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エリックの想い

 

「エミ、生徒会に入ったそうだがどうだ」


 どうだどうだと聞いてくるこの男は暇なのだろうか。

 エミリアが顔を上げると緑の髪を揺らしてエリックが笑いかけている。

「モクバの付き添いよ」

「推薦されなくては入れないというのに、付き添いなんて贅沢な奴だな」

 嫌味なくそう言ったエリックはエミリアの隣にずかずかと腰かけ「弟思いはいいがやりすぎるなよ」と続けた。


「余計なお世話」


 エミリアはそう言って自身の手元のスケッチブックに目をやる。

 そこにはギザギザとした濃いタッチの四角や三角がたくさん描かれている。

「エミ、今は何を描いているんだ」

 エリックがスケッチブックを覗き込み尋ねるとエミリアはため息を吐き「見てわからないの?」と口を尖らせた。


「馬よ」


 エミリアの視線を追うと、確かに遠くの芝生に何頭かの馬がわずかに見える。

 遠すぎるだろ…とエリックは思い、頭の中で馬を思い描きながらエミリアのスケッチブックへ再度目を向ける。

 どう見ても力のこもった四角に三角がくっついているだけだ。


「ぐっ…」


 笑ってはいけないと思えば思うほどエリックの笑いのツボは刺激され、エリックは自身の顔を手で覆った。

「…なに」

「いや、感動を…ふっ…」

 エミリアは訝し気な目でエリックを睨んだがもう興味を失ったのか「感動するなら他所でやって」と冷たく言った。


 美しく勉強もできる。そして運動も万能なエミリアだ。

 外でスケッチブックを広げる姿に目を奪われる生徒も多いが、誰も恐れ多くて近寄れない。

 …なので、このスケッチブックの中身を知っているのは精々エリックとモクバくらいなものだろう。

 こんな涼しい顔をしてスケッチブックの中は幾何学模様で溢れているのだからエリックは面白く感じてしまう。


「君は、印象ほど冷たい人じゃないのにね」


 エリックが言うとエミリアは「冷たい?」とエリックを見た。

 銀色の髪が風にさらわれるように揺れ、エミリアの苺色の瞳が見えにくい。

 うっとうしそうに首を伸ばしたエミリアにエリックは手を伸ばし髪を耳にかけてやった。

「ありがとう」

「いや、」

 数年前まで少しでもエミリアに触れようものなら「未婚の令嬢に触れるな」と怒られたものだ。

 17歳になり華奢ではあるが体にメリハリも出て女性らしく育ったエミリアは以前よりもどういうわけか少女に見えた。


 美しいエミリアの横顔をぼうっとエリックが見つめる。

 しばらくそのままにしているとエミリアが「エリックって…」と話し出した。

 膝を抱えるようにラフに座っていたエリックは、いきなり声をかけられたことに驚き背を伸ばした。

「な、なんだ?」

「暇なの?」

 形のいいエミリアの眉が曲げられ、苺色の瞳がちらっとこっちを見た。…すぐにスケッチブックに向かう瞳を名残惜しいとエリックは思った。


「…暇じゃないよ」


 続々と四角が追加されていくエミリアのスケッチブックを見ながらエリックは言った。

「ねえ、エミ……」

 エリックがエミリアに手を伸ばそうとした瞬間「お姉様!風が出てきましたので部屋に戻りましょう」とモクバの声が聞こえてきた。

 エミリアはさっと声の方を向くと「モクバが迎えに来たわ。じゃあね」と颯爽とエリックの隣から去ってしまった。

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