第一王子の強行お茶会 - 第二弾
「お誘いいただきありがとうございます」
エミリアは深々と頭を下げた。
その先にはオーランド第一王子がにこやかに座っている。
趣味の悪いと思わせるほどの豪華な赤い椅子にオーランドは座っている。美麗なオーランドにまあまあ似合っていたがエミリアは嫌味がある趣味だと感じた。
「あんなふざけた手紙に乗ってくれるとは思わなかった」
爽やかに笑ったオーランドは「さて、悪魔とのお茶だが。悪魔らしくルイボスティーにしてみた」と真っ赤なお茶を使用人に持ってこさせ、カップに注がせた。
エミリアは家具のように粛々と動くメイドたちに誘われるように席に着くと「とてもいい香りです」とカップを手にした。
「母が好きなお茶でね。花の香りがいいだろう」
オーランドは機嫌がいいようで、茶菓子のフロランタンを口に含んだ。
「今日はどのようなお誘いでしょうか。いつもモクバばかりお誘いしていただいていたようですが…」
エミリアが顔を上げるとオーランドは「モクバはこの休みも風邪かい?」と笑った。頷いたエミリアが「いつも休みの度に風邪をひく子で…」と返事する。
オーランドは完全に仮病だと気が付いているようだが、無理にモクバを引きずり出すつもりもないらしい。
「そうか。ああそうだ本題だけど…、君は5年間、学園には通うつもり?」
レモンのように鮮やかな金髪を揺らし、オーランドは尋ねた。通うつもり?という問いにエミリアは視線をカップにずらした。
女性貴族はほとんど3年程度学園に通ったら卒業できる。
…というのも、5年通うと年齢は18になる。この世界でも女性は若ければ若いほどいい風潮がどうしても残っているため、入学から3年で卒業する者が多いのだ。
入学前に婚約者を取り決め、一定の教養が学園で付いたら花嫁修業に戻る令嬢も割合多い。
エミリアのように高位貴族は5年間通い切る令嬢もいるにはいるのだが、どれも皇后や自身の家の後継ぎ候補であったり、宰相の家だったりと後々政治にかかわる令嬢が多い。
エミリアのトゥリアンダ家も政治にかかわる家柄ではあるものの、エミリアはもう後継ぎではないし5年間通う必要性は全くない。
だが、エミリアは5年通い切る気で入学をした。何ならモクバが卒業する残り1年も定期的になにやら理由をつけて学園へ顔を出すつもりでさえいた。
…ここがBL小説の中で、自分がモクバを守らなくてはいけなければの話だが。
「…決めかねております」
「あれ、そうなんだ。君のことだからてっきり5年通うと言い切るかと」
「なぜ?」
「モクバの番犬じゃないか」
至極楽しそうにオーランドはそう言うとエミリアは「番犬…」と苦笑いをした。
「まあどっちが番犬かわかったもんじゃないがな」
オーランドは茶菓子を食べ、お茶を含む。思ったよりもよく食べる人だとエミリアは思った。
ハイペースでお菓子を食べ続けるオーランドの手元にお菓子がなくなると使用人がせっせと菓子を積む。大変そうな仕事だ。
「お話しは、それだけですか?」
エミリアは尋ねると「ああ、うん」とオーランドは笑った。無駄足だった。とエミリアは思い「私からも質問、よろしいでしょうか?」と口を開いた。
「どうぞ」と、オーランドは張り付いたような微笑みをこちらに向ける。
世の女性たちはこの顔を見て黄色い歓声を上げて卒倒するらしいが、本当だろうか。エミリアの目には目元の笑っていない能面のようなこの男が気味悪くしか見えない。
「モクバをよくお誘いいただいておりますが、真意をお伺いしても?」
「公爵の跡取りと仲を取り持ちたいと思うのはそこまでおかしいかな」
「他にもいくらでもおられます。他の令息にはそう言ったお話は持ち掛けていないとか」
「…女性っていうのはすごいね。なんでも知っている。気味が悪いくらいに」
オーランドはそう言って眉を一瞬ひそめたが、すぐにいつもの描いたような笑顔に戻る。
なるほど、これは女嫌いだ。と、エミリアはオーランドの顔を見た。
「モクバばかりにお誘いのお手紙を頂きますと我が家も顰蹙を買います」
「勝手に調べてウワサして、顰蹙も何もないだろう」
「あるのです。ウワサ…と申しますが貴族の間で情報は重要です」
そう答えたエミリアをみて「はいはい」と少し呆れたようにオーランドは言うと「王族というのは窮屈だな」と笑った。
「君は頭も陶器みたいだ」
「…そうでございますか」
遠回しに堅物だと言われたわけだが、”も”というのはどういう意味なのだろうとエミリアは疑問を感じた。
「思ったよりも楽しかった」
そう言ってオーランドは使用人に机を片付けさせ始めた。もう話すことはないということだろう。なんて一方的なお茶会なんだとエミリアは思ったが、こいつはこういうやつだと半場諦めた。
「さすが私を出し抜こうとする女だね」
あんまりにも無礼ないいようにエミリアはため息を吐きそうになったが、そんな言葉は無視しエミリアも帰宅の準備をする。と言ってもまっすぐ座って「帰ってもいい」と言われるのを待っているだけなのだが。
「一つ忠告だけど、君は何をしても無駄だよ」
そう言ってオーランドは席を立った。
「じゃあもう、帰っていい」
それだけ言い残し、エミリアはだだっ広い皇室の庭に置いてけぼりにされてしまった。




