃波じゃ倒せなかったじゃねえか。たぶん火ィ吹いても無駄だったぜ。
「それよりあなたよ! あんなスキル隠しておくなんてひどいじゃない!」
カレーノは食う手を止めておれに詰め寄った。相変わらずメシに集中しねえヤツだな。
「恥ずかしかったんだよ……」
おれはめんどくせえと思いながら適当にあしらった。
そう、恥ずかしかった。
だから言わなかったし、嘘もついた。
おれはクソを漏らすと無敵になるスキル”無敵うんこ漏らし”の持ち主だが、そんなの恥ずかしくて言えるわけがねえ。
だから昨夜カレーノに訊かれたとき、
「泣くと無敵になるスキル”無敵泣き虫”だ」
と言っておいた。
われながらよく咄嗟にこんな嘘が出たもんだ。
男ならひと前で泣くのが恥ずかしくても自然だからな。
ちと無理がある気もするが、とにかく言ったもん勝ちだ。
どうせわかりゃしねえ。
「でもすごいな。爆薬でも倒せなかったドラゴンを一発だぞ」
オンジーは妙にわくわくした声で言った。
こいつ気絶してぶっ倒れてたけど、途中から目覚めていたらしく、おれが三匹目のドラゴンをぶっ倒すところを見ていた。
「もしかしたら本当に魔王を倒せるかもな」
「そうね、なにせ魔王の靴が崩れたんだものね」
たしかにこの力なら可能性がある。
昨夜はうっかり忘れてたが、魔王には攻撃が効かない。
先人たちも山ほど攻撃を仕掛けて、結局なにも効かねえって結論になった。
考えてみりゃ、あんな先頭に顔出すようなヤツが、ただの肉体で百年も死なねえわけがねえよな。
「しかしベンデル、君は真の勇者だ」
お? なんだ?
ほめたってなにも出ねえぞ、でへへ。
「スキルがすごいだけではない。君の勇気がみんなを救った」
おいおいなんだよ。一杯おごりたくなっちまうじゃねえか。酒場は無事残ってるんだぜ。
「たとえ無敵の能力があろうと、あの場で立ち向かわなければ街は壊滅していた。それだけじゃない。おそらく人類が滅んでいた」
そこまで言うかい?
「魔王はたしか、明日にでも人類を滅ぼすと言ってたんだな?」
「ああ」
「やはり予測は当たっていた。魔王はこの十年、戦力を増強していたんだ。一気に終わらせるためにな。そして昨夜、決行した。したはいいが、ベンデルという思わぬ障害にぶつかって中断したというわけだ」
……やっぱそうか。いやー、おれがいてよかったね。
「でもドラゴン五匹だけだったわよ。いくら強力でも一日でっていうのは無理じゃない?」
「いや、あれはあくまで先発だ」
「どういうこと?」
「魔王は侵攻の際、かならず先陣に立つ。強力な魔物を駆使し、街をボロボロにしながら突入口を作るんだ。そこを大量の魔物がなだれ込み、蹂躙する。そうやって人類は端へ、端へと追いやられた。もっともあんなバケモノはいままで見たことないが」
へえ〜、やっぱベテランは物知りだねえ。
でも魔物なんて来なかったぜ。
「おそらく北を壊滅させていたんだろう。ここまで来るということは、その背後は十分だと判断したんだ」
「……それってつまり」
「ああ、ここが最前線だ」
オンジーの言葉は絶望を感じさせた。
ここ、ヴェンザ地方より北の人類領はワーシュレイト地方しかない。
その先のボトンベン地方は魔王に奪われ、最後の砦と呼ばれたカーミギレ城はいまや魔王の根城となっている。
ワーシュレイトを越えてヴェンザまで来るってことは、すなわちワーシュレイトが攻略されたことを意味する。
オンジーは言ったきり黙っていた。
カレーノも青い顔で固まっていた。
おれはその空気がめんどくさくて、
「それで、どーやってあのやろうぶっ飛ばすよ」
と言ってやった。
黙ってたってしょうがねえじゃねえか。せっかくのメシだってのに辛気臭えツラしやがって。
過去はもう戻らねえんだぞ、バーカ。
「……みんなを集めよう」
オンジーは重い声で言った。
「この街の勇者を全員集めて話がしたい。食べたらすぐに酒場へ来るよう声をかけてくれ」
おっ、酒かい?
いーねえ。とりあえずパーっと飲もうってわけだな。
さすがはベテラン、わかってるぅ〜!