悪魔からの手紙
自室に戻ったエミリアは自分の日記帳とにらめっこをしていた。
このメモは全く役に立たなくなってしまった可能性がある。
昨日の精神世界で見た記憶。
脳に張り付くように鮮明に思い出せるのが気味悪い。
「けど、小説で読んだのも…確かだと思うのに」
エミリアは自身の日記の文を目で追う。確かにここに記されているであろうイベントはたびたび現実でも起こった。
未然に防いだものが大半だが、たいして接触しなかったはずのオーランドは確実にモクバに好意を抱いているようだし、要所要所の出会いイベントなどは似た出来事があった。
例えばエリックはモクバのお披露目の日に、遠巻きからモクバを見て「お前の弟って可憐だな」と頬を染めていた。
そんな恋の芽を摘むためにエミリアはエリックの記憶の片隅にもモクバを残さないように徹底的にエリックを絞った。…まあ倒れるまで追いかけっことかくれんぼを無限ループさせただけなのだが。
ラタンとモクバに関しては今は仲のいい主従関係だ。
休みの日のラタンはハエルと出かけるし、空き時間はハエルに会いに来るか恋愛相談やのろけ話をエミリアにしに来る始末。
ラタンの脳にモクバのモの字もないだろう。
一番最初に誰に心を許すかでラタンの言い方は悪いが執着先は変動するのだろう。
そして、モクバはそれを拒否したためにラタンに追い回され、最後にはピンクな雰囲気に持っていかれあんなことやこんなことになってしまったわけだ。
「全然意味が分からない」
エミリアは机に突っ伏し、今になって自身の存在の異質さと孤独を感じた。
この記憶を共有できる人間が誰もいない。真実を知る術もない。
「けど、この人生を何度も繰り返ししているのも本当だとしたら」
真っ白い自身の手のひらをエミリアは見た。
記憶の中のエミリアの手はやせ細っていて、指先にしびれを感じていた。足も動かせず、ずっと床に伏せ、どうしたらモクバを救えるか考えていたのを覚えている。
「…神様でも悪魔でも何でもいいから、私に真実を教えて」
エミリアは目を伏せ、瞳の奥が熱くなるのを感じた。
自分の今までやってきたことは無駄だったのだろうか、これからどうしたいいのか。全く分からなくなってしまった。
あれから数日、モクバの部屋に泊まっていたが特に変わったことはなかった。変わったこと、というのはモクバの部屋に男どもがなだれ込んでいたり複数の男に言い寄られたりなどモブの暴走と呼ばれた大多数の男に襲われるイベントがなかったのだ。
無いに越したことはないのだがエミリアは自身の覚えている小説の存在がまた一つ揺らいだ気がした。
*
そして新たな記憶を思い出してからもう数か月がたっていた。
冬の長期休みに入ったころだった。エミリアは自宅に戻り自室で本を読んでいた。外には雪がしんしんと降り積もり、エミリアの億劫な気持ちをより深めた。
「エミリア様、お手紙が届いていますのでこちらに置いておきますね」
ハエルが音もなくエミリアの机に手紙を揃えて置く。
その中の一枚に王家の紋章が見えたエミリアは「誰?ティタン殿下?」とハエルに手を出した。
「オーランド第一王子殿下からのようです」
手紙が欲しいというエミリアの気持ちを察してハエルは素早く丁寧に王家の紋章が施された手紙をエミリアに手渡した。
エミリアは至極適当に封筒をペーパーナイフで開く。便箋には赤いインクで「悪魔と対話しよう」と書き出されていた。




