立食パーティー②
「どういう風の吹き回しですか?」
エミリアは踊りながらティタンに尋ねる。
王族から公爵家の令嬢へファーストダンスを申し込むなど、こんな学園の小さな立食パーティーでなければ号外を出されるレベルの大問題に近い。学園は秘密主義なので、内部であったことなどは外に漏れにくいがささやかな噂として今後エミリアとティタンはあちこちの貴族の家でウワサの的にされてしまうだろう。
まあエミリア自身、あまりそういう噂の類を気にしていないが。
そんなエミリアの問いにティタンは楽しそうに「今回はガードが緩めだったからさ」と返事をした。
「ガード?」
「いつも君は眉間にしわを寄せてさ、あちこちうろうろしているだろう」
「…ああ」
ティタンにはエミリアがあれこれ画策しているのを見られていたようだ。
何をしていたのか聞かれては面倒だと思いつつ、エミリアはモクバを見る。
エミリアがティタンに誘われてすぐ、何人もの令嬢がモクバにダンス誘ってくれアピールをしていたがモクバは誰もダンスに誘わなかったようだ。そして、男から誘われたとしてもすべて断ったはずだ。
壁の花…というと意味の悪い言葉だが、モクバは優しい笑みを浮かべたまま踊るエミリアを見つめていた。
「君と君の弟はなんだか変な感じだよね」
「変ですか?」
「ああ、婚外子とこうも仲睦まじいのは珍しいね」
エミリアとモクバの関係など王子であるティタンには筒抜けのようでにまにまとした顔のままティタンは言った。
特段モクバが養子であることを隠しているわけでもないが、あまり貴族界隈ではモクバが養子だという認識はない。母であるアルトゥヌが体調面からあまり屋敷から出られないこともあり公爵家の嫡男なのだろうという見方をしている者が多いのだ。
そして、モクバの養子問題に関しては第三者であるエミリアがモクバの出生についてあれこれ周りに言いふらす必要もない。なので礼儀の無い高位貴族や過剰にウワサ好きでもないかぎりわざわざモクバが「婚外子」であることをつっついてくる者はいないのだ。
「仲睦まじく見えますか?」
「…?ああ、とっても」
「なら、よかった」
エミリアの普段から礼節を大切にし周りからの評判もいいティタンからの些か無礼な問いに疑問を感じながらもティタンはエミリアをリードしながら踊る。
「…君は今後、どうするつもりだい?」
ティタンはの質問の意図がとらえきれずエミリアは「なにがです?」と尋ね返す。
「婚約だとか、そういう、君の未来さ」
「…ああ、どうでもいいです。生きてさえいれば」
適当とも取れるエミリアの返事を聞き、ティタンは何か言おうと口を開くもそこで曲が終わってしまった。
曲が終わるや否やすぐにティタンから離れたエミリアは美しく一礼する。
ティタンも慌てる様子もなく同じように礼をし、顔を上げるともうエミリアの姿はそこになかった。
*
「モクバ、このアップルパイおいしいわ」
モクバの好みであろうアップルパイをハエルに持たせたエミリアが皿をモクバへ突き出す。それを受け取るとエミリアはラタンから「ガトーショコラです」と皿を受け取る。
「お姉様好みの味だと思ったのでラタンに持ってきてもらいました」
「ふうん、ラムの香りはする?」
「はいもうたっぷり」
エミリアは受け取ったガトーショコラを食べ、モクバもアップルパイを食べた。
立食パーティだというのに二人は会場脇に備え付けられたソファを陣取るように座り、甘味に舌鼓を打っていた。
パーティー用のパンプスはヒールが高くて疲れてしまう。会場を見渡せば立って話しているのは元気そうな一部の令息令嬢のようなものでほとんどの令嬢は簡易的に置かれた椅子に座っておしゃべりに興じている。
「モクバは私と踊っただけだけど、いいの?」
エミリアが聞くと「お姉様と踊りたくて来ただけなのでいいんです」とモクバは答えた。
生徒会に属しているからとほぼ強制で連れてこられたパーティだったが、これじゃ例年通り二人でパーティをやっているのと変わらない、そうエミリアは思いながらハエルから手渡されたアップルジュースを飲んだ。
「先ほどはティタン会長とのダンス、いかがでした?」
モクバが尋ねると、エミリアは「やっぱり育ちのいい人はダンスが上手ね」と答えた。
それはモクバの欲しかった答えではなかったようでモクバは「えーと、何かお話しはされました?」と尋ね直した。
エミリアは正直既にティタンと踊った時の記憶は薄れてきていたので「えー…」と目を細めた。
「ああ、モクバと仲睦まじいって言われたわ」
そう言うとモクバは少し驚いたように目を開き「…今更ですね」と笑った。
「ああ、あと婚約とかこれからの未来どうすんだって言われたわ」
だんだん思い出しエミリアはイラついた。モクバが婚外子どうのこうのの指摘に多少失礼だと感じてはいたが、今思うとその質問すら失礼だ。
「え」
モクバは顔を一瞬で蒼くし「それで!な、なんと答えたんですか」と、慌てたようにエミリアに尋ねた。
「生きてさえいればどうでもいい、って答えたわ」
その返事にモクバだけではなくハエルとラタンも頭を抱え3人とも溜息を吐いた。
「な、なに?」
エミリアが3人を見ると「お嬢様…」とハエルは悲しげな瞳を向けた。
「まあ、お姉様らしくていいと思いますよ」
モクバはそう微笑むと「お姉様、甘いものの次はお食事いかがですか?」と生ハムを差し出した。




