モクバとエミリアの話し合い
「…お姉様」
モクバのベッドの上でエミリアはくつろいだように本を広げている。
今日は読み聞かせ用の本ではなく自身が読んでいる小難しい本のようだ。
「なに?」
エミリアは本から顔を上げ、モクバを見る。
サイドテーブルに置かれたベッドライトに照らされ、モクバは困ったようにエミリアに手を伸ばす。何の疑問も無いようでエミリアはそのままモクバの撫でられるがままだ。小さな頭頂部がかわいらしいとモクバは思いながらモクバは言葉を続けた。
「どうすればお姉様は安心するんでしょうか」
そんなモクバの率直な問いに、エミリアは驚いたように数回瞬きをした。…そして少し考えるようなしぐさの後に困ったように「内緒」と呟いた。
「…内緒にされると、僕が不安です」
「え?」
そう言ってモクバはころりとエミリアの傍に転がった。エミリアは可愛らしい弟の行動ににやけそうな頬を抑え、モクバの頭を撫でた。長毛猫のような触り心地でふわふわと気持ちがいい。
「モクバの不安は私が無くすわ」
そんなことをエミリアは言ったが、モクバは「不安の権化が何を言っているんだ」と思い笑った。
「常々思っていたのですが、お姉様は僕のこと…えっと…」
もごもごと言い辛そうにするモクバをみてエミリアは首を傾げた。そして意を決したようにモクバは瞳をぎゅっとつぶり「男色だとお思いですか?」と少し勢いよく言った。
その問いを聞いてエミリアは思わず吹き出してしまった。扉の横に控えていたラタンも静かに吹き出した。
「な、なんで?」
驚きもありつつも、不安そうに「男色」という単語を口にしたモクバが可愛らしくも面白く、エミリアは少し肩を震わせながらモクバに尋ねた。
「だ、だっていつも男を部屋に入れるなとか…二人きりになるなとか…注意しろとか…おっしゃるじゃないですか…。僕も男なのに…」
「…それは、モクバがそうだというわけじゃなくて…えー…と」
モクバの周りには変態男色野郎が山盛りいるんです~!と声高らかに叫ぶわけにもいかずエミリアは言葉をゆっくりと探す。
「モクバは気が付いていないかもしれないけど、モクバって魅力的なのよ」
どの口が言っているんだ。そう思いながらモクバは自分を見下ろし至極真剣そうなエミリアを見上げた。真剣にモクバを見つめるエミリアの苺色の瞳を見て、モクバは改めてエミリアのことを精霊のような人だな、と思いながら彼女の美しい銀髪を指先で流してみたり、つまんでみたりした。
「…姉なんだから弟を守りたいと思うのは普通でしょ?」
「パーティーで令嬢たちに囲まれていても助けてくださらないじゃないですか」
「女の子はねー…」
「男には別に言い寄られませんよ」
そう口を尖らせながらもモクバは入学してから何人かの男子に熱いまなざしを向けられたことを脳の隅で思い出していた。
あながちエミリアの不安も間違いではないだろう。
「それより僕はお姉様の方が心配です」
そう言ってモクバは身体を起こしエミリアの髪を耳にかけてやる。
「私?」
「…ティタン殿下に婚約を申し込まれたそうじゃないですか」
モクバが言うとエミリアはぱちぱちと瞬きし、首を傾げた。
「婚約というか…今後のパーティーのパートナーをしろと言われたけど」
「それって遠回しの婚約の申し込みじゃないですか…」
「そうね…、だから断ったわ」
にっこりとエミリアが微笑む、モクバは嫌に胸が痛んだ。断ってくれて安心したはずなのに、どうして断ってしまったんだろうという疑問も同時にわいた。
「婚約とか別に興味ないし、何より王族となんて絶対いや」
「…え?」
エミリアの言葉を聞いてモクバはエミリアの顔を凝視する。
「だって王族と結婚するのにそれ専用の花嫁修業とかあるのよ」
やってられないとばかりにエミリアはため息を吐き「だから断っただけ」と涼やかに言う。モクバはてっきりモクバ自身が断った理由に噛んでいると思っていたのだ。
例えば、後継者教育を受けているけどエミリアほど出来が良くないモクバを心配し家に残ろうとしてくれているんじゃないか。とか。それこそ男色で後継者を残せないんじゃないかと思われているとか…。
先日のお茶会ではオーランド第一王子がモクバに好意を持っていることや、そのために王族との縁談はエミリアは受ける気がないんじゃないかというティタンのボヤキを聞いたところだった。そういった間接的な理由も加味してモクバがエミリアの将来に影を落としているのなら嫌だとモクバは感じていた。
「僕のせいで断ったわけではないんですか」
「…?モクバは関係ないでしょ」
当たり前だというようにエミリアが言うと「それだけ?」とモクバに尋ねた。
「…お姉様に男色だと思われていなくて安心しました」
そう言ったモクバにエミリアは顔を覆って笑った。
「そんな心配をさせていたのね」
と、エミリアはひとしきり笑うと「まあその男色を引き寄せてしまうような魅力を振りまいてしまうのは褒められないわね」と続けた。
そっくりそのまま言い返してやりたいとモクバは思ったが、エミリアはそのままでもいいかとも思った。
*
眠りについてモクバの膝にもたれるエミリアを撫で、モクバは一冊の本を開いていた。
深夜ということもあり部屋にはもうラタンやハエルの姿もない。
外の扉に数人警備が立っているが、しっかりとモクバとエミリアはこの部屋に二人きりだった。
「魅力ねえ」
ぽつりとモクバは呟くと本を開き困ったように目を細めた。
「お姉様…ううん、エミ、次こそはきっと、」
そう言ったモクバは優しく、眠るエミリアの額にキスを落とした。




