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アルトゥヌとの朝食

 勢いよく体を起こすと、そこは見知った自室のベッドの上だった。

 エミリアは全身べたつくような脂汗をかき、喉は極限と言っていいほど乾ききっていた。

 よろめくようにベッドから降り、自室傍に備え付けてある洗面台に突っ伏すようにもたれる。


 適当に顔を洗ったエミリアは、傍にある呼び鈴を二度鳴らしハエルを呼び出した。

 ハエルは汗だくのエミリアを確認するや否やさっさとエミリアに水を差し出し、服を着替えさせその最中に全身をくまなく拭き上げた。

 アロマオイルの混ざった温水で身体を拭かれている最中、エミリアは自身の夢でエカトーとの会話を思い出していた。


 角度によってピンクにも緑にも見えるオーロラ色の瞳を持ったエカトーを思い出すと、エミリアは心臓が強く鳴った。

 きっとこれが畏怖という感覚なのだろうとエミリアは納得すると「今日、お母様の予定はどうなってる?」とハエルに尋ねた。

「本日、奥様は外出予定ございません」

 瞬時にハエルが答えるとエミリアは頷いた。


「お母様に会いたいの、今日はお父様は仕事でいないし、外で二人で朝食を食べれるようセッティングして」


 エミリアの言葉を聞くや否やハエルは頷き、後ろで控えていたメイド数名にテキパキを指示を出す。

 まだ幼さの残るハエルだが、この屋敷ではもう重鎮だ。

 室内用のドレスに着替えたエミリアは一人掛けのソファに腰かけ「昨日保護した子はどうなったの」とハエルに尋ねた。

 少し困ったようにハエルが眉を曲げると「今朝方迎えが来られて…」ともごついた。

「迎え?」

 エミリアが首を傾げると、ハエルは頷き「初老の男性が一名」と端的に答えた。

「今朝、早い時間に来られお客様も駆け寄っていかれたので、アルトゥヌ様が対応されました」

「まあ、お母さまが…」

 顎に手を当てエミリアは「本人が駆け寄っていったのであれば止める理由もないわよね」と頭をひねる。

「お迎えに来られた方はどのような方だった?」

「背広を着られていて、平民ではないようでした」

「何か言っていた?」

「お嬢様を迎えに来たと、養護施設に平民の格好をして視察に行かれていたんだとかで」

「だとしてもどうしてここが分かったのかしら」

「それに関しても、お客様に小鳥を付けていたとかで…」

「小鳥?」

 ハエルも要領を掴めていないのか「はあ…」と困惑した様子でエミリアに返事をする。

「昔使われていたような伝書鳩の、小さな鳥バージョンと言った感じで」

 お客様の肩に黄色い小鳥が乗っておりました。とハエルは身振り手振りを使って説明した。

 エミリアからすれば彼女はエカトーに近しい存在なのだろうと踏んでいるので何が起きても不思議ではないわけだが、初老の男性の存在が少し気になる。


「まあ、お母様が対応されたのであれば…お母様に聞けばいいわよね」


 そうエミリアが言ったところで、朝食の準備ができたとメイドが部屋にやってきた。

 エミリアは頷くと静かに自室を後にした。


 *


「おはようございます、お母様。お加減いかがですか」

「すこぶる元気よ。誘ってくれてありがとう。自室での食事に飽き飽きしていたところだったの」


 天使のような笑顔でアルトゥヌはエミリアを歓迎した。

 エミリアもアルトゥヌの元気そうな表情を顔色を見てほっとした。最近忙しく、ヴィネヴァが帰宅した際家族で集まって食事をするときにしか顔を合わせていなかったのだ。

 しずしずと席に着くと、野菜やフルーツの詰まったサンドイッチがエミリアの前に置かれた。まずは野菜のサンドイッチを手にして、フランクにエミリアは口にした。アルトゥヌもそれに倣うようにサンドイッチを口にする。


「お客様の対応いただきましてありがとうございました」


 エミリアが言うと、アルトゥヌはにこやかな表情のまま「いいのよ、朝早くてびっくりしたけど」と答えた。

「平民の少女を保護したつもりでしたが」

 エミリアが言うとアルトゥヌは頷き「辺境伯のお嬢様だったようね」と微笑んだ。


「丁度早く起きすぎて庭を散策していてよかったわ」


 アルトゥヌはそう言ってまた一口、サンドイッチを食べた。

 そして傍に控えるベルゼに「おいしいわ、これもっと作らせて使用人にも配ってあげて」と声をかけた。ベルゼは静かに頭を下げ「かしこまりました」と凛と返事をした。


「お友達になりたかったです」


 エミリアが言うと「またお手紙でも書いたらいいじゃない」とアルトゥヌは笑った。

「お名前を伺っていなかったので、」

「ああ、あの子声を出せないようだったものね…」

 慈しむように目を細めて話したアルトゥヌは「スコット伯のご令嬢だそうよ」と言葉を続けた。


 スコット伯…エミリアは頭の中でその言葉を反芻させた。

 国境の小さな領地を任されている貴族だ。その土地には古い神殿遺跡があるものの一度他国から攻撃を受け、それから領地に入るだけでも手形をもらわなくては入れない、小さな国と化している領地だ。


「それとお母様、もう一点…聞きたいことが」


 エミリアが顔を上げると、アルトゥヌは口元は弧を描いたまま不思議そうに首を傾げた。

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