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第二王子の強行お茶会

 エミリアがモクバの部屋に寝泊まりするようになってから1週間が経った。

 モクバは自身の教室で机に突っ伏していた。


「…どうした?」


 エミリアから接近禁止命令を出されたものの、運悪くモクバの隣の席のマーティンが言った。

 無視するわけにもいかないくらい何度も大きなため息を吐かれ、正直うるさい。


「…お姉様が今部屋にいるんだ」

「…え!?」


 爵位の違いからマーティンはモクバの寮とは別棟の寮に滞在しているため、まだエミリアがモクバの寮室に転がり込んでいることを知らなかったマーティンは「オオカミ溢れる建物の中にヒツジが一匹…なんて危ない…」とモクバと同じ寮の面々の顔を思い出していた。細い涙を流すモクバは「そこは護衛もいるし、大丈夫なんだけど、生殺しだよ…」と漏らした。


「生殺しも何も姉弟だろお前ら」

 眉をひそめたマーティンが言うとモクバは「複雑だから、うち」と漏らした。

 貴族社会においてモクバが公爵家の養子だというのは周知の事実だが、若い子息子女は知らないものも多い。マーティンもその一人だ。どうして実の姉が部屋に滞在するのが生殺しになるのか理解できず、マーティンの頭の上にはクエスチョンマークが飛んでいる。


「それにしてもなんで?」


 普段エミリアの話をほぼ全くと言っていいほどしないモクバが漏らした話に俄然興味が沸いてしまったマーティンはモクバにこそこそと尋ねる。モクバも机に突っ伏しながらも「なんか、安心したいんだって」とぼそついた返事をする。

「安心?」

 マーティンが首を傾げると「エミリア嬢は過保護だよね」と2人の背後からはきはきとした声が聞こえてきた。振り向くとにこにこと太陽のような笑顔が張り付いたティタンが立っていた。

「ティ、ティタン殿下…?」

 1つ学年が上のティタンがなぜモクバとマーティンのクラスにいるのかマーティンは首を傾げた。


「呼び出し、僕から直々に来たよ」


 えへんと胸を張ったティタンは「これ、お誘い」と、小さな封筒をモクバとマーティンに手渡した。


 *


 ティタンに呼び出された男子校舎内の植物園にモクバとマーティンはやってきていた。

「なんだろうな」

 モクバはそう言って、少し癖のある自身の前髪を指先でいじった。そんな姿さえも一種妖艶で、今ここに女性がいたら黄色い声援を浴びていたことだろう。

 マーティンは自分も呼び出された理由がわからず「俺初めてティタン殿下としゃべった…」といまだに現状を掴めていないようだった。


「お、こっちこっち」


 ティタンが手を振るそこにはきらびやかなお茶会がセッティングされており、そこにはあと一人生徒が座っていた。


「…こんにちは。マーティン・デリック・ペンデと申します」


 マーティンがあいさつすると立ち上がり「伯爵位のエリック・メネラ・エーナスだ」と、エリックは軽く会釈をし緩やかな縁の眼鏡を掛け直した。

 完全に目上の爵位の家柄だが穏やかでいい人そうだとマーティンは思った。


 ティタンは挨拶が終えた二人を見ると嬉しそうに手を叩き、それぞれを席に誘導するよう従者にアイコンタクトをする。

 3人それぞれの傍に従者が立つような形で、厳かなお茶会が始まった。


 ティタンは太陽のような男だった。

 第二王子ということもあり幼い頃は命を狙われるなど時代劇さながらの危機に瀕したこともあったとのウワサだが、そんなことただのウワサなのだろうと思わせる明るさが彼にはあった。兄である第一王子のオーランドはもっと偏屈そうな男だ。その兄と本当に血が繋がっているのかと疑うほどまっすぐに見える。

 今もティタンはにこりと上がった口角のまま、優しいライム色の瞳を細めた。


「早速だが、エミリア嬢にフラれた」


 太陽のような男がほろりと涙をこぼす真似をし、そう言った。

 そして面々はしばらく話を飲み込むのに時間がかかったように固まった末各々「え!?」だの「どういうことですか!?」だの声を順にあげる。


「ふ、フラれた…っていうのは?」

 いの一番に立ち上がりはっきりとした疑問を上げたのはエリックだった。顔を蒼くし冷や汗をかいているようだ。そんなエリックに対し、ティタンは淡々と「まあ言葉のままだね」と目を瞑った。

「エリック君」

 ティタンに名前を呼ばれたエリックは、少し困ったように頬を掻きながら「あ、はい…」と返事をした。

「マーティン君も」

 と、ティタンはマーティンにも目をやりマーティンはピンっと背を伸ばした。


「君たちはエミリア嬢に、距離をとられているね…!」


 いきなり立ち上がりティタンは二人に向かって指をさす。そしてしばらく固まっていたエリックとマーティンは「…え!?」とこれまた大きな声を上げた。

「ベ、別に距離など取られていませんよ。俺は、幼馴染ですし」

 エリックが慌てて反論するも自信はないのかだんだんと言葉が尻すぼみになっていく。

「いや、取られてるね」と、ティタンは顎をツンと空に向け少しふてぶてしく言った。その動きもコミカルで嫌味はない。


「と、いうよりも」

 そう言ってモクバの後ろからラタンがティーポットを机からとる。

「お嬢様に敵視されてる人ら…っすかね~」

 朗らかに笑い、俺もあの敵意向けられてたからわかるっすと漏らすラタンに「お、お前はなんなんだよ!」とエリックがちょっとキレている。

「トゥリアンダ家の使用人で~っす」と、ラタンはへらへらと返事をしモクバにさっさかとマカロンを皿に盛り手渡す。モクバは現状を掴み切れていないもののとりあえず小ぶりなマカロンをひとつ口に含んだ。


「これは王家調べだが…、エミリア嬢はエリック氏とマーティン氏…そしてわが兄オーランドの動きを注視している。そしてある行動をとらぬように先回りをしているようだ」


 そう言ってティタンはお茶を飲む。ラタンはジャボジャボと雑に空いたカップにお茶を注いでいる。

「あ、ある行動って何ですか?」

 エリックが言うと、ティタンは待ってましたと言わんばかりに目が輝く。


「モクバ君との接触!だよ!」


 そしてずっと蚊帳の外だったモクバに全員の視線が集まった。

 とりあえずラタンが自身の前に置いた大量のマカロンを頬張っていたモクバは慌ててそれを飲み込むと「ぼ、僕ですか?」と困ったように目をぱちくりとさせた。

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