表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

エミリアたちの計画

 エミリアは自室から繋がるテラスのベンチに一人座っていた。

 モクバがラタンに剣を突き付けた事件は騒ぎを聞いた使用人がラタンに問い詰め父に報告された。

 その結果モクバは長期休暇中は謹慎を受けることとなった。自室と図書所蔵室の行き来を繰り返しているようで、今のところ顔を合わせられてはいない。


 エミリアは自身の手にすっぽり収まるほどの紙切れを開く。

 モクバが謎の男から受け取っていた紙切れだ。

 そこには簡潔に、雑な文字が記されており字が汚いのとインクの掠れのせいでところどころ読めなくなっていた。


『エカ*ー*堕***つけた

 時間を***す**はそろそ***る

 ***伝える **16* 18時 マ*殿にて』


 エミリアは何度そのメモを読んでも意味が理解できなかった。

 とにかくこのメモの字が汚い。前半の文章に至ってはモクバが握ってしまったのかインクがにじんでうまく読めない。


「マ…殿に18時?…マ…殿って、場所かしら」


 何度も読み直すうちにしっかり意図をくみ取れないことにいら立ちを感じたエミリアはそのメモの端を握った。情報がなくなるのも嫌だから全体を握りつぶせないのすらも腹立たしい。

 というよりもモクバと対話していたあの中年の男は誰なのか、いくら塀の外とはいえ警備の目もあるのにあんなに塀に寄り添って立ち止まる男を確保もできないなんて。

 エミリアは悔しそうに唇をかむ。すると控えていたハエルが紅茶を注いでくれる。遠回しに口の力を抜けと言っているのだろう。


「ハエルはこのメモの意味わかる?」

「この前ラタンと見かけたモクバ様の間者からのメモですよね…」


 間者…というと聞こえは悪いがどうもそう言う存在にしか見えない。

 だってそうでないなら堂々と手紙をやりとりすればいい。…まあ私が検閲するのだが。


「けどわざわざあんな隠れてやり取りするってことは、私には知られたくないことということよね」


 エミリアが言うとハエルは頷き「モクバ様宛の手紙を確認するのはエミリア様だけですものね」と苦笑した。

 厳しい親に育てられるとその分はっちゃけてしまったりぐれたりする例は前世で幾人か見てきたものだけどまさかモクバが該当することになるとは。そして厳しい親の役割に自分が当てはまるとは思わなかった。


