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another⑥

おまけです!

 

 エミリアが屋敷を散歩していると、屋敷裏が何やら騒がしい。


 裏と言っても庭園があるのだが、そこに沿うようにして茂る生垣の裏から物音が聞こえるのだ。

 時には笑い声、時にはがざがさと激しく蠢くような音まで。

 エミリアはたらりと一筋汗を垂らした。ここはBL小説の世界…使用人同士で弄りあって…そんな考えがよぎるもエミリアは頭を勢いよく左右に振った。


 最悪不審者だったらどうしよう。

 そう思ったエミリアはこっそりと生垣の裏を覗くことにした。

 誰かにお願いすればいいのかもしれないが、嫌に大ごとになっても困る。それに不審者であったならあんなところで笑い声は上げないはずだ。

 異常者の可能性も捨てきれないと、庭師が置きっぱなしにしていた熊手を手に取り、エミリアはこっそり生垣の裏を覗いた。


 ぐいっと首を伸ばすと、そこには見覚えのある紺のねこっ毛が揺れている。

 ガツンと頭を殴られたような気持ちでエミリアは思考の波に襲われた。


 モクバが…誰かに襲われている…?


 屋敷の中で危険人物と言えばラタンくらいのものだが、ラタンはすでに懐柔されハエルともりもり仲良しだ。

 普段話していてもモクバのモの字もでてこないくらい。

 だとすれば本当に不審者が侵入し、モクバが襲われている…?

 耳を澄ますと「うわっやめろよ!」とモクバの小さな声がエミリアの耳に届いた。


 考えるよりも身体が動く。エミリアは勢いよく生垣の裏に飛び出した。


「モクバを…!離しなさい!」


 熊手を振りかぶりながらそこに目をやると、モクバが胡坐をかいて小さな子猫を抱きしめていた。

 猫は敵意を振りまくエミリアに「フーッ」と威嚇している。

 力が抜けたようにエミリアは瞳を丸くしてモクバを見る。モクバはバツ悪そうに汗を垂らしている。


「…ねこ?」


 エミリアが呟くとモクバは頷き「…それ、降ろしてください」と熊手を指さした。


 *


 熊手を片付けてきたエミリアは、モクバに大人しく抱かれる子猫を見た。

 紺色の毛並みがふわふわとした長毛種の猫のようだ。

「…猫って、可愛いのね」

 エミリアが呟くとモクバは「おもちゃを欲しがる子どもみたいな目をしていますよ」と笑った。

 それってどんな目なのよ、とエミリアは思いながら「拾ってきたの?」とモクバに尋ねる。


「うちに迷い込んでいたみたいなんです。あんまりにも小さいので内緒で大きくなるまで面倒見ようと思って…」


 そう言ったモクバの傍にはミルクが張られた皿や、少し湿ったそぼろ状のものが皿に盛られている。

「貴方が用意したの?」

 エミリアが尋ねると「コックに助けてもらいました」とモクバは笑う。

「普通の牛乳では腹を壊すそうなので、猫用に」

 と、モクバがミルクの皿を揺らすと飲みたいのか猫が身体を捩る。


 皿の傍に降ろしてやるとぴちぴちと音を立てて猫はミルクを飲んだ。

 懸命に舌を伸ばしてミルクを飲んでいる姿がより一層可愛らしい。


「…モクバみたいな猫ね」

「はぇ!?」

「ほら、毛並みが」


 エミリアが言うと「け、毛並みか~」とモクバは安堵したようだった。

「なに?」と、エミリアが聞くと「必死に食べ物を食べてる姿を見て言うので、食べ物にがめついといわれているのかと…」とモクバは視線を逸らした。

 そういわれると最近のモクバはよく食べる。

 横に大きくはならないが縦に伸びている。ぐんぐんと大きくなっているのだからたくさん食べるのは当たり前だ。


「育ち盛りだもの。貴方もたくさん食べなさい」


 エミリアの言葉を聞いてモクバは「もっと大きくなりたいです」と自身の腰回りを触った。

 節々が細いのを気にしているようでモクバはよく「もっと太りたい」と口にする。

 エミリアにしてみれば食が細くて太りずらいと入っても女として嫌味にしか聞こえないので「太りたいじゃなくて大きくなりたいと言え」と怒ったことがあった。それを健気に守っているモクバは可愛らしい。

「ねえモクバ、私も猫を抱きたいわ」

 そう言ってエミリアが両手を広げると、モクバは「だめです」と即答した。


「こいつ、嚙むんです」


 モクバがいうと「そんなところまでモクバと一緒なのね」とエミリアが溜息を吐いた。

「え!?」

 と、モクバは顔を赤くして振り向く。

 その顔を見てエミリアはしまったと思った。噛み癖があるのは小説を読んだから知っているだけで、現世では噛み癖どうこう知らないはずなのだ。

「…誰が言ったんですか?」

「え?」

 顔を真っ赤にして訪ねてくるモクバに気圧されながらもエミリアは「誰にって?」と首を傾げる。

「ぼ、僕が小さい頃タオルケットを噛むのが癖だったことを言ってるんですよね」

「え…?あ、あー…そんなこともあったのかしらー…」

「も、もしかして知らなかったんですか!?」

 突然のモクバの暴露に狼狽えながらもエミリアは視線を逸らし、そ知らぬふりを続けた。


「なんだ…、適当に言っただけだったんですね…。恥をかきました」


 モクバはすねたように口を尖らせ、ミルクを飲み終わり腹を見せて寝ころぶ猫を撫でた。

「にーン」と高い声で鳴く猫は、ゆったりと立ち上がるとこれまたゆったりとエミリアに歩み寄った。


「あ、こら」


 モクバが手を伸ばすも、エミリアはその手を制止し猫の行く末を生唾を呑んで見つめた。

 猫はエミリアの膝あたりに頭を摺り寄せると「んニ」と一声、ぐにぐにとエミリアのドレスを自身の前足で交互に揉んだ。


「あら、あらあらあら…」


 感動しているエミリアとは反対に「お姉様のドレスが汚れる!」とモクバは喚いた。


「この猫、モクバにそっくりでかわいいわ」


 そう言ってエミリアは優しく猫を片手で持ち上げ頬擦りをした。

 猫は嬉しそうににゃんと鳴き、エミリアのされるがままだった。


 その隣でエミリアのもう片方の手で顔を後方に押し返されてるモクバは眉間を顰め猫を睨んでいる。


「ね、猫―ッ!」


 モクバの叫びは空に消えた。

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