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男爵令息の疑問そして目覚め


マーティンは自身の入学式を思い出していた。


銀髪の妖精のような少女がじろりとこちらを睨む。

つり目がちだが大きく、ピンクがかった赤色の瞳。

マーティンはあんな美しい少女を見たのは初めてで息をのんだ。


同じクラスの侯爵令息の姉だと聞いたとき、生きている世界が違うのだから初めて見る美しさなのだと改めて思い知らされた。

なぜあの時彼女は自分を睨んでいたのか。

マーティンはずっと考えていた。


マーティンは片田舎の男爵家の生まれだった。

戦争で功績を上げた元平民の父と、豪商の生まれの母。

貴族とは程遠い、平民に近い暮らしの自分をみて高貴な彼女は卑しいと思い睨んだのだろうと思っていた。


学園を通う中で自分のその考えは違っていたのだと思い知らされる。


彼女【エミリア・トロイ・トゥリアンダ】はトゥリアンダ侯爵の令嬢。

氷の精霊のような銀色の髪に赤い瞳の彼女は、誰にも平等だった。

冷たく感じる表情も令嬢なりの処世術で、端的にしかモノを言わないものの差別をする姿は見られない。

反対に、彼女は虐げられていた子爵家の令嬢に声をかける姿を見た。優しい笑顔だった。


マーティンはエミリアのことを目で追うようになった。


どうしてあの日、自分を睨んでいたのか。

まるで親の仇でも見るような冷たい瞳が忘れられない。


マーティンは同じクラスのモクバと話すようになったが、モクバは全く姉の話をしなかった。

こちらからそれとなく聞いてもそらされてしまう。


きになる、きになる、きになる。


マーティンは公共の温室で一人お茶を飲むエミリアを見つけ、時が止まった気がした。


「エミリア…様に、ご挨拶申し上げます」


気が付けば声をかけていた。

エミリアは驚いたのか一瞬目を大きく開いたが、意を決したように「マーティン男爵令息ね」と返事をした。


「…約束もなく不躾で、大変恐縮なのですがアナタと話す時間を頂きたい」


マーティンが言うとエミリアは少し考えるようなしぐさをしてすぐに「いいわ」と答えた。


「奥に移動しましょう」


 温室の奥まったガゼボに移動したエミリアとマーティンは、静かに向き合って座っていた。

 エミリアのメイドがテキパキと菓子とお茶を机に揃え、後ろに控える。

 緊張してマーティンは肩がこわばっている。


「どうぞ、…今日はカモミールティーなの」


 エミリアはそう言って、カップを持ち上げ香りを楽しんでいるようだ。


「…砂糖、いる人?」


 少し砕けたようにエミリアはマーティンに尋ねる。

 マーティンは慌てたように「お、お構いなく」と首を振った。


 しばらくの沈黙が続いたころ、エミリアが口を開いた。


「…あなたの言いたいことはわかっているわ」


 その言葉にマーティンは顔を上げる。

 …いつも目で追っていたことに気が付いていたのだろうか。

 厳格な人だと聞いているから、未婚の女性を目で追うなと叱咤されてしまうかもしれない。

 今思えばマーティンはエミリアを見かけると嫌に見つめてしまっていた気もするし、移動するようであれば多少行き場を知りたくなって少し後をついて歩いたこともある。今思えば不審な行動が多かった気もする。

 なにかエミリアに勘違いさせていたらどうしようと、マーティンは自身の顔が熱くなるのを感じていた。


「お、俺そんな気は…「モクバはだれのものでもないの」


 考えよりも先に言い訳がマーティンの口から洩れそうになるもかぶせられたエミリアの言葉でかき消される。

 マーティンは「え?」と顔を上げると入学式の日、あの人の同じ冷たい瞳をエミリアはマーティンに向けていた。


「あの子は、誰かに乱暴されてもいい子じゃない」


 そういってエミリアはマーティンをじっと見つめている。

 エミリアの赤い瞳に見つめられるとまるで喉を掴まれているかのような冷ややかさと、相反して抱きしめられているかのような熱情をマーティンは感じた。

「も、モクバとは…友人です」

 マーティンはやっとの思いでそう答えるとエミリアは「ふうん」とさしてマーティンの返事には興味がないといった声を出した。

 そんなつれない返事にもマーティンはドキドキと心臓が早くなった。


「あ、あの、なにか…勘違いが…」


 マーティンがそう言うとエミリアは「勘違い?」とマーティンを睨んだ。

 全身が心臓にでもなったかのようだとマーティンは思った。初めて感じるこの気持ちは何なのだろう。


「あなたがいつもモクバを目で追っているのは知ってるのよ」


 ああ違う、俺がいつも目で追ってるのは…

 マーティンは視界がかすむような心地でエミリアを見つめる。あまりの美しさにむせてしまいそうだと思った。

 ずっと座っているというのに息が荒くなってきたマーティンを見てエミリアは首を傾げ「…体調でも悪いの?」と尋ねた。

 先ほどまでの冷たい瞳ではなく、心配の色で染まった瞳がこちらを見る。

 マーティンは確かに意識でも失いそうなくらいドキドキしていたが、これが体調不良によるものなのかを全く理解できずにいた。


「ああ、マーティンここにいたのか」


 その声がガゼボに響く。


「お姉様も、温室で待ってるって言ったのになんでマーティンと?」


 ニコニコとモクバがガゼボに近付いてくる。そしてマーティンの脇を掴み立たせ「どうしてこいつと二人で?」とじっとマーティンを見た。

 …全然目が笑っていない。

 マーティンは荒い息を整えつつモクバの手を払うと「少し話をしていただけだ」とだけ言い残し、エミリアに一礼してガゼボを立ち去った。

 去っていったマーティンのことは気にも留めず、エミリアは「モクバ、早かったのね」とモクバを見ると「僕以外の男と二人きりになってはいけません」とこちらを見もせず言うモクバに首を傾げた。


「忠告しただけよ」


 エミリアが言うとモクバは「忠告?」と振り向いた。

 やっとこちらをみたモクバに気をよくしたエミリアは薄く微笑むと「そう、忠告よ」と満足げにカモミールティーを飲んだ。

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