「何か悪いことでもしてるのかしら」


 エミリアがぼやくと「失礼いたします」とノックの音と一緒にラタンの声が聞こえる。

 扉の前で待機しているのだろうくぐもった声だ。「どうぞ」と一言エミリアが答えると静かに扉が開けられる。

 にこやかな表情のままラタンは入室すると「ハエル~」とハエルに駆け寄ったが、ハエルは「まずはお嬢様に挨拶してください!あと走らないで!」と鬼の形相だ。


「あ、それ坊ちゃんのメモっすかぁ」


 にまにまとラタンがメモを覗き込んでくる。モクバが密会していたことを知っているのはここにいる3人だけだ。

 あまり大ごとにはしたくないとエミリアが報告をしなかったのだ。


「そうなんだけど、ところどころ読めないのよ」

「なになに、うーん…ほんとっすねえ」


 ラタンにも読み切れないようで困ったように眉を八の字に曲げた。

「けど、場所はあれっすね。マイア神殿じゃないっすか?」

 ころりと笑顔に表情を変えたラタンは「殿が最後に来るマから始まる場所っつったらそこくらいですよね~」と笑った。

「確かに、ラタンかしこいのね」

 エミリアが言うとラタンは「買い出しであちこち駆り出されてますから、地理は強いですよ」と答えた。


「16ってことは、16日…ってことよね」

 エミリアは目を細めて数字を見る。後ろに18時と時間指定もあるし、きっと日にちのことだろう。

「16日って、明後日ですね」

 そうハエルが言うと「お坊ちゃん、謹慎中だからその日のその時間には向かえないっすね」とラタンは口にした。


「……」


 エミリアがじっと黙っていると、ハエルは怪しむように瞳を細めて「エミリア様…?だ、だめですよ…?」と呟いた。

「…けど、行きたいって言ったら連れてってくれるんでしょ?」

 そういってエミリアはハエルを下から見上げた。ハエルは「はぐぅ!」と声を出し胸を押さえてその場にしゃがみこむ。

「お嬢様~、ハエルはお嬢様の頼み断れないんすから…」

「ラタンもついてくるのよ」

「え…嫌っす」

「エミリア様のご命令でしょう」

 エミリアの誘いに真顔で拒否を示したラタンだったがハエルが背後からラタンの首根っこを掴み睨む。

 ラタンは横目でハエルを見ながら「ひ~…」と声をにじませた。


 いつもより質素な服を身にまとったエミリアはラタンの用意した簡易馬車に揺られていた。

「お嬢様、痛いところなどございませんか?酔ってはいませんか?」

 一分に一回はハエルがエミリアに確認とる。エミリアは「大丈夫」と一分毎に返事をして言る。


「それにしても馬車の手配なんて、よくできたわね」

「あはは、ハエルと出掛けるときに利用したことのある会社でしたから」

 ラタンが言うと「一言多いのよ!」とハエルがラタンを小突く。

「こういったサービスがあるのね、知らなかった」

 エミリアは簡易的とはいえ呼べばすぐ来る馬車に感心していた。前世のタクシーのようだ。

「お坊ちゃんもよくつかわ…むぐぅ!」

 ラタンが話す最中ハエルが勢いよくラタンの口を自身の手でふさぐ。

「…え?モクバが?」

 ほぼ全部筒抜けに聞こえていたのでエミリアは眉間にしわを深く刻んで二人を見た。

「…さては共犯ね」

「お、お嬢様~…」

 困ったようにか細い声を上げたハエルはすでに涙目だ。


「時々お忍びでお出かけするんすよ、坊ちゃんも。年頃の男の子っすから」


 にこにことラタンは続けるがエミリアは不服そうに息を吐いた。

「外に女でもいるっていうの?」

 そう言いながらエミリアは「男だったらどうしよう」と頭をよぎったが、先日自分は男色家ではないと騒いでいたモクバの顔を思い出した。

「さ~…、まあ基本は視察っていいますか、お買い物が多いっすね。公務で使うレターセットとかも自分で買いに行きたいみたいで」

 エミリアの問いを交わしながら「坊ちゃんは基本誠実っすからね」とラタンは笑った。

「…昨日その誠実な坊ちゃんに剣を向けられたわけっすけど」

 と、昨日のことを思い出したのかすぐにラタンは落ち込み、ハエルは「あんたがお嬢様に近かったんじゃないの~…?」と励ますように背中をたたいた。

 近すぎたとしても剣を向けていい理由にははるか届かないわけだが、ラタンも「シスコン坊ちゃんの前で疑われることしちゃったからな~…」とラタンは遠い目で外を見る。

「う、疑われることって?」

 焦ったようにハエルが聞くと「あら、やきもち?」と、エミリアは笑った。

「違います!お嬢様に失礼がないかの確認で…」

 と、ハエルは慌てて言い訳をするも顔が真っ赤だ。

「お嬢様の背中にくっついて坊ちゃまのこと覗き込もうとしてたんだよ。…近づきすぎたのかも」

 そう答えたラタンに「失礼してる…!」とハエルは顔を蒼くした。赤くなったり蒼くなったり…百面相のようで面白い。


「到着しましたよ」


 馬車を運転してくれていたおじさんが外から声をかけてくる。

 エミリアはチップに銀貨を手渡すと気を良くしたのか「帰りは何時にしますか?」とおじさんが笑いかけてきた。

「19時にここで」

 と、ラタンが告げるとへえへえとおじさんはエミリアたちを丁寧に馬車から降ろし去っていった。


 *


「思ったより小さいのね」


 神殿と名前がついているものだからさぞ厳かな建物なのだろうとエミリアがあたりを見渡すも、そこにはこじんまりとした白っぽい建物が二つ佇んでいるだけだ。

「一棟は孤児を預かる養護施設のようです」

 ラタンが言うと「ちょっと建物を一周してみますか」と続けた。


 ラタンの言葉の通り、エミリアは二人と一緒に建物の周りを歩いてみたが特にこれと言って誰もいない。

「神殿の中は入れるのかしら」と、エミリアが言う。

「基本無償で開放しているはずですが、もう時間が時間ですので…」

 ハエルは少し困ったように頬に手を当て「扉の前まで行きますか?」とエミリアに聞いた。

 その言葉に頷きエミリアはハエルとラタンに挟まれるように神殿の前に移動する。


 神殿の前に移動するも扉は固く閉ざされており、ラタンが押したり引いたりしてもびくとも動かなかった。

「もう日も落ちかけてるし、仕方ないですね」

 ラタンが振り向く。


「じゃあ、どこかに身を潜めておきましょう」


 そういったエミリアの服の裾を誰かが引く。

「ん?」とエミリアが振り向くとそこには一人小さな少女がエミリアを見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